働き方は世界でどう違う?米、独、仏との比較調査企画書を紹介

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近年、日本人の働き方が急速に変化しています。人口の減少や大企業神話と終身雇用制度の崩壊、働き方改革による残業代の減少、副業の普及などによって、働き方の多様化が進んでいます。

その中でも重要なのは、世界から外国人材を受け入れる上で、透明性の高い雇用システムです。今回の企画書は、アメリカ、ドイツ、フランスと日本の雇用システムを比較することで、現在の日本の雇用システムの客観的状況を浮き彫りにしています。

 

【日本の労働市場】
2000-2016年における日本の労働市場
日本の労働市場では、いま何が起きているのでしょうか?
労働市場の構造変化と課題―経済産業省
日本の労働市場の課題―大和総研

【世界の雇用形態】
海外で一般的なジョブ型雇用形態、メリットとデメリットとは?
日本型雇用と欧米型雇用の違い
日本と欧米の雇用システムと問題点―しっきーのブログ
世界の働き方事情“アメリカ編”日米の雇用環境の違い

 

1. 今回の企画書の特徴

今回の企画書は、日本の働き方と世界の働き方を比較することで、日本の労働環境の特異性が浮き彫りになっています。重要なキーワードを、以下に挙げます。

・メンバーシップ型雇用システム
・ジョブ型
・新卒一括採用
・職務の明確化
・実績や資格・教育に基づく採用
・勤続年数や職能的要素を考慮したドイツ
・米国は、キャリアアップは個人の責任
・60年代~90年代で、従来の終身雇用的なシステムは崩れた

 

 

2. 『平成27年度産業経済研究委託事業 雇用システム改革及び少子化対策に関する海外調査 雇用システム編』から学ぶ

では、Washington CORE L.L.C.が作成した企画書を以下具体的に見ていきましょう。

3. 表紙

エグゼクティブサマリー
日本の「メンバーシップ型」雇用システムとの対比で、「ジョブ型」としてひとくくりにして語られがちな欧米諸国における雇用システムは、個々の国によって様々であり、その結果として生じる労働市場の状況も大きく異なる。

本調査は、米国、フランス、ドイツを対象に、それぞれの国における「ジョブ型」システムの実態と、労働市場の現状を明らかにすることを目指したものである。

欧米型雇用システムを「ジョブ型」と呼ぶのは、日本の「メンバーシップ型」との対比においてである。日本のメンバーシップ型では、概して、①「新卒一括採用」でひとつの会社に入社してから、定年退職まで勤めるという「終身雇用型」という特徴に加え、②職務、労働時間、勤務地などに原則、制限がなく、職能型であり、社内移動を通じてキャリアアップをし、社内での配置転換を通じて解雇がさ
れにくい特徴がある。

一方、米国に代表される諸外国では、①職務(ジョブ)が採用された時点から明確にされており、ジョブが消滅すれば解雇となり、②欠員又は新規ポジションができた場合に、これまでの実績や資格・教育に基づき採用されるため、新卒一括採用という手法は採られないと一般的には考えられている。

本調査では、「ジョブ型」の例として、米国、フランス、ドイツを比較している。特に、米国はもっとも典型的な例として言及されることも多いことから、本調査では米国型と、フランス型、ドイツ型を比較することを通じて、それぞれの違いをみていく。また、業務の内容が多岐に亘るホワイトカラーについて、重点的に調査を試みている。なお、「ジョブ」についての実態の把握に努めるため、各国の専門家へのヒアリングを重視しつつ、その背景にある市場・制度を把握すべく文献調査も併行して実施した。

賃金体系はいずれも職務グレード型の傾向が強いが、勤務年数や職能的要素を考慮したドイツのような国もある。職務定義も基本的には明確化されている。しかし、フランスの企業の中には、採用前の段階では明確でないが、採用時までに明確にしたり、また更新については、米国は随時対応する一方、定期的に査定を行って業務定義を更新しているフランス・ドイツのような国もある。

また、賃金体系が整理されている各国であるが、個人の賃金決定においては、労働組合や企業レベルの経営協議会が労使交渉に関わるドイツと、ほぼ完全に個々の労働者と企業間での交渉となる米国は対照的である。なお、同一賃金同一労働に関しては、同一社内での適応が一般的であり、同一ジョブであっても、社外や産業を越えた場合、その賃金は幅があることが一般的になっている(特に経営者など上位層のジョブでは、幅が大きい)。

一般的に日本よりも欧米の方が容易であると言われる労働移動に関する実態は以下の通り。

特に、フランスとドイツにおいて、若年で専門分野が決定されてしまう傾向があり、産業間を越えた転職を難しくしている可能性がある。また、ジョブ型は当該ポジションが消滅すれば、解雇というイメージが強いが、フランスやドイツでは、OECDが作成している雇用保護指標でも、日本よりも保護レベルが高いことにも現れているように解雇しずらいということに加え、会社の事情を知っている人材を活用すべく、当該職務がなくなっても、会社側としても社内での異動をまず検討するなど、日本にも似た特徴が見えてきた。

また、米国においても、同様のアプローチを模索しようとする企業も出てきている。

キャリアップについても、フランスやドイツでは、そのために必要な教育機会など、企業のサポートを得られるケースが見られるが、米国では、転職の可能性の高い人材への投資対効果の判断から、一部のエリート人材以外については、キャリアップは個人の責任とされる。

そのような米国でさえも、近年、人材流出を避けるために、社内での移動ポジションを用意するなど、姿勢に変化が見られた。なお、いずれの国においても、異なる産業間での転職は一般に少ないと言われているが、統計上、米国のように、同一産業への転職が半数程度で、残りは異なる産業という状況が見えてきている国もある。

終身雇用的な制度は、いずれの国でもかつて見られた。しかし、国によってタイミングは異なるとはいえ、60年代~90年代にかけての経済環境の変化に伴い、従来の終身雇用的なシステムが崩れ、より流動的な労働市場への変化してきた経緯がある(ただし、米国では、元々それほど終身雇用は多くなかったとする統計もある)。現在の勤続年数に関する実態は以下の通り。

1 日本型雇用システムの改革に資する調査
1.1 調査の目的・手法
1.1.1 目的
我が国では、高度経済成長期の終わりまでに、企業が職務、労働時間、勤務地などを限定しない雇用契約によって新入社員を採用し、勤務年数によって昇進・昇給を与える雇用システムが一般化した。

個々の社員が従事する職務や勤務地が消失しても、配転によって同一企業内での雇用関係が維持されるこのシステムの下、我が国特有の長期雇用(終身雇用)が維持されてきたといえる。また、社内の様々な業務に必要に応じて順応できる人材を獲得するため、企業が大学生を在学中に選考する新卒一括採用が慣行化した要因の一つであるともいえる。

しかし、1990年代に入り、我が国の経済成長が鈍化したことにより、多くの企業が正規社員枠を縮小したため、多くの若年労働者が非正規労働者としての雇用を強いられる結果を招いた。また、上記システムの下では、正規社員となるための唯一の入り口が新卒一括採用であり、こうした非正規労働者が正規社員となる道が断たれてしまう問題も表面化した。

この日本型の雇用システムについては、諸外国と比べて特殊性があると考えられており、最近の日本の議論では、日本型を「メンバーシップ型」雇用、諸外国(特に欧米)の型を「ジョブ型」雇用と呼称し、経済・社会の変化を踏まえて、我が国でもこの「ジョブ型」雇用システムを普及させるべきとの議論が見られる。

しかし日本以外の制度を「ジョブ型」とひとくくりにできないほど、各国でその在り方は異なっている。本調査では「ジョブ型」の国・地域による類似・相違を明らかにするため、日本における議論で「ジョブ型」の典型となっている米国の実態をまず踏まえた上で、ドイツおよびフランスの「ジョブ型」について調査し、米国との比較・考察を行う。また、各国の「ジョブ型」を背景とした労働移動の状況、労働移動を支える仕組みについても整理する。

1.1.2 方針・手法
調査の実施にあたり、「ジョブ型」の典型として議論されることの多いアメリカについてその実態を把握するため、①賃金体系、②職務定義と賃金決定、③採用・雇用契約、④労働移動、⑤具体的産業における賃金体系と決定における労働組合の影響についてとりまとめる。

その上で、アメリカの実態と比較する形で、フランスおよびドイツについても同様に調査する。なお、実態の把握という観点から、各国で雇用関係の研究・調査、人材関連ビジネスに従事する専門家へのヒアリング調査を重視しつつ、特に比較基準となる米国については文献調査も併行して行う。本調査でヒアリング調査にご協力いただいた方々は次の通り。

1.2 「ジョブ」についての実態
1.2.1 米国
米国の人事制度は「ジョブ(職務)」を単位として設計されているが、各ジョブは企業別に異なっており、すべてのジョブを単純に外部市場と比較できない状況にある。しかし、企業個別のジョブも、外部市場との類似性を有しており、各社は外部市場の賃金データを社内の個別ジョブの賃金・待遇の決定に活用している。

こうした中、米国政府統計局は職業雇用統計(Occupational Employment Statistics:OES)プログラムでは、年間800を超える職業別賃金のデータを収集し、その結果を公開している。各データは産業別のほか、州別、都市圏別・非都市圏別に確認することができる。2016年2月末現在公開されている最新データは、2014年5月に発表された産業別統計は全国産業別職業雇用・賃金推計(National Industry-Specific Occupational Employment and Wage Estimates)である。

北米産業分類システム(North American Industry Classification System:NAICS)に基づく産業別に、職業グループ別の雇用数や平均年収のほか、年収の分布状況(指標となるパーセンタイル値の表示)などが示される。対象となる職業の大分類(major groups)は次のとおり。

1.2.1.1 アメリカにおける「ジョブ型」人事制度
「ジョブ型」人事制度について、日本の「メンバーシップ型」との比較で取り上げられることの多い、①賃金体系、②職務定義と賃金決定(同一労働・同一賃金など)、③採用・雇用契約、④労働移動(転職・解雇など)の特徴について整理する。

1.2.1.1.1 賃金体系
米国の賃金体系ではジョブ型が一般的だが、中でも職務グレード制(職務価値が類似の職務ごとにグループ化)がもっとも多い。世界各国の労働者が、自身の賃金・待遇情報を投稿、これをビッグデータ技術で分析し公開することで、個人が自らのジョブの市場価値を把握するとともに、企業が外部市場価値を把握する際などに利用されている PayScale は、毎年「2015 Compensation Best Practices Report5」を発表している。

同報告書では、世界各国企業から5,530件の回答を得ているが、うち米国3,846件、カナダ697件と、回答の83%が北米企業で占められており、北米企業の特徴に近い解析結果と解釈できる。この調査によれば、調査に回答した大企業と中企業でもっとも多い体系が職務グレード制(それぞれ61%、47%)を実施していると回答した。小企業については、個別職務別の賃金グレード制が47%で最も多かった。

また、賃金体系について、多くの企業で複数の体系を持っている。人的資源を活かすための教育、研究、認定制度、アドボカシーなどに取組む非営利団体 WoldatWork は、同組織のメンバー企業で賃金・諸手当に関する地位に就いている626名からのサーベイ回答に基づき「Compensation Programs and Practices 20146」を取りまとめ、2015年1月に発表した。同報告によれば、2014年の調査対象企業(有効回答数:589)のうち87%が、公式の賃金体系が有る回答した。また、有ると回答した企業のうち、5体系以上あるとする企業が全体の 44%を占め、最も多くなっている。

賃金体系の分け方としては、地理的地域別(By geographic region)が52%で最も多く、職務カテゴリー/役割別(By job category/role)が44%、FLSA のホワイトカラー・エグゼンプションなど、求められる法的条件別(By Fair Labor Standards Act of 1938:FLSA exemption status or other regulatory classification)が27%と続いている。

こうした賃金システムについて、グローバル企業では、本国での賃金体系を海外拠点でも維持するとの傾向も見られる。Woldat Work「Compensation Programs and Practices 2014」によれば、回答を寄せた137社のうち、82%の企業が、本国のシステムを海外でも適応すると答えた。

1.2.1.1.2 職務定義と賃金決定
1.2.1.1.2.1 職務定義
ジョブ型においては、各ジョブについて、職務定義が行われ、職務定義書が作成される。米中小企業庁(Small Business Administraion: SBA)が、中小企業経営者向けに公開している職務定義書の作成方法では、職務定義書に含まれる代表的な項目として次をあげている。

◇ジョブ・タイトル
◇当該ジョブの目標と狙い、ミッション
◇当該ジョブの一般的な特徴とレベル
◇当該ジョブの広義の機能と当該ポジションが対象とする範囲
◇当該ジョブで成功するために必要となる責務とタスクのリスト
◇重要性の高い順に並べた機能的責任および相関的責任
◇当該ポジションの監督ポジション、部下の役割、その他社内関係者との関係および社内での役割に関する記述

具体的に、金融、情報通信、自動車関連を代表する企業が、各社の人材採用ウェブサイトで公開しているジョブディスクリプションをみると、次の項目が含まれている。

なお、職務定義は必要に応じて変更が加えられる。職務定義書の更新状況について、WoldatWorkの別の調査「Job Evaluation and Market Pricing Practices 201510」では、企業で人事にかかわる回答者730名のうち、91%以上の定義書を最新の状態にしている企業が 23%であったのに対し、一部(31-60%)、大部分(61-90%)と回答したのはそれぞれ27%、37% であった。

更新の頻度は、定期的な変更を行うよりも、職務の内容に大幅な変更があった場合(51%)や職務の再評価が行われた場合(31%)という回答が多くなっている。職務定義内容の変更については、当該ポジションに就いている従業員に対して、企業からの事前通知などは求められないことが一般的に行われている。

1.2.1.1.2.2 賃金決定
企業は各職務の賃金・待遇の決定にあたり、職務評価を実施する。職務の評価にあたっては、大部分の企業で確立された手法を採用している。WoldatWork「Compensation Programs and Practices 2014」によれば、調査対象企業のうち89%の企業が市場価格を採用していると回答した(複数回答あり)。

一方、他の方法を利用するという回答はいずれも20%に満たない。この状況について、笹島秀雄「最新アメリカの賃金・評価制度:日米比較からまなぶもの(2008)」でも、米国の企業は世間相場の賃金に一致させる努力をしているという指摘に合致する。

なお、市場価格については、労働組合を組織化している場合でも意識されている。石田・樋口(200915)は、外部相場情報について、労働組合を組織化している企業でも、ノンユニオンの企業と同様に市場調査が行われていると指摘している。ただし、この場合、民間コンサルティング企業からの提供情報よりも、政府労働統計や経営者協議会などの公開情報を利用することが多い。

企業が市場価格を採用する場合、職務レベルによって、参照される市場に異なる傾向も見うけられる。「Job Evaluation and Market Pricing Practices 201516」によれば、上級管理職(Senior management)、中間管理職(Middle management)、専門職(Professional )、営業(Sales)、事務職(Administrative)、生産労働(Production)ごとに、使用されるターゲット市場が異なる傾向が読み取れる。どちらかというとブルーカラーに含まれる事務職・生産労働職では他のグループと比べて、ローカルの賃金市場を参照する比率が高い。一方、ホワイトカラー系のグループでは、全米・産業別の賃金がよく利用されており、上級管理職になるにつれ、全米を利用する企業が増加する傾向が見られる。

市場価格の反映頻度について、WoldatWork「Compensation Programs and Practices 2014」によれば、年に1回とする企業が57%と最も多く、これに市場動向に応じて適宜とする企業が20%あった。

これに対して、全く市場動向を反映しないとの回答をした企業は1社も無かった。なお、企業別で異なるすべての職務について、市場評価を行うための外部の賃金相場情報を入手できるわけではないが、ある程度のマッチングは図られているようである。「Job Evaluation and Market Pricing Practices 2015」によれば、市場調査モデルとなる職務(survey model jobs)と一致する社内職務の割合が8割以上との回答は約4割、6-7割が約3割という結果が見られた。なお、外部の賃金相場情報を得られない職務については、職務内容が類似しているものを参考に職務賃金を決定している。使用する市場調査は1種類ではなく、複数利用する企業が、8割以上になっている。

1.2.1.1.2.3 同一賃金同一労働
米国では、原則的には、社内の同一職務ではその賃金は同一であるとされる(同一賃金同一労働)が、実際には同一とされる賃金にも幅があり、さらに諸条件に応じて差が生じることは容認されているため、実質的にはかなりの差が生じている(後述の産業別調査参照)。

また、ホワイトカラーの方がブルーカラーよりも賃金の範囲が広い傾向も見られる。WoldatWork
「Compensation Programs and Practices 2014」によれば、時間契約(hourly positions、主にブルーカラー)とエグゼクティブクラスを除く年間給与契約(salaried positions、主にホワイトカラー)別にみた、同一職種内の賃金テーブルにおける賃金範囲(最高額/最低額-1)に関する企業への調査では、時間契約の場合、同一職種内の賃金範囲は50%未満とした企業が58%であったのに対して、年
間給与契約者の場合、55%以上の企業が51%、45%以上55%未満の企業も33% あった。

エグゼクティブクラスになるとさらに範囲が拡大し、55%以上の企業が66%に増え、45%以上55%未満の企業は19%となっている。こうした賃金に差をつける要素として、教育、勤続年数、特定の職業を遂行するための能力(資格、経験など)などが上げられる。

なお、原則「同一労働同一賃金」という考えは、基本的に同一職場内に限定されている。同一産業内であっても、会社が変われば賃金は異なるという認識が一般的である。

特定ジョブについて、その産業内、産業外の賃金差があることを把握する参考として、世界11ヶ国、54百万人のジョブプロフィールを収集するポータルサイトPayScaleに登録されたITプロジェクトマネージャ(Project Manager, Information Technology)の賃金について、フォーチュン500に登場している米国大手企業8社のデータを表にまとめると次の通り。

同一社内や同一産業内でも賃金に幅があることが分かる。また、産業を超えた場合、特にサンプル数の多い情報業界と銀行業界の企業の平均賃金を比較すると、ITプロジェクトマネージャというジョブに対して、金融業界の賃金がかなり高く設定されていることが読み取れる。

1.2.1.1.2.4 採用・解雇
採用では、日本のような新卒一括採用のような制度は見られない。ジョブに空席が出来た場合やジョブが新設された場合に、当該ジョブの職務定義にあった人材を採用することになる。

なお、採用の時点で締結される会社と社員の関係を定めた雇用契約と、ジョブの内容を定義した職務経歴書は異なる扱いと考えられており、職務経歴書の作成ガイドにおいても、この点を踏まえて、職務経歴書の変更は企業の権利である旨、明記することを提案しているものもある。

職務がなくなった場合には解雇されることが一般的である。しかし、こうした解雇により、優秀な人材が失われる可能性もあるため、今日では米国企業においても、社内での異動をより容易にしようと工夫する企業も見られるようになってきている。

1.2.1.1.3 労働移動
米国では、労働移動が盛んと言われる。これには、米国企業が人材育成に投資しないことが影響している。米国企業は、人材育成に投資をしても、人材が社外に流出してしまえば投資対効果は失われるばかりか、競合他社に利益をもたらすといったデメリットになるという考えがある。

一部の大手企業の中には、優秀な人材に絞って、ファースト・トラックを設け、大企業幹部候補を育てる場合もあるが(例:大手金融企業が名門大学の MBA取得者を卒業と同時に雇用するなど)、それ以外の一般的な社員がキャリアアップを目指す場合には、自ら自身に投資し、道筋を切り開いていく必要がある。

このような環境では、個人の投資先は特定企業に特化した資格やスキルではなく、他社でも通用するある程度汎用性のある内容となり、その結果、社内・社外に関係なく、自らが求める条件にあった次のポジションを探すことになる。実際、現在の米国企業の多くは、社員が社内で別のポジションを
目指すよりも他社に転職先を求めることにインセンティブがあるとの専門家の指摘もある。

しかし、人材流出が増えると企業経営にマイナスの影響を及ぼす。特に、景気が上向きの時期にはより条件の良いポジションを目指して、社員の転職も増加、企業は他社と人材獲得競争をしなければならない状況も生じる。そうした中、米国企業の中には、人材の流出を防ぐための対策を実施する企業も登場しはじめた。具体的には、社内での人材移動を容易にするため、社内の空きポジションに関する情報共有に努めたり、社内で他ポジションに出願できる最低勤続年数(通常2~3年)や上司の同意に関するルール緩和を行ったりする事例も見られるようになってきている。

このように、外部市場での活躍のチャンスを求める米国の労働人材であるが、産業を超えた転職は少ないとされる。しかし、それも過去の経験や実績をどの程度重視する産業または職業かによって異なる。例えば、いずれの業界にも見られる人事職であるが、産業ごとに人脈も異なることから、異
なる産業への転職では前職での人的ネットワークや知識が活かせないということになってしまう。一方で、情報通信分野のサポートや施設運営、調達など、バックオフィス系の職務の場合には、過去に従事した産業の経験も多様であることも多い。

このうち産業による違いについては、産業を超えた転職は必ずしも少なくないという統計結果もでている。同統計によれば、同一産業間での転職はいずれの産業でも最も多い(22~56.8%)が、残りは異なる産業への転職があったことを示している。中でも、専門・ビジネスサービス産業への転職はいずれの産業からも10%以上見られた(10.1~24.3%)。

なお、ホワイトカラーに限らず一般的に、労働移動は好景気時に規模の小さい企業から大きい企業に向けて起こると言われている。ただし、この説には異論もあり、米国勢調査局のデータを用いて、米国においては低賃金企業から高賃金企業に人材移動が発生しているとした分析もある。具体的には、好景気時には、賃金の高い企業は他社からの引き抜きによる雇用を増加し、賃金の低い企業では失業者の雇用を増加して引き抜きによる人材流出を補っている。

1.2.1.2 産業別賃金調査
下記では、主要なホワイトカラー・ジョブについて、より具体的な賃金の実態を把握するため、金融、情報通信、自動車産業に絞り、統計データを中心に整理する。また、賃金決定などへの労働組合の影響の度合いを理解する指標として、産業別労働組合組成率も確認する。

1.2.1.2.1 金融
Committee for Better Banks (CBB、米国33 )、Communication Workers of America (CWA)、UNIFinance Global Union (UNI、スイス) は共同で、米国金融業界の労働者を取り巻く仕事環境を改善するためのキャンペーンの一貫として、2014年2月、「US Bank Workers Report34」を発表している
が、同報告書の中で、「米国には金融業界の労働者を代表する労働組合は存在しない」と指摘している。

これを裏付けるデータとして、労働統計局(Bureau of Labor Statistics:BLS)が2016年1月28日付けで発表した2015年の労働組合統計「UNION MEMBERS – 201535」における産業別労働組合組織率でみると、民間セクター全体の組織率が6.7%であるのに対して、銀行が1.3%、保険が2.1%
に留まっている。

基本的に各社の方針で、賃金が決定される。顧客産業別でみた、金融業界の年間基本賃金(basesalaries)の平均は、政府・非営利の91,302ドルからエネルギー・公益事業の119,899ドルと、28,597ドルの差があると、金融業界の専門家団体Association for Financial Professionals(AFP)が実施した2015年金融業界賃金調査「2015 AFP Compensation Report38」から判明している。

地域別でも格差がみられ、北東地域の年間基本賃金は、113,671ドルとなっているが、中西部地域では101,943と、年間10,000ドル以上異なっている。
BLSの2014年5月付け職業雇用統計(Occupational Employment Statistics)における全国産業別職業雇用賃金概算(National Industry-Specific Occupational Employment and Wage Estimates)によれば、金融・保険(Sector 52 – Finance and Insurance)の職務別賃金は次のとおり。

1.2.1.2.2 情報通信
BLSの「UNION MEMBERS – 201541」における産業別・職業別労働組合組織率でみると、民間セクター全体の組織率が6.7%であるのに対して、コンピュータ・数学関連の職業では5.3%と若干低い。また、産業別では、通信産業では14.8%と比較的高いが、情報技術産業が含まれる専門・ビジネス・サービス業界の専門・技術サービスでは、2.6%とかなり低い組織率になっている。

このうち、組合組織率が比較的高い通信産業では、通信大手のAT&T、Verizonなどはブルーカラーおよび一部のホワイトカラーの賃金交渉において、Communications Workers of America(CWA45)が影響力をもつと見られる。しかし、大部分の通信分野のホワイトカラーについては、賃金交渉に大きな影響力をもつ労働組合は特定できない。

なお、1980年代、ハイテク産業のホワイトカラーのための労働組合化を進めようと、Communications Workers of America(CWA)at AT&T Technologies(電気通信)と International Union of Electronic,Electrical, Technical, Salaried, & Machine Workers(IUE)at Raytheon(軍需)が取組んだことについて言及した報告書がある(Steve Early & Rand Wilson “High Tech Professionals Are Hard to
Organize Too,” Labor Research Review ,198646)。同報告書によれば、通信業界の労働者を代表するCWAは1980年代、ホワイトカラー向けの組合結成に向けた取り組みを行った。

当時、CWAには、AT&Tのブルーカラー従業員と多くの低階層ホワイトカラー従業員が加盟していた。一方、Association of Engineers and Associates (AEA)は、AT&Tの多くの通信機器製造工場で、争議権を持たない技術者・専門家の団体(non-bargaining technical and professional organization)であったが、AT&T経営陣との交渉の支援を得るため、1982 年に CWA に加盟、AEA-CWA は、ホワイトカラーの労働組合化を目指した。しかし、その取り組みは失敗し、争議権を持たない専門家団体という、元来の形態に戻ったとされる。

一方、情報技術分野は組合組織率も低く、同産業の賃金・処遇決定に影響力をもつ労働組合はないと考えられる。なお、情報技術大手のIBMでは、1999年以来、CWA 支部(CWA Local 1701)のAlliance@IBM47を労働組合とする取り組みが行われていたが、解雇やメンバーの減少を受け、2016年1月、その活動を中断すると発表している。

賃金について、ICT技術専門職が所属する産業によってもかなり異なっている。例えば、情報通信技術(ICT)系のICT技術専門職に関して毎年賃金動向調査を行っている「DiceTech Salary Survey」の2015年版48及び2016年版49では、ICT技術専門職の所属企業の産業別平均額について整理している。2年続けてICT技術者の賃金が高いことで上位5産業に入った産業には、銀行/金融/保険、宇宙・軍事、エネルギー/公益事業が含まれている。

また、地域別でも賃金がみられ、同調査で、上位3州に2015年、2016年と連続して入ったのはカリフォルニア州(2015年データ:$109,488)で、逆に 2年連続、賃金が安い下位3州に含まれていたのは、ミシシッピー州(2016年データ:ミシシッピー州)だった。

BLSの2014年5月付け職業雇用統計(Occupational Employment Statistics)における全国産業別職業雇用賃金概算(National Industry-Specific Occupational Employment and Wage Estimates)によれば、電気通信(NAICS 517000 – Telecommunications)の職務別賃金は次のとおり。

1.2.1.2.3 自動車
自動車産業を代表する労働組合は、全米自動車・航空宇宙・農業機器組合(International Union,United Automobile, Aerospace & Agricultural Implement Workers Union: UAW)である。UAW では、ビッグスリー(General Motors:GM、Ford、Chrysler)における主に時間給で働くブルーカラー労働者だけでなく、ホワイトカラー従業員に多く見られる給料制(salaried workders)従業員の労働条件の交渉を行っている。UAWでは、会社側と交渉する窓口として、企業別に支部を設けている。

各支部では、給料制労働者の利益を代表するグループ(GM:salaried bargaining committee、Ford:salaried negotiating team)を設置、給料制労働者のための基本協約(Salaried Master Agreement)締結を目指している。なお、Fordの2015年11月4日付けの給料制労働者のための基本協約「2015 UAW-Ford Salaried Master Agreement56」では、給料制労働者の賃金テーブルも掲載されている。

ただし、いずれもエンジニア系の職務のみで、管理職や業務系のビジネス・プロフェッショナルの給与については、記載が見られない。労働組合組織率については、自動車産業に特化した統計が BLS の公表資料にはないため、参考として製造業全体の組織率を以下に掲載する。自動車は耐久財製造に含まれる。

なお、Ford の2015年11月4日付けの給料制労働者のための基本協約「2015 UAW-Ford Salaried Master Agreement56」では、給料制労働者の賃金テーブルも掲載されている。ただし、いずれもエンジニア系の職務のみで、管理職や業務系のビジネス・プロフェッショナルの給与については、記載が見られない。

労働組合組織率については、自動車産業に特化した統計がBLSの公表資料にはないため、参考として製造業全体の組織率を以下に掲載する。自動車は耐久財製造に含まれる。

BLSの2014年5月付け職業雇用統計(Occupational Employment Statistics)における全国産業別職業雇用賃金概算(National Industry-Specific Occupational Employment and Wage Estimates)によれば、自動車製造メーカーの職務別賃金(NAICS 336100 – Motor Vehicle Manufacturing)は次のとおり。

1.2.2 フランス
1.2.2.1 フランスにおける「ジョブ型」人事制度
アメリカの「ジョブ型」を踏まえつつ、本調査で行った現地調査における聞き取り結果を中心に、①賃金体系、②職務定義と賃金決定(同一労働・同一賃金など)、③採用・雇用契約、④労働移動(転職・解雇など)の特徴について整理する。

1.2.2.1.1 賃金体系
基本的には職務型(職務グレード型)であり、このうち管理職・専門職がその対象となる「カードル」も同じである。フランスでは、企業や職種毎に差異はあれど、社員の階級は一般的に以下の5段階に分類される(上位3階級がカードル)。原則的には、この階級が上に上がる程、労働協約よりも市
場価格の影響が強くなる。

このうち、カードル社員は、多くの場合、個々が非常に優れた経験の持ち主であり、互いの人脈も広く強いため、雇用者との交渉材料が豊富で、労働組合を必要としない。雇用者側からすれば、こうした社員や社員候補に賃金を提示する上で、労働協約以外の指標が必要となる。そこで民間人事関係企業が作成する給与表に示されるような、市場価格が活用される。ただし、こうした市場価格はあくまで目安であり、ある社員の能力を見込んで、市場価格よりも高い賃金を提示するといった決定は個々の雇用者に委ねられる。

カードルの場合、入社当初より(あるいは新しい職務に就く度に)企業の人事部が目標(objective)を与え、その達成度を毎年など定期的に評価・査定し、その結果如何によって、責任を増やすなどの職務変更がなされ(ジョブディスクリプションを変更し)、社内の様々な業務を経験しながらキャリアアップしていく。

1.2.2.1.2 職務定義と賃金決定
1.2.2.1.2.1 職務定義
職務定義書については、本来は求人募集の段階で既に存在するべきものであるが、実際は転職の際に、就きたい職場に自分を売り込む課程で(あるいは雇用者が候補を選定する段階で)、形成される場合もある。この場合も、実際に職務を開始する頃には、詳細に規定された職務定義書が存在することになる。英国などでは、日本のような(職務に余裕を持たせたり、全く指定しない)契約形態も、多少みられるようだが、フランスの企業では職務定義が明確でない雇用形態はほとんどみられない。

人事部が目標を与えて査定を実施するような、カードル社員の場合、その職務(ジョブディスクリプション)は定期的に(毎年)見直され、更新される。ただし、こうした査定や見直しの焦点はあくまで職務やキャリア構築であって、賃金・待遇については必ずしも同じ文脈で協議されない。賃金については、2~3年に1度程度の更新が一般的といわれている。

1.2.2.1.2.2 賃金決定
フランスの大企業における各職務の賃金階梯表の作成は、産業別労働協約の賃金階梯表や労働組合が交渉した最低賃金を踏まえた上で、ポスト、職務、学位などにより労働者の相対的地位を定める職務等級表(grille de classification)とともに行われる。その際、外部市場価格、ヘイ・システムなどのポスト点数表、産業別賃金階梯表、公務員の俸給表なども参考にされる。

このように、フランスの労働組合は、労働者の賃金決定にはほとんど関与しない。背景には、大部分の民間セクターの組合の影響力が弱くなっていることがある65。また、民間セクターで労働組合との労使交渉を義務付けられているのは、一定規模以上の企業のみであり、従業員20~30名以下の中小企業はこの範疇ではない。現在、組合が求めるのは、賃金設定よりも労働者の待遇の改善に重点が置かれる傾向がある。具体的には、労働者の社会的地位の向上、訓練のための基金の設立などがあたる。

組合は労働協約により、当該セクターでの最低賃金を設定するのみで、企業は労働協約の範囲内で、自由に企業独自の給与等級を設定したり、個々の従業員の賃金を設定することができる。組合が影響を持たない賃金決定では、外部労働市場は重要な指標となる。特に、労働協約に縛られない、カードルなど上級社員の賃金決定には外部市場がより大きく影響する。

1.2.2.1.2.3 同一賃金同一労働
「同一企業内の同一職務」の適応は、同一社内のみである。各社は独自に、職務毎に設定した給与等級(Index)に従い、各従業員のレベルに合ったベース給与が設定され、同じ職務の同じレベルの従業員のベース給与は同じになる(職務グレード制)。ただし、あくまで同一なのはベースとなる給与であって、個々の従業員の給与の個別設定(individualization)は認められている。つまり、上記のベース給与を基に、雇用者と個々の従業員の間で交渉・同意して、一定額を上乗せした額が、その従業員の給与となる。個々の従業員の給与に影響を与える主な要素としては、下記などが含まれる。

◇職務経験
◇教育・訓練のレベル
◇教育を受けた教育機関(名門校出身か否か)

◇労働市場の状況(保有する技能の価値・希少性)
◇企業内の調整
◇勤続年数
◇勤務地
◇資格

なお、社会的な要素(年齢、性別、等)については、公に認められているわけではないが、残念ながら影響が依然として見られると指摘している。

雇用形態による違いは、原則的には認められていない。無期雇用・有期雇用、フルタイム・パートタイムで、時間給に違いは出ない。このことは、労働者の平等な扱い(l’egalite de traitement)としてフランスでは80年代初頭より法律72で定められており、2014年には、欧州圏内に適用する指令7が発効した。ただし、これはあくまでベース給与に関する話で、個々の労働者の経験などによって上乗せされる額は、個々に異なる。また、雇用形態よりも、個々の社員の知識や経験によって付く賃金の差の方が大きい。

ただし、有期雇用者の中でも、仲介業者(temp agency)を通している派遣労働者は、基本的には仲介業者の従業員という位置づけのため、派遣先の企業の従業員ではない。このため、派遣先企業の社員と派遣社員の間で、得られる福利厚生は異なっている。また、企業の利益を従業員に配当す
るシステム「La Participation76」で、中小企業が多い仲介業者の従業員である派遣社員と、大企業の従業員である正社員との間で、得られる額に違いが出ることが多い。

採用では、一般的に日本のような新卒一括採用のような制度は見られない。ジョブに空席が出来た場合やジョブが新設された場合に、当該ジョブの職務定義にあった人材を採用することになる。

しかし、カードルについては、そのポストに見合った高い能力が認められる人材として、エリート校グランゼコールなどの卒業者を一定の割合で卒業後すぐに採用している事例を葉山愰氏の研究は指摘している。

また、ビジネス系グランゼコール出身で、コンサルティング会社にカードルとして勤務するフランス人によれば、就業を開始するまで、職務に関して得た主な情報源は「求人広告」に記載された簡易情報のみであり、終業後、研修及び上司等による指導により具体的な業務内容等について学習したとコメントする。

この「求人広告」には、職務経験をほとんど持たない新卒者向けの職務定義書が使用されている。フランスにおける職工長(Agent de maîtrise)・技術者(technicien)、カードル職の求人情報を掲載する管理職雇用協会(Apec80)に掲載されている新卒向けの求人広告では、企業概要や求められる学位と並び、職務概要が掲載されている。

カードルのように社内で多数のポジションを転々とする職務については、通常、社内で別の仕事に就く際には、その度ごとに新しい職務定義書に変えていくことになる81。この変更の場合に、新しい雇用契約の締結はしないことが一般的である。

これには既存の無期雇用契約を、特に被雇用者のポジションが変わったというだけで、破棄することは容易にできないことが背景にある。また、情報
通信系企業で実際にカードル職にいるフランス人によれば、こうした職務定義書は雇用契約とは別の扱いになっており、雇用契約に記載されるのは、労働協約に沿った職務(カードル)と、その職務レベル・段階、給与額に関するもののみで、職務定義書に定められるような具体的なタスク内容等
についての詳細記述はないとのこと。

昇進などで職務定義書や給与などの中身が変わる場合にも、同一企業にいる限り、雇用契約書を新たに書き直して署名するといった手続きはなく、昇進の通知は口頭の場合や契約変更通知書で知らされる、または既存の契約書の変更条項(amendment)に
署名するなど、企業により異なるとされる。

職務が無くなった社員は即解雇にはならない。ジョブディスクリプションに記載のある職務がなくなった場合、社内の同じ部署や、場合によっては全く異なる部署に異動することで、その人材を社内に残すことをまず検討することが、暗黙の了解とされている。また、後述のように、オランド政権は
2013年6月、リーマンショック以降、大手企業による従業員の大量解雇といった深刻化する雇用問題への対応策として、雇用安定化法(loi de sécurisation de l’emploi du 14 juin 2013)を制定した。同法を通じて、一定の条件のもと、雇用契約を変更することなく、より柔軟に雇用労働者の配置転換を行えるようになっている。

1.2.2.1.3 労働移動
フランスでも、勤め先を変えることや、企業内での役職を変えることは一般的である。その場合、途中に失業のリスクをはらむ外部市場の別企業への転職は、内部市場の転職よりも不安定な転職の仕方であるとみられている。

典型的に不安定な職に就くことが多い人口(女性、若者、移民)が多いセクター(サービスセクター、特に飲食、ホスピタリティなど)に比較すれば、ホワイトカラーの転職は少ない。また、カードルについて、Apecが発表しているカードルの労働移動に関する調査によれば、カードル全体で 2014年に異動のあった割合は28%で、このうち外部への異動は7%だったことがわかっている。

フランスでは、各労働者と雇用者は、毎年1回、前年の成績などを振り返り、その年の給与・待遇などを協議する機会を持つ。この際に、ジョブディスクリプションも更新される。これは、従業員にとっては、他部署への異動を希望する絶好の機会であり、雇用者も同様に、自らの要望を述べる。お互いの要望がマッチすれば、異動などの希望が実現することになる。

一方で、外部市場への転職も少なくないとの指摘もある。キャリアアップを前提とした場合、①同一企業内で現在よりも上の役職への転職、②他企業での同レベルの役職への転職、③他企業での現在よりも上の役職への転職の3パターンの内では、③が一番多い(外部市場への転職の方が多い)。

また、外部市場への転職をする際、労働者は単に賃金・待遇の向上のみを求めている訳ではなく、仕事の内容や、今後のキャリアアップの可能性も、賃金・待遇と同等あるいはそれに勝る理由となっている。

年齢別では、若年層ほど、無期で安定した職に就けるまで、最初は短期の仕事や職場訓練(Stage:インターンシップ、多くの場合無給)や有期雇用を通して職務経験を積む必要があるため、ホワイトカラーの若年労働者の労働移動も比較的盛んであるといえる。一方、上限世代はないが、歳を重ね
る毎に、1つの仕事での勤続年数が長くなる傾向がある。

産業の枠を超えた転職は、非常に稀と考えられている。特に、金融、製造、エネルギーといった産業では、他産業への転職はあまりみられない。逆に、小売、飲食、建設などの産業では、企業や産業の枠を超えた転職が多い。これは、ホワイトカラー・ブルーカラーの違いというより、企業規模による違いが大きい。つまり、内部市場が大きくなく、社内で十分な労働移動をできない中小企業が多い産業では、労働者はキャリアアップを目指して社外に転職先を求める。このうち、IT産業は、中小企業と大企業が混在しているため、両方の特徴が混在している。IT産業の中でも、ITコンサル・ビジネスサービスといった部門では、高い能力を持った人材が会社の枠を超えて比較的頻繁に転職している。

産業の枠を超えた転職が少ない背景のひとつとして、フランスでは、学生が若いうちから、個々の学生の才能・適正(aptitude)を判断し、職業を与えてしまうことも指摘される。一度、専門が決まってしまうと、違う道に進むのが難しい。企業などでは、様々な業務を理解できるジェネラリストが求められているが、大学などの教育機関では専門家しか生まれない。このギャップが問題になっているとの意見が聞かれた。

なお、フランスにおいても、米国同様、企業による人材育成投資は積極的でない傾向がみられ、キャリアアップを目指す場合には個人の努力が重要になる。社会全体のことを考えれば、人材育成に企業が投資した方が良いが、個々の企業の経営という視点からすれば、いつまでいるのかわからない従業員の教育に投資することはリスクが高い。

このため、教育費を出すなどの企業による関与は、必然的に将来の能力が期待できる優秀な人材になるほど、高い傾向がある。ただし、「カードルのみが企業主導の訓練を受けられる」という白黒はっきりした分け方ではない。カードルに分類されないホワイトカラーの社員も、努力して等級を上げていくことで、訓練を受けられる制度も存在する。

カードルになるためには、有名校出身であることが大きく影響する。しかし、カードルではなくても、努力と結果次第で、企業内の訓練などを得られる仕組みがある企業は存在する。特に、情報技術産業において、出身校にこだわらずに広く人材を雇う傾向が見られる。

歴史的に、フランスの転職をみると、70年代くらいまでは、フランスでも、特に国の重要産業(製造業など)の大企業において、終身雇用的な、一生を1つの雇用主で過ごすキャリアが一般的であった。

しかし、80年代から90年代後半にかけて、国の主要産業が製造業からサービス産業へ移行したことや、経済の変化による失業率の増加によって、こうした慣習が崩れていったとされる。間に失業を挟む、企業から企業への労働移動や、短期雇用が見られ始めたのもこの頃である。こうした変化が完了したといえる90年代の終わりから現在まで、あまり状況の変化はないとのこと。

しかし、終身雇用が一般的であったと言っても、70年代くらいまで全ての労働者がそうしたキャリアを過ごしていた訳ではない。当初から不安定な職に就く労働者(特に、女性、若者、移民)は存在したし、彼らの雇用形態は上記の変化の前後で変わりはない。現在では、こうした不安定な職に就く労働者と、かつては終身雇用に就いていた大卒労働者の両方において、労働移動が盛んになっているだけとみることもできる。

1.2.2.2 産業別賃金調査
下記では、主要なホワイトカラー・ジョブについて、より具体的な賃金の実態を把握するため、金融、情報通信、自動車産業に絞り、労働協約および民間の人材コンサルティング会社がまとめた賃金範囲に関する調査データを中心に整理する。

また、影響力は弱まっているとはいえ、各産業で一定の影響をもつ労働組合を把握する参考として、「代表的労働組合」に対する各産業別の支持率を掲載する。フランス労働法典は「(労働協約または集団協定は)協約あるいは協定の適用領域における1つまたは複数の代表的組合組織によって」締結されなければならないと規定しており、「代表的労働組合」のみが協約に署名する能力を有している。

代表的労働組合とは、産業部門または職際レベルにおいて、有効投票の8%の支持を得る必要がある。実質的には、労働総同盟(Confédération générale du travail :CGT)、仏民主労働総同盟(Confédération française démocratique du travail :CFDT)、労働総同盟労働者の力(Confédération générale du travail-Force ouvrière :CGT-FO)、管理職総同盟(Confédération française de l’encadrement –
Confédération générale des cadres :CFE-CGC)、仏キリスト教労働者同盟(Confédération française des travailleurs chrétiens :CFTC)のいわゆる5大組合がこれに該当することになる(各労組の位置づけは後述)。

フランスの産業別労働協約は産業別の最低基準を設定するものであり、当該産業における大企業や管理職などのポジションの高い労働者は、企業別協約や個別の契約により、労働条件が独自に決定されているケースが多く、各企業の戦略に基づき決定される。金融業界における最低基準の賃金は、銀行・保険でそれぞれ異なる労働協約で定められている。

人材コンサルティング会社のHaysの2014年の産業別賃金調査によれば、金融分野について、小売銀行、プライベートバンキング(資産管理)、融資・投資銀行の各専門分野における金融機関の職業別の年間最低/最高賃金をリストしてアップしている。

例えば、小売系の金融コンサルタントでは、0~3年の経験年数の場合、24,000~26,000ユーロで、年次があがると賃金も上昇、7~10年では 31,000~34,000ユーロになる。プライベートバンキングの投資担当者の場合、0~3年で 25,000~29,000ユーロ、7~10年で 35,000~40,000ユーロとなっている。同じジョブと考えれば、金融コンサルタントで24,000ユーロから 34,000と大きな幅があると感じられるが、経験年数の中では、ある程度の範囲で数千ユーロ程度に収まっている。ただし、10年以上の経験の場合、いずれの職務でも、上限値は掲載されていなかった。

1.2.2.2.2 情報通信
通信・ITにおける代表的労働組合の支持率は次の通り。

Haysは、IT分野について、研究・開発、システム(運用)、コンサルティング/ビジネス分析、統合基幹業務システム(ERP)/ビジネスインテリジェンス(BI)の4つの専門分野に大別し、各分野の職業別の年間最低/最高賃金をリストしており、その主な職業ごとの賃金幅を整理している。

例えばシステム運用のシステム・ネットワークサポート技術者の場合、経験年数0~2年では 24,000~28,000ユーロで、5~10年になると、32,000~35,000ユーロとなる。この職業の場合、10年以上の賃金はなく、それ以上の経験となると、別の職業にキャリアアップしていくものと考えられる。同じく、システム運用におけるアーキテクトの場合は、0~2年で45,000~48,000ユーロ、5~10年で 52,000~58,000ユーロ、10年以上の場合、58,000~70,000ユーロとなっている。

他の職務でも、経験年数が短く、3年以内のレンジの場合(0~2年、2~5年)、3,000~5,000ユーロ程度の年収の差がみられる。一方、5年以上になると、職業によっては同一職業内でも賃金に大きな幅が出てくる。5~10年の場合には、3,000~5,000ユーロ程度の違いの職業が多いが、中には、ERP コンサルタントの10,000ユーロや情報システムディレクタの20,000ユーロ程度の差がみられるようになっている。

1.2.2.2.3 自動車
フランスでは、自動車産業の労働協約は金属産業に属する。自動車産業における代表的労働組合の支持率は次の通り。

Haysは、自動車産業分野について、研究・開発/エンジニアリング/プロジェクト、工程/手法/産業化、製造指揮・専門、メンテナンス、品質管理/衛生・安全・環境基準管理の5つの職務分野及びパリとその他の地域別に各分野の年間最低/最高賃金をリスト化している。

研究・開発/エンジニアリング/プロジェクト職務では、0~3年では5,000ユーロ程度の違いに収まっているが(パリ:35,000~40,000ユーロ)、7~15年になると、10,000ユーロ以上の差がみられるようになる(パリ:48,000~60,000ユーロ)。

1.2.3 ドイツ
1.2.3.1 ドイツにおける「ジョブ型」人事制度
アメリカの「ジョブ型」を踏まえつつ、本調査で行った現地調査における聞き取り結果を中心に、①賃金体系、②職務定義と賃金決定(同一労働・同一賃金など)、③採用・雇用契約、④労働移動(転職・解雇など)の特徴について整理する。

1.2.3.1.1 賃金体系
ドイツにおけるホワイトカラーの賃金体系は、一般的には職務型である。ただし社員の賃金決定では、勤続年数などの職能的要素もある程度考慮される場合もある。

医療・ヘルスケア、公的部門、教育部門、弁護士等を除く、ドイツ経済のほぼ3分の2を占める企業において、以下の学歴に基づく4段階の給与レベルがある。企業内の構造でIからIVに向かう程、職務の専門度が高くなり、賃金も上昇する仕組みになっている。通常Iはブルーカラーであり、ホワイトカラーはII以上である。

ドイツでは名門校出身であることが、フランスほど重要ではない。また、大学卒業と職業訓練(実践と訓練学校の両方)修了と大きく分けて2つの選択肢があるが、いずれも社会的に認められており、フランスのように、大学卒業でないと敗者であるという考え方はない。

しかし、ここ数十年のトレンドとしては、労働者の高学歴化が進んでいる。例えば、同じ職業訓練を受ける人材でも以前は9~10年間の初等教育および中等教育を受けてから職業訓練を始めるのが主流であったが、昨今では、高等学校を卒業してから専門の職業訓練を始める人材も増えている。職業訓練の種類によっては、例えば、銀行員養成の為の職業訓練校のように、入学条件を以前の中学卒業資格から現在では高校卒業資格に引き上げた職種もある。

また、大学進学率も上昇している。「職業訓練校卒業者」が「大学卒業者」の職務レベルに昇格する為には、通常外部の教育機関で「大学卒業資格」を取らなければならない。それ以外の方法は難しい。例えば、ダイムラーのJürgen Schrempp氏 (元CEO)のように、当時同社(メルセデス)で機械工として修行を積んだ後、社内で出世して経営者になった人も皆無ではないが、非常に稀である。実際、Schrempp氏は、途中で大学の学位を取得している。

1.2.3.1.2 職務定義と賃金決定
1.2.3.1.2.1 職務定義
企業内のジョブディスクリプションは、基本的に常に最新化されている。従業員の契約上のジョブディスクリプションとは異なるが、ドイツでは職業毎に全国共通の職業像(Berufsbild)というものがある。

各職業の仕事の内容、職業で必要とされる技能、知識、そのために必要な職業訓練が定義されている。通常は、職業(同業)組合および商工会議所等(職業によって異なる)が合同で定義している。時代や市場の変化に伴い、従来の職業像に変更が必要となることもあれば、新しい職業が規定され、
その職業像が定義される事もある。更新された職業像としては、以下が挙げられる。

◇電子機械工(Mechatroniker):電子技士(Elektroniker)と機械工(Mechaniker)を組み合わせて作られた新しい職種。資格の定義、その為に必要な訓練課程、それに適した賃金スケールを、労働組合、使用者団体、企業らが交渉して設定した。
◇介護ヘルパー:少子高齢化に伴いニーズが高まる中、ヘルパー職務は資格がなく、給与レベルが低かったため、介護業界は人材確保に頭を悩ませていた。そこで、労働組合が「介護士」を職業訓練職とし、職務の内容も高度化し、給与レベルも引き上げた。これにより、(介護ヘルパー職がより魅力的なものとなり)介護業界は以前より人材確保し易くなったという。

1.2.3.1.2.2 職務評価(賃金決定)
ドイツでは、産業別の労働協約が労使交渉のベースとなる。一般的には、ドイツでは、産業別(企業横断型)の組合による協定を基に、被雇用者の代表である経営協議会(Betriebsrat)と雇用者の間で、企業毎の協定が結ばれる。その協定内の賃金スケールと各従業員の査定結果をベースに、企業と従業員が協議して賃金が設定される。

その際、経営協議会は企業と従業員の協議に立ち会い、例えば、従業員に対し従業員の権利の法律などに関する助言を行う。化学産業、自動車産業、電子工業、金属産業、銀行等の所謂オールドエコノミーの産業で組合の影響が強い。これらに加え、たばこ産業も、オールドエコノミーの産業に含まれ、かつては組合の影響力が強かった。一方、ニューエコノミーの情報通信等では組合組織率が5%を下回っている。

情報通信、金融、自動車産業間で比較すれば、自動車産業の組合の影響が一番強く、情報通信では組合の影響は一番弱くなっている。

ただし、ドイツ企業を取り巻く競争環境の激化に対応する為に、解放条項(Öffenungsklausel) や雇用確保のための経営同盟(betriebliches Bündnis für Arbeit) 等を通じて、企業レベルで産業別労働協定とは異なる内容の企業別労働協定を結ぶ事も出来る。その場合は、経営協議会(Betriebsrat)の合意が条件となっている。企業別協約の頻度を産業別に比較すると、情報通信、金融(特に投資金融)、自動車産業の順になる。

近年、企業横断型の協約が減り、独自の協約を結ぶ企業が増えている。その理由の1つは使用者間で意見・立場がまとまらず、使用者団体を組織できなくなってきた(企業横断型組合の交渉相手がいなくなった)ことが挙げられる。

企業毎に協約を結ぶことには、デメリットもある。良い例が、ドイツポストやドイツ鉄道のように、民営化された元国営企業である。これらの企業はかつて、1つの協約に縛られていた。民営化後は、親会社と複数の子会社に分割されたこともあり、社内に複数の協約が存在するようになった。このため、子会社レベルでもストが起こるようになり、結果として会社全体の運営にも支障をきたしている。

さらに、産業別使用者団体に属さないが、協約には従うというスタンスが、近年のトレンドになってきている。フォルクスワーゲンなどが良い例である。

労働組合を通した労使交渉に参加している企業の賃金動向は、労働組合を通した労使交渉に参加していない企業の賃金動向より、全般的に安定しており、高水準で推移している。とはいえ、最近は企業独自の協約が許されるなど、組合の影響力が弱くなってきていることもあり、労働組合を通した
労使交渉に参加している企業でも、従業員間の格差が広まる傾向が見られる。

組合員と非組合員が同一企業内に並存する場合の賃金決定方法に違いはない。それは、賃金決定の場で組合員のみ優遇できない為である。産業別の違いはあるものの協定外職員は、一般的には経営層(Unternehmensleitung)、管理職(Führungskräfte)および大卒の若手候補(Nachwuchskräfte)に多く見られる。一般的に、給与レベルIII(Lower Management/Supervisors/Experts/Technitians) 迄が協定内でIV(Middle Management/Expert)以上が協定外の場合が多い。

しかし、企業と労働者が直接交渉するために、労働者よりも力の強い企業の主張が通りやすくなる米国などとは異なり、ドイツでは経営協議会の存在が企業と労働者の間の交渉をより公平にしている。こうした意味では、ドイツでは労働市場の柔軟性を高めつつ、信頼に基づく長期にわたる労使関
係を維持する努力がされているといえる。

1.2.3.1.2.3 同一賃金同一労働
ドイツでも、同一企業内の同一労働同一待遇といった考え方はある。ただし実際は、協約などに示された範囲内で、従業員の成績(貢献度)、資格、職務経験年数132、勤務地等の要素を鑑み、個々の従業員の給与・待遇賃金が個別に決定されている。

おおよその目安としては、一社員の賃金の内、70~80%が産業あるいは企業別協約に基づく職務毎のベース賃金、10~20%が職務経験年数(年齢)、残りの10~15%が個人の成績等の要素により決定される。

産業別、企業別の労働協約はあるものの、最終的な賃金は企業と従業員の間の定期的な個別交渉で決定されることから、賃金には幅がある。労働市場の状況によっては、外部労働市場の状況を勘案して賃金設定をすることもある。また、大卒者等では所謂「協定外契約 (AT: Außertariflicher
Vertrag)」採用もあり、その場合は、外部労働市場の状況に応じて企業と従業員の間の交渉で自由に賃金を決定できる。「協定外契約」は、化学、自動車等のオールドエコノミーの産業より、情報通信、(投資)金融等のニューエコノミーに多く見られる。

企業を超えた産業内での同一労働同一賃金についても、労働協約を通じて最低賃金とともに、賃金最高水準を定めているため、実現する基盤はある。しかし、実際には、労働力不足に苦しむドイツ企業は、優れた人材を確保・維持するために柔軟な対応を求められている。また、協定外契約もあり、同一産業内でも賃金の格差が見られる。

雇用形態別では、通常採用のフルタイム・パートタイム間では差別はなく、時間単位で見た場合の賃金・待遇の違いは容認されていない137。しかし、実情は、有期雇用、仲介業者を通した派遣雇用(Zeitarbeit)、ミニジョブ(geringfügige Beschäftigung)では正規採用と労働条件が異なることが容認されている。近年は、特に非正規雇用に関して規制が緩和されている。

1.2.3.1.2.4 採用・解雇
採用では、日本のような新卒一括採用のような制度は見られない。ジョブに空席が出来た場合やジョブが新設された場合に、当該ジョブの職務定義にあった人材を採用することになる。

リストラ等の理由で職務が無くなった場合、即解雇というい事はなく、まずは社内の別の職務への異動が検討される。異動が可能である場合は、企業と従業員の間で雇用契約が改訂される。こうした社内の別職務への異動の際に職務レベルが下がる場合には、待遇・賃金等の処遇が悪化すること
も容認されている。なお、この場合も、経営協議会は企業と従業員の協議に立ち会い、例えば、従業員に対し従業員の権利の法律等に関する助言を行う。

なお、先任権は、賃金面ではなく、解雇に対する保護等の優遇・特権といった面で認められる。企業が組合員であるなしを問わず社員に先任権を与えるのは、もし、組合員には先任権の効果がある状態で、非組合員に先任権を与えなければ、非組合員に組合に入るインセンティブを与える事になるため。

1.2.3.1.3 労働移動
ホワイトカラーがキャリアアップを目指す場合、一般的には、まず社内での昇格もしくは転職を目指す労働者が多い。そして、内部市場で大きなキャリアアップが実現出来ない場合、外部市場への転職が試みられる(特に昇格しても一定以上の賃金を望めない中小企業の社員など)。

しかし、ドイツでも、ホワイトカラーの同産業内の異企業間ではかなり一般的になってきた。特に、若い人々の間では柔軟に転職機会を利用し、転職によりキャリアアップを図る人材が増えている。産業別に見ると、情報通信および金融での転職の方が、自動車産業の転職より一般的である。ド
イツでも過去は終身雇用に近かったが、経済状況の悪化および国際競争の激化に伴い、労働市場の柔軟化が求められるようになった。その結果、産業別協定をベースに企業レベルで独自の協定を結ぶことが可能になった。

更に、多くの企業は事業の一部を国内の他社にアウトソーシングすることで労働コストを削減し、このような国際競争の激化に対処してきたが、その結果として職を失う労働者が多く生じた。

なお、ドイツでは米国と比較して、社員のキャリアアップ努力を支援する傾向が見られる。ホワイトカラーのキャリアアップにおいて、個人の努力と企業の支援の両方があるが、例えば、各企業内で設定されている給与レベル(上表参照)で昇格するには、通常、社外の教育機関から学位・資格を取得しなければならない。

後述の、デュアル大学制度を通して、マイスター資格保持者が企業で仕事をしながら、大学に通う場合、企業が学位取得の費用を負担することもあれば、個人が連邦・州政府の公的支援を受ける事もある。

同一職務異種産業への転職は、異種の産業に移っても、過去の職務経験が生きるような例外的な職業を除けば、異種産業への転職は難しく、あまり一般的ではない。例えば、大企業の経営者(Unternehmensleitung)層では異種産業間の転職は有り得る。

同一職務で、異なる産業への転職を阻む主な要因として、ドイツでは各産業内の各職業の専門性が重視され、職業の細分化が進んでいる点が指摘された。また、ドイツの職業訓練および教育制度は、人材が比較的若い段階(基礎教育 9−10 年後)で職業(Beruf)を選択せねばならず、一旦選
んだ道はなかなか方向転換出来ない点も影響している。

例えば、一度、職業専門学校を選んだ人材が大学コースに転換するには、職業専門学校での資格は認められず、高等学校にて大学入学資格を新たに取得しなければ、大学には入学出来ない。昨今では、そのような柔軟性のない制度を是正する動きがある。具体的には、職業訓練校コースを選んで職業資格およびマイスター資格を取得した人材が大学資格を取りたい場合、仕事を続けながら(大学入学資格を取得せず)直接大学へ通って大学卒業資格を取得出来るデュアル大学制度(Dualstudium)が10年程前に導入された。

企業規模別でみると、特に、中小企業においては、社内転職しキャリアアップしても相応の給与アップが望めない場合、外部市場の大手企業への転職をする比率が高くなる。ただし、外部市場に転職する事で若干給与等の改善が見られる場合でも、中小企業内の自由さ、家族的さ等に価値を見
いだし、外部市場への転職を希望しない中小企業の従業員も多いという声も聞かれた。

なお、雇用市場流動化については賛否両論があるとの指摘もなされた。例えば、技術専門家レベルの同産業内の転職の場合でも、職場によって仕事の仕方・システムが異なるため、それに慣れるのに時間がかかり、その結果、最終製品・サービスの質および効率が悪化すると懸念する声もある。

例えば、ある自動車企業に長年勤続し業界を周知している経営協議会の代表によると、外部から転職して来た経営者は数字こそは操れても自動車業界に疎いばかりか、技術的知識もなく、まず協議が成り立たないという。また、そのような経営者は転職・就任後に短期間で結果を生み出さなくて
はいけないというプレッシャーがあるため、企業文化を尊重して長期的な観点に立ってビジネスを行うというような事は考えない。そのため、特にその企業での勤続年数の長いベテランと文化の相違による衝突も多々ある。

1.2.3.2 産業別賃金調査
下記では、主要なホワイトカラー・ジョブについて、より具体的な賃金の実態を把握するため、金融、情報通信、自動車産業に絞り、各産業で影響の大きい労働組合とその賃金体系を整理する。その上で、実際の賃金の幅について把握するため、経済社会科学研究所(WSI)がまとめた各産業の主
な職業に関する賃金実態調査から賃金幅に関する情報を抽出、整理する。

1.2.3.2.1 金融
1.2.3.2.1.1 主な労働組合
ドイツの銀行は、公的銀行、民間商業銀行、信用協同組合の3種類あり、それぞれの線引きが他国よりもはっきりしている。使用者団体もそれぞれ別である。銀行業界の労働者を代表している労働組合は、以下の2つとなっている。
・統一サービス産業労組(ver.di)
・DBV(Deutscher Bankangestellten Verband)
このうち、DBVは8大労働組合であるドイツ労働組合連盟(Deutscher Gewerkschaftsbund:DGB、詳細後述)に所属しない独立系の労働組合であり、2万1,000人の会員を抱える。金融セクターでは2番目に大きい労働組合であり、自らをDGBに代わる労働組合と位置付けている。

また、使用者団体は、以下の4つである。

• Arbeitgeberverband der deutschen Volksbanken und Raiffeisenbanken (AVR)
• Vereinigung der kommunalen Arbeitgeberverbände (VKA)
• Arbeitgeberverband des privaten Bankengewerbes (AGV Banken)
• Tarifgemeinschaft öffentlicher Banken/Bundesverband öffentlicher Banken (VÖB)

労働賃金は基本的に、産業部門別労働協約による。ドイツの雇用政策に詳しいドイツハンスベックラー財団経済社会研究所(WSI)の労働協約をアーカイブによれば、大まかな職能と職務を関連付けた給与は以下の通り。

以下、労働組合のDBVの給与体系を見ると、勤務年数(1年から11年まで)と職能(TG1から9の9 段階)によって、給与が決定されていることが確認できる。なお参考までに、民間銀行と保険業、信用協同組合では、どれも職能と勤務年数によって給与体系が作成されているが、保険業の場合は、
職能は8つの等級に分かれており、勤務年数も1年から14年以上までと民間銀行と若干異なっている。さらに、民間銀行と信用協同組合とでは、職能と勤務年数は同じだが、給与額は若干異なることがわかる。

働者よりも422ユーロ高い。全体の86%が賃金率を採用している。なお、これは後述する自動車機械工よりもはるかに高い適用率である。なお、企業の規模が大きくなればなるほど、労働協約を適用している場合が多い。例えば、100名以下の企業では65%が労働協約を適用しており、500名以上
の企業では、その90%が適用している。

(3)監督的立場の労働者の給与: 監督的な立場(Vorgesetztenposition; superior position)にいると回答した者は全体の29%おり、彼らの給与はそうした立場にない労働者よりも1,134 ユーロ(32%)高い給与を得ている。

(4)企業の規模: 企業の規模が大きくなればなるほど、平均月給も高くなるというわけではない。例えば50-100名以下の企業の労働者の平均月給は3,727ユーロだが、100−200名の場合は3,586ユーロ、500名以上は4,129ユーロであった。

1.2.3.2.2 情報通信
産業別労働協約の適用率(産業労働協約を受けている企業数別)は全般に低下しつつあるが、中でも情報産業で適用率がもっとも低く、旧西ドイツで10%、旧東ドイツで12%程度となっている。2009年時点では「ICT産業」をまとめて代表する労働協約はなく、以下のような状況である。なお、
2001年の資料と2009年の資料ではどちらも同じ内容となっており、この期間中において変化はなかったと考えられる。

•2001年時点でのICT産業全体の労働協約カバー率は20%であった(ICT産業の中でも製造寄りの企業の方が、サービス寄りの企業よりも労働協約適用率は高い)。
•ハードウェア企業の多くは、金属産業の産業別労働協約でカバーされるが、IBMなど企業協約を適用する企業もあれば、ヒューレットパッカード社(HP)のように労働協約をまったく適用しない企業もある。IBMの場合は、統一サービス産業労組(ver.di)と企業協約を締結している。HP社の場合、組合参加率が5-10%と少なすぎるのが労働協約を締結していない理由である。
•通信企業は一般に、企業協約を適用している。
•ソフトウェア企業(Bull社やCompaq社など)は、金属産業の産業別労働協約でカバーされているものの、各企業レベルでの交渉が多く行われる。
•一般に、ICTサービス企業は、労働協約を適用していない。

なお、ICT産業において労働協約の適用率が低いのはドイツのみならず欧州全般に言える傾向である。ソフトウェアやICTサービス産業の場合、規模の小さい企業が多いため、労働協約を結ばない傾向にあり、また歴史的にこれらの産業は、反労組・反労働協約のアプローチを採る米国ベースの企業の影響が強いことがその理由として考えられる。

基本的には、ドイツのICT産業の労働組合は、金属産業労組であるIGMが代表している。労働賃金は基本的に、産業部門別労働協約による。しかし上述のように、産業部門別の労働協約の適用率が低く、さらに労働協約を適用しない企業も多い。

以下では、WSIのデータベースに記載されている、賃金の実態調査結果のうち、特にITに関係する職務の実態についてまとめている。

IT専門家
IT専門家は、専門家という側面からホワイトカラーに分類される。IT専門家として回答した回答者の職務内容は以下の通りであり、幅広い IT 関係者の回答となっている。

(1)給与: IT専門家(IT-Experten)のボーナスなどを除いた平均月給(税引き前)は、3,826ユーロである(1週間は、39-40時間労働の契約が最も一般的である)。なお、IT分野の回答者は、9.1%が派遣社員・契約社員であるなど、雇用主に直接雇用されていなかった。ただし、フルタイム正社員の月給は 3,809ユーロであるのに対し、契約・派遣社員のそれは2,968ユーロと正社員の約78%でしかなく、ギャップが大きい。

一方で、労働協約が適用されている場合の方が一般に給与が高くなる傾向にあるが、IT専門家については、フルタイム正社員はそれが当てはまるものの、契約・派遣社員については、労働協約が適用されない労働者の方が若干ながら給与が高い結果となっている(前者は2,883ユーロ、後者は
3,030ユーロ)。

(2)産業労働協約の適用率: 労働協約によって定められた賃金率でカバーされているのは、全体で64.8%だが、契約・派遣社員は21.7%しかカバーされていなかった。

1.2.3.2.3 自動車
ドイツの自動車業界の労働者が所属するのは、ドイツ最大の労働組合である、金属産業労組(IGM)である。 労働組合員の約4割がIGMに所属していることもあり、労働組合の中でもIGMは賃金交渉において他の産業にも波及する影響力を持ち、その中でも特に自動車産業による交渉結果はトレンドを形成してきた経緯がある。

もう一方の協約当事者としては、使用者団体と個別の使用者がある。ドイツの自動車業界の事業所は主に、フォルクスワーゲン社とその傘下のポルシェ、アウディ、BMW、ダイムラー・クライスラー、米系のフォード社とGM Opelの7つである。これら自動車業界の使用者団体は、ゲザムトメタル
(Gesamtmetall、金属産業使用者団体総連盟168)であり、賃金交渉などはゲザムトメタルとIGMが主体となる。

ただし、フォルクスワーゲン社はこの使用者団体に参加しておらず、個別使用者として単独で労働組合と労使交渉を行い、「企業協約」を締結している。WSIによれば、自動車業界が所属する金属・電気産業の労働者のうち、53.6%が産業別労働協約の対象となり、5.8%が企業協約の対象となっている。

労働賃金は基本的に、産業部門別労働協約による。フォルクスワーゲン社のみ、労働組合と同社の間で締結する「企業協約」によって決められる。
例えば、ノルトラインウェストファ州の場合、IGMに所属する自動車業界の労働協約は以下のように規定されている。給与以外にも、休暇の日数や残業時間・休日出勤に対する賃金などがそれぞれ決まっている。

ノルトラインウェストファ州の労働協約に関する説明から、ドイツでは、「職務(機械工、技術サービス者など)」ごとというよりは、職能(求められる知識・スキルや資格、責任のレベル)ごとに給与のレベルが定められており、それらをたたき台に、個別の賃金交渉が行われると考えられる。

1.2.3.2.3.1 賃金の実態(データ分析)
以下では、WSIのデータベースに記載されている、賃金の実態調査結果のうち、特に自動車に関係する職務として自動車機械工についてまとめる。

自動車機械工(IGM)
自動車機械工も専門職であるため、ホワイトカラーに属する。

(1)給与: 機械工のボーナスなどを除いた平均月給(税引き前)は、2,269ユーロである(1週間は38時間労働)。勤務年数が長くなればなるほど給与は上がる傾向にあり、勤務年数が5年未満の場合の平均月給は2,004ユーロであり、20年以上の場合は2,475ユーロである。

(2)産業労働協約の適用率:機械工には産業別労働協約によって定められた賃金率があるが、この賃金率を採用している企業の平均月給は2,586ユーロと、産業別労働協約を採用していない企業の労働者よりも512ユーロ高い。全体の46.9%が賃金率を採用している。

(3)監督的立場の労働者の給与:監督的な立場(Vorgesetztenposition; superior position)にいると回答した者は全体の63%おり、彼らの給与はそうした立場にない労働者よりも320ユーロ(15%)高い給与を得ている。

(4)企業の規模: 企業の規模が大きくなればなるほど、平均月給も高くなる。100名以下の企業の労働者の平均月給は2,197ユーロ、100−500名の場合は2,494ユーロ、500名以上は 2,850ユーロであった。

1.3 各国労働市場の現状
本セクションでは、米国、フランス、ドイツの労働移動の実態について、①各国の労働移動に関連した統計、②その労働移動を支える仕組み(労働移動を仲介する雇用仲介ビジネス、公的制度、教育・資格認定、労使関係、雇用形態)について整理する。

1.3.1 米国
1.3.1.1 労働移動の現状
1.3.1.1.1 労働移動の規模
1.3.1.1.1.1 雇用数
米国の被雇用者数は過去10年で緩やかに上昇傾向にあり、2006年1月から2016年1月では6.8%上昇している。

入職率と離職率に注目すると、入職率が他の産業と比べて高い産業の上位3産業は、レジャー・ホスピタリティ、専門・ビジネスサービスが含まれる。一方、離職率は、レジャー・ホスピタリティ、鉱業・林業、専門・ビジネスサービスとなっている。地域別では、他の地域に比べ、特に南部において入職率と離職率が共に高く、逆に北東部では共に低くなっており、前者の方が雇用の回転周期が短いと言える。中西部では入職率が高い一方、離職率は南部より低くなっている。

1.3.1.1.1.4 同一の職場での勤続年数
米国の同一の職場での勤続年数は以下の通り。米国の場合、16歳以上の平均は4.6年と短いが、25歳以上となると5.5年と長くなる。これは、米国では若ければ若いほど勤続年数が短く、転職が多いことを示す。例えば、25〜34歳の勤続年数は3.0年だが、35〜44歳では5.2年、45〜54歳では7.9年、55〜64歳では 10.3年と確実に勤続年数が長くなる。また、男性よりは女性の方が、勤続年数は若干短い。また、2004年時と比べると、過去10 年強で半年ほど勤続年数が全般的にのびている。

またBLSでは、産業別との平均勤続年数の推移も追っている。全般に公共セクターは民間セクターに比べ勤続年数が長い。2014年1月で比較すると、公共セクター全体が7.8年に対し、民間セクター全体では4.6年と3年以上短い。

民間セクター内では、公益事業(Utilities)、電気通信事業(Telecommunications)で7年以上、製造業(Manufacturing、耐久財・非耐久財とも)、卸売業(Wholesale trade)、金融業などが5年以上となっている。一方、映画・音楽業界(Motion pictures and sound recording industries)、宿泊・飲食サービス業界(Accommodation and food services)は3年未満と流動性が高い業界になっている。

1.3.1.1.2.2 転職数
米国では、年代が若いころに多くの転職をする傾向がある。BLSは2015年3月、米国のベビーブーマー(1957〜1964年に生まれた者)世代について、長期的な視点でその就労状況について関連する統計の分析を行っている。

その結果、ベビーブーマー世代は18〜48歳までの間に11.7件のジョブを経験し、そのうちの半分近く(5.5件)のジョブは18〜24歳の間に経験しているものの、年齢が上がるにつれ、転職回数は減る傾向が見られた。なお、同統計の「ジョブ」とは、中断することなくひとつの雇用主の下で働いた期間を指しており、ポジションベースではなく、雇用主ベースの数値を指す。

一方、採用経路の推移を見てみると、縁故によるものが依然として一番多いとはいえ、2011年には3割近くの企業が利用していたが、2013年には2割未満まで減っている。一方、実際に採用を行う企業の人材募集ホームページを通じた採用は、2011年には1割未満だったが、2013年では縁故に並ぶ手段まで成長してきた。

縁故同様、求人・求職サイトも年々減少傾向にある。これと対照的に 2013年に増加したのが雇用主の採用担当者が外部の第三者を通さず自社の要件にあった人材に直接アプローチする手法「ダイレクトソーシング」である。また、2013年から統計に加えられた「人材パイプライン(talent pipeline)」も新たな手法である。広くは、必要な人材の絶えない供給源を指し、将来必要となる技能・資格等を特定して、それらを持つ人材を特定あるいは育成する措置をとって将来に備えることと言える。

これら新しい手法のいずれにおいても、LinkedInが広く活用されており、同社のサービスを通じて更にこれらの手法が広まったともいえる。LinkedIn は、ビジネスプロフェッショナル向けのSNSで、個人が履歴書を、企業が求人情報を公開することができ、グループ掲示板やメッセージ機能を通じて直接コミュニケーションをとることができる。

また、企業の人事担当者による強固な人材パイプラインの構築を支援するため、様々なソースから集められた人材情報を一カ所にまとめ、分析できるオンラインツールも提供している。

このような採用の観点のほかに、米国では人材を削減する雇用主からの依頼を受けて、解雇の対象となる従業員に短期から長期のキャリアカウンセリングを提供し、再就職に導く、労働移動を支援するサービスの利用も多い。米国企業265社の3分の2以上の企業が過去2年間に従業員に再就職支援サービスを提供したと回答している調査結果があり、解雇された従業員が利用する機会が多いサービスの1つであると考えられる。

(参考)今後予測される手法―ビッグデータの活用
「近年、様々な分野での活用が注目されるようになって久しいビッグデータの分析技術が、企業人事の分野でも主流の手法として活用されるようになる。」大手コンサル企業Deloitteの人事部門、Bersinが、2016年1月に発表した「Predictions for 2016195」で予測した。

上記報告書の筆者であり、Bersinの創設者であるJosh Bersin氏は、過去数年にわたり、ビッグデータ分析の人事分野での可能性について提唱しており、特に人事部門のデータ分析に投資する企業としない

企業の差を指摘している。しかし、2015年になり、多くの企業が人事部門にデータアナリストを雇用し、データ分析の専門チームを構築するようになったと指摘している。新規雇用する人材の特定はもちろん、社員の定着率向上や、社内のコミュニケーションの向上、社内のキャリアパスの分析・改善に繋げた例なども紹介されている。

また、ビッグデータ活用の最大の課題である、データ分析から有用な情報を引き出し、具体的な施策に繋げる技術やスキルに関しては、専門の外部ベンダーが提供できるとも述べている。多くの企業資源計画(ERP)ソフトのベンダー、人事データ専門の分析ソフトのベンダー、データ分析用のクラウドソフトウェアのベンダーなどが、非常に成熟した分析ツールを提供するようになったと分析している。

更に、こうした人事部門によるデータの分析・活用がもたらす大きな変化として、人事部門の企業内での役割に変化がおこるとしている。具体的には、人事部がこれまでの業務にデータに基づく信頼できる分析をつなげ、人事業務の枠を超えて企業全体の成功に繋がるような決定や施策を打ち出すことで、社内での影響力が増すと分析している。

上記を踏まえ、以下では、求職者側が利用する代表的な人材ビジネス(採用経路として多く利用される求人求職サイト、伝統的な人材派遣会社、再就職支援)のトップ企業を紹介する。

1.3.1.1.4 労働移動を支える社会制度
平成 25 年度産業経済研究委託事業 (各国の働き方の実態からみた労働法制・ 雇用制度に関する調査)にもある通り、一般に米国の雇用・解雇の仕組みは、「随意雇用の原則(後述)」に基づいているため、OECDの統計でも雇用保護は世界的に低い水準にあり、政府の関与も低所得世帯出身
者など社会的に不利な立場に置かれたグループや、退役軍人、低いスキルしか持たない労働者向けが中心である。

米国では、労働移動を支える制度については、連邦政府が連邦法に基づいて各州政府に対して指示・監督し、グラントや技術的援助を提供する一方で、実質的な政策運営は各州政府の労働省がそれぞれの地域の実情に応じたプログラムを展開している。

連邦政府における労働政策は、労働省雇用訓練局(Department of Labor, Employment and Training Administration)の所管である。なお、米
国政府責任説明局(Government Accountability Office: GAO)によれば1995年時点で連邦政府が展開する労働力支援プログラムは163件にも登る他、職業訓練プログラムを提供している主要省庁は、労働省(約45%)、教育省(約30%)、保健社会福祉省(約15%弱)、退役軍人省(約10%弱)の
4つとなっている。米国の労働移動を下支えする主な社会制度・政策は次のとおり。

なお、リーマンショック以降、失業期間が長期化したままであることや、スキル不足による労働需給のミスマッチの問題などを背景に、オバマ大統領は労働政策に手を打ち始め、16年ぶりに職業訓練と職業斡旋に関する法を改正し、2015年7月から改正法が施行されることとなった。オバマ大統領はさらに2015年中に様々なイニシアチブも立ち上げ、労働市場の活性化といった方向性も打ち出されている。

1) 公的職業紹介制度
日本のハローワークに当たる、公的職業紹介制度については、1933年にワグナー・ペイザー法(Wanger-Payser Act)が制定され、全米に職業サービス制度が設置された。さらに、パッチワーク的に州ごとに進められていた雇用・訓練サービスをより調整・整備されたものとするため、1988年に職業訓練と職業斡旋に関する法律である労働力投資法(Workforce Investment Act of 1998: WIA)が策定され、各州・地域に労働力投資委員会(Workforce Investment Board: WIB)とワンストップ職業センターを設置することが規定された。1998年労働力投資法(WIA)は前述の通り、16 年ぶりの2014年7月に労働力革新機会法(Workforce Innovation and Opportunity Act: WIOA201)として改正され、2015年7月に施行した。

WIAで策定されたワンストップ職業センターとWIBによる公的職業紹介システムは一定の評価を得ており、改正法ではこのシステムを維持・活用してさらに職業訓練を強化する。なおこのワンストップ職業センターは、設置以来各州・地域で様々に呼称されていたが、2012年以降連邦労働省によ
り、「アメリカンジョブセンター(American Job Centers: AJC)」の呼称で統一するよう奨励されている。

WIBは州知事により選出された産業界、労働組合、教育関係者などの官民の代表者で構成され、各州のAJCを中心とする職業訓練などの労働戦略立案を行う。AJCは全米に2,400箇所近く設置され、 職業紹介、訓練プログラム紹介、失業手当などの紹介を行っている。ホームページを見てみると、求職者、雇用主、退役軍人、若年層に分けてサービスを提

AJCは全米に2,400箇所近く設置され、 職業紹介、訓練プログラム紹介、失業手当などの紹介を行っている。ホームページを見てみると、求職者、雇用主、退役軍人、若年層に分けてサービスを提供しており、求職者には、職業の検索、職歴書の書き方や面接の受け方の訓練、失業保険に関する情報、ネットワーキング(人脈作り)のノウハウ支援と共に、「スキルの移動ツール(Skill Transferability Tool)」を提供している。

このツール(別に策定したウェブサイト)では、前職を入力すると、その職に類似した別の職業を検索でき、さらに給与の比較や別途必要とされるスキルセット、そのスキルを身につけるための地元の訓練プログラムや求人情報などが得られるサービスも提供している。また、雇用主は、求人情報を掲載できるだけでなく、「ジョブ・ディスクリプション」の書き方をステップごとに説明するオンラインサービスや、求人・採用のためのツールキットなどを利用することができる。

連邦政府の2016年度大統領予算案では、州政府のAJC運営にかかる費用は10億64万ドルと前年度比で60%増の予算を、またAJCにおける技術的支援や訓練にかかる費用は1,981万ドルを要求している。2012年のAJC利用者は1,860万人である。また2012年の4月から翌年3月までの1年間で200万人以上がAJCスタッフから直接支援サービスを受け、21万4,000人が訓練を受けた。

2) 若年者向け支援策
米国には新卒採用の慣行はないが、特に不景気の影響を受けやすい若年層に対しては、連邦政府は大恐慌をきっかけとして1933年に開始し、継続的に支援を強化してきた。現在の米国では、リーマンショックを受けて米国の25歳以下の若年層の失業率は高くなっており、18〜24歳で高校を卒業できていない者は7%となっている。

さらに2000年以降全般に、若年層の就業率は低下しており、2014年の20〜24歳の就業率も62.9%と、2000年時より15%減となっている。特に高校を卒
業できていない者の失業率は9%であり、労働者の平均給与も週488ドルであるのに対し、学位取得者の失業率は3.5%にとどまる他、平均給与も週 1,101ドルと、 学歴の差による給与格差が広がっている。

こうした課題を解決すべく、労働省が提供する若年者向けのプログラムは4つあり、このうち元犯罪人の再統合プログラム以外の3プログラムが WIOA で引き継がれ、特に若年者向けプログラムとジョブコアには大幅な改正があった。どのプログラムも基本的には、低所得者や中退者などを対象としたものであり、一般の若者を対象としたプログラムとはなっていない。

3) 中途採用労働者支援策
中途採用労働者支援策は、労働力革新機会法(WIOA)に基づき、成人向け雇用・訓練プログラム、非自発的離職者向けプログラム、貿易調整支援などが展開されている。これらはWIAを引き継いだものである。

近年の強化分野:仕事に基づくビジョン
WIOAはまだイニシアチブが動き出したばかりであるため不透明な部分も多いものの、その中心となるビジョンは、オバマ大統領の指示によりバイデン副大統領が各関係省庁と協力して取りまとめたアクションプランで全面に押し出されている「仕事に基づくビジョン(Job-driven vision)」である。

このビジョンでは、「雇用者は求めるスキルを持つ人材を見つけられない」「教育・訓練プログラム担当者は、必要とされるスキルに関する情報が不足している」「求職者側は、どのような訓練を選べばよく、また教育や訓練が終了した後にそれに見合う仕事があるのかがわからない」という課題があることを突き止め、それに対する具体的なアクションとして、以下の3点を強化することが提示された。

(1) 長期失業者対策: 長期失業者は失業者の約3割を占めており、オバマ大統領は特にこの層を支援ターゲットとしたイニシアチブを打ち出し、大統領の呼びかけによって80社以上の大企業が長期失業者の雇用に関するベストプラクティスを開発すると約束した。また2016年度大統領予算案では、長期失業者向けの訓練プログラム3点(高成長セクター分野訓練、徒弟訓練基金、機会をつなぐイニシアチブ)に対して210億ドルを要求している。

(2) 徒弟制度の強化:米国では、低スキルしか持たないミドルクラスの労働者が多い点も問題となっている。OECDの統計によれば、米国の労働者の約3割(6,200 万人)は数学的リテラシーが低いことがわかっており、また2,400万人のリテラシーの低い労働者はより高い給与のポジションへと異動するのが難しいことがわかっている。

こうした労働者は、リテラシーの低さをカバーするために教育を受けたり、学位を獲得する時間も資金もないことから、従来の徒弟制度を活用・強化して支援することが提案されており、2016年度大統領予算案では、労働省の徒弟制度室(Office of Apprenticeship)の予算を2014年度の35%増と大幅に拡大してサービスを強化し、新たに「登録徒弟制度」に1億ドルの予算を充てて、州政府による徒弟制度支援を拡充することを提案している。

また2015年3月にはオバマ大統領の「アップスキルイニシアチブ(Upskill Initiative)」による呼びかけに応え、100以上の企業が徒弟制度や
OJTを開始・拡充することを約束している。

(3) IT人材不足対策:IT関連の職業は、典型的な職務と異なり、学位がなくても高い給与で就業しやすいことがわかっているが、米国で必要とされるIT人材需要に供給が追いついていない。別途、オバマ大統領が2009年より安全保障の観点から省庁横断型で進めているサイバーセキュリティイニシアチブでもサイバーセキュリティ分野の教育と労働力の確保の必要性が認識されている。

このため、国土安全保障省(Department of Homeland Security)や国防総省(Department of Defense)と共同でサイバーセキュリティなどのIT 分野の教育・訓練を強化する全米イニシアチブ(National Initiative for Cybersecurity Education: NICE)を立ち上げ、労働省はその枠組みの中で、労働者のキャパシティ拡大を担当している。

具体的には、米国サイバーセキュリティ労働力枠組み(National Cybersecurity Workforce Framework)と呼ばれる取り組みを通して、サイバーセキュリティ分野の職務を分類・整理し、それをベースに「サイバーセキュリティ能力モデル」を策定した。職務が整理・定義されることにより、教育機関は職務に見合った教育プログラムを策定し、学生は必要なスキルを身につけ、雇用主はより適切な資格を持つ労働者を見つけることができ、労働者も明確なキャリアパスと労働のチャンスをつかみ、そして政策担当者は当該分野を拡大できるよう適切な標準を設定できるようになる。

なお、サイバーセキュリティ対策とは別に、オバマ大統領は2015年3月に「テックハイヤイニシアチブ(TechHire Initiative)を打ち出し、産業界や自治体に呼びかけ、技術分野の職業の集中訓練やオンライン訓練拡大などの約束を取り付けている。

4) 税額控除
就業が非常に難しい特定グループから労働者を採用した場合、雇用主が税額控除を受けられる仕組みとして、雇用機会税額控除(Work Opportunity Tax Credit: WOTC)制度がある。この特定グループとは具体的に、貧困家庭一時扶助を受けている者、退役軍人で失業中の者、元重罪犯人、連
邦住宅開発省ないし農務省が指定した特区の者、特定のリハビリプログラムを終えた障害者、栄養支援を受けている家庭の出身者、補助的所得保障(SSI)を受けた者となっており、毎年連邦議会によって少しずつ対象となるグループを拡大するなどの修正が加えられている。

貧困家庭一時扶助を受けている者以外は、労働者が120時間働いた場合、事業主は1年目の給与の25%もしくは税額控除の最上限までを申請することができ、労働者が400 時間働いた場合には、事業主は1年目の給与の40%もしくは税額控除の最上限までを申請することができる。

5) 雇用・失業保険制度
失業保険と失業期間中の医療保険保障がある。

(1) 失業保険: 連邦失業税法(Federal Unemployment Tax Act)に定められた一定の要件に基づき、各州が独自の失業保険制度を運営している。失業保険は、自発的な失業者に対しては通常給付されない。また、連邦政府・国際機関職員、軍人、鉄道従業員については連邦政府が運営する失業保険制度の適用を受ける。

対象労働者は、失業保険税を支払っている事業主の従業員で、受給要件に該当すれば特に被保険者届けがなくとも受給できる仕組みで、被保険者は保険料を支払う必要はない。 被保険者期間や給付期間などは州ごとに異なるが、多くの州が最大26週までを給付期間としている。

給付金額についても州ごとに最低・最高額の制限は異なるが、全米の平均給付額は2013年では週309.87ドルである。2013年中に失業保険の初回の給付を受けた者は、781万8,878人である。

(2) COBRA(失業期間中の医療保険保障): 国民皆保険ではない米国では、メディケア・メディケイド利用者以外は、事業主が一部負担する民間医療保険もしくはオバマケアを利用する。失業者は解雇・辞職と同時に医療保険もなくなるため、COBRAを申請することで当該医療保険に18ヶ月間継続加入することができる。

(参考)連邦政府が出資する職業データベースからの情報提供
米国連邦政府は、上記のような職業紹介、求職支援、失業者支援などに加え、より広範にわたり様々な職業に関する知識の拡散にも取り組んでいる。代表的なものに、労働省雇用訓練局(Employment & Training Administration:ETA)のグラントによって運営されている、O*NET Online が挙げられる。

求職者はもちろん、上記のアメリカンジョブセンターに代表される職業支援サービスの提供者、教育者、学生、研究者などに対し、900種類以上の職業に関する情報を提供している。情報の内訳は、それぞれの職業の内容、職場環境、賃金<平均値、最高値・最低値、地域差>、必要な技能・知識・経験など多岐にわたり、必要な能力などは優先順位や類似職業へのリンクが付けられており、とても詳細である。職業情報は、米国標準職業分類(SOC)や求職者の能力、興味、経験などを基に検索可能となっている。

O*NET Online は、元々商務省が定期刊行物「Dictionary of Occupational Titles(DOT)」として出版してきた米国労働者向けの職業情報を、インターネットを通して提供することを目的に1990年代後半に開発・運用開始された、オンラインデータベースである。また、DOTが提供する情報が、重工業のブルーカラー労働者向けの情報に比重が置かれており、近年の情報・サービス産業に従事するホワイトカラー労働者向けの情報源へのニーズが高まったことも、その開発の要因とされる。

O*NET Online が情報を提供する職業の種類はSOCを基に定期的に更新されており、掲載情報も、データベース運用当初の分析結果に加え、常に実施されている実際の労働者や職業専門家のアンケート調査の結果をもって毎年更新されている。利用者や利用形態も、国内外の政府・地方自治体、民間企業、大学などを含み、多種多様である。最近では、データベースの運営・公開のみにとどまらず、雇用者による利用(ジョブディスクリプション執筆における情報源とするなど)を想定した情報提供や、求職者向けにより集約されたウェブサイト「My Next Move232」の運営なども開始している。

連邦政府によるCTE分野への支援は歴史が長く、農業大学設立のために各州に公有地を提供した1862年制定のモリル法(First Morrill Act of 1862)にまで遡るが、特に職業教育政策に関しては、パーキンス法(Carl D. Perkins Vocational Education Act)が、現代の米国の職業教育政策の基盤となっている。

同法は1984年に制定され、以後1990年、1998年、2006年と改正され、その改正の流れを追うと米国における職業教育政策のあり方の変遷をうかがい知ることができる。

まず1984年法では、①これまで職業教育において望ましい扱いを受けてこなかった者(身体障害者や不利な立場にある者など)を対象とする職業教育プログラムの運用と、②キャリアに関する指導を、連邦政府主導のキャリア教育から、各州・学区主導によるカウンセラーによるキャリアカウンセリングへと移行することが規定された。1990年代になると、職場のOA化により単純作業労働が不要にり、高校中退者のみならず高卒者などの若年層の就職が厳しい状況となった。これを受けて1990年改正法は、高度技術社会において就労する上で必要なアカデミックな能力と職業技術能力の双方を習得できる教育プログラムに向けた改善を求めた。

別途、1994年に成立した学校から社会への移行機会法(School-to-Work Opportinities Act)を通じ、「職場における学習」が高校段階に導入さ
れ、キャリア教育とアカデミックな学習を軸とする「学校における学習」への統合が進められた。1998年改正法では、教育スタンダードの構築や職業技術教育の開発・実施における、州・地方政府が強化され、さらに2006年改正法により、中等教育と中等後教育における職業教育が強化・支援されることとなった。CTEは従来、キャリア教育(career education)、技術職業教育(technical and vocational education: TVET)などと表現されてきたが、2006年パーキンス法以降、「CTE」という表現が使われることになった。

CTEを推進する教育協会のキャリア・技術教育協会(Association for Carrer & Technical Education: ACTE)によれば、この表現の変更は、職業教育が、「大学教育に進学しない者のための教育」から、「学生に雇用と中等後教育の両方に対して準備させるシステム」へと哲学的に変化したことを意味しているとし235、職業教育が米国の教育システムに組み込まれたことがうかがえる。

予算
CTE分野への連邦予算は主に教育省の予算から割り当てられており、2016年度大統領予算案では、州政府へのグラントとして、前年度比17.8%増の13 億1,760万ドルが要求されている。ただし、議会調査部(Congressional Research Service: CRS)によれば、連邦政府によるCTEへの支援はわずか 5%に過ぎず(2004年時点)、残りは州政府・地方自治体によって賄われている。

連邦政府のグラントは、州政府に提供され、州政府が各地方自治体や関係組織に割り当てる流れとなっており、キャリア・技術スキルの開発、キャリア教育のためのマテリアルの作成、キャリア開発サービスの提供、カウンセリングの提供、CTEカリキュラムの策定と評価などに活用される。

CTE教育の仕組み
連邦教育省は、CTE 分野の取り組みが調整されたものとなるよう、CTE分野を16の「キャリア・クラスター」、さらに細かい80の職業分野の「キャリアパス」として分類・定義しており、ほとんどの州政府・自治体がこの分類を活用している。

CTEには職場の即戦力となるような教育と、職場の即戦力には直結しない教育(家政学など)の双方が含まれ、公立・私立の高校におけるキャリアアカデミー(詳細後述)、各地域のCTE専門学校(area CTE schools)、拘置所、コミュニティカレッジ内の職業教育プログラムなどが提供している。最新の統計では、83%の公立高校でCTE教育が提供され(私立高校では29%)、公立高校におけるCTE教育で最も一般的に提供されている分野はビジネスとコンピューター技術である。また27%の労働者が、成人向けのCTEコースに参加したという調査結果がある。

CTEは、中等教育と中等後教育との間を継ぎ目なくリンクさせ、中等後教育におけるCTE教育では、大学の単位・さらには学位に変換できるものや、修了証書(certificate)、産業界による認定(certification)などを獲得できる仕組みとなっているところも多い。

一例として、ノースカロライナのウェイクアーリー医療科学短期大学(Wake Early College of Health and Sciences)では、ウェイクテクニ
カルコミュニティカレッジ(Wake Technical Community College)とウェイクメッド病院(WakeMed Health and Hospitals)と提携し、学生は5年間の学習を通じて高校の卒業証書だけでなく、準学士の証書もしくは学部にも移行可能な単位を獲得することができる(この単位に対しては学費を払う必要はなく、ノースカロライナ大学システムやその他の大学で単位として認められる)。同時に、静脈切開術など特定分野の高等教育修了証書をもらうこともできる。

キャリア・技術教育協会(ACTE)は、レイオフになった失業者は学校に戻って教育を受けて新しいキャリアに軌道修正する者が多いが、CTEはそうした教育の機会を提供しているとしている。

利用者
CTEは単一のコース、もしくはキャリア形成の一部として提供されており、高校卒業者の88%が少なくとも1単位はCTE単位を終了し(2009年時点)、19%はCTE専攻(concentrate)を選択して、1つの職業分野で少なくともCTE単位を3単位終了している。米国の高校卒業者のうちの66%が白人であるが、CTE専攻を選択した高校卒業者のうち71%が白人の学生であった。

議会調査部によれば、このCTE教育を受けた者と受けていない者では、給与に差が出ている。例えば、高校以下の教育しか受けていない者で、何の認定も持たないものの平均月給は1,920ドルだが、ライセンスを取得している場合は同2,419ドル、教育認定を取得した場合は3,291ドルと明確に給与に違いがある。

こうしたCTE教育に基づいた職業教育には様々な形態がある。

•テックプレップ制度(Tech Prep): 第11学年(日本の高校2年に相当)より開始し、高校の2年間と準学士資格取得可能な中等後教育機関における 2 年間の教育とを接続させ、4年間の一環教育として位置づける(2年間の徒弟制度の利用でも代替できる)。アカデミックな教育とキャリア向けのスキルの習得が可能。
•キャリアアカデミー(Career Academy): 第9ないし10学年から12学年(日本の高校に当たる)までの学生が、比較的小規模なグループを作り、アカデミックな教育と地元の企業と連携した職業教育を組み合わせて学習する方法。2008年の報告書では、米国には2,500件以上のキャリアアカデミーが展開されている。

1.3.1.3 企業・労働者間の実態
1.3.1.3.1 労使交渉の形態と労働組合の関わり
米国の労働組合は政治的に弱体化させられてきた歴史があり、特にホワイトカラーについては、公務員を除けばその影響力はかなり低くなっている。Lance A. Compa(コーネル大学)「An Overview of Collective Bargaining in the United States 2014245」によれば、労働組合が組織化されている場合でも、米国では近年、団体交渉ではなく、社内の個人と企業マネージメントレベルとの個別交渉化が進んでいると指摘している。

一方で、マイノリティや女性の労働者・労働組合員の増加や、非標準的雇用契約を持つ者の増加などの雇用市場の変化に合わせて、労働組合の活動内容や、労働条件の改善に向けた労働者の組織方法のあり方そのものも変化してきている。

1.3.1.3.1.1 労働組合に関する基礎的統計情報
米国の労働組合の組織率は最新の統計である2015年で11.1%であり、2014年から変化はなく、1,480万人であった。米国の労働組合員に関する特徴は以下の通り。

•公共セクターの組合員組織率は、35.2%と民間の組織率(6.7%)の約5倍である。
•保安関係(protective service、消防隊員や刑事など)、教育・訓練・図書館関連職の労働者が最も組織率が高く、それぞれ36.3%と35.5%となっている。
•男女比では、男性の組織率が女性よりわずかに高い(それぞれ11.5%、10.6%)。
•黒人の組織率は、白人、アジア人、ヒスパニックよりも高い。
•雇用形態別に見ると、フルタイムの組合員組織率は12.3%であるのに対し、パートタイム労働者の組織率(5.8%)の2倍である。なお組合員の内訳は、フルタイム労働者がその90%を占めている。
•参加していない労働者の週給(776ドル)は、組合員の79%(980ドル)であった。
•州によって組合組織率には開きがあり、伝統的にニューヨーク州の組織率が高い(24.7%)一方、サウスカロライナ州がもっとも低く2.1%に留まる。

労働統計局(Bureau of Labor Statistics:BLS)が2016年1月28日付けで発表した2015年の労働組合統計「UNION MEMBERS – 2015247」における産業別・職業別労働組合組織率は次の通り。

1.3.1.3.1.2 労働組合の組織
米国の大部分の労働組合は、アメリカ労働総同盟(AFL-CIO)もしくは、CTW (Change to Win) の2つのどちらかに所属している。AFL-CIO は1955 年に創設され、CTW は2005年6月にAFLCIOから分裂してできた組織である。

現在AFL-CIO傘下には56の労働組合と約1,250万人の組合員が、またCTWには3つの労働組合と約550万人の組合員が参加している。なお、これらは主に米国の労働組合だが、カナダとの合同組織となっている場合も一部ある。

またこの他、教育者の労働組合である全米教育協会(National Education Association: NEA)や、ITプログラマーによるプログラマーズギルド(Programmers Guild)など、AFL-CIO などに所属しない労働組合も存在する。

米国では、労働組合は企業別ではなく、労働者は産業別・職業別労働組合に直接参加している。企業との交渉にあたっては、労働組合員の多い地域・企業ごとに組合支部(local)をそれぞれ設立して、各組合支部が交渉にあたる。
産業別組合として、AFL-CIO 傘下の主な団体の例は次の通り。

◇全米州郡自治体連合会(American Federation of State County and Municipal Employees)
◇全米自動車・航空宇宙・農業機器組合(International Union, United Automobile, Aerospace&Agricultural Implement Workers Union: UAW)
◇運輸協同組合(Amalgamated Transit Union)
◇米国通信労働組合(Communications Workers of America:CWA)
◇国際サービス従業員労働組合(Service Employees International Union:SEIU)

職業別の労組としては、例えば航空業界では、航空業界という産業によるくくりではなく、以下のように、パイロット、フライトアテンダント、交通管制官、機械工など、異なる職業ごとに労働組合が存在する。

◇Air Line Pilots Association (ALPA)
◇International Association of Machinists and Aerospace Workers (IAM)
◇United Automobile, Aerospace & Agricultural Implement Workers of America International Union (UAW)
◇National Air Traffic Controllers Association (NATCA)
◇International Association of Sheet Metal, Air, Rail and Transportation Workers (SMART)
◇Association of Flight Attendants (AFA-CWA)

また、複数の職業が集まる団体も見られる。例えば、主にホワイトカラーの専門職・技術職を中心に組合を組織している国際専門職・技術職連合(International Federation of Professional and Technical Engineers:IFPTE)がある252。連邦政府機関、州・地方政府の職員の他、民間企業ではBechtel(建設)、Boeing(軍事・航空宇宙)、Center for Economic and Policy Research (CEPR、シンクタンク)、Economic Policy Institute (EPI、シンクタンク)、General Electric (GE、重工業・軍事・航空宇宙・電気機器)、Kaiser Permanente(保険)、Legal Service Corporation(非営利)、Pacific Gas&Electric(電気・ガス)、Spirit AeroSystems(軍事・航空宇宙)などの従業員が含まれる。

会計士、管理アシスタント、行政法判事、建築家、会計検査官、アナリスト、弁護士、生物学者、化学者、気候学者、クレーム調査官、通信事業者、コンピュータプログラマ、コーディネーター、カウンセラー、犯罪学者、データプロセッサ、設計/製図、土木、電気電子、産業、機械、構造
、エコノミスト、エンジニア、航空宇宙、土木、化学・材料、電気電子、産業・システム、機械、原子力、構造、環境科学者、伝染病学者、ヘルステクニシャン&スペシャリスト、イラストレーター/グラフィックアーティスト、調査員、法律事務員、法務アシスタント、図書館員、看護師、物理学者、プランナー、広報官、品質保証スペシャリスト、研究者、科学者、測量士、技術者

1.3.1.3.1.3 労働組合の歴史的変遷
米国の労働組合は、1945〜1955年代が最も組織率が高く、その後低下と弱体化の一方をたどり、世界的にも組織率は低い。その背景には政治的に労働組合が様々な形で骨抜きにされてきたことが挙げられる。

米国の労働組合を規定する法律は、1935年に制定された全国労働関係法(National Labor Relations Act: NLRA)であり、団結する権利、労働団体を結成・加入・支援する権利、団体交渉を行う権利のほか、こうした行動を行わない権利が明記されている。同法の策定は古くから産業に強い北東部と西部の州の民主党議員が主導で進められたが、その成立には南部の民主党議員の票が必要であったため、彼らを取り込むために、「農業関係者、家庭内労働者、黒人を対象から除外する」という条項を受け入れる必要があった。

しかしNLRAが成立し、さらに第二次大戦の最中に産業化が進む一方で労働力が減ってくると、マイノリティ層も組合を組織できる産業に入り込み始め、南部でも綿産業やタバコ産業などの労働組合組織率が高まり、1940年代はストライキが増加した。南部州はこうした動きを、公民権運動を刺激し、また黒人労働者が他の地域に移動して労働力を失うのではないかと懸念した。

このため共和党議員の主導とそれに乗じた南部民主党によって1947年労働関係法(別称タフト・ハートリー法)が成立し、NLRAを改正して、特定の団体交渉を禁止し、組合保障条項(union security clause)規定を会社との協約に含めることを違法とする「労働権(rigt-to-work)」に関する法律の導入を各州に許可した。組合保障条項は、労働組合会員に会員費を支払うことや、ストライキ中にはストライキに参加した。

労働しないことなどを規定し、集団的結束を強めるような規定となっている258。このため、「労働権」を持つ州の労働組合は組合保障条項を持てない結果として組織力と資金収集力が弱められ、キャンペーンを張るのも資金的にも難しくなった。

これに加えて、同時に成立したPTPA法(Portal to Portal Act)により、賃金や労働時間に関する集団訴訟に制限が加えられた。1960年までには、南部と中西部州を中心とする18州が「労働権」州となったが、この動きは最近また盛り返し、2012年にはミシガン州とインディアナ州が、2015年3 月にはウィスコンシン州がこれに加わり、労働権を全州に拡大する法案も提出されている。

2015年12月時点では、25の州が「労働権」を持つ州となっている。こうした流れによって特に南部州を中心に労働組合はその力をなくし、労働条件の改善よりも、組合員の医療保険の確保といったフリンジベネフィットの確保にその活動の焦点をシフトしていった。

1.3.1.3.1.4 代替労働者運動と今後の展望
このように機能を骨抜きにされてきた労働組合だが、昨今、労働形態の変化、労働人口の内容の変化を受けて、その活動内容や労働組合のあり方そのものも静かに変化してきている。

BLSは、米国の労働人口は移民の流入により、より人種の多様化が進み、従来よりも女性の割合が増え、高齢化しており、この傾向は強まる方向であると指摘している。具体的には、2020年までに、ヒスパニック人口は2000年時点の11.3%から 17.5%と大幅に拡大し、逆にヒスパニックを含まない
白人の人口は67.6%から62.7%に減少する。また、労働人口の40% がヒスパニック、黒人、アジア人などのマイノリティ層を占めると予測されている。

同時に、組合員の内容も変化した。1983年260と2008年で比較した場合の、主な割合の変化の特徴は以下の通り。

•女性の割合の増加: 組合所属労働者に占める女性の割合は35%から45%に増加し、2020年までには過半数に達すると予測されている。
•白人の割合の減少: 組合員に占める白人の割合も、78.2%から69.1%に減少した。
•移民の割合の増加: 1998年には12人に1人が移民だったのが、2008年には8人に1人の割合にまで増加している。

製造業労働者の減少: 製造業に所属する組合員は、3分の1から10%に減少した。

•非標準的な雇用契約を持つ労働者の増加: 雇用形態が変化し、非標準的な雇用契約を持つ労働者が増加している。後述するフリーランサーズユニオン(Freelancers Union)によれば、3人に1人、もしくは5,300万人が、標準的な雇用契約を持つ労働者が享受する医療保険や401kプラン(確定拠出年金)を持たない、非標準的な雇用契約を持つ労働者になっている。

こうした変化を受けて、労働組合の活動には以下のような変化が見られる。このうち、(1)と(2)は、これまで労働者としてマイノリティであったり、労働組合法から除外されてきた、代替労働者(alternative labor)の台頭によるものであり、代替労働者運動(alt-labor movement)という表現で認識されつつある。

(1)労働組合とマイノリティや労働組合法の対象外の労働者との協力労働組合は、多様化する労働者を巻き込んでその基盤と機動力を強化するべく、労働組合法において対象外とされたグループや組合ではないグループと協力して、本来の意図である、労働条件の改善を試みている。以下はその例。

•主要労働団体のAFL-CIOは、企業単位ではなく、コミュニティ単位で労働者をつなぐ労働者センター(Worker Center)との連携を開始し、2011年にはニューヨーク市やロサンゼルスの洗車に携わる労働者の労働条件を改善させるのに成功した。コミュニティに根ざした労働者センターはもともと移民労働者の支援を目的に発足したが、労働者に教育を提供し、特定の地域の特定産業の労働者との基盤がある一方、労働組合はその組織力を提供することができたのである。

•AFL-CIOは、全米タクシー労働者連合(National Taxi Workers Alliance: NTWA)を関係団体(アフィリエイト)として認定した。NTWAは2012年に結成された、タクシードライバー(米国では移民労働者が多い)が結束してその労働条件の改善を試みる組織である。タクシードライバーはタクシー会社と「独立請負人(independent contractor)」として契約するため、労働組合法の範疇外であり集団交渉することができなかったが、AFl-CIO は2011年10月、そうしたグループに初めて会員の資格を提供した。

•1938 年労働組合法で対象外となった、主に女性労働者の多い家庭内労働者(家政婦や介護士など)は、全米家庭内労働者連合(National Domestic Workers Alliance)を結成し、カリフォルニアやハワイなど、州法レベルで、家庭内労働者の権利を守る法律を通すことに成功した。

•AFL-CIOは2003年に「Working America」という進歩的な労働政策の実現を目指すNPOを発足させ、労働者世帯を回り、労働組合に参加していない労働者300万人を同NPOの会員にすることに成功した。労働組合会員以外の労働者も巻き込み、活用する試みである。

(2)非標準的な雇用契約を持つ労働者の労働組合化
一方、非標準的な雇用契約を持つ労働者の統計は労働専門家の間でも統計手法に関して意見が分かれ、連邦政府の統計も不定期でしか発表されていないが、労働人口に占める割合が増加傾向にあることがわかっている。

GAOの統計では非標準的雇用契約を持つ、「代替的な雇用の取り決めを持つ労働者」は40.4%を占めている(後述)。こうした雇用形態を持つ労働者は、標準的な雇用形態を持つ労働者よりも不利なベネフィットを余儀なくされていることから、2003年にはニューヨーク州を中心としたフリーランサーを会員とする、「フリーランサーズユニオン(Freelancers Union264)」が発足している。

同組織の会員は、独立請負人という形で雇用される、弁護士、ソフトウェア開発者、グラフィックデザイナー、会計士、コンサルタント、ライターなどであり、28万人以上の会員を持つ(参考までに、米国の自動車業界の組合員の数は38万人である)。同組織は、フリーランサーのために賃金交渉などはしないが、フリーランサーの最大の懸念であった医療保険を通常の民間の保険よりも良い条件で提供し、結束力を発揮して労働環境を改善しているという意味で注目されている。

同組織は、GAOに対して、コンティンジェント労働者・非標準的な雇用形態を持つ労働者について研究するよう働きかけ、GAOは当該労働者に関する報告書を2006年に報告書を出している。

(3)労働組合を必要としない労働者との亀裂
米国のハイテク産業界の労働者は一方で、一部一般企業の労働者と反発し合う構図を生んでいる。シリコンバレーを中心とするハイテク産業は、その創設当時から、労働組合を持ち込みたくないという意図から、ハイテク産業従業員に平均以上の給与や福利厚生を与え、あえて労働組合を組織す
る必要がない環境を生み出した。

しかし特にサンフランシスコ近郊では、大手ハイテク企業が従業員に福利厚生の一貫として提供する通勤バス近辺の家賃が上がり、厚遇を受けるハイテク企業に勤めるエリート層と、ストライキを繰り広げる中流階級の労働者との間に亀裂が生じつつある。

1.3.1.3.2 雇用契約の形態の種類・実態
米国の雇用形態を理解するには、その解雇規定について理解する必要がある。解雇には、個人的理由に基づく解雇(普通解雇)と、経済的理由に基づく解雇(整理解雇)があるが、前者については、「随意雇用の原則(employment at will)」に基づき、雇用主と被雇用者は双方ともに、いついかなる理由によっても、その理由が違法でない限り、雇用関係を終了させることができる。

また、契約書などで特に合意していなければ、解雇の事前予告も不要である。これは判例法として確立されており、欧州と米国の明確な違いである。解雇の理由として違法に該当するのは主に以下の通り。

•人種・皮膚の色、宗教、性(妊娠・出産またはこれらに関する健康状態を理由とする場合も含む)及び出身国を理由とする解雇
•年齢を理由とする解雇
•組合加入や組織活動を理由する解雇
•事業主の不法行為を当局に通報した場合の解雇

また、整理解雇についても、上記の随意雇用の原則により、事業主は労働者を経営上の必要に応じて自由に人員整理を行うことができるが、大規模な事業所の閉鎖やレイオフなどについては、事前に労働者にその旨を通知することが定められている。

連邦公正労働基準法(Fair Labor Standards Act: FLSA)で規制されるのは最低賃金など一部の項目であり、労働条件や雇用契約の終了については、各個別の雇用契約の中で規定されることになっている。こうしたことから、日本における「正規・非正規雇用」という概念も当てはまらないため、OECDにおける統計結果も若干意外なものとなっていると考えられる。

事業主は、週40時間を超える労働に対しては、50%の割増賃金を払わなければならない。ただし、時間外労働にかかる上限期限、休息・休日、年次有給休暇、深夜労働について規定する連邦法は存在しない。ただし、一部州では、これらについて規定している州もある。労働時間規定の対象は、
最低賃金の適用対象者であり、最低賃金の適用対象者から外れるホワイトカラーエグゼンプションの対象者はこれに当てはまらない。

正規・非正規雇用者の数
政府説明責任局(GAO)は、BLSの通常の統計抽出方法では「一時的雇用であるかどうか」のみに注目しており、また2005年以来過去10年間統計を抽出していないことから、より「雇用者との関係」という視点から抽出した統計を2015年に発表した。

GAOの統計は、以下の6つの雇用形態のうち、1)〜3)を、「より不安定な職に就き、予測不可能な稼働状況にあるグループ」として、「コンティンジェント雇用の中核となる労働力(core contingent workforce)」としている。一方で、労働政策専門家の間でもコンティンジェント(非正規)雇用に含めるかどうかには意見が分かれるとしつつ、4)〜5) も含めた、標準的フルタイム労働者と異なる、 「代替的な雇用の取り決めを持つ労働者(alternative work arrangement)」として統計を出している。

1) 派遣労働者(agency temps)
2) 呼び出し労働者(日雇い労働者、on-call workers)
3) 請負会社の労働者(contract temporary workers )
4) 独立請負人(independent contractors)
5) 個人事業主(self employed workers)
6) 標準的パートタイム労働者(standard part-time works)

その結果、「コンティンジェント雇用の中核となる労働者」は7.9%であり、それを含めた「代替的な雇用の取り決めを持つ労働者」は40.4%にも上ることがわかっている。この「代替的な雇用の取り決めを持つ労働者」は2006年データでは35.3%であり、増加傾向にある。

1.3.2 フランス
1.3.2.1 労働移動の現状
1.3.2.1.1 労働移動の規模
1.3.2.1.1.1 雇用数

フランス本土における被雇用者数(15歳以上の就業者数)は、2014年時点で2,580.2万人である。過去10年間において、同数は2,500万人前後で推移しており、リーマンショックの影響で2009年にかけて少し落ち込んだものの、被雇用者数は徐々に増加しており、2004年から2014年の10年間で4%増加している。これは、過去10年間で男性の被雇用者数にはほとんど変化がない(およそ1,350万人前後で推移)一方、女性の被雇用者数が2004年時の1.148万人から2014年には1,240万人となり、8%増加したことが影響している。

1.3.2.1.1.2 失業率
フランスの過去10年間の失業率をみると、2004年以降、8.5%前後で推移していた同率は、2007年及び2008年には7%台に下がったもののの、リーマンショック後の不況の影響を受け、2009年には再び8.7%となり、近年は9.4~9.9%と、10%前後の高い水準で推移している。

また、失業者の内、1年以上求職活動を行っている長期失業者の割合についても、過去10年間において平均40%前後の高水準で推移しているが、同割合は2014年に42.7%となり、過去10年間で最も高い水準に達している(以下の図表参照)。

1.3.2.1.1.3 入職率・離職率
2013年におけるフランスの農業・林業・漁業を除く産業分野全体の労働回転率は58.5%で、2012年比で6.6ポイントの増加となっている。労働回転率は、大きく分けて、工業分野で16.8%(前年比マイナス0.9ポイント)、建設業分野で21.4%(同+0.9ポイント)、サービス業分野で73.9%
(+8.5ポイント)となっており、工業及び建設業分野では労働移動が比較的安定している一方、サービス分野では入職率・離職率が共に高く人材が定着しづらい状況となっている。

この背景には、特にサービス分野において、有期労働契約(contrat à durée déterminée:CDD)を介した雇用が近年増加していることがあり、こうした傾向に伴い、同分野におけるCDDでの入職率は、2009年以降18.6ポイント増加している。以下の図表は、各分野における具体的な産業分野別の労働回転率、入職率、離職率をCDD及び無期労働契約(contrat de travail à durée indéterminée:CDI)の雇用形態別に示したものである。

これをみると、サービス分野では、特に、宿泊・飲食サービス業、公務・教育・保健衛生及び社会事業の保健衛生と社会事業、その他のサービス事業において労働回転率が特に高く、CDDでの入職率も相対的に高くなっている。また、宿泊・飲食サービス業、情報通信業、科学・技術サービス業及び管理・支援サービス業では、他の産業分野と比較してCDIを介した入職率が高いが、宿泊・飲食サービス業では、辞職を理由に離職する割合が目立つ。

以下の図表は、性別・年齢層別の入職率と離職率を示したものである。2013年には、25歳未満、25~49歳、50歳以上のすべての年齢層において新規雇用に占めるCDDの割合が前年より増加しており、CDDの入職率も全年齢層で増加している。年齢層別の入職率及び離職率では、特に25歳未満においてCDD及びCDIでの入職率が他の年齢層に比べ高い一方、離職率も同様に高く、労働移動が頻繁に行われている。こうした状況は、年齢層が高くなるごとに安定する傾向にある。

性別の入職率・離職率に関しては、新規雇用に占めるCDDの割合が、男性は79.9%であるのに対し女性は86.7%であり、CDDでの入職率も、男性は 38.9%であるのに対し女性は61.4%であり、CDDでの雇用は男性より女性の方が頻繁に行われている。こうした背景には、特にCDDでの雇用の多いサービス分野で、女性のCDD雇用が圧倒的な割合を占めていることがあり、一方で、工業・建設業分野におけるCDD雇用は、男性が大多数を占めている。なお、CDDの入職率・離職率は、25歳未満の女性の割合が特に高くなっている。また、CDIについては、男性と女性の入職率・離職率はほぼ同等の割合となっている。

以下の図表は、社会職能別の入職率と離職率を示したものである。非熟練現場労働者は、新規雇用に占めるCDDの割合が常に最も大きい職能カテゴリである。一方で、熟練現場労働者は、同割合が最も低くなっている。

2013年には、全ての職能カテゴリにおいてCDDでの入職率が増加している。前年と比較して特にその伸びが大きいのは管理職であるが、熟練一般事務職及び非熟練一般事務職の伸び率も管理職に次いで高い。CDDでの離職率も全ての職能カテゴリにおいて増加しており、管理職及び熟練一般事務職で特にその伸び率が高くなっている。

1.3.2.1.1.4 同一の職場での勤務年数
OECDの統計データによると、フランスの全就業者における同一職場での勤務年数は、2014年時点で平均11.4年であり、10年以上同一職場に勤務している就業者の割合は全体のおよそ46%を占めている。2000年以降の推移をみると、同年数は2000年時の平均10.9年から徐々に伸びているほか、近年では、男性及び女性間の勤務年数の差が縮小傾向にある。

また、大きく分けた産業別の勤続年数では、2013年時点で、同一組織での勤務期間が1年未満である就業者の割合は全就業者の10.2%となっており、建設業及びサービス分野においてこれらの就業者の割合が比較的高い。一方で、農業及び工業分野では、同一組織での勤務期間が10年未満の就業者が多数を占める。

なお、ホワイトカラーの同一組織での勤続年数について、フランスの企業に勤める上級管理職4,854名を対象として、大手監査・会計法人のDeloitte 社が仏B2Bソリューション企業、Nomination社と共同で実施した職場(職務)異動及びキャリアプランに関する調査によると、2014年時点で、

これらの管理職による同一組織且つ同じ職務での勤務年数は、平均4.1年であることが明らかになっている。同調査は2007年から毎年実施されており、2006~2013年までの同勤務年数の推移をみると、同年数は徐々に長期化する傾向にある。また、同調査では、年齢層別にみると、50歳以上の上級管理職は、40歳未満の管理職より2年間長く同一組織・職務にとどまっており、年齢層が高くなるほど労働移動に慎重であることが分かっている。

1.3.2.1.2 労働移動に関する統計
1.3.2.1.2.1 労働移動の特に多い/少ない職業
以下の図表は、1980年代前半と2000年代後半における一部の民間職業の労働移動のトレンドを比較したものである。フランスでは、過去30年間において労働移動の特に多い/少ない民間の職業に変化はなく、例えば、芸術、劇、ショーなどのアーティストは1980年代はじめから労働回転率の高い職であったが、今日では、雇用期間が1週間程の非常に短期での雇用が全体の3分の1の職を占めるなど、こうした傾向はさらに強まっている。

また、素材搬送者といった非熟練現場労働者も、一時(派遣)労働契約(intérim)の形での雇用が多く、伝統的に労働回転率の高い職であり、同
状況は現在も変わっていない。これらの2つの職業では、過去30年間において、就業期間が2年以上の就業者の割合が減少する一方、同期間が1年未満の就業者の割合が大きく増加しており、労働回転率は、30年前と比較して、 芸術、劇、ショーなどのアーティストでは6.7倍、素材搬送者では9.1倍上昇している。

これらの職業とは対照的に、銀行及び保険会社のホワイトカラー職(管理職)では、就業期間が2年以上の就業者が全体のおよそ90%を占め、また、1年未満の就業者の占める割合は僅か1%程度であることから、その労働回転率は過去30年間で5%から8%という非常に低い割合で推移しており、労働回転率の比較的低い建築及び公共事業や、エンジニア及び工業専門技術分野といった管理職と比較しても最も労働移動量の少ない職である。

その他、秘書は、過去30年間において労働回転率にほとんど変化がみられない職である。また、建物の土台建築者(熟練現場労働者)と理容師・美容師については、1980年代前半は、就業期間が2年以上の就業者の割合が他の職業に比べて比較的低い理容師・美容師の労働回転率が、建物の土台建築者のそれをやや上回っていたが、今日では、建物の土台建築者の労働回転率が理容師・美容師のそれを上回り、両職業の労働回転率の差はおよそ 3倍となっている。

この背景として、建物の土台建築者では、1年未満の就業者の割合が過去30年間で大幅に増加したことが影響しており、具体的には、建物の土台建築者では、就業期間が1年以上2年未満の就業者及び2年以上の就業者の割合が、過去30年間でそれぞれ2ポイント、3ポイントの減少となり、さらに1年未満の就業者の割合がおよそ2倍に上昇したことを受け、全体的な労働回転率は4.5倍上昇している。

一方、理容師・美容師では、過去30年間で、就業期間が1年以上2年未満の就業者の割合が4ポイント減少するものの、2年以上の就業者の割合が54%から59%に上昇し、1年未満の就業者の割合が1ポイント減少したことで、全体的な労働回転率は20ポイント程度の上昇にとどまっている。

2.3.1.2 現在の「家族政策」への公的支出への世論の支持・背景
2.3.1.2.1 メルケル政権における両親手当・保育政策への世論の反応
ドイツ政府は、家族政策への経済的支援については国際的に見ても高いレベルで提供してきたが、少子化を食い止めることはできなかった。しかし、2000年代以降、家族の多様なあり方を認め、家族政策をそれに合わせて大きくパラダイムシフトをし、合計特殊出生率は依然として1.4前後と低いものの、2009年以降の緩やかな改善傾向がみられる。

ドイツ国内でもその改善の原因について、さまざまな分析がなされているが、その特定には至らず、関係者の間で議論が続いている状況である。個別の取り組みでは、特に2007年の両親手当については、両親手当は政府支出を必要とすることから、導入当初、特に保守派を中心に国民から反対が起こった。また、伝統的な男性片働きモデルから、母親の就労を促すものであったために、保守派の家族観を転換するものとして、CDU内部から批判が出ていた。

導入後についても、出生率の向上が見られないため、メディア等も強く批判した。一方で、こうした取り組みの効果が見えるまでには時間がかかるものであり、出生率だけでその効果を評価できるものでもないという考えから、男性の育児参加の促進や女性の職場復帰という観点で評価する意見も多い。

両親手当以降、父親の3分の1が育児休暇を取得するようになっている。また、両親手当を受給していた女性の42%が2年後には職場に復帰していることから、両親手当が職場への復帰を支援するものであり、その結果、女性の就労期間を長くすることができ、老後の年金額を増加し、女性の老齢期の生活保障にもプラスの効果を有するものとの評価もある。

現在、一部の反対はあるものの、両親手当については概ね世論の支持が得られた状況になってきている。アレンスバッハ世論調査研究所の『家族生活モニター2010』によれば、制度開始前の2006年、両親手当を良い制度と評価したドイツ人は61%だったが、2010年には73%まで上昇している。

また、悪い制度との回答は同期間に16%から10%に低下している。なお、メルケル政権では、2015年、両親手当に加え、両親手当プラスを導入している。『家族報告書 2014』では、両親手当プラスに対する国民の反応として、アレンスバッハ世論調査研究所の2014年の調査結果を引用、国民全体の 58%が良い政策と評価、12%が悪い政策としたことを踏まえ、全体として、同政策については前向きに受け止められていると分析している。

保育サービス関係では、2013年の在宅育児手当に関して、世論の反対があった。ドイツ政府は、保育施設の拡大を進めているが、供給が追いついていないことから、2013年8月以降、主に保育施設を利用できない親の不公平感を緩和するため、子供が生後15ヶ月から36ヶ月の間、家庭で保育する親に月額100ユーロの「在宅育児手当(Betreuungsgeld、2014年8月以降は150ユーロ)」を支給することを決定した。しかし、このような手当については、州政府が対応すべき内容であって連邦政府の管轄ではないという理由から、連邦憲法裁判所が2015年7月に違憲であるとする判決を下し、受給申請はそれ以後できなくなっている。

この他、保育サービスの質の向上を求める声も出てきている。家族協会(Deutscher Familienverband)のツェー総裁は、現行政府の家族政策が専ら経済的な観点に基づくものとなっており、両親が共にフルタイムで就業することを促進することに偏っていると批判している。将来を見据え両親と子供及び社会全体の利益を考えるという視点に欠けているとし、コストを理由とした保育所の質の問題がないがしろにされていると述べた。また家庭で育児を行おうとすることに否定的な風潮がでていることにも懸念を示している。今後の家族政策は両親の選択を尊重しサポートするものでなければならないとしている。

2.3.1.2.2 世論が重視する家族政策の優先項目
ドイツの世論は、政府の家族政策について、「家族と仕事の両立」を重視している。連邦家族省が発表した最新の『家族報告書 2014』では、国民が重要と考える家族政策の重点トップ10位が示された。個々の施策とその効果に関しては様々な議論があるにせよ、家族政策が重きをおくべき点に関
するとして、「家族と仕事の両立」については、調査対象全体でも、18歳以下の子供のいる親でも、重視すべき政策との意見が多かった。

2.3.1.2.3 専門家による家族政策評価
連邦家族省と連邦財務省は、外部専門家に対して、ドイツ政府の家族関連政策についての評価を依頼し、その結果「ドイツにおける婚姻及び加増関連政策の総合評価」が2014年8月に発表された。同評価プロジェクトは2009年秋に着手され、70名を超える研究者が参加した。2014年に発表された報告書は、12種類の研究モジュールに分けて評価を実施した結果を取りまとめる形で作成された。

①社会的、税金的、生活的権利の接点
②国民からの観点で見た政策的な補償:補償の利用と評価(受け入れに関する分析I)
③児童福祉と奨励、並びに家族の老後の手当てに関する政策の補償の利用と評価(受け入れ分析II)
④子供の託児所
⑤子供の健全な育成
⑥子供の奨励と幸福
⑦ドイツでの出生と子供願望 – 現状キャッチ、影響要因、データ元
⑧児童手当て
⑨ドイツにての主要な婚姻、家族関係の補償に関する評価
⑩あるライフサイクルにおける特選した婚姻、家族関係の補償のマイクロシミュレーション
⑪退職後の家族の安定(年金やその他の補償)
⑫政策補償の子供願望の実現に対しての効果

同評価プログラムでは、ドイツ政府の家族政策が目指す4つの目標(I.家庭と職業の両立、II.子供の奨励と幸福、III.家庭の経済的な安定、IV.子供の選択の自由の実現)に対する、制度の効果という観点から評価を実施している。この研究にあたり、下記に関連した家族政策に関連する制度及び婚姻・家族関係の保障に伴う年金への影響などが研究対象となっている。

家族政策(現金給付、現物支給、税控除):児童手当、児童扶養控除、両親手当、子供のいる失業家庭の失業保険、子供のいる家庭への社会補償、子供のいる家庭への住居補助金、配偶者への無料国民保険、国民介護保険への加入(子供のいる家庭の両親)、婚姻関係内での税率分割、片親家庭への税軽減措置、保育費用の控除、保育施設、片親家庭への生活費補助

婚姻・家族関係の保障に伴う年金への影響等:国民年金での子育て期間の考慮、遺族年金、婚姻関係内の国民年金の分割、リースター年金の児童割り増し手当

連邦家族省は2015年12月の『家族報告書 2014310』の中で、この総合評価を実施したことは、今後のドイツの家族研究に大きな効果をもたらすと評価している。特に、子供の奨励と幸福に関してドイツで初めて年齢別の調査となり、家族政策の各施策が子供の安泰にどのように影響しているかの
調査が行われた。また、同調査を通じて、国内の家族研究の基本データがはるかに改善され、これからの研究に必要となる基盤ができたとしている。

また、同研究を通じて、「家庭と職業の両立」を図ることが、他の家族政策が目指す目的にも良い影響を与えていることがわかっており、「家庭と職業の両立」に向けた政策の重要性が改めて認識される結果となった。具体的な制度では、公共保育施設向け補助金と両親手当が、効果的との結果が出ている。

具体的には、公共保育施設向け補助金がなくなった場合、1 歳から3歳までの幼児の母親10万人が職に就くことができず、母親の就労促進につながらないが、子供を預ける施設があることで、母親が就労可能となり、家計の改善が期待できる。また、両親手当では、育児休暇期間を14ヶ月と区切ったことで、早く職場に戻るインセンティブとなり、長期的な母親の就業率を向上させ、これによっても家族の経済状況を改善すること可能になると、研究者は評価している。

2.4 「家族政策」への公的支出を正当化する政府の考え方
2.4.1 フランス・ドイツ政府の考え方とその相違
本章では、まとめとして、フランスとドイツの比較から、日本における今後の少子化対策に示唆となる点を取りまとめる。とりまとめにあたっては、短期的な合計特殊出生率の変化と政策・公的支出の関係を結びつけようとするのではなく、フランスおよびドイツの長期的な合計特殊出生率の変化の傾向として、①1980 年までにすでに生じていた両国の差と、②その後の低迷期からの回復力に影響を及ぼしたと考えられる少子化・家族政策に対する両国政府の考え方の違いについて、整理していく。

なお、合計特殊出生率の変化について、個別政策や公的支出との因果関係を明らかにすることは、多くの研究を通じて試みられているものの、専門家の間でも結論を出すことは極めて困難といわれる。また、分析に使用する出生率についても、OECDなどが使用している合計特殊出生率ではなく、
出生コーホート別の分析が理想とされるが、この場合、母親が生まれて出産年齢を過ぎるまで50年近くという長期に亘るデータを必要とし、結果をすぐに得ることができない。

そのため、合計特殊出生率が利用されている側面があるが、合計特殊出生率についても1、2年の短期の変化ではあまり大きな意味をもたず、10年程度の長期に亘って同じ傾向がみられてはじめて意味のある分析を加えることができると専門家は指摘している。

2.4.1.1 歴史的背景を踏まえた人口政策への姿勢
フランスでは1870年の普仏戦争において、人口爆発が起こり若年人口が多かったプロイセンに敗戦を喫したことに端を発し、出生促進的な政策を国が打ち出すことが国民に理解されてきた。この基本的な考えや貧困対策という側面から、フランスでは19世紀末から1950年ごろまでに経済的支援の基礎が整備された。

このフランスの家族政策における人口政策的側面は今日でも根底に引き継がれているが、現在では単に出産のみを奨励するのではなく、女性に出産・育児について多様な選択肢を提供する方向へと変化している。

ドイツでは、第2次世界大戦下でのヒトラー政権による人口政策の反動もあり、特に旧西ドイツ地域では、出産・育児は個人の領域として、国は積極的関与を避けてきた。このような中、経済的支援のうち児童手当が事業者拠出で開始されたのが1955年であり、これが国費負担となったのは1961年であった。近年、ドイツ政府も少子化対策を重視した家族政策を進めているが、その契機となったシュレーダー政権においても、1998年からの第1次政権当時は家族政策を重視していなかった。

また、これらの新しい政策でも、本音では出産奨励主義に基づく出生率向上を目指した政策だとしても、「子供をもつ願望のある国民に、その願望を自覚させる政策」といった形での啓発・推進になっていると専門家は分析している。

2.4.1.2 社会保障制度に対する考え方
フランスにおいては、社会保障財政への将来の拠出者を確保するにあたり、子供を育てた人と育てなかった人が子育てにかかるコストを共同で負担し、すべての国民が年金を中心とする社会保障政策の受益を公平に得られるようにするため、国が子育て世帯を財政・環境面で十分に支援すること
が国民の間で広く求められてきた。

ドイツでは、特に1960年代までに他の欧米諸国よりも急速に出生率が下がっていった(合計特殊出生率1.5程度)背景として、白波瀬佐和子氏は、1880年代に始まったビスマルクによる社会保障制度の確立により、老後の生活を子供に頼る必要が無くなったことも要因のひとつであるとのドイツ
人口学者ヒューンの説(1997年)に言及している。

社会保障制度が整えられたことで、子供をもつ合理的意味づけが薄れたと分析されている。なお、1955年の児童手当開始にあたっては、子供を将来の社会保障制度などの担い手とする考え方が背景に見られる。

2.4.1.3 「母親」モデルの違いによる女性就労促進策への影響
フランスでも1960年代までは、家庭における役割分担について、男性が稼ぎ主であり、女性は家事や育児を担当するという認識が一般的であり、女性は就労と子育ての選択を迫られる時代があった。

当時行われていた家族政策では、女性は家庭で子育てに専念することが重視され、多産世帯を優遇する政策が採用された。具体的には、子供が増えるごとに加算される家族手当や子供が多いほど所得税が低減される家族係数制度がある。しかし、1970年代以降、専門知識や資格を有する女性の社会進出が進む一方で、オイルショックに端を発した高度経済成長の終焉による1980年代の経済低迷と失業率の上昇が起こる中、フランス政府は、「ワーキングマザー」を前提とした政策に転換し、母親の就労を促進する政策として、従来の経済的支援に加え、育児休暇制度や保育施設・サービスの拡充に向けた政策にも重点を置くようになって行く。

こうした考えの転換について、大きな節目となるようなイベントがあったわけではなく、それまでにフランスでは女性が農業や産業で重要な労働力となっていたため、かなり幼いうちから子供を他人に預けることが当たり前となっていたことや、フランスの政策立案者にとって失業率や貧困を抑えることが常に優先順位の高い政策課題であったことが影響していると専門家は分析する。

併せて、低年齢から保育サービスを受けられるということは、子供が自ら教育を受ける権利を出来る限り早い年齢から行使できるということにつながるとして、親だけではなく、子供のメリットにもつながるという考え方も見られる。

一方、旧西ドイツとそれを引き継ぐ統一ドイツでは、男性片働き・母親家庭型を前提とした考えが1990年代後半まで続く。上述の歴史的背景により、政府は経済的支援以上の関与を避けたということに加え、旧西ドイツ地域を中心にいわゆる「3歳児神話」が根強く、3歳未満児を保育施設に預けることを否定的に捉えたり、母親は父親の代わりになれないといった伝統的な考えによるところが大きいと言われる。

2000年以降のシュレーダー政権やメルケル政権では、レナーテ・シュミット連邦家族相、ウルズラ・フォン・デア・ライエン連邦家族相といった、自ら母親として働き続けた経験をもち、影響力の大きな政治家が家族政策を任され、そのリーダーシップのもと、母親像の転換が図られ、育児施設・サービスの充実が急ピッチで進められることになった。しかし、これに反対する保守派層には、依然、伝統的家族モデルを守るべきとの考えが見られる。

2.4.1.4 家族施策の着手タイミング
合計特殊出生率の変化と家族対策の施策に着手したタイミングを比較すると、フランスでは合計特殊出生率が下降を続ける最中に女性の就労促進につながるいくつもの施策に取り掛かっている一方、ドイツでは、下りきってから初めて本格的な取り組みが始まったという違いが見られる。

フランスの政策立案者は、失業・貧困対策を政策の優先課題として位置づける傾向が強い。1980年代以降、失業率が高まったフランス社会では男性片働きのリスクを押さえ、女性の就業率を高めることで所得を増やすことにより、貧困世帯の増加やそれによる社会支出の増加を抑えようという考
えが重視されてきた。

つまり、女性の就労促進が、最も優先度の高い失業・貧困対策と結びついたことにより、迅速に関連施策が実施に移されることにつながったと推測できる。実際、フランスの失業率が急速に上昇した1970年代後半から1990年代にかけて、育児親休暇の制定と改正、認定保育ママ制度、保育所拡充など、女性の就労支援につながる取組みが次々と実現されていった。

この間、合計特殊出生率も1.7まで低迷する。しかし、1990年代後半に失業率の伸びが鈍化するころから、合計特殊出生率も回復をみせ、2006年には 1980年代前半水準に回復している。

対象的にドイツでは、経済状況が比較的良好で、フランスほど失業率の高騰が深刻にならなかったという事情もあり、母親が仕事をする必要がなかったとの指摘もある。1990年代に入り、ドイツでも失業率が高まり、労働時間短縮や労働時間規制の柔軟化が進められることになったものの、1992
年に導入されたドイツの育児休暇制度の延長は欧州でもっとも長い36ヶ月を認めるもので、女性の就労復帰を早めるものではなかった。この間にもドイツの特殊合計出生率は下がり続け、1994年には1.2まで落ち込んでいるが、2002年のシュレーダー第2次政権まで、女性就労を促進する主要な施策は見られない(なお、2000年にはドイツの失業率はフランスを抜き、2桁に到達している)。

2.4.1.5 現物支給と現金給付のバランス
専門家も指摘するように、現物支給と現金給付は、いずれかが優れているということではなく、両方のバランスをとることが重要とされる。フランスでは、1950年までは現金給付中心だったが、その後、フランスが抱える失業・貧困などの家族の問題に対処するには、現金給付だけではなく、各種保育・サービスの充実など、家族を社会的に支援する必要性の認識が広まり、1990年から保育施設・サービスを拡充するための現物支給の割合が増加、1998年以降は50%以上が現物支給となっている。

これに対してドイツでは、東西ドイツの統一以降、現金給付と現物支給の割合はほぼ1対2が長く続いた。しかし2006年以降は、現物支給の比率が高まり、2011年には約4割が現物支給まで増加してきた。

なお、育児にかかる直接コストに占める教育費の負担を低減するため、フランス及びドイツを含むOECD加盟国の多くは教育費の8割以上を公的資金でカバーしており、現物支給にあたる。OECDの「Doing Better for Families(2011)」に指摘されているように、育児にかかる直接コストは出生率にマイナス影響を及ぼす要素になるが、教育に対する公的負担が高く、公立教育を無料又は低額でうけることができるため、教育費が出生率を抑える要素になりにくくなっている。対して、家計の15%以上が教育費として必要な日本や米国などでは、出生率を抑える要素となりうる。

2.4.1.6 女性への多様な選択肢提供と家族のWLB
フランスの家族政策は、多様な施策を組み合わせた包括的なものと捉えられており、現金給付と現物支給のバランスをとることを目標としている321。また、女性の多様な選択を尊重する上で、女性が自分の能力を最大限に活かしてキャリア構築を目指す場合には、それを実現できる社会を目指して、保育施設・サービスの充実が図られてきた。

こうした取り組みの多くは、男性よりも、むしろ女性をターゲットとした支援に重きが置かれてきたとも捉えることができる。その影響もあり、職場や社会における男女平等は法的にはかなり整備されてきたが、男性の育児・家事参加は、平等とはいえない状況にあった。OECDの公的育児休業給付金や公的有給育児休暇の男女の取得状況に関する統計(2013 年322)によると、取得者に占める男性の割合は、ドイツが24.9%に対して、フランスは3.5%に留まっている。

こうした状況を踏まえ、フランス政府は近年、家庭における男女平等を実現する取り組みに着手している。2014年の育児分担手当の新設では、男性の育児休暇取得を給付期限延長の条件とすることによって、女性が迅速に職場復帰できるよう、後押しする内容となっている。

一方ドイツは、2000年以降、「女性の育児と仕事の両立を助けるための女性支援」から、「男性を含む、社会全体を対象とした家族と仕事の両立を支援する」という観点から、ワークライフバランスを含む時間政策を家族政策の柱の1つとして取組んできた。

その重要な政策のひとつが、2007年の両親手当・両親時間制度導入である。この制度を通じてドイツの家族観に変化が起きたと、専門家は指摘する。同制度をきっかけに育児休暇を取得した父親は、育児休暇を取得しても恐れていたほどキャリアアップに支障がでないことに気づいた。ドイツの労働時間はOECD諸国でも短く、過去の労働政策を通じて勤務時間の柔軟性がすでに高まっていたことは、制度導入に適した環境づくりに役立ったと考えることもできる。

一方、他の社会保障政策向けの公的資金と比べても、数字上は、家庭政策向け資金は比較的変動が少ない。下記は、OECD Database から、フランス、ドイツ、日本、米国、スウェーデンについて、1991年、2001年、2011年の公的社会支出に占める家族・高齢・保健・その他支出の内訳の変化を
示したグラフである。フランス、ドイツについてみると、高齢向け資金の増加は、家庭向け資金の割合を20年間で1ポイント程度圧縮に留めている。

現時点では安定性があるものの、高齢化への対応において、家族政策関連の社会支出への影響も予想される。OECD、欧州委員会、欧州各国では、2000年代前半から人口動態の変化の公共財政に与える影響についての議論が進められ、長期財政推計などが作成されてきた。当初、高齢化による年金、医療、介護、失業、教育への影響が中心に議論されてきたが、ドイツでは、家族政策支出についても取り上げる方針を示し、2008年以降、対象に含めている。予算全体からすると家族関連のシェアは小さいが、公的資金の支出において、今後こうした長期的推計の重要性は増していくものと思われる。

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