SNS分析とは?数理モデルのヒット現象研究を考察する

SNS分析とは、SNSで発信されている投稿内容を分析し、戦略に役立てることです。

今回の企画書は、SNSやWEBのビックデータ分析の一つである“数理モデルによるヒット現象研究”です。

今や選挙や支持率を有利に形成するためのメディアマーケティングは常識になりつつあり、ツイッターやFacebookといったSNSを活用した様々なアプローチが白日の下に晒されつつあります。

そんな興味深いテーマについて、考察していきます。

 

◆『グレート・ハック: SNS史上最悪のスキャンダル』予告編 – Netflix

◆Cambridge Analytica: Undercover Secrets of Trump’s Data Firm

 

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【目次】
1. 今回の企画書の特徴
2. 『平成29年度⽯油産業体制等調査研究(我が国エネルギー政策の企画⽴案のための⽶国メディアデータを利⽤した⽶国の対外政策と⽶産業界の動向調査事業)総合報告書査』から学ぶ
3.事業の⽬的と内容
4.事業の体制と実施方法
5.⽶国メディアモニタリング⽅法の段階的進展と得られた知⾒について
6.⽶国メディアモニタリングの全期間を通じた分析的知⾒
7.課題と展望

 

1. 今回の企画書の特徴

今回の企画書は、アメリカのSNSなどの情報収集・分析からエネルギー政策の企画立案および対米情報発信についての提言が満載です。ポイントとなるキーワードを、以下に記します。

・米国内の報道やソーシャルメディアにおける米有権者の意識動向
・資源輸入等エネルギー政策の企画立案
・対米情報発信
・トランプ・ウォッチ
・メディアモニタリング企業Criticai Mention
・Twitter分析
・独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)
・数理モデルによるヒット現象研究
・米DROPBOX社のクラウド機能

 

2. 『平成29年度石油精製等に係る保安対策調査等事業(プラント内における非防爆機器の安全な使用方法に関する調査)報告書』から学ぶ

では、国立研究開発法人産業技術総合研究所が作成した企画書を以下具体的に見ていきましょう。

表紙

3. 事業の⽬的と内容

本事業の⽬的と内容は概ね下記である。

我が国政府はこれまでも、⽶国の政策動向に関して⼆国間や多国間の協⼒枠組みの場を通じ、積極的に情報収集を実施してきた。その⼀⽅で、現政権による政策の動向を総合的に評価・把握する観点から、外交ルート上の情報収集のみならず、⽶国内の報道やソーシャルメディアにおける⽶有権者の意識動向をフォローし、現政権の政策が⽶国メディアにおいてどのように評価され、そのメディアの情報が企業や市⺠にどのような影響を与えているか、さらにその影響が政策形成にどうフィードバックされているか等を分析することも必要である。

本事業は、上記を踏まえ、⽶新政権の政策や⽶国産業界の動向に関する報道やソーシャルメディアにおける情報を収集・分析し、以って⽶国における上流権益への参画や資源輸⼊等我が国エネルギー政策の企画⽴案及び対⽶情報の発信に活かす。つまり「トランプ・ウォッチ」である。

そのため、

(1)⽶国内のテレビ報道およびネット動向の追跡・定量的分析
⽶国内のテレビ報道やネットにおける⽶現政権のエネルギー・通商政策の⾔及に関する⾔動等を追跡し、⽶世論について定性的・定量的分析を⾏う。

(2)分析結果の評価
上記の分析結果を踏まえ、⽶現政権の政策が⽶国内の各州、各業界でどのように評価されており、企業や⼈々の⾏動にどのような影響を与えているか、さらにはそれが⽶現政権や連邦議会の判断にどのような影響を与えているかについて、現地有識者に対するヒアリング等を通じて調査分析を実施し、評価を⾏う。

(3)調査報告
上記(1)(2)について随時調査委託元の担当者等と定期的に打ち合わせを⾏い、進捗を報告するとともに、その指⽰を受けて調査を実施する。調査報告は即時性・適時性をもって⾏う。――こととした。

4. 事業の体制と実施方法

本事業の実施にあたっては下記の体制を採⽤した。

(1)⽶国内のテレビ報道およびネット動向の追跡・定量的分析の体制
⽶ニューヨーク市に本拠を置くメディアモニタリング企業である「Critical Mention」社のデータサービスを契約。同社のサービスでモニタリングできる対象は、①地⽅局を含む全⽶数百のテレビとラジオの放送内容、②全⽶で千を超えるネットメディア、③有⼒なソーシャルメディアである Twitter-―の3種類である。

同データサービスから特定のモニター対象を抽出するキーワードをセットし、データを取り込み・整理し・分析するための要員2名。同要員2名は受託者の外注先であり、⽶ニューヨークに在住するフリーランスの⽇本⼈である。

(2)分析結果の評価の体制
独⽴⾏政法⼈・⽇本貿易振興機構(JETRO)の東京本部の要員2名をリーダーとし、現地有識者ヒアリングを実施するためJETROの⽶国内各拠点の要員による協⼒。ヒアリングにおいては特に「メディア接触状況についての聴取」に重点を置いた。

JETROは、本事業において受託者の再委託先である。加えて、国内専⾨家⼆⼈を招いて、情報分析そのものに関する最新動向を聴取・議論した。ひとりは、社会事象の分析⼿法の最先端である「数理モデルによるヒット現象研究」の権威である⿃取⼤学の⽯井晃教授。もうひとりは総合商社として⽶国政策等を分析している丸紅経済研究所の今村卓所⻑である。

(3)調査報告の体制
毎週1回を原則として、受託元を代表する経済産業省通商政策局の担当者、受託者、JETROの三者の出来る限り多くのメンバーが会合し、直近の調査結果、進捗状況、改善点などを打ち合わせた。⽶国メディアモニタリングの結果は毎週・毎⽉電⼦的⼿段で報告した。

加えて、情報の共有のために⽶Google社のGmailメール機能を利⽤したメーリングリストでの情報配布、⽶DROPBOX社のクラウド機能を利⽤したファイル共有の仕組みを活⽤した。

事業期間中の指⽰や報告のやりとりはGmail内に、⽶国メディアモニタリングの週次・⽉次の報告はDROPBOX内に恒久的に保存されている。これらのデータを遡及することによって、たとえ事業終了後であっても特定の局⾯あるいは全体の調査内容をあらためて検証することができる。

※上記中の⽶国メディアモニタリングの週次・⽉次の報告、JETROによる現地有識者ヒアリング、国内専⾨家の講演などについては、本報告書と共に電⼦ファイルとして同梱してある。

5. ⽶国メディアモニタリング⽅法の段階的進展と得られた知⾒について1

本事業の中核をなす「⽶国のメディアモニタリング調査」は委託者にとっても受託者にとっても試⾏錯誤を要することはあらかじめ⾒通されていた。そのため調査は下記のように段階的に進⾏した。

(1)準備段階:2017年8⽉~同10⽉
2017年8⽉は委託者と受託者の契約および、受託者と再委託者の契約、受託者と外注先の契約等の⼿続きに費やし、実質的な調査は開始していない。続く9⽉は、⽶Critical Mention社のデータサービスの可⽤性を知るため、本事業の全参加メンバーが⽶Critical Mention社のオンライン研修を受けた。

この研修前後に初歩的なキーワード設定によるデータの取り込みを実証実験的に検証した。さらに10⽉は、複数キーワードの組み合わせによる対象の絞り込み(例えば「Donald Trump」と「Shinzo Abe」の両⽅に⾔及している記事を絞り込む-など)を試⾏錯誤し、10⽉末までに10 数種類のキーワードセットを整えた。

(2)実施前期段階:2017年11 ⽉~同12⽉
準備段階で整えた10数種類のキーワードセットを含む記事(TV、ラジオ、ネットから)を定点観測的に抽出開始。さらに微調整する必要が⽣じたりしたが、ここから毎週、同じ形式でのメディアモニタリング報告を開始した。週次の期間は⽉曜から⽇曜とし、1週間分の動向をまとめた報告書を⽊曜に提出するサイクルとした。

4週分をまとめて⽉次報告とした。JETROは、この⽉次報告を⽶国拠点と共有し「メディアの報道動向が⽶国市⺠の意識を反映しているか」といった点について有識者への聴取を展開した。

※この段階で下記3点が明らかかつ重要な傾向として捉えられた。
①⽶国の TV、ラジオ、ネットを通じて「⽇⽶の通商」に関わる報道量は全体量の中で相対的に少ない。通商という限定を外した「⽇⽶関係」に関する報道量はさらに少ない。⽇本に関する報道量は、中国や韓国を下回っている。

②トランプ⼤統領は(特に同⼤統領の特徴であるTwitterを通じた直接的な発⾔を通じて)、続々と予測不能な⾔動を繰り返す。そのペースは⽇々のメディアの報道が追い切れないくらい⽬まぐるしい。

③⽶国においてもメディアの最⼤の関⼼事は、「⼈の不幸やスキャンダル」である。12⽉初中旬にはセクシャルハラスメントを告発するムーブメント(ハッシュタグと呼ばれるTwitter の記述⽅式によって爆発的に盛り上がったことから#metoo ムーブメントと呼ばれた)で、芸能界から政界、企業経営者まで著名な⼈物を引退や辞任に追い込まれたことが、爆発的な報道集中を起こした。

この時期、同時にトランプ⼤統領が突然「イスラエル⼤使館を移転する(事実上エルサレムを⾸都と認める)」と発⾔したことが国際的にも物議を呼んだが、その報道量は#metoo ムーブメントに完全に抑え込まれた。

5. ⽶国メディアモニタリング⽅法の段階的進展と得られた知⾒について2

(3)実施後期段階:2018 年 1 ⽉~同3⽉
実施前期段階で得られた傾向を元に「もっと個別事象や地域をクローズアップしたモニタリングができないか」との意向が週毎の会合で委託者から⽰されていたが、受託者としてはなかなか即時機動的な対応ができずにいた。

そこに⼆つの偶発的な事象が到来した。ひとつは、2018年1⽉末、いわゆるダボス会議に出席したトランプ⼤統領が突然「TPP参加⾒直し」を発⾔したこと。もうひとつは2018年3⽉初旬にトランプ⼤統領が「アルミと鉄に懲罰的関税を課す」政策を発動したことである。いずれのケースも⽇本では、⼤統領の発⾔直後の早朝(⽇本時間)から速報が続々と発信される報道状況となった。

この⼆つの場⾯で、受託者の⽶国メディアモニタリングチームは、それぞれの事象のみに注⽬した緊急報告を作成した。前者では⽇⽶の報道の熱量の差(⽇本は熱いが⽶国は冷たい)が浮き彫りになり、後者では「US-Japan Economic Relations」と分類したキーワードセットを含む報道量が「US-China」には及ばないものの明⽩な上昇を⽰した。

後者に関しては、トランプ⼤統領が関税措置発動の⼤統領令に署名する際に「Shinzo Abe」の名前を挙げたことを過剰に捉える報道やTweet も⽣じた。

※この⼆つの緊急報告からは下記のことが⾔える。
①突発事象に関して集中的に⽶国報道状況をモニタリングし、短期に定量的・定性的な傾向をまとめることができる

②特に⽇本国内の報道でも重視される事象であれば、⽇⽶の⽐較ができる。アジア圏において広い利害が⽣じる事象であれば、⽶国の報道における、例えば⽇本と中国の扱いの⽐較もできる。これらの⽐較は事象を特定するほどわかりやすい評価ができる。

(4)事業期間全体を通じた調査⽅法に関する総合的知⾒
上記(1)~(3)の全期間を通じて「わかったこと・できたこと」「わからないこと・できないこと」を以下列記する。

◇わかったこと・できたこと
−Critical Mention社が提供しているようなメディア・モニタリングツールを使って⼀連のキーワードセットを設定し、政治や政策などに関する報道状況を定量的に抽出し、その内容を定性的に分析することは⼗分できる。

−特定キーワードを含む記事件数の集計や継続的なデータの確保、グラフィックス表現などについて、作業場の制約はあるものの可⽤性は⼗分ある。

−特にテレビ、ラジオの報道内容についてはネット上の⼀般の検索エンジンではとらえきれない網羅性を確保できている。

◇わからないこと・できないこと
−⽇本の通商政策に関わるトピックについて、どのような層が、どのような地域で、どのような関⼼をもって――受け⽌めているのか(少なくとも関⼼を反映した報道がなされているのか)は、本事業期間に適⽤したような「マクロなキーワードセットでの網掛け」では不⾜である。

5. ⽶国メディアモニタリング⽅法の段階的進展と得られた知⾒について3

このことは、「⽇本」に関する情報露出量がもともと⾮常に⼩さくなってしまっていることと関係がある。

-ミクロ事象を観察するには、例えば「US-Japan Economic Relations」で抽出された結果をさらに、特定の通商語彙(TPPなど)や、特定の組織名あるいは個⼈名などつかってさらに絞りこんでいくことで論理的には可能。しかし、定常的に深掘りするのは作業負荷に対する情報獲得利益が極めて⼩さいと思われるので、特定の突発事象が起きたときに集中して調べるのがよさそうである。

・全期間を通じて Twitterに関するモニタリングがうまく働かなかった。Critical Mention社のサービスでは、Twitterに関してはこちらが想定するキーワードセットをいちいち先⽅に依頼して設定する必要があり、設定後も⼿元で調整することができない。しばしば、検索対象となるTweet数が⼤きすぎて取得不能だったり、逆に取得したデータ件数が少なすぎる―といった障害にぶつかった。

このため期間中は、トランプ大統領自身のTwitter名として知られている「real Donald Trump」または「POTUS」から発信されたツイートの件数を観測し、あるいは同Twitter名を含む記事を検索対象としたが、明確な分析の対象となるような素材が得られなかった。

Critical Mentionのサービスのを前提として、この問題を解決するには「現実に取得し扱える範囲のTweetを要領よく取得するための期間設定やワード設定のコツ」を集中的に実験し、経験的に学ぶ必要がある。

・「エネルギー」関連モニタリングについて
「エネルギー」ないしエネルギー事象に関連する「地球温暖化」などのキーワードセットで抽出できる記事の分量も、全期間にわたって露出量が⼩さいグループに属していた。この原因のひとつは、調査期間にエネルギー関連事象と結びつくトランプ政権の動きが少なかったこと。

もうひとつは「エネルギー」や「地球温暖化」のキーワードセットと対応するような単独事象を扱った報道そのものが少なかったことである。この⾯のモニタリングを深掘りするには、⽇本関連トピックの深掘りと同様に、特定のイベント(エネルギー問題をめぐるトランプ⼤統領の突発的⾔動、⼤きな国際カンファレンスなどの開催、エネルギー問題をめぐる事件)の時機をとらえたうえ、キーワードを鋭く絞りこむことが必要である。この点は、本調査のようなアプローチにおける機動⼒にかかわる点である。

6.⽶国メディアモニタリングの全期間を通じた分析的知⾒1

2017年11⽉~2018年3⽉の全期間のモニタリングを通じた分析的知⾒を、以下整理する。

(1)4か⽉間の⻑期トレンドから⾔えること
・報道量ベースでトップ5は、多い順に①ロシア疑惑、②移⺠政策(DACA)、③内政、④⽶中関係、⑤銃規制だった。
(いずれのトピックも特定のキーワードセットと対応している)

・①「ロシア疑惑」は報道量が突出する場⾯が多いうえ、4カ⽉の調査対象期間を通じて安定して報道量が多かった。2016年の⼤統領選へのロシア政府の介⼊と、トランプ陣営とロシア政府の共謀疑惑に対するFBI捜査は、捜査の進捗とともに「⼤統領による司法妨害の疑い」「⼤統領とFBIとの抗争」「政権幹部・元幹部の起訴」「⼤統領の⾝内の利益相反問題」などに発展し、「政権スキャンダル」として⼤々的に報じられた。ニューヨークタイムズ、ワシントンポスト紙など⼤⼿新聞がスクープ合戦を繰り広げた。

・②「移⺠政策」⑤「銃規制」の2トピックは⽶国市⺠の琴線を刺激するトピックだろう。

両者ともアメリカ市⺠の歴史的価値観にかかわる

・「移⺠政策」は1⽉8⽇〜14⽇の週に「ロシア疑惑」を抜いて初めて⾸位になり、連続3週間⾸位をキープした。これは、「連邦地裁がDACA 撤廃に差し⽌め判断」「トランプ政権、移⺠法案枠組みを上院に提出」などの⼤きな動きがあったことと、連邦つなぎ予算協議の⼀環で移⺠政策が議論されたことを受けたもの。

1⽉8⽇〜21⽇には⼀般のニュース番組で「インフルエンザ流⾏」「⼤寒波」の報道が⽬⽴ったが、移⺠政策に関する報道量はそれらを上回った。その後、1⽉29⽇の週に「ロシア疑惑」が再び⾸位に戻っている。

・「銃規制」に関する報道は、フロリダ州の⾼校で2⽉14⽇に発⽣した銃乱射事件後に急増した。背景には、銃規制強化を求める運動が全⽶に広がったこと、それにトランプ⼤統領が応えて規制に意欲を⽰したことがある。今回の銃規制運動は被害にあった⾼校の⽣徒を中⼼に盛り上がっているのが特徴で、昨年10⽉にラスベガスで58⼈の死者を出す銃乱射事件がおきた際には、いまのような銃規制議論の活性化はなかった。ニュース番組は、運動を主導する⽣徒らのインタビューを頻繁に報道している。

・③「内政」は、実質的には税制のトピック。2017年12⽉の⼤型税制改⾰法案成⽴の前後に、国⺠への影響が⼤々的に報じられたことから、その前後に報道量が突出したピークを描いている。

・④「⽶中関係」がトップ5に⼊っているのは、安全保障問題(北朝鮮関係)、通商問題の両⾯で、コンスタントに中国が⾔及されたため。3⽉には鉄鋼・アルミ輸⼊制限と「⽶朝⾸脳会談の可能性」を巡り中国が⾔及される機会が格段に増えた。鉄鋼・アルミニウム関税に関する話題は、(政治・経済専⾨でない)⼀般のニュース番組で、⽶企業や国⺠への影響という視点からの報道も⽬⽴った。

6.⽶国メディアモニタリングの全期間を通じた分析的知⾒2

・全⽶の世論調査を集計している Five Thirty Eight の調べによると、⼤統領の⽀持率は2017年2月前半を境に⽀持と不⽀持が逆転した。その後は⽀持率が40%前後、不⽀持率が50%台前半で安定して推移しており、数々の突発的でスキャンダラスなニュースが出ても⼤きなブレは⽣じなかった。

・ただし、トランプ⼤統領就任(2017年1⽉20 ⽇)から2018年3⽉までの⽀持率推移をみると、⽀持率は徐々に低下し、不⽀持率は10ポイント以上上昇している。

2017年1⽉23⽇: ⽀持45.5%、不⽀持41.3%
2018年3⽉18⽇: ⽀持40.5%、不⽀持53.8%

(2)⻑期トレンドと中期(⽉)、短期(週)との⾒合いで⾔えることはなにか?
・週間でも⽉間でも、トピックの総合順位に際⽴った違いは⾒られない。⽇本の報道状況(特に週替わりで⼤きく変化するテレビ報道)と⽐較すると、⽶国の報道は相対的に安定しており、瞬間⾵速的な出来事の影響で⼀⾊に染まるような傾向は⼩さいと⾔える。

・ただし、「ロシア」「中国」「移⺠政策」「銃規制」などの⼤きなトピック同⼠は、上位グループの中で押しあいながら報道量が変動する。報道の焦点は安定しているが、やはり折々の”季節感“を反映している。例えば「移⺠政策」は1⽉初旬から2⽉初旬まで約1カ⽉にわたり報道量が多く、3⽉5⽇のDACA撤廃(連邦地裁判事が差し⽌め判断。撤廃は⾒送られた)前後に再び増えている。

(3)トランプの⽀持は Robust(頑丈)に⾒える…
・トランプ⼤統領をめぐっては、この4カ⽉だけでも「ロシア疑惑」「性的嫌がらせ疑惑」「不倫もみ消し疑惑」「政権幹部の相次ぐ辞任と解任」など、“スキャンダル報道”が相次いだ。

⾔動の“乱暴さ”が報道に織り込まれる世評で変わることもなく、この3⽉のティラーソン国務⻑官解任あっては「ツイッターで解任を告げた」とされている。Fox系を除く主要マスコミはトランプ批判を延々と展開しているが、⼤統領はむしろそれを⾯⽩がっているかのような挑発的なツイッター投稿を繰り返している。

・前述したように、1年の期間でトランプ⼤統領の⽀持率/不⽀持率の推移を観察すると、確かに⽀持率は減少し、不⽀持率は10ポイント以上上昇した。しかしながら、2017年11⽉から2018年3⽉まで、メディアモニタリングの期間に合わせてトランプ⼤統領の⽀持率/不⽀持率の推移をグラフにプロットしてみると、むしろわずかながら⽀持率は上昇し、不⽀持率は下降している。

2017年11⽉13⽇: ⽀持38.1%、不⽀持55.9%
2018年3⽉18⽇: ⽀持40.5%、不⽀持53.8%

もし、トランプ⼤統領と同様の⾔動を⽇本の⾸相が繰り返した場合にどうなるか-を想像すると、驚異的なRobust(頑丈)さと⾔える。

6.⽶国メディアモニタリングの全期間を通じた分析的知⾒3

・⽇本の過去 10 年ほどの政治事象の中で同じような現象が⾒られたのは、全盛期の橋下徹⼤阪市⻑(当時)の在り⽅である。「⼤阪都構想」という強いテーマを掲げたこと、Twitterを多⽤し、メディアとの激しい対決の構図を⾃ら作り出したこと-―などトランプ⼤統領の⾏動との類似点は多い。橋下⽒は「⼤阪都構想」を住⺠投票にかけて敗れ、退いたが、それでもほぼ半数票を味⽅につけていた。

・トランプ⼤統領の今後を単純なアナロジーで予想するのは安易に過ぎるが、少なくともメディアモニタリングで露わになる様相に反してトランプ⼤統領の⽀持が堅い事実は、同⼤統領のコア⽀持層は、トランプ⽒が何を⾔っても/やっても⽀持を続けている⼈たちと推定できる。

(4)トランプ⼤統領の⽀持者の姿を⽰唆する Cortico Mirror
・トランプ⼤統領の⽀持者の様⼦を⽰唆するのは、本調査の参考データとして受託者が独⾃に取り寄せ、調査チーム内で共有してきたCortico mirrorという毎⽇のTwitter分析リポートである。Cortico Mirrorは、マサチューセッツ⼯科⼤学(MIT)のメディア研究所内のSocial Machines という研究グループが中⼼になって制作してきたTwitterの全量分析リポートである。Cortico Mirrorは、トランプ⼤統領が当選する1年ほど前から制作され、選挙直後には「トランプ候補について熱⼼にTweetした集団とクリントン候補について熱⼼にTweetした集団との間にはほとんどつながりがない。

署名⼊りで記事を書くような”まともな“ジャーナリストはクリントンTweet集団だけに所属し、トランプTweet集団にはほとんどいない」といった構造をあぶり出した。これができたのは、Social Machinesのリーダー(Dr.Deb Roy)が、Twitter本社のChief Media Scientistの肩書も同時に持つ⼈物で、しかもMITメディア研究所の⾼速⼤容量な計算機資源を駆使できたことによる。

・Cortico Mirrorは、2018年1⽉29⽇の配信を最後に打ち切られてしまった。その理由は「トランプ族、クリントン族、サンダース族の3群に分類してきた⺟集団が必ずしも現状を正しく反映していない懸念があるため」とのこと。このため本調査期間と適合するデータとしては不ぞろいになってしまったが、試みに2018年1⽉分だけを簡単に分析してみると、トランプ族に分類されるTweet群が「つぶやきのきっかけにしているメディア」には際⽴った特徴がある。その特徴とは、ネット上でもあまりまともな評判を得ているとは⾔えないメディアがTweetの素材のベスト5にしばしば登場することである。

・すなわち「The Gateway Pundit」、「Breitbart」、「Conservative Tribune」といったメディアである。本調査の中で⽶メディアを最前線でモニタリングしてきた受託者の外注者のひとりは「トップページのヘッドラインを⾒るだけで、怪しいサイトだと想像できる。3つのメディアの名前で検索すると、うそや誤った情報をまき散らすサイトという説明が続々出てくる」との評価。加えて「Western Journalism」というメディアの情報源としての登場頻度も⾼い。

6.⽶国メディアモニタリングの全期間を通じた分析的知⾒3

・これらのメディアの横顔(いずれもネット検索による情報)は下記のようなものである。
◇The Gateway Pundit

◇The Gateway Pundit
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2004 年にジム・ホフト⽒が創刊した右派政治ブログ。同誌によると、ウェブサイトには毎⽉1500万件の訪問(visit)がある。同誌の記事は Fox News、Drudge Reportなどの保守系メディアで引⽤されることもあるが、うそや誤った情報を広めるメディアとして悪名⾼い。

◇Breitbart
http://www.breitbart.com/
保守派コメンテーターのアンドリュー・ブライトバート⽒が2007年に創刊。12年に同⽒が急逝後、スティーブ・バノン⽒が会⻑職に就任し、オルタナ右翼(極右勢⼒)寄りに編集⽅針を⼀変させた。バノン⽒はトランプ政権で⾸席戦略官を務めたが、2017年夏に解任された。

◇The Western Journal

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前⾝は 2008年創刊の保守系政治ウェブサイト、Western Journalism。デジタル出版社のLiftable Mediaが2014年に同サイトを買収した。その後2017年11⽉にメディアの名前を現在のものに変え、拠点をテキサス州からワシントンDCに移している。同誌によると、⽉間ユニークビジター数は約1000万⼈。

◇Conservative Tribune
https://conservativetribune.com/
保守系ニュースサイト。Liftable Media が同サイトを2015年に買収。その後、読者数が急増し、同誌によると現在の⽉間ユニークビジター数は約2500万⼈。

・Cortico Mirrorからこのような特徴的なメディアを発掘するのが事業期間の末尾にかかってしまったため、Critical Mentionのサービスを通じたこれらのメディアへのモニタリングについては検証できていないが、トランプ⼤統領の⽀持構造を知るうえでのヒントになる可能性はある。

7.課題と展望1

4. 課題と展望
本調査と同様の「メディアモニタリングによる海外政権やその政策動向、世評の分析」を試みる場合の課題と展望について記しておく。

・メディアモニタリングは継続することで知⾒やノウハウが磨かれる

本調査のベースとなっているのは、受託者が⽇本の政治報道/ネット分析において有している経験と知⾒である。

受託者が、もともとはブランドや商品のマーケティングやリスク管理に⽤いられてきたメディアモニタリングの⼿法を政治分野に持ち込んだのは2009年であった。それから10年を経て、現在、⽇本国内の報道やネットの動静については機動⼒やフォーカス、スピードの点で、さまざまな要請に答えられる⼀定のレベルに達した。

この間、情報収集・分析の⽅法や、分析結果の表現は試⾏錯誤を繰り返してきた。メディアが情報の媒介役であることは不変だが、情報の送り⼿も受け⼿もいつも変化している。その変化をとらえながらモニタリングの成果を改善していくためには継続が必要である。そしてその継続の中で、時間の無駄に⾒えても、多少無理があっても、レビューとフィードバックを繰り返し、最終的な情報の利⽤者を含む多くの関係者
が情報リテラシーを共有することも必要である。

・テクノロジー資源を最⼤限に活⽤して機動⼒や⽣産性を⾼める

本調査で採⽤した Critical Mention のサービスは費⽤対利⽤度の点では「良い」と⾔える。しかし、同サービスを使ってデータを抽出・分析する作業は「⼈⼿」に頼った。できるだけルーティン化し、⼿元で利⽤できるソフトウエア資源を駆使するように⼈⼿プロセスを設計したが、⼗分とは⾔えなかった。特に突発的な事象が⽣じたときに機動⼒のある分析をしようとすると⾮常に重い負荷を⼈⼿プロセスに課さざるを得なかった。

改善するには、マシンtoマシンでデータを取り込み、⼈⼿を介さずに基本的な分析ができるコンピュータ・システムを作りこむこと。加えて、そのようなシステムをより⽣産的に使いこなせるような「情報コンソール」も組み込むことである。このようなことは論理的には可能だが時間も費⽤もかかる。その投⼊判断は「メディアモニタリング」の意味や重要度をどう評価するか、にかかる。

・広範な分野に適⽤可能である

本調査で実施した、⽶国のメディアモニタリングは「他国」「他分野」においても適⽤可能である。サービス内容や質に違いはあるが、世界の広範な地域にマーケティング⽬的のメディアモニタリングサービスは存在する。

それらを利⽤すればさまざまな⽬的でさまざまな対象についてのメディアモニタリングが可能であると思える。ただし、メディアは⾔語や価値観と深く結びついているので、観測⽬的や観測対象に関するかなりの知⾒を持たないと、「観測のためのキーワードの設定」のような⼊り⼝でうまくいかなくなってしまうリスクがある。本調査は、経産省通商政策局⽶州課の担当者による深い⾒識に基づいた助⾔の数々がなければ成⽴していない。

7.課題と展望2

その意味では、現代にあっては官公庁の組織の中でメディアモニタリングが、⼿軽に⾃在に実現できるような仕組みが組み込めることが理想的と思われる。

-本調査の過程で収集したデータ等については、あらためて深掘りし分析することで得られる知⾒が潜在している。本報告書に記すべきことではないが、許容される範囲で本事業期間後も「枠外補助的」な試みをしてみたいと希望するものである。