日本におけるeスポーツの市場性とは?現状と課題についての調査報告書

コロナ禍で、ネットショッピングやネットフリックスやAmazonプライムビデオといったサブスクリプションといわれる定額制のコンテンツサービスが伸びています。

そういったデジタル分野で、今注目されているのがeスポーツです。ご存知の通り、日本には魅力的な漫画・アニメの原作が多数あり、また任天堂やソニーといった世界中で愛されているゲーム機器のブランドメーカーもあります。ゲームと日本の親和性はかなり高いでしょう。

そういったゲームソフトを使って、世界中のプレイヤーと対戦し、大会によっては巨額の賞金を手にすることができるeスポーツは、プロのプレイヤーを目指す若者も増加しています。

今回ご紹介する企画書は、そういった強みを生かし、日本の有望な成長分野としてのeスポーツの育成に関する2020年の調査報告書です。

一般的には知られていないリサーチ情報も掲載されているので、新規ビジネスを検討している企業及びビジネスマンの方には、参考になる箇所がたくさんあるので、是非活用下さい。

<THIS ARTICLE SAMMARY>
・コンテンツ産業の立役者の一人は間違いなくゲーム産業
・日本は家庭用ゲームで世界を席巻したため、eスポーツでは出遅れた
・2018年一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)が発足
・2022年の世界市場は約1,940億円と推計
・市場拡充、ユニバーサルデザイン、人材育成、新産業創出、地方創生、クールジャパン・国際交流
・「コアファン」と「ライトファン」
・競技レベルと集客向上が、エコシステムとしての循環へ
・「ゲームの魅力」「イベントの魅力」「選手の地位向上」「ファン獲得&コア化」「法制度対応」
・青少年の国際交流における共通言語化
・ゲームタイトル利用・許諾に関するガイドライン整備

 

<eスポーツを活性化させるための方策に関する検討会座長 中村伊知哉>

コンテンツ産業を日本における成長分野の一つとしてこれまで牽引してきた立役者の一人は紛れもなくゲーム産業であり、今、その中心的な存在としてeスポーツへの期待が高まっている。

日本は自他ともに認めるゲーム大国だが、eスポーツでは少し出遅れた。その理由の一つは、日本がまさにゲーム大国であったからであろう。家庭用ゲームで世界を席巻したために、海外のeスポーツで主流となったパソコン向けゲームの発展が少し遅れたと言われている。しかし、これは日本が他国を凌駕する競争力、潜在力を持っていることの裏返しとも言えるわけで、ことeスポーツについては、まさにこれからが日本の出番であろう。eスポーツの健全かつ多面的な発展に向けた環境整備を行うという点については、2018年に一般社団法人日本 eスポーツ連合(JeSU)が発足し、活動の方針も明確になってきた。

この2018年こそが、日本のeスポーツ元年である。大型大会が開かれ、スポンサーも集まり、プロスポーツ団体、メディア、イベント会社など多種多様な業種から企業が次々と参入してきている。第18回アジア競技大会(2018/ジャカルタ・パレンバン)ではeスポーツがデモンストレーション競技として採用になり、日本の高校生がサッカーゲームの種目で金メダルを取った事で大きな注目を集めた。その後も 2019年10月には、国民体育大会という国家的なイベントの文化プログラムで全国都道府県対抗eスポーツ選手権も開かれ、eスポーツの社会的な認知は急速に高まってきている。

他方、eスポーツの発展にとって欠かすことができないのが、世界的に押し寄せる技術革新の波である。1990年代から始まったデジタル化、2000年代から始まったスマート化に次いで、AI(人工知能)と IoT(Internet of Things)の時代がまもなく到来するが、それは同時に5Gの時代でもある。5Gによって、eスポーツもパソコンからスマートフォン、そしてクラウドへと主戦場が移行し、競技の在り方もファンの楽しみ方も大きく変わる可能性がある。5Gは産業構造を変えるほどのインパクトがあり、業界にとっては脅威になり得るが、この世界同時進行で押し寄せる変化の波は、キャッチアップする立場である日本のeスポーツにとっては、やはり大きなチャンスとも考えられる。

このような状況を受け、内閣府の知的財産戦略推進事務局が毎年まとめている知的財産推進計画2019では、eスポーツにおける取組が次のとおり記載されている。「コンテンツ分野における新たな成長領域として注目されているe-スポーツについて、関係省庁において、制度的課題の解消など健全な発展のため適切な環境整備に必要に応じて取り組むとともに、産学官やコミュニティが連携した取組を通じコンテンツだけでなく周辺関連産業への市場の裾野の拡大や、社会的意義・波及 効果について検討を行うことが必要である。」国の姿勢も明確になった。

こうした背景の中スタートしたのが、この「eスポーツを活性化させるための方策に関する検討会」である。検討会では私が座長を仰せつかり、ゲームタイトルの開発事業者や大会主催者に加えて、コミュニティ関係者・プレーヤー、関連機器メーカー・金融・観光・放送等の市場関係者、地方自治体、法律実務家、教育・福祉関係者など、eスポーツに詳しい有識者や今後eスポーツの発展に伴って効果の波及が想定される産業領域の企業、団体等から委嘱された16名の委員で、eスポーツを活性化させるための方策を熱く議論してきた。プロ選手による大会だけではなく、もっとライトにeスポーツを楽しむファンをどのように巻き込んで増やしていくのか。また、eスポーツを産業としてだけではなく、教育、文化、社会といったより幅広い領域で捉え、それらとeスポーツの関わりをどのように拡大していくのか、といったことを論じてきた。その成果をまとめたのが、本報告書である。

日本には、世界的な大型イベントが続く、またとないチャンスが到来している。2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会、そしてその5年後の2025年には大阪・関西万博が開催される。本報告書が、今回の検討会で導いた長期目標とそれを実現するための成長施策、社会的意義に関する提言をより多くの方々と共有し、日本のeスポーツの国際的な存在感を高めるとともに、eスポーツを通じて豊かな社会、幸せな地域社会を実現し、一人ひとりの人生を楽しく生き生きとしたものとするための一助となれば、これ以上の喜びはない。

◆YouTubeお役立ち動画/『【eスポーツ①】〜次世代ムーブメントを中田が徹底解説!現代のゴールドラッシュを知らなきゃ損!〜』
eスポーツ
・日本のeスポーツ元年→2018年
・超高額賞金大会
・JeSU発足とプロライセンス発行
・5G時代の最大のゴールドラッシュ
・ゲームは一度ハマると持続力が長い
・海外に比べて、日本のeスポーツ市場の進化が遅れているのはなぜか?
・法的環境/①景品表示法②賭博罪③風俗営業法
・コンテンツ環境/PCゲームとコンソールマシンゲーム、課金型と売り切り型
・設備環境/プレイ設備と観戦設備
・人的環境/プロゲーマーとトリーマー、実業団ゲーマー、オーディエンス

 

1. 本検討会の背景と目的、実施方法

1‐1. 目的・内容

世界各国で盛り上がりを見せている「eスポーツ」(electronic sports)は、近年、国内においても流行の兆しを見せつつあり、日本のコンテンツ市場においても今後の成長分野として期待されている。民間企業の調査によると、スポンサー料や放映権、チケット販売等のゲーム産業としての市場規模は、2018年時点で約48億円と推計されており、2022年には約100億円に達するとの予測も存在する1(2022年の世界市場は約1,940億円と推計されている)。

一方、「eスポーツ」には、ゲーム産業のみならず様々な周辺市場・産業への経済効果があり、更には、これを通じた様々な社会的意義が見込まれる。

eスポーツをこうした広い視座で捉えて、広義のeスポーツ市場の全体像を調査・分析し広く共有することは、eスポーツの関連企業・団体等において経営戦略を立案する際にも有用である。また、その際には、eスポーツに係る議論・検討が先行している諸外国における発展経緯や現状も併せて整理・共有することが有効である。

また、「eスポーツ」の社会的意義については、国内において統一的な議論・検討が行われた例が少なく、こうした観点での検討はeスポーツの健全な発展にも重要である。

こうした考え方から、日本eスポーツ連合(以下「JeSU」という。)は経済産業省より令和元年度新コンテンツ創造環境整備事業(e スポーツに係る市場規模等調査分析事業)を受託し、「eスポーツを活性化させるための方策に関する検討会」(以下「検討会」という。)を設置して調査分析事業を実施した。本検討会は、主に下記の2点をテーマに議論を行った。

①周辺市場・産業への経済効果を含めた国内のeスポーツの市場規模の試算、海外主要国のeスポーツの発展の経緯等に関する調査・分析を行うこと

②eスポーツの社会的意義について国内の各種取組の現状、課題、今後の展望等を踏まえ整理・検討を行い、一定の示唆を得ることにより、eスポーツの健全な発展に資すること

 

1‐2. 実施方法

1‐2-1. 国内外におけるeスポーツに関する調査・分析及びeスポーツの社会的意義に係る整理・検討実施方法

ア)周辺市場・産業への経済効果を含めた国内のeスポーツの市場規模の試算

eスポーツには、ゲーム産業のみならず様々な市場・産業への経済効果があると考えられたことから、周辺市場・産業への経済効果を含めた国内eスポーツの市場規模について試算を行う。試算に当たっては、例えば下記のように、eスポーツの周辺領域として考えられる市場・産業を検討した上で実施する。

また併せて、下記のような分類ごとに、調査時点における市場のプレーヤー(参入企業等)の規模やシェア、当該市場への新規参入の困難度等の状況を調査分析する。

【周辺領域として考えられる市場・産業の例】
①市場拡充
・専用ウェア、専用チェア
・ゲーミングPC、専用マウス
・関連グッズ
・スピーカー、ディスプレイ、通信機器、通信環境、チート判定関連機器等

②ユニバーサルデザイン
・障害者向け製品(PC・マウス等)
・ヘルスケア、健康増進 等

③人材育成、異分野融合研究
・プロ選手育成に係る専門学校、大学、予備校
・ゲーム及びシステム開発者育成、産学連携等

④新産業創出
・大会運営、認証機関、コンサルティング業務
・金融、保険
・プロチームの設置、コミュニティビジネス、リーグの運営等

⑤地方創生
・練習場整備、大会用会場(競技場)整備等

⑥クールジャパン・国際交流
・大会ツアー、観光業振興、統合型リゾート(IR)等

イ)海外主要国の e スポーツの発展の経緯等

国内eスポーツに係る整理・検討を行うに当たり、議論・検討が先行している海外主要国における発展の経緯や現状の調査・分析が有用と考えられることから、eスポーツの普及が進んでいるアメリカ合衆国、韓国、EU、中国の4か国・地域を対象に、文献調査及びヒアリング調査を行う。調査に当たっては、各国・地域それぞれ2者以上の関係者に対し、電話・メール等を使用した効率的な手段で情報収集を行った上で、必要に応じ現地ヒアリングを実施する。

各国・地域それぞれについて、例えば以下のような観点から調査分析を行う。また併せて、eスポーツを取り巻く事業環境(各国・地域における人口動態、通信等のインフラ整備状況、デバイス等の技術革新・社会実装状況、規制・振興の政策的関与の状況等)についても調査する。

・周辺領域も含めたeスポーツ全体の発展経緯
・eスポーツ競技の質保証に資するガイドライン、統一的団体の形成状況
・eスポーツ競技の運営者と競技参加者(プレーヤー)との関係性
・行政の政策的な関与の状況等

 

1‐2-2. eスポーツの社会的意義について、国内の各種取組の現状、課題、今後の展望等を踏まえた整理・検討国内外におけるeスポーツに関する調査・分析及びeスポーツの社会的意義に係る整理・検討実施方法

上記(1)を踏まえ、国内のeスポーツについて、各種取組の現状、課題、今後の展望等を踏まえた整理・検討を行い、一定の示唆を得る。(1)及び(2)で得られた成果は今後広く公表し、eスポーツの普及啓発を促す。

eスポーツ

eスポーツの経済効果と社会的意義

 

上述の整理を踏まえ、検討会を設置して議論を行った。eスポーツの影響領域の広さを踏まえ、検討会委員にはeスポーツに関わる幅広い有識者に参画いただき議論することが必要との認識から、ゲームタイトルの開発事業者や大会主催者に加えて、コミュニティ関係者・プレーヤー、関連機器メーカー・金融・観光・放送等の市場関係者、地方自治体、法律実務家、教育・福祉関係者など、eスポーツに詳しい有識者や今後eスポーツの発展に伴って効果の波及が想定される産業領域の企業、団体等から次の16 名を委嘱した(表1)。

JeSUは、本事業の再委託先であるKPMGコンサルティングとともに、本検討会の事務局を務めた。本検討会は2019年9月から2020 年2月にかけて5回、東京都内の会議室において開催した(表2)。本検討会は一般公開にて開催し、資料と議事要旨は公開するものとして運営した。

【「eスポーツを活性kさせるための方策に関する検討会」委員】
※氏名&所属
・安生健一朗/インテル株式会社 技術本部技術部長
・加藤貴弘/徳島県庁課長補佐(徳島県「eスポーツ」推進タスクフォース・主宰)
・小林大裕/日本テレビ「eGG」プロデューサー
・杉山賢/ゴールドマン・サックス証券株式会社 投資調査部 ヴァイス・プレジデント
・高井晴彦/一般社団法人日本旅行業協会 国内・訪日旅行推進部長
・高木智宏/西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士
・高橋義雄/筑波大学大学院 スポーツ健康システム・マネジメント専攻 准教授
・田中栄一/国立病院機構八雲病院作業療法士
・谷加奈/プロeスポーツ選手(たぬかな)
・谷口一/プロeスポーツ選手(ときど)
・田原尚展/C4LAN総合プロデューサー
・友利洋一/株式会社XENOZ代表取締役(SCARZ)・チームSCARZ代表
・豊田風佑/一般社団法人Gaming Community Network代表
・中村伊知哉【座長】/慶応義塾大学大学院 メディアデザイン研究科教授
・松本順一/株式会社JCG代表取締役
・山地康之/一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会 事務局長

◆YouTubeお役立ち動画/『The Top 4 Esports ICONIC Plays by Japanese/Eスポーツ世界大会で日本人プロゲーマーが冷静な解説者を発狂させた超絶プレイ4選。R6s,LOL,Tokido』
esports
・①EVO 2017 Grand Final ときどvsPunk
・②UMVC3 Feature Match 2012 Kusoru vs Filipino
・③WCS 2019 Detonation Focus Me vs Isurus Gaming
・④Six invitational 2019 野良連合 vs Fnatic

◆YouTubeお役立ち動画/『The Top 4 Esports Legendary Plays by Japanese/日本人プロゲーマーが世界大会で魅せたEスポーツ史に残すべきとんでもないプレイ5選。daigo umehar』
esports
・①Evo 2004 Daigo vs Justin
・②Asia e-Sports Cup 2012 Noppo vs Asking Questions
・③フォートナイトサマースマッシュ2020 CRwin Ruri
・④Stunfest 2015 Grand Final Momochi vs Daigo Umehara
・⑤EVO2012 GamerBee vs Daigo Umehara

 

2. 市場規模に関する調査及び議論

以降の調査及び議論に際しては、eスポーツへの熱中度合い、関わり方に応じ、eスポーツファンを「コアファン」と「ライトファン」の2層に分けて捉える(図 2)。コアファンの定義は、よりゲームを長時間プレー・観戦し、情報に対して能動的であるとする。対して、ライトファンの定義はプレー・観戦を小中頻度に行い、情報に対して受動的であるとする。

また、コアファンはライトファンの獲得・コア化の重要な原動力となる。コアファンは友達の勧誘や周囲への情報発信を通してゲームへの引き込みを行い、草チーム等コミュニティ結成や小規模イベントの主催を通してプレー/観戦の場の充実を図る。

eスポーツ

eスポーツファンの定義

 

2‐1. eスポーツ市場進化を踏まえた市場の再定義

2‐1-1. eスポーツ市場の進化過程

eスポーツ市場を構成するビジネス領域は、市場の進化に従い段階的に広がる。今回の市場規模算定では、商業化段階以降の成長の過程で起こるビジネスを主な対象として捉える。

eスポーツの市場の進化過程は3段階(黎明期、成長期、成熟期)に分けられる(図3)。その内、黎明期と成長期初期は文化形成段階と位置付けられ、個人でのプレーやゲーム内のフレンドなどから形成されたコミュニティの結束がLANパーティーやPCバンでの会合を通じて強化されていく時期である。

成長期後期以降は、競技化・商業化段階と位置付けられる。成長期には、黎明期に育ったコミュニティを起点として更に多くの大会が開催され、その集客力を背景にスポンサーや放映権といった資金が市場へ供給され始める。更に競技レベルと集客力が向上してくると、施設やゲーム/商材開発、メディアなどが事業として成立し、エコシステムとしての循環が始まる。

成熟期には、eスポーツの集客力・競技としての面白さや培われた要素技術が、他産業にて活用されることで、経済波及効果や新たなイノベーションをもたらす。

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eスポーツ市場進化の様相

 

2‐1-2. eスポーツ市場として捉えられるビジネスの全体像

eスポーツ市場は「イベント興行を核としたエコシステム領域」と「エコシステム領域の経済活動からの波及領域」に大別される(図 4)。市場規模の把握は、エコシステム領域を優先して進める。「イベント興行を核としたエコシステム領域」はスポーツ庁が第2期スポーツ基本計画で掲げるフレームワークである「する」、「見る」、「支える」に当てはめている。

まず「する」は、eスポーツ競技参加主体(チーム/選手)が行うビジネス(スポンサー・広告、チケット、グッズ、賞金、投げ銭収入)が対象となる。「見る」は、eスポーツファンの中でもとりわけコアファン層(ストリーマー、LANパーティー主催者)が行うビジネス(広告、参加費収入)が対象となる。

「支える」は、競技又は観戦を支えるオペレーター(大会主催者、パブリッシャー、大会施設/練習場、関連機器メーカーなど)が行うビジネス(スポンサー・広告、放映権、著作権許諾、施設利用料、機器販売収入など)が対象となる。「エコシステム領域の経済活動からの波及領域」は、イベントの集客力等を活用したビジネス(飲食サービス、小売、情報通信など)が対象となる。

さらに、波及領域のさらに外側にある「移転領域」も定義し、eスポーツを通じて蓄積された技術を移転したビジネス(医療での技術転用、異分野に跨る産学連携、金融・保険事業へのeスポーツ活用など)を対象とする。

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eスポーツ市場として捉えられるビジネスの全体像

 

2‐1-3. eスポーツ市場における資金の流れ

ここでは、eスポーツの市場における資金の流れを説明する(図5)。大きくはイベント興行を中心としたエコシステム領域及び直接市場と波及領域に大別される。エコシステム領域及び直接市場内の青四角はプレーヤーを表し、矢印はプレーヤー間の資金の流れを表している。

赤矢印はNewzooやKADOKAWA Game Linkage のレポートで捉えられている直接市場の項目の資金の流れで、点線の赤矢印は直接市場に内包される資金の流れである。直接市場に内包される資金の流れは、直接市場の項目との二重計上を防ぐために分けている。例えば、大会賞金は、日本においては基本的にスポンサー費から拠出されており、どちらも計算すると多くの部分が二重計上になってしまう(かつ、この傾向は、今後数年間は継続するものと考えられる)ため、直接市場の計算からは除外している。

青矢印はエコシステム領域のエコシステムの資金の流れを表す。エコシステムの外側には波及領域を表しており、青丸は波及の恩恵を受ける産業例を配置している。

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eスポーツ市場における資金の流れ

 

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eスポーツ周辺市場構成要素の広がり

 

2‐2. 市場規模の試算

2‐2-1. eスポーツ市場における資金の流れ:直接市場

eスポーツの直接市場における資金の流れをハイライトした(図7)。赤矢印は NewzooやKADOKAWA Game Linkageのレポートで捉えられている直接市場の項目の資金の流れで、点線の黒矢印は直接市場に内包される資金の流れである。直接市場に内包される資金の流れは、直接市場の項目との二重計上を防ぐために分けている。

2‐2-2. 直接市場のビジネス規模予測

日本の直接市場は2022年までに91億円に達する見込みである(図8)。なお、日本の直接市場はKADOKAWA Game Linkageの値を使用している2。2018年は実績値で、2019年以降は予測値である。2018年から2022年の年平均成長率(CAGR)は20%である。

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日本の直接市場規模推移

 

2‐2-3. eスポーツ市場における資金の流れ:エコシステム

eスポーツのエコシステム領域における資金の流れをハイライトした(図9)。青矢印はエコシステム領域における資金の流れを表す。

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エコシステムにおける資金の流れ

 

2‐2-4. エコシステム領域の市場規模試算ロジック概要

エコシステム領域については、市場の資金の流れの中で捉えたビジネス要素を踏まえ、大枠としての規模を試算した。今回、エコシステム領域を新たに試算するにあたり使用したロジックは大きく2つ存在する(表3)。

1つ目は、「1 経済主体あるいは 1 経済取引当たりの売上」とその「件数」を掛けて試算する方法である。尚、レポートで売上等の数字が入手できなかったものについては独自に算出し、それをプレーヤー数(件数)と掛けている。例えば、関連機器メーカー
の収入であればプレーヤー当たり購入額を独自に算出し、プレーヤー数と掛けている。

2つ目は、「海外における類似市場規模」と「海外市場のeスポーツ人口 / 日本市場のeスポーツ人口」を掛けて試算する方法である。例えば、投げ銭であれば米国市場規模が入手できたため、それと日本と米国のeスポーツ視聴者数の割合を掛けて算出している。なお、投げ銭の計算時に米国のeスポーツ視聴者数 / オンライン人口の計算をしている理由は、投げ銭はeスポーツだけでなくストリーミング全般で行われているためで、まずはオンライン人口とeスポーツ視聴者数の割合を掛けている。

2‐2-5. エコシステム領域の市場規模試算ロジック詳細

プレーヤーごとのエコシステム領域における試算ロジックの詳細を一覧化した(表4)。前項で説明した試算パターン②は投げ銭市場のみで、他は①となっている。

2‐2-6. エコシステム領域の市場規模試算結果

エコシステム領域の市場規模試算結果は2018年時点で112億円となり、直接市場の約2.5倍の広がりがあるものと見られ、合計で156 億円と試算された(図10)。

左の円グラフは社会的意義の6領域の構成比を表しており、市場形成の割合が最も大きくなっている。右の円グラフは事業項目別構成比で、関連機器が最も大きくなっている。なお、コンソール(関連機器)にはソフトウェアの購入額も含まれる。

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国内直接市場とエコシステム領域の内訳(2018 年)


 

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国内 e スポーツ市場における資金の流れ(2018 年)

 

2‐2-7. 直接市場及びエコシステム領域の市場規模とファン数の関係

eスポーツ直接市場及びエコシステム領域を構成する収入の9割は、eスポーツファン数の増加に比例して拡大していくものと考えられる(図13)。直接市場では、著作権許諾収入以外はファン数の増加により直接的に影響が出ると考えられる。エコシステム領域においても、ファン数が増える事で関連機器の購入や大会へ出向き宿泊する人が増えて規模が大きくなると考えられる。

以上の事から、eスポーツにおいてはファン数が直接市場とエコシステム領域の両方の成長における重要なドライバーであると言える。

 

2‐3. 長期市場規模目標

2‐3-1. 長期視点での直接市場規模算出アプローチ

日本のエコシステム領域が直接市場と同じ割合で成長した場合、2022年のエコシステム全体の市場規模は320億円という予測値を算出できる(図14)。

ここで、eスポーツの市場規模目標を設定する為に、ファン数の目標に加え、市場規模をファン数で割って算出する「一人当たり価値」の目標を国内他スポーツや海外eスポーツ市場と比較しながら検討していく。したがって長期目標市場規模は、将来的なフ
ァン数と1人当たり価値の目標をどこに置くかにより変動する。

なお、2018年時点の日本のファン数は382万人、市場規模は44億円であり3、一人当たり価値は1,150円となっている。

2‐3-2. ファン数と1人あたり価値の目標設定

図15について、左は他スポーツのスポーツ人口などを並べたもので、右はeスポーツ先進国の1人あたり価値の成長予測を表している。

検討のたたき台として、ファン数はeスポーツのファン浸透度が韓国並みに達した場合とプロ野球観客動員数の約2,300~2,600万人とし、1人当たり価値の目標値はeスポーツ先進国の最大伸び率である2.3倍を参考に2,700円と設定した。

なお、米国の1人当たり価値の成長予測の内訳をみると、放映権とスポンサー・広告の伸びが最も大きい。その理由として放映権はオンライン配信プラットフォームの台頭があげられ、スポンサー・広告については他業界が参入してくることがあげられる。

2‐3-3. 直接市場の長期目標案

検討会では、国内スポーツの市場規模とeスポーツ先進国の市場規模を参照しながら、前項で述べた検討のたたき台におけるファン数と1人あたり価値の組み合わせを検討した(図16)。

討議の結果、直接市場の長期目標は2025年に600~700億円とした(図17)。更に、この目標に留まらず、デジタルテクノロジーの活用により新たな応援や観戦文化を根付かせ、eスポーツの付加価値を高める事でより高単価なコンテンツやアイテムの購入を促すなど、2025年以降も市場規模を拡大させること余地があることを確認した。

2‐3-4. エコシステム領域、波及領域を含めた市場規模(長期目標)

次に、エコシステム領域における経済活動、波及領域へ及ぼす経済効果を含めた全体の長期目標は、2025年に2,850~3,250億円とした(図 18)。

波及領域の試算方法については、総務省の公表している経済波及効果を計算するための「産業関連表」を使用した。直接市場とエコシステム領域を産業関連表上の項目ごとに分類し、当てはめて試算した。

2‐3-5. eスポーツ市場の影響を受ける波及領域の産業

eスポーツ市場の発展により、エコシステムの外側に位置する波及領域の産業も恩恵を受ける(図19)。恩恵を受ける波及領域の産業は多岐にわたる。

波及領域の内訳をみると、エコシステムの経済活動は波及領域の対個人や事業所のサービスへ最も影響を及ぼすことが分かる(図 20)。また、エコシステム領域の関連機器の市場が大きいことから、波及領域では情報通信機器の規模も大きくなっている。

2‐4. 海外調査報告

海外調査に関する報告については、報告書(別紙1)に取りまとめた。その構成は下記の通りである。

第1章 eスポーツ先進国調査サマリ
1-1.eスポーツ先進国の市場発展の KSF(Key Success Factors)
1-2.先進国における市場成長パターン
1-3.海外調査サマリ

第2章 国別情報
2-1.米国
2-2.中国
2-3.韓国
2-4.ドイツ
2-5.ポーランド

◆YouTubeお役立ち動画/『Virtua Fighter esports 体験レポート その①アーケード編』
eスポーツ
・セガの『Virtua Fighter esports』のプレイ模様
・Aimeをタッチしておけば、ゲームが始動
・全国対戦を選択
・ステージや背景のグラフィックの完成度が大幅に向上
・エフェクトが派手に出るようになっている
・ジャンプができるようになるなど、機能がかなり充実している

3. 長期的な日本のeスポーツ市場の成長に向けて(提言)

3‐1. 日本のeスポーツの持続的成長のための必須条件

日本のeスポーツの持続的成長のための必須条件として、コアファンが多く集まり価値が高まることで、イベント事業単体で収益が生み出されること、その上で持続的にコアファンが拡大・維持される必要がある(図22)。

(①-1)黎明期は個人でのプレーやゲーム内のフレンド、SNSでのつながり、オンラインでの大会からコミュニティが形成される。LAN パーティーやPCバンなどでの会合はコミュニティの結束を強化する手段として活用され、継続して活用されるコミュニティ
によりファンはコアファンに成長していく。

(①-2)成長期の初期に入ると、コミュニティから供給されるコアファンの基盤を背景に更に多くのイベント・大会が開催されるようになる。すると、その集客力が価値となりスポンサーやメディアから資金を呼び込めるようになり、イベント事業として成立する。成長期の中期以降は(②-1)イベントの集客力がコアファンを維持・拡大していき、(②-2)コミュニティがライトファンの取り込みとファンのコア化を促し、イベント・大会へ更なるファン供給を行う。この循環を繰り返すことで、eスポーツは持続的に成長していく。

 

3-2. ハードウェアと2進数に関する知識

前項で説明したeスポーツの持続的成長に必要な4段階について分析した所、条件要素に関する日本の現状を踏まえ、成長のための方向性は5つに集約された(図23)。

成長に向けた方向性案は、「ゲームの魅力向上」、「イベントの魅力向上」、「選手の経済的地位向上」、「チーム/選手によるファン獲得/コア化」、「法制度/ルール対応のハードル引下げ」の5つで(図24)、検討会ではこれらについて検討を行った。

 

3-3. 日本のeスポーツ市場進化に向けた提言

検討会で議論された提言は、「成長施策提言シート」としてまとめた(別紙2)。成長施策提言シートは、前項で掲げた5つの方向性により分類したほか、それぞれの提言内容を実行していくにあたり中心的な役割を担うべき主体を明示した。

3‐3-1. ゲームとしての魅力向上

ここでは、人気競技の育成に向けたタイトルの選定と注力や、多くのファンを取り込むために、コンソールやモバイルに縛られずにどのデバイスからもプレー可能なタイトルの開発を行うこと、世界的競争力をつけるために、eスポーツに必要な技術開発などへの支援を行うことなどが提言として提示され、それぞれに対する具体的なアクションが提案された。

3‐3-2. イベントとしての魅力向上

ここでは、地域対抗スポーツ大会におけるeスポーツの正式競技化やeスポーツ世界大会の日本開催、テーマ別限定大会や短時間で観戦しやすい大会の開催など、大会そのものへのアプローチによる魅力向上への提言や、スター選手の輩出・育成に向けた提言、大会運営に係る国際ルールの構築などが提言として提示され、それぞれに対する具体的なアクションが掲げられた。

3‐3-3. 選手の経済的地位向上

ここでは、アマチュア選手を支え、プロスポーツ化への土台ともなる「実業団」制の推進やリーグ等での最低年俸の適用など、選手の経済的地位向上に向けた提言と具体的なアクションの提案があった。

3‐3-4. ファンのコア化

ここでは、遊び、プレー、大規模イベント、オンライン・オフライン観戦といったキーワードでファンのコア化を促す「場の整備」の必要性についての提言が出されたほか、eスポーツを通じた企業の福利厚生によるファンのコア化を実現しようというアイデ
アの提案もあった。

3‐3-5. 法制度/ルール対応のハードル引き下げ

ここでは、施設運営やeスポーツイベントを基軸にしたガイドラインに加え、ゲームタイトル(IP:intellectual property)利用・許諾に関するガイドラインの必要性についての提言があった。

◆YouTubeお役立ち動画/『週刊アスモノ「eスポーツ選手の生活とは?ゲーミングハウス潜入」 日本のトップチーム SCARZ(ジサトラアキラ・せきぐちあいみ) [モーニングCROSS]』
esports
・競技人口は世界で1億人以上、動体視力と反射神経で腕前を競う
・海外では賞金総額20億円超の大会が開催され、プロスポーツとして成立
・まるで合宿所!ゲームに集中するためのゲーミングハウス紹介
・海外の強豪チームとオンライン対戦し腕を磨く
・2022年開催「アジア競技大会」eスポーツを種目として導入予定

4. 社会的意義に関する議論及びその浸透に向けて(提言)

4‐1. 社会的意義についての討議方針

検討会では、eスポーツが内包する社会的意義について、スポーツ庁が「第2期スポーツ基本計画」において定義する「スポーツの価値」(図25)や、国連サミットで決定された国際社会の共通目標「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」の達成に向けてスポーツが果たすことのできる役割をまとめた「スポーツと持続可能な開発(SDGs)」(表6)を参照しながら検討を行った。

4-2. 社会的意義の実現に向けた提言

検討会で議論された提言は、「社会的意義提言シート」としてまとめた(別紙3)。

4‐2-1. 人生を楽しく健康で生き生きとしたものとする

ここは、奨励プログラムなどを通じてeスポーツそのものの普及を図っていこうという提言や、選手の精神・身体ケアサービスを提供し、健康で持続的にeスポーツに取り組める環境を構築しようという提言、eスポーツの持つ医療、教育的効果についてのエビデンスを得るための研究への助成や教育カリキュラムへの導入などを通じてeスポーツの価値を実証していくべきとの提言があった。

4‐2-2. 共生社会や健康長寿社会の実現、経済・地域の活性化

ここは、「共生社会に加え、昨今の「地方創生」にもつながり得る領域であり、高齢者や障害者の参画を促す施策に加え、海外事例も参考にしながら、都市対抗のリーグ戦の開催や各地域への大会用施設の設置を行ってはどうかとの提言が提案された。

4‐2-3. 「多様性を尊重する世界」「持続可能で逆境に強い世界」「クリーンでフェアな世界」の実現

ここでは、青少年の国際交流においてeスポーツは共通言語になり得るとの意見もあり、eスポーツをテーマにした観光ツアーや国際交流の場の設置をはじめ、日本を拠点に活動する選手のための長期滞在ビザ取得要件に明確な基準を設置することにより国際大会の国内誘致を促進するなど、多様な提言が提案された。

 

4-3. SDGsから見たeスポーツの社会的意義

表7は、検討会による社会的意義の実現に向けた提言とSDGs17の目標との関連を示したもので、検討会における議論によると、SDGs の目標17項目中14の項目が合致すると考えられる。eスポーツが本来的に持つ多様な社会的意義をより多くの方に理解いただけるよう、今回の提言の実現を目指していきたい。

 

5. 検討会の総括と今後の検討事項

5‐1. 検討会の成果

検討会における議論を通じて、以下の成果を導くことができた。まず、日本におけるeスポーツの直接市場の長期目標を2025年に 600~700億円と設定すると共に、エコシステム領域における経済活動、波及領域へ及ぼす経済効果を含めた全体の長期目標を2025 年に 2,850~3,250憶円と試算した。

また、長期的な日本のeスポーツ市場の成長に向けて必須と考えられる条件を抽出の上、それぞれに対する提言を具体的なアクションとして取りまとめた。そして、eスポーツが内包する社会的意義について検討を行い、eスポーツが持つ社会的意義が広範に渡る事を確認し、提言として取りまとめた。

5‐2. 今後の検討事項

本検討会での議論を踏まえ、今後も引き続きの検討を要する事項として、以下に3点を提起する。

5‐2-1. ゲームタイトル(IP:intellectual property)利用・許諾に関するガイドラインの必要性

第2章に記載の通り、日本におけるeスポーツの市場規模が目標通りに拡大し、直接市場規模が15倍になったならば、大会の規模は大きくなり、開催頻度も増え、観戦に来るファンやネット視聴者も右肩上がりに増加することが想定される。また、テレビ報道をはじめとするマスメディアへの露出機会が増えることはもちろんのこと、現状は幾ばくも無い放映権料が設定され、スポンサーが増えていくという好循環となるはずである。

そこで、eスポーツ大会を開催しやすい環境を整備するための取り組みの1つとして、検討会では「IP利用・許諾」に関するガイドラインの必要性について検討を行った。

検討会では、IP利用の許諾をどのように取得してよいのか分からない、許諾の取得方法が分かったとしても、その手続きの煩雑さから大会開催やテレビ報道の機会を逸しているのではないかといった意見があり、IP利用・許諾に関するガイドラインを策定し、そこで提示する一定の範囲内であれば、無許諾でIPを利用することを認めてはどうかという提言があった。

一方で、日本におけるeスポーツが黎明期にある中、景品表示法や刑法賭博罪、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律など、eスポーツを取り巻く法整備に関してはまだ道半ばであり、関連当局との調整が必要な場面があるのに加え、主催者の規模や構成も様々で、法令遵守の意識やリテラシーにも濃淡があるのが現状であるとの意見があった。つまり、主催者側に悪意はなくとも、トラブルが発生する可能性は0とは言えないのではないかとの懸念である。

ゲームパブリッシャーとしては、自社が保有するIPを使用して開かれるeスポーツ大会において法的な問題が発生することは、消費者に安心安全にゲームを楽しんでもらう観点からも避けるべきと考えるところであり、大会の健全性の担保は非常に重要である。このような環境下においては、ガイドラインで提示する一定の範囲内であっても無許諾でIPを利用することを認めることは難しいため、当面は「健全なスポーツ大会の開催」に係るチェック機関を設けることが現実的であろうという提言があった。

なお、eスポーツ先進国である米国ではイベント/大会や放送/配信、個人の動画アップロードに際してのIPの取り扱いに関わる環境整備が進んでいる。

イベント/大会に関するIP利用・許諾では、ソフトウェア利用許諾契約(EULA:End User License Agreement)やガイドラインがある。EULAは、ゲーム開始に際して EULA内でIP利用の条件を明記し、その範囲内で自由に使用する事ができる方式である。ガイドラインに関しては、「IP利用に関するガイドライン」を多言語で作成、Webサイト等に掲載しているパブリッシャーがある。許諾が必要な範囲、不要な範囲を明示することで、イベント/大会の開催を促進していこうとするものである。

放送/配信に関するIP利用・許諾では、米国のトラディショナルスポーツ(NFL、NBA、MLB など)とトラディショナルメディア(ESPNなど)の間で一般的にみられる契約形態を参考に、パブリッシャーとメディアの間で包括的契約を結ぶ議論が行われている。試合のハイライトやビデオクリップなどをメディアが基本的に自由に扱えるように包括的契約にて定めることができれば、IPの取り扱い可否について毎回確認する必要がなくなる。

大会の健全性を担保しながらより開催しやすい環境を構築し、本検討会で掲げた長期目標を実現するためにも、IP利用・許諾に関するガイドラインの検討は、権利者たるゲームパブリッシャーの意向を踏まえながら進める必要がある。

5‐2-2. 共生社会や地方創生の実現に向けたeスポーツ情報を発信する拠点の整備

eスポーツを通じた共生社会や地方創生の実現に向けて、日本各地で先進的な取り組みが行われているにもかかわらず、それを水平展開することができず、限られた人しか知ることができていない現状を解決していかなければならない。そこでeスポーツの事なら何でも分かり、かつ情報発信できる拠点を各地に整備していく事が必要である。

設備として大掛かりなものではなく、情報発信する機能があって、関係者がつながることができ、eスポーツに関する知見がネットワークを通じて集約され、誰もがアクセスできる窓口が求められる。更に、集約された情報が共生社会や地方創生の実現のために活用されるなど、現状を変革する力が、拠点から生まれることが望まれる。

現在、JeSUが日本各地に地方支部の設置を進めており、47都道府県への設置を目指している。JeSU地方支部がこうした拠点の役割を担えるよう、支部の設置をさらに促進すると共に情報ネットワークを整備し、共生社会や地方創生の一助となるように努めていく。

また、東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて、パブリックビューイング等の実施のために大画面のモニターと高速の通信環境が整った会場が全国各地に整備されるなどの動きもあり、こうした環境をeスポーツに活用していくための働きかけも行っていくべきであろう。eスポーツという新しい時代の流れを力に、地方へのひと・資金の流れを強化し、誰もが活躍できる地域社会をつくることを目指していきたい。

5‐2-3. eスポーツの持つ教育的価値の探索とそれを支えるエビデンスの取得

前章にも記載の通り、部活動や授業そのものを視野にいれた教育現場へのeスポーツの導入は、eスポーツの更なる発展に向けて欠かすことができないと本検討会では考えている。それは日本におけるトラディショナルスポーツ発展の経緯も踏まえるとなおさらである。検討会では、eスポーツと教育が相互に提供できる価値を、eスポーツのエコシステムにおける人材構成と照らし合わせて検討した(図26)。

 

5-2. 今後の検討事項

まず、小学校、中学校の義務教育課程においては、eスポーツの普及、特に裾野の拡大に向けて、小学校、中学校における課外活動や地域コミュニティにおける活動の定着、促進が欠かせないと考えている。加えて授業における展開についても、eスポーツを通じて、思考力や判断力、表現力等の養成に役立つ事が期待される。また、eスポーツの持つ競技性やゲーミフィケーションの要素は、主体的・対話的で深い学び(アクティブラーニング)のカタリストとしての役割が期待できる可能性がある。

次に、高等学校、専門学校、大学の高等教育においては、部活動への導入により競技力を向上させ、プロ選手の輩出につなげることはもちろん、実学的なカリキュラムとしてeスポーツを授業に採用することで、市場拡大に寄与できる産業人材の育成を行うことができる。

高等学校においては、eスポーツを教育現場に導入していく取り組みが広がりを見せている。このうち神奈川県横須賀市では、部活動や同好会の設立を支援して競技者を育成すると共に地域コミュニティを活性化し、大会誘致やイベント開催を行うことを目指して、IT関連企業4社と連携し、市内の高等学校に高機能パソコンを無償貸与する取り組みを行っている。また、公立高校としては全国で初めて部活動にeスポーツを導入したと言われている福岡市立福翔高等学校の谷本昇校長は、「コミュニケーションやチームワーク等の力が身につく」とし、eスポーツの教育現場への導入は、進学実績や主体性の向上等の相乗効果を生み出していると述べている。

また、大学等でeスポーツに関する学術研究を進めることで、eスポーツの持つ教育的効果やトラディショナルスポーツへ与える影響などのエビデンスを取得していく事も重要である。特に授業への展開に当たっては、必要となる教員の資質やスキルセットを設定する必要があり、その前提となる実証研究は欠かせない。

こうした取組を進めるためには、各学校や大学・専門学校等の教育関係者、教育分野に係る研究者、教育委員会を含めた関係行政機関など様々な者との連携協力を土台に、一丸となった活動を今後展開していく必要がある。本検討会では、eスポーツが持つ教育的価値の探索とそれを支えるエビデンスの取得を進め、あらゆる教育現場への導入を目指していきたいと考えている。

 

5-3. 求められるアクション

5‐3-1. 業界団体

業界団体では、施設運営、大会・イベント実施のガイドラインや規約を策定するなどeスポーツの健全な発展に向けた環境整備を行うと共に、eスポーツ世界大会やプロ選手のセミナー・講習会などを開催することで、トップアスリートが活躍できる場、ファンと触れあえる機会を増やし、eスポーツのすそ野を広げていくことが求められている。

ガイドラインや規約の整備は、eスポーツ実施の標準化に役立つだけでなく、バリアフリーや初心者向けの観点を加味したガイドラインは、eスポーツの世界への間口を広げることにつながるため、業界団体として注力していくべき領域である。

また、情報発信拠点や国際交流の場の整備も、共生社会や地方創生の実現に向けて重要な取り組みとなる。その際、例えば「Japan Annual eSports Report」などの発行も一案である。

5‐3-2. 産業界

産業界においては、マルチデバイスで競技できるeスポーツ専用タイトルの開発やトラディショナルスポーツにおける地域対抗戦へのeスポーツ採用、テーマ別限定大会の開催など、それぞれの企業の事業領域においてeスポーツの魅力向上とその先にある市場成長に寄与することが求められている。

また、障害者にも使える大会公式のコントローラーの開発や都市対抗のeスポーツリーグ創設、大会を基軸にした観光ツアーなどは、共生社会や多様性のある世界の実現に向けて有用であろう。

5‐3-3. 教育・研究機関

教育・研究機関においては、教育カリキュラムへの導入をはじめeスポーツ奨励プログラムの開発やエビデンス研究テーマへの助成など、社会的意義の浸透に向けた取り組みが求められている。特に、eスポーツを教育の場面で活用した場合に得られる効果などは、今後の研究が期待される領域と言える。

5‐3-4. 官公庁教育・研究機関

官公庁においては、業界団体や産業界、教育・研究機関といった各アクターの活動を、特に制度整備等の側面から必要に応じて支援することが求められる。これまで検討が進められている風適法等の国内問題のほか、例えば、eスポーツにおける公式大会などの運営に必要な質保証の水準を整備し、他国から競争優位を獲得していくための国際的なルールの構築・普及などは、日本のeスポーツの多面的な発展のために期待される取り組みと言える。

5‐3-5. 地方自治体

地方自治体については、eスポーツを通じた地域発信・地方創生などの観点からの取り組みが今後期待される。地域におけるイベントとの連動をはじめ、福祉や教育、観光誘客などのツールとして、住民のニーズを的確に捉え、地域の事業者や住民と共にeスポーツに取り組むことで、それぞれの地域に最適なサービスの提供、そしてその先にある地域活性化につながるであろう。

5‐3-6. プレーヤー

プレーヤーは、種目となるゲームタイトルの作り手と同様、場合によってはそれ以上にそのゲームタイトルを熟知した存在と言える。特にプロeスポーツ選手はeスポーツを取り巻くステークホルダーの注目を集める存在として、eスポーツの持つ社会的意義をプレーを通じて具現化し、ファンを魅了すると共に、その実力に裏付けされた発言を通じてeスポーツの持つ魅力をより多くの人に伝える、伝道師としての活躍が期待される。

 

6. 最後に

今回の検討会を通じて、黎明期にあると言われる日本のeスポーツが今後どのように発展しうるのかについての予測を重ねてきた。その結果、直接市場規模としては現在世界で最大規模を誇る米国に匹敵する可能性が、600億から700億円という長期目標として示唆された。そして、それ以上の市場成長をも見据えた成長施策と、eスポーツが本来的に持つ社会的意義を日本に浸透させ、eスポーツを文化として根付かせていくための提言が取りまとめられた。

こうした施策や提言が着実に実施され、長期目標が達成された時、日本のeスポーツは、そして社会はどのような姿になっているのだろうか——。

——2030 年。日本が「eスポーツ先進国」の仲間入りを果たして久しい。eスポーツファンの数は2,600万人を超えてプロ野球に並び立つほどに成長した。 eスポーツ専用アリーナは今や全都道府県にあり、3,000人以上を動員できる大型施設も全国で10施設を数え、毎晩様々なゲームタイトルのeスポーツ大会が催されている。そこで戦うプロチームや選手のレベルはいずれも高く、世界レベルの試合でも活躍しているものばかりだ。

試合会場は、お気に入りのチームのグッズを求めて列をなす若者、2世代でeスポーツを楽しむ親子連れ、海外から応援しに来た外国人ファンなど大勢で賑わっている。観客がチケット・グッズ・飲食などで1日に使う金額は、ゲームソフトが1本買えてしまうほどだ。

2020年代に普及した5Gネットワークにより、今やモバイルデバイスやVRゴーグルを使って、いつでも・どこでも試合を観戦することが可能だ。リーグ戦の試合結果はテレビのニュースでも速報されるから、翌日の職場や学校の話題の中心は、もちろんeスポーツだ。そう、多くの人々が、カジュアルに楽しむeスポーツのプレーヤーであるとともに、プロのプレーに魅力され試合結果に一喜一憂するeスポーツのファンなのだ——。

——とあるゲーム会社。今後発売される大型タイトルの制作から販売に至るまでの戦略が話し合われている。この5年で放映権やグッズ販売、ゲーム内広告はゲーム産業の一大収益源となり、eスポーツの様々なレイヤーに新規参入が相次いでいる。また、eスポーツの中継を観てダウンロードするゲームを決めるユーザーが半分以上になったとのアンケート結果もある。今回のゲーム制作においても各プレーヤーの目線や俯瞰した中継・実況のしやすさ、チーム紹介やスポンサー広告の新しい表現方法などこれまでのゲーム制作現場にはなかった議論が行われている——。

——とある地方都市。健全なeスポーツの大会運営が定着し、IP利用に関するガイドラインが策定されたことで、放送、広告、リーグ運営などへの参入企業が増加したのはもちろん、教育現場におけるeスポーツの活用も進み、eスポーツのすそ野は格段に広がった。大会や交流会といったイベントも教育機関や自治体により活発に開催されるようになったことで、世代や属性を超えた交流がより促進され、子どもたちには良い刺激になっているようだ。それに、イベント実施やインターネット放送はもちろん、eスポーツ選手をアンバサダーとして起用するなどPR施策の幅が広がり、地方それぞれの認知度向上や地域住民のアクティビティ増進に寄与している。このような特色を持つ日本のeスポーツは規格化された1つのパッケージとして世界に輸出され、日本のエンターテインメント産業は新しいステージに入った——。

——とある地方都市の中学生。今日の授業のハイライトはeスポーツを通じた英会話だ。海外の学校のチームとのチャットはもちろん、仲間同士との会話も英語で行うことに挑戦した。授業の最後には、先生からはどのように敵陣を崩していけばよいか、一人2案の戦術プランを提出するようにとの宿題が出た。

部活では、開催が間近に迫った全国中学校 e スポーツ選手権大会の県予選に向けて練習をしたが、コントローラーがどうもしっくりこない。地元のeスポーツ情報拠点に相談に行ったら、そこのスタッフ曰く、隣町のeスポーツ練習施設に勤める技師がコントローラーの調整をきめ細かくしてくれるとの事。学校や仕事帰りに立ち寄れるeスポーツの練習施設は、今では地方都市であればどこにでもある。そして子どもの習い事として大人気なのは、プロチームが経営するeスポーツアカデミー(塾)だ。次世代選手の育成の場であるとともに、チームの貴重な収入源になっている。プレーヤーとして腕を磨いてプロとして活躍するのが今の自分の夢だ。そして引退後は、アカデミーで講師をして、未来のプロプレーヤーを生み出したい。

情報施設のスタッフは、「コントローラーの調整に行くのなら、ついでにその技師からプレーの指導も受けてくると良いよ」とアドバイスをくれた。何せその技師は、自分と同じ障害がありながら、無敵と称されたプロeスポーツ選手だったのだから——。

こうした世界は、決して絵空事ではないように思える。本検討会が思い描いているのは、eスポーツの普及・発展により社会がより豊かになり、地域がより幸せになり、一人ひとりの人生が楽しく生き生きとしたものとなる世界である。

本検討会では、今回の提言がどのように実行されていくのか、そしてその結果日本のeスポーツがどのように発展を遂げ、日本という国がどのように豊かになっていくのかに引き続き注目すると共に日本や世界の成長発展にeスポーツが貢献できる道を探り続ける事を宣言し、本稿の結びとしたい。

経済通産省 委託調査報告書を参照