ソフトバンクテクノロジー作成!デジタルガバメントの意味と事例

エストニアなど、世界的にもデジタルガバメントが大きな流れになってきています。様々な施策に関する数字データを収集公表することで、行政側と住民側の相互理解が進み、適切な税金運用が実現する社会へ。ソフトバンクテクノロジーが作成した今回の企画書は、地方での取り組み実例も紹介されています。

デジタルガバメントの本質を突いたコメントを、以下紹介します。

「インターネットを通じて市民と行政がぐっと身近に接することができるようになった環境を上手に活かして、市民がより積極的に社会課題の解決に参加する社会を実現するには、公共データの活用に限らず政策の決定プロセスや実行段階でも市民が積極的にかかわり、さまざまなアイデアや工夫を凝らしながら社会の課題に取り組んでいくことが必要です」

 

【デジタルガバメントとは】
デジタル・ガバメントについて
デジタル・ガバメント|政府CIOポータル
デジタル・ガバメントとITガバナンス~政府のITガバナンスに係る政策動向~
座談会・対談:デジタル・ガバメント―Society5.0時代の行政

【デジタルガバメント先進事例】
デジタル・ガバメント実現に向けたわが国の課題―欧州のデジタル先進国に「Digital Government」から学ぶ
米国行政における電子化(デジタルガバメント)及びクラウド活用の現状(2018年9月)
デジタルガバメントの生みの親が語る「エストニアが世界最先端のデジタル国家になった理由」

「エストニアが世界最先端のデジタル国家になった理由」より

 

【目次】
1. 今回の企画書の特徴
2. 『平成27年度電子経済産業省構築事業「オープンガバメントの推進に関する調査研究」報告書』から学ぶ
3. 表紙
4. 目次
5. 本事業の概要
6. 事業内容
7. 本事業のスケジュール
8. 付録1/コラム特集1
9. 付録2/コラム特集2
10.付録3/オープンガバメント実践紹介1
11.付録4/オープンガバメント実践紹介2
12.付録5/共通語彙基盤に関するアンケートの実施結果

 

1. 今回の企画書の特徴

今回の企画書は、オープンガバメントに関するノウハウが記載されています。ポイントとなるキーワードを、以下に記します。

・電子行政
・公共データの活用の促進
・OPEN DATA METI
・地方公共団体オープンデータ推進ガイドライン
・経済活性化
・官民協働による公共サービス
・行政の透明性・信頼性の向上
・共通語彙基盤
・オープンガバメントラボ
・国内外のオープンガバメントの取組
・仮想化技術を使ったシステム運用
・クラウドの活用
・アクセス集中が発生した時のオートスケール機能
・Secure IDカード

 

2. 『『平成27年度電子経済産業省構築事業「オープンガバメントの推進に関する調査研究」報告書』から学ぶ

では、ソフトバンク・テクノロジーが作成した企画書を以下具体的に見ていきましょう。

3. 表紙

1. 本事業の概要
1.1. 本事業の目的
これまで「新たな情報通信技術戦略(平成22年5月11日高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(以下「IT戦略本部」と言う。)決定)」及び「電子行政推進に関する基本方針(平成23年8月3日IT 戦略本部決定)」の主旨に則り、電子行政に関するタスクフォースを中心に、我が国におけるオープンガバメントの推進について議論が行われてきた。

また、平成26年6月24日に閣議で改定が決定された「世界最先端IT国家創造宣言」においても公共データの活用の促進が明記されているほか、平成26年4月25日には「電子行政分野におけるオープンな利用環境整備に向けたアクションプラン」がCIO連絡会議決定されるなど、政府一丸となって行政のオープン化を推進しているところである。

これらの状況を受け、経済産業省では、平成25年1月に経済産業省が保有するデータをカタログ化した特設サイト「Open DATA METI」(β版)の公開や、独立行政法人情報処理推進機構(以下「IPA」と言う。)と協力し、関係者間で情報の連携を行うための共通の辞書である「共通語彙基盤」の整備等に取り組んでいる。また平成26年度にはオープンガバメントの実現を目指し、様々な実証を行っているサイト「オープンガバメントラボ」の改修を行うなど、オープンガバメント及びオープンデータに積極的に取り組んでいる。

本事業では、オープンガバメントを更に加速させるため、「オープンガバメントラボ」のコンテンツ拡充や「共通語彙基盤」の普及啓発等を行い、その効果検証を行う。また、オープンガバメントに係るウェブサイトの安定稼働に向けた環境整備を行い、国民の利便性の向上を図る。

2. 事業内容

2.1. 「オープンガバメントラボ」のコンテンツ拡充による、オープンガバメントの広報に有効なコンテンツの調査
平成26年度の事業において、改修を実施した「オープンガバメントラボ」についてコンテンツの拡充を行った。
・最新の国内外のオープンガバメントの取組について、調査を行い「参加」「透明」「協働」について整理する。
・日常的に国内外のオープンガバメントに関するニュースについて集約する。
・オープンガバメントに係る有識者や先進的に取り組んでいる自治体、事業者等から寄稿をいただき、定期的に掲載する。
・経済産業省においてオープンガバメント関係の講演に使用した資料を掲載する。

(2) オープンガバメントラボ コラム特集2
多様な参加と合意形成を可能にするオープンガバメントとは?〜産官学民、7人のプレイヤー課題と可能性を語る(付録2)
座談会参加者

・平本健二 経済産業省CIO補佐官(政府CIO上席補佐官)
・奥村裕一 東京大学公共政策大学院 客員教授
・村上文洋 株式会社三菱総合研究所 主席研究員 一般社団法人オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構(VLED)事務局
・信朝裕行 内閣官房IT利活用戦略推進官
・関治之 一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事
・庄司昌彦 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)准教授・主任研究員。学習院大学/横浜市立大学非常勤講師
・小林巌生 特定非営利活動法人リンクト・オープン・データ・イニシアティブ副理事長 有限会社スコレックス代表取締役社長 一般社団法人オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構委員〈オブザーバー〉…一部座談会で発言あり。
・ソフトバンク・テクノロジー株式会社 営業本部 公共営業統括部 プロジェクト推進部 青木沙織 (事務局)
・NPO 法人横浜コミュニティデザイン・ラボ(記録) 代表理事 杉浦裕樹/理事 宮島真希子

2.2. 「共通語彙基盤」の普及啓発に係る調査
官民にわたる多くの組織がオープンデータを活用し、分野を超えた情報交換を行うには、個々の単語について表記・意味・データ構造を統一し、互いに意味が通じるようにする必要があるため、経済産業省とIPAは、統一のフォーマット(構造)でデータ化し、誰もが共通利用できるようにする枠組みとして「共通語彙基盤」の構築が進められているところであり、「共通語彙基盤」は自治体を含めた行政機関に広く導入され、かつ民間企業もその内容や効果を理解する必要がある。

そのため、自治体向け及び一般国民向け(民間企業を含む)に「共通語彙基盤」に関する広報資料を作成し、広くその周知を図った。広報手法として、ロゴ・マスコットキャラクターの公募と選定委員会の開催、広報用パンフレットを作成した。

(1)共通語彙基盤に関するアンケートの実施
全国の自治体向けに「共通語彙基盤」の認知状況についてアンケート項目を作成し、IPAの説明会、または、個別自治体に向けて、アンケートを実施した。アンケートの実施結果は付録5のとおり。

(2) 広報用ロゴ・マスコットキャラクターの公募と選定
「共通語彙基盤」の認知のため、ロゴ・マスコットキャラクターを公募し、選定した。応募件数は、応募総数は、ロゴ 74 件、キャラクター47 件であった。公募するにあたっては民間のウェブ制作等でも多く活用されているランサーズを活用し、広く募集を実施した。

応募作品数
74件
募集期間
開始:2015年08月10日14:52 締切:2015年08月31日14:50
募集要項
経済産業省及び独立行政法人情報処理推進機構(IPA)では高度な情報流通社会の実現を目指して共通語彙基盤プロジェクト※を推進しています。

共通語彙基盤では情報交換の際に用いる共通語彙と構造の定義を進めており、2015年2月にバージョン2がリリースされました。今後も継続して語彙の改善と拡充や国際協調を進めていく予定ですが、同時にブランディングと周知活動にも注力していきます。

そこで、周知活動とブランディング強化の一環で、ロゴマークとイメージキャラクターのデザインコンペを行うことにいたしました。みなさんの力作をお待ちしております!なお、当コンペは経済産業省の委託事業の一環としてインフォ・ラウンジ合同会社が主催しています。共通語彙基盤についてはプロジェクトサイトをご覧下さい。

希望ロゴ種類
ワードロゴ 文字を中心にデザインしたロゴ。絵や図を含むピクチャーロゴ 企業・サービスを絵や図で直接表現したロゴ
抽象ロゴ 企業・サービスの理念等を抽象的に表現したロゴWEB2.0 系ロゴ ウェブ系のロゴに多く見られる先進的なロゴ

2.3. オープンガバメント関連サイトの運営を通した適切な引き継ぎ業務の整理

(1) システム運用
オープンガバメント関係で経済産業省が構築・運用しているウェブサイト(下記参照)の一元管理を行い、サイトの安定稼働に向けた環境整備を行った。一元管理は、サーバ一台による管理ではなく、コストやウェブサイトに求められる機能・容量や各サイトのアクセス数等を踏まえ、最低限の台数のハードウェアに仮想化技術を使って集約し管理するとともに、経済産業
省の求めに応じて柔軟にサーバのスペックを調整し、利用者の利便性を損ねることのない最も効果的なパフォーマンスを提供できる環境を運用した。

(2) クラウド環境
クラウド環境では、サーバ台数や、リソースを増加することが簡単に行えるメリットがある。また、アクセス集中が発生した場合のオートスケール機能や CDN(Contents Delivery Network)、インメモリキャッシュサービスなど、最適な Web サービスを提供するために必要な機能を必要な分だけ利用できる高い柔軟性がある。

クラウドでは、分散されたクラウドサービスを用いることで、自然災害などで被害を受けたシステムを復旧・修復するためにリソースの分散化が可能。(本年度は日本国内データセンターを採用)

クラウドサービス上に1台のサーバを構築して、すべてのサービスについて一元管理を行う。将来的にトラフィックの増加や、機能を追加する場合には、必要に応じてサーバ台数やリソースを追加が可能である。データセンター内のネットワークやサーバといったハードウェアは冗長化されており可用性が確保されている。また、障害時は別の場所へトラフィックを誘導してサービスを継続が可能である。

(3) 適切な環境の構築堅牢性
クラウドサービスは、世界中からアクセスがある膨大なリクエストを処理できる世界最高レベルの堅牢で安全なデータセンターを選択することとする。

(4) 物理的対策
・24時間365日の監視
・モーションセンサーの設置
・監視カメラによる監視・生体認証による入退出管理
・セキュリティ境界線突破時のアラーム通報

(5) 情報漏洩対策
・サポート/サービスチームは、Secure IDカードもしくはRSH Secure ID Tokenを利用した認証を行う・データは全て128ビットで暗号化/全通信はHTTPSで行うこととした。

(6) 完全性
データ保護については、可用性を考慮し、3重化して保持することとした。

(7) 可用性
物理的対策
・複数の発電機を装備
・電源は複数の発電所から2系統
・各ラックでの電源2重化
・バッテリーによるバックアップ
・発電機用の燃料は、地震などで道路が寸断された場合には空輸
・コンピューターコントロールによる空調制御

(8) ネットワーク対策
・冗長化、フルフェイルオーバー

(9) 運用保全
コンプライアンスについては、以下の認証を受けたサービスとした。
・ISO27001
・SSAE16 SOC1 Type2外部監査

(10) セキュリティ対策(仮想化ハードウェアに関するセキュリティ要件)
クラウドサービスは、24時間365日のサーバの死活監視と障害復旧を行っているサービスを選択することとし、ハードウェアに障害が発生した場合、システムを停止することなく、機器の交換を行い、クラウドにリソースを追加できるものとした。

クラウドサービスは、一般的に対策が難しいとされるDDOS対策をグローバルネットワークレベルで実現できるサービスを選択し、ファイアウォールやIDSといったセキュリティシステムを実装しているものとした。また、ネットワークは仮想マシンレベルで分離されており、安全なクラウド環境の構築を行った。

(11) ソフトウェア
構築に使用するソフトウェアは全てオープンソースのものを活用し、ベンダーロック(特定業者依存)を回避し、オープンガバメントの促進、模範となる構築を実現することが望ましい。使用するソフトウェアは、オペレーションシステムに CentOS、データカタログにCKAN、エンドポイントに Virtuoso、CMSにWordPressとした。

付録1.コラム特集1
オープンガバメントが進める公共改革

東京大学公共政策大学院 客員教授 奥村裕一

1  はじめに
2  オープンガバメントが進める市民参加型公共改革に踏み出す
3  これまでの公共改革政策との大同団結
4  参考になる EC 委員会のオープンガバメントの概念
5  オープンガバメントが進める市民参加型公共政策体系モデル
5.1 オープンガバナンスの公共政策体系モデル
5.2 オープンデータ実行モデル
5.3 オープン意見集約実行モデル
5.4 オープンサービス実行モデル
6  行政の新しい役割とオープンガバメントの担当部局
7 さいごに

奥村裕一(おくむら ひろかず) 東京大学公共政策大学院客員教授
通産省時代に現場の電子申請手続きに関心を持ち、貿易経済協力局長退官後電子政府の研究に入る。2005年東京大学大学院法学政治学研究科特任教授。同年ハーバードケネディスクール客員研究員。研究関心はデジタル時代の行政近代化、オープンガバメント、ソーシャルアーキテクチャ。1948年生まれ。

1. はじめに
先日、内閣官房IT推進室の電子行政オープンデータ実務者会議が「地方公共団体オープンデータ推進ガイドライン」(以下:ガイドライン)を策定公表しました。地方公共団体向けの「最初の手引書」も同時に公開しておりなかなか親切です。(詳細は、内閣官房のウェブサイトを参照)このオープンデータは、行政の持つデータを機械判読(コンピュータでデータ処理)が可能な形で誰でも使えるよう公開し、それを使って市民・NPOや企業が社会の課題に役立つようにデータを見える化したりデータを組み合わせた新しいアプリを作ったりして公共的なサービスを提供する一連の活動です。

しかし、オープンデータの認知度はまだかなり低いものです。オープンデータを推進している内閣官房が昨秋に「ガイドライン」策定に関連して行ったアンケート調査によりますと、よく知っていると回答したのは、自治体では13.7%(回答団体1750 団体中239団体)、市民に至ってはわずか回答者の2.6%(1034人中27人:しかもインターネット上の調査)でした。これはオープンデータが社会にまだ定着していない表れでしょう。

この低い認知度を抜本的に高めるにはどうすればよいでしょうか。このためにはオープンデータ(そしてその行き着く先であるオープンガバメント)が市民にとってもっと身近なものになる必要があります。これまでのように①経済活性化や②官民協働による公共サービス、③行政の透明性・信頼性の向上にあると並列してその意義を説明するだけではなかなか浸透しません。また、手法から入ってまずはデータを機械判読な形でオープンにすることだと聞くとITのプロはともかく普通の人はしり込みします。市民はもちろん行政の中でもそうだと思います。

認知度アップには、オープンデータは「オープンガバメントが進める市民参加型公共改革」の第一歩であり、そこでは市民と行政の役割がこれまでとは大きく変わって、市民が主役で行政はプラットフォームになるというグランドデザインを示す必要があります。

2.オープンガバメントが進める市民参加型公共改革に踏み出す
インターネットを通じて市民と行政がぐっと身近に接することができるようになった環境を上手に活かして、市民がより積極的に社会課題の解決に参加する社会を実現するには、公共データの活用に限らず政策の決定プロセスや実行段階でも市民が積極的にかかわり、さまざまなアイデアや工夫を凝らしながら社会の課題に取り組んでいくことが必要です。

そしてこのためのプラットフォームとして、行政がまずオープンになろうと宣言したのがオープンガバメントの背景にある考えです。行政データや情報(公共財的な非行政データを含みます。

以下まとめて:データ)の透明性、政策形成への市民参加、市民との協働による行政サービスの提供という三拍子が揃ってオープンガバメントは完成します。

今回の「ガイドライン」で自治体にとっての意義に「地域課題の解決」の視点を入れたことは市民に近づく原点であり、大変良い方向だと思います。さらに地域にとって重要なことは、近代化・都市化が進むにつれて崩壊してきた地域コミュニティの再生です。実際にオープンデータの催しに参加した私の実感からも市民の間に新しい絆が生まれ始めており、上手に育てれば地域コミュニティの再生の大きな手段だと考えています。

ところで、市民とともに地域課題さらには社会課題(以下まとめて:社会課題)の解決に取組むという視点から考えると何が必要でしょうか。どんなことでもそうですが、ものごとを考えるときにまずデータや情報がないと何も考えられません。いい知恵も湧いてきません。社会課題の解決も同じです。これまで行政だけで取組んでいた社会課題の解決に市民とともに考えていくとなると、社会の実態を表すデータを市民とも共有して一緒に考えられる環境を整えることがまず必要です。

これが、オープンガバメントのうちの最初に手掛けるオープンデータです。ただ、市民や企業はオープンになったデータを使ってアプリを作ったりしているだけでは不十分です。それが地域の抱える課題にどう向き合っているのか、どの部分の解決に具体的に役立っているのかをしっかり意識して取り組むことが大事です。

この手助けとなるよう、社会課題ごとに行政がまとめ役となって解決策の全体を見渡せるカタログ(政策のカタログとアプリのカタログ;アプリのない政策もあるし、複数の政策にまたがるアプリもある。全体を政策・サービスカタログとして整理。このカタログには費用対効果などの評価データも含む。)を作ってみることが必要だと思っています。

カタログには行政がすでに手掛けているサービスもくまなく入れますし、オープンデータを使っているいないにかかわらず市民が手掛けているサービスも入れていきたいと思います。こうして公共サービスの全体のカタログが出来上がります。このようなカタログを市民と行政が一緒になって手掛けていくと協働のいい実例ができていくことになると思います。

また、社会課題の全体を見渡したカタログも作るといいでしょう。そして、政策・サービスカタログと社会課題カタログを丁寧に付き合わせていくと、まだ対応が不足している課題もよく見えてきます(こうしたカタログはオープンデータの段階で作成し、あとで触れるオープン意見集約やオープンサービスでも利用していくように実行モデルに組み込んでみました)。

次に必要となるのが、行政自身で手掛けたほうがよいサービスか市民に任せたほうがよいのかの判断と行政自身で手掛けたほうがよいサービスについての市民の意見の反映です(これもあとで触れるオープン意見集約やオープンサービスでもそれぞれの実行モデルに組み込んであります)。

このような整理の手順を踏んで、いよいよ課題解決策の具体的な設計に入っていきます。ここでも市民との協働が大変有意義です。その際に視野に入れたいのは市民と行政の電子的な情報のやりとりを可能にするデジタル環境を利用して一人ひとりの市民の実情を反映したサービスの提供です。このためにもマイナンバーが個人の安心した特定に役立つよう、うまく機能して欲しいものです。

3.これまでの公共改革政策との大同団結
振り返ってみれば、行政と市民との関係を見直す試みはこれまでも行われてきました。一つは、地方自治体レベルで市民参加・協働の推進という形で進んできた動きがあります。

自治体では住民自治基本条例、市民参加。協働条例などが作られてきました。二つめは、自助・共助・公助といったスローガンに見られる阪神淡路大震災以降の災害対策やNPOの成長による福祉政策にみられる動きです。

三つめは、政府が包括的にこうした動きを促進しようとした施策です。ざっと見ただけでも、「社会的責任に関する円卓会議」(2009年3月発足;担当:内閣府国民生活局)、NPOを支援し共助の精神で活動する「[新しい公共]円卓会議・推進会議」(2010年1月発足;内閣府政策統括官・経済社会システム担当)、自立した市民参加型社会を斬新な討議手法と公開方式で打ち出した「国・行政のあり方に関する懇談会」(2013年10月発足;内閣官房行政改革推進本部事務局)がありました。

しかし、「デジタル時代の公共改革」であるオープンガバメントがこれらと異なるのは、デジタル技術を前提に社会で広くデータを共有しながら「公共改革」をしようというところにあります。私たちはデジタル社会に入っているわけですから、上にあげたような公共改革、すなわち、市民参加・協働にしろ、自助・共助・公助にしろ、新しい公共にしろ、自立した市民参加型社会にしろ、デジタル技術の利点をうまく活用して進めるに越したことはありません。

私はこれまでの「公共改革」もオープンガバメントも大同団結して「デジタル時代の公共改革」に取り組む全体の司令塔が政府や各自治体に欲しいと思います。

ところでデジタル技術を活用する利点ですが、ここで強調したいことは二つです。ひとつはデータ分析とデータや分析結果をわかりやすく見える化することによって、市民がいろんな課題を深く考える材料が各段に増えることです。これは市民だけでなく、行政職員にとっても同じです。

社会の動きを映し出すデータを使って政策を考え行政をよくするというエビデンスベースの政策分析立案能力がいっそう高まりますし、オープンガバメントをきっかけに政策への科学的アプローチをしっかり身につけて欲しいと思っています。見える化されたデータを見て政策を考える道筋をつけていくわかりやすく使いやすい「エビデンスベース政策見える化アプリ」の開発も必要になってくると思います。

もうひとつは、これまでにない幅広い市民の意見の収集と共有です。ソーシャルメディアによってこれができるようになりつつありますが、政策の議論をするのに向いている「政策論議ソーシャルメディア」もいろいろ出てきて欲しいところです。これには先の「エビデンスベース政策見える化アプリ」も上手に組み込んであることが望ましいでしょう。

4.参考になるEC委員会のオープンガバメントの概念
EC委員会の提案するオープンガバメントは、2009年にオバマ政権が打ち出したオープンガバメントの政府の三原則である透明、参加、協働の上に立って、オープンデータ、オープンサービス、オープンデシジョン三つの活動領域を分かりやすく打ち出しています。(図1)

この図から見ると、オープンデータはオープンガバメントの一部で、オープンサービスとオープンデシジョンという残りのオープン活動領域も揃って初めてオープンガバメントの枠組みが出来上がります。さらにこれを社会全体が包む形ですが、そこは市民と行政が一体となり、オープンガバナンスで規律されるというわけです。ガバナンスというのは、社会全体をうまく回していく働きと考えて下さい。

そして真ん中のオープンガバメントは、これからの行政の姿を現わしていて、三つのオープンを機能させるための推進役でもあり、調整役でもあり、基盤づくり役でもあります。

しかも今までのように、行政という閉じた世界で物事を決めて実行すればよいということではなくなってきます。これがオープンという意味で、その対象が、(情報を含む)データ、(政策の)デシジョン、(市民が実際に受け取る)サービスだというわけです。この三つの活動領域にたいして、内容に応じて多少の強弱はありますが、透明、参加、協働という三原則をあてはめていくということになります。

5.オープンガバメントが進める市民参加型公共政策体系モデル
EC委員会の考えやオバマ政権の原則を参考にして、以下ではより実践的なオープンガバメントが進めるオープンガバナンスの市民参加型公共政策体系モデルを提示します。

そしてこれには、オープンデータ、オープン意見集約、オープンサービスという三つの活動分野がありますが、それぞれの実行モデルをサブモデルとして提示します。特に重要なことですが、行政は市民とともに市民参加型の社会課題解決体系(公共政策体系)のカナメとしてオープンガバメントに移行し、社会のオープンガバナンスの推進役、調整役と基盤づくりの役を担っていくことになります。

こうして、これまでの市民ではなく行政や議会が見つけた課題に特化して取り組みが推進される公共政策体系から大きくパラダイムシフトが起きます。

なお、以下のモデルは理念系です。全体を一気に実行する必要はありません。原理原則を踏まえつつ、行政現場の実情にあわせて、三分野のどこから手がけるか、別の手法を考えるかは自由です。オープン開発の考え方で、皆さんの知恵と経験を元にこのモデルを磨いてバージョンアップできればよいと思っています。

(1)オープンガバナンスの公共政策体系モデル
このモデルの目標は、市民参加による社会課題の解決です。そして、これは三つの活動分野からなります。すなわち、①オープンデータ、②オープン意見集約、③オープン(公共)サービスです。

オープンデータは行政の持つデータの積極的な公開とその市民の利用、オープン意見集約は市民による社会課題の発見から始まって政策に対する意見集約までを言います。オープン(公共)サービスは、市民の参加を得た実際の政策形成から政策をサービスとして実施することまでを言います。

それぞれに、行政は透明、参加、協働の原則を持って当たり、行政自身はオープンガバメントとなります。一方市民は、学
習、参加、協働の原則を持ちます。

ここで市民の学習原則は、公共政策実行への市民参加について多くの市民はあまり経験がなく、社会課題の解決に必要な合意とは何かなどの経験をしっかり時間をかけて積む必要があるからです。

つまり、公共の利益とは何かを実践的に理解していく過程です。地方自治は民主主義の学校といわれますが、オープンガバナンスの公共政策体系の実践が地域コミュニティの再生の契機となりさらにそれによって市民が主役の公共政策体系が改良されていく、という正の循環が生まれれば、より進んだ民主主義の学校になると思います。

以下に、三つの活動分野をさらに詳しくした実行モデルを示します。

(2)オープンデータ実行モデル
このモデルは、三つの活動分野の最初に来ます。その流れは次の通りです。

まず行政部内のデータの一覧を作成します。これが意外とできていないところが多いと思います。オープンデータの対象は以下を参考にして欲しいと思います。これまでオープンデータの対象としては左欄のファクト系が大部分(それでもまだ不十分)でしたが、市民参加のオープンな政策形成を考えると右欄のポリシー系のオープンデータの充実が必要です。

現在、これに近い要素がある自治体広報紙オープンデータ推進協議会といったボランティアの団体もありますが、単に広報の視点だけではなく、政策形成の一環としてとらえなおして、この分野のオープンデータを検討して欲しいと思います。ここまで行けば、政策の実施を受け持つサービス型アプリも市民の力で開発されてくると思います。

なお、情報の流れの側面から行政の機能を見ると、社会の姿を客観的にとらえて政策に反映させようとする情報の収集機能があり、これが政府統計の起源でもありますが、これからは統計類に加えて、社会の中での事象をTwitterなどの文字解析情報分析なども活用されていくと思います。オープンデータ対象分類ではファクト系になります。

さて、ここで作成するデータ一覧ですが、全て網羅的に整理しておくことが肝心です。そのデータの管理責任者もはっきりと決めたほうがよいでしょう。そして、行政部内全体の現在のデータカタログを作っておくといいと思います。これは次の三つに分類されます。

まず、①ファクト系データカタログ、②政策・サービスカタログ、それに③社会課題カタログです。②の政策・サービスカタログは、上の表のポリシー系を念頭に作成してください。通常は行政と議会を分けて作ります。

行政では一つの政策について、上の表の「政策の内容、理由、手続」、「法律、規則、通達、文書」、「予算・決算」、「予算支出状況と政策評価」が体系的につながっていることがわかるようなカタログを作ると良いでしょう。③は社会課題の解決がオープンガバナンスの公共政策体系の目的という点から重要な整理で、アンケートなどからデータとして整理すべきでしょう。モデルには描いていませんが、この三つのカタログを有機的に組み合わせることができるウェブサイトがあると良いと思います。

次に、公表不公表の分類と重複データ・不足データの整理です。データは原則公開ですが、一部は個人情報保護や治安の観点で公表不公表の整理をしていきます。できるだけ早く多くのデータをオープンデータ形式で公表したほうがいいので公表計画を作ったうえで、予算制約などもありますから、公表の順序は地域で優先順位の高い分野からの公表手順を決めていくのも一案です。

こうして決められた公表データ対象について、データ形式を決めていきます。ここで、「ガイドライン」と違って、人向けデータ形式も検討するようにしてあります。これは機械読み取り可能なデータ形式だけでは人はわからず不親切だからです。米国でも機械読み取りだけでは困るという議論が市民からあります。

特に政策の良し悪しを市民が考えていく際には、人にわかりやすくデータを公開することも重要です。見える化構造化と書いてあるのはその趣旨です。構造化というのは、例えば政策について、その政策内容だけでなく、その政策の根拠としたデータ、データの判断、政策の実際の手続などをわかりやすく体系化してウェブ上に示すことを意味しています。機械判読データ形式は「ガイドライン」を参照してください。

そしていよいよ、オープンデータを使ったアプリの作成奨励です。アプリを作成する場合に、ぜひ地域の課題は何かそれにどう役立つかをいろんな関係者から意見を聞きながら作ってください。最近あちこちで行われるようになったアイデアソン、ハッカソンは公開原則で進めるという素晴らしい進め方をしています。ただ、お祭り的にこれらを開催して終わりということにならない工夫も必要です。このためにも、モデルで書いたその次のステップの振り返りとしてのアプリ利用度チェックとアプリ改善奨励をぜひ進めてください。

新しい試みとして、GLOCOMの庄司昌彦氏が提唱したマーケソンというのがありますが、これは開発したアプリの実用可能性を探るイベントです。このマーケソンで勝ち残れるかどうかは、アプリが単にデータの加工段階に留まるのではなく、データ分析の結果を利用して市民が求めているサービスを提供することができるかどうかにかかっています。

これなども今後あちこちで取り上げられて、オープンデータからより実益性の高いアプリ、さらに進んで政策の実施を受け持つサービス(公共政策体系モデルの右上のほうのアプリ開発から下に矢印が出ている部分に相当)ができてくることを期待します。もちろん、後者のような政策実行サービス型アプリが開発されるには、ポリシー系のオープンデータの充実が不可欠です。

(3)オープン意見集約実行モデル
次の段階は、政策についての市民の意見集約です。私は独立してこの段階を行うより、次のオープンサービスとつなげて、いいかえれば具体的な政策対象を念頭において、オープン意見集約を進めたほうがよいと考えています。

詳細な流れは図を見て頂くとして、この意見集約段階で大変重要なことは三つあります。一つは、市民の学習環境を整えることとそのプロセスを設けることです。ある特定の分野の意見を市民から聞くわけですから、市民が考えるにあたって必要なデータを体系的にわかりやすく提示する必要があります。

これが、オープンデータモデルのところで書いた人向けのデータ公開形式やポリシー系のオープンデータの充実に通じる点です。また既存の政策について、政策実行主体を念頭にして、官民協働型・行政中心型・市民中心型の分類を知ることも必要です。

さらに、複数の専門家の意見を市民に聞いてもらうことも必要です。サイトで意見を知る市民向けには、これまでのようにある課題の検討会などの議事録を公開するだけでは十分ではありません。議事内容の構造化、つまり分かりやすい整理と見える化による提示が必要です(ここは厳密にはオープンデータの活動分野です)。そして市民からの意見の出しあいは一回にとどめず、専門家の意見を聞いた後でもう一度行うなどの工夫が必要です。

二つ目は、現行SNS技術の限界と意見の社会的公平性の問題への対処です。具体的には、集会形式の実の会議での意見交換 SNS による意見交換のハイブリッドを考えて欲しいということと、意見を述べる市民の選択の問題です。外国でよく議論される形式では、集会は(階層別などもありうる)無作為抽出による選択とネットの場合は自由参加の組み合わせなどです。

三つ目は全体の進行の存在で、公平中立な立場でかつ意見を出しやすい雰囲気を作れるファシリテータが必要なことです。今後、オープンガバメントの舞台回し役になる行政ですから、理想は行政職員にこういう経験を積んで欲しいと思っていますが、政策遂行にかかわっている立場を離れてどこまで公平中立な立場を貫けるかですが、市民からの信頼を得るためにそれなりの制度的な工夫も必要でしょう。

(4)オープンサービス実行モデル
いよいよ政策の中身を決め、そして実施するサービス実行段階のモデルです。このサービスは、単にウェブ上での情報のやり取りで済むようなサービスに限りません。労働の提供によるもの、金銭の提供によるもの、施設の貸与などすべての行政サービスが対象です。

この段階で重要なことは、①政策形成過程をオープンにすること、②政策実行主体を念頭にして、官民協働型・行政中心型・市民中心型の分類を確認することです。なお、官民協働型にはデジタル時代で可能となるマイナンバーを利用した個々の市民との共同作業によるきめ細かいサービスも入ってきます。

そして③政策案を複数考え、それぞれに費用対効果を出して、市民にも納得できるかたちで絞込みの理由をわかりやすくすることでしょう。この絞込みにもオープン意見集約型で市民の参加を求めていきます。そして、議会の手続きが必要な政策はその審議承認を求めます。以上を経て、具体的なサービスの開発に入りますが、この段階では、官民協働型、行政中心型、市
民中心型の分類に適したサービス開発を行います。オープンデータで市民によるサービス開発を期待することもあると思います。

6.行政の新しい役割とオープンガバメントの担当部局
行政はこれから「オープンガバメント」を円滑に進めるという新しい機能を担う舞台回し役になりますが、この担当をどうすればよいでしょうか。

「ガイドライン」では、最初にオープンデータの担当チームを決めるように促しています。オープンデータ(だけ)を考えている「ガイドライン」には、自治体の現状に照らしてその際の考え方と三つのパターンが挙げられていますが、これを導入する自治体では、オープンデータに加えて、さらに追加していくオープン意見集約、オープンサービスも同じ担当が担うことになることを視野に入れて担当を決めていくことが賢明だと思います。

その際のポイントは(表2)のとおりですが、地域住民と一緒に進める公共サービスの改革であり、これに沿った職員の意識改革も必要なことですので、行政全般の改革を進める部局が、情報担当課の全面支援を得ながら一体となって進める体制(まさに行政部内の協働作業)が望ましいと思います。

政府が行ったアンケート調査によると、現在は、情報システム担当部門や IT政策担当部門など、IT系の部署の割合が約半数(両者を合わせて123団体、全体の46.9%)。次いで、企画政策系(86団体、32.8%)、総務系(35団体、13.4%)、広報系(18団体、6.9%)となっていて、行政全般の改革を視野に入れた部局がリードする形になっている自治体は多くないのが気になります。

7.さいごに
「オープンガバメントが進める公共改革」は、市民参加型の社会課題の新しい解決手法に踏み出すもので、行政にとっても市民にとっても新しい経験です。世界中のどの国も、まだこれという抜きんでた成功モデルを提示できているところはありません。ということは日本もこの新しい競争に十分モデルを提示できる段階にあります。明治維新は当時の欧州に官民一体で必死になって追いつこうと西洋の諸制度を吸収しましたが、それに比べると現在は日本も欧米とほぼ同列にいます。

ぜひ皆さんの柔らかい発想、時には大胆な発想で世界に誇れるデジタル時代の公共改革を着実に進め、市民が主役で行政はプラットフォームになるという市民参加型社会の新しいグランドデザインを描いて欲しいと望んでいます。

付録2.コラム特集2
多様な参加と合意形成を可能にするオープンガバメントとは?
〜産官学民、7人のプレイヤー課題と可能性を語る
経済産業省・オープンガバメントラボでは、情報技術(IT)を活用し、多くの国民の参加を前提とする対話の可能性を追求し、複雑な社会における合意・政策形成のあり方を、産官学民の実践者とともに探り続けています。

今回企画した座談会では、「開かれた政府・自治体」のあり方に関心を抱きながら研究・ビジネスを続けている7人をお招きし、お話をうかがいました。多様なセクターを縦横に行き来する『越境者』でもある方々が何に課題意識を持ち、今後どのように進んでいこうとしているのか−。今後のオープンガバメント、オープンデータムーブメントを進めていく際にフックとなる視点を提供いただきました。

原点は「データに基づき、みんなで話す」こと
小林 巌生さん(以下、小林)

きょうは、政府、大学、非営利団体、ビジネスとさまざまな立場で電子政府、オープンガバメント、オープンデータというキーワードを持っているみなさんに集まっていただきました。今後、日本が開かれた政府、データをもとにした政策立案や経済の活性化を可能にしていくために、どうしたらいいのか、現状を共有し今後を語り合えたらと思っています。

まず、みなさんがいま、オープンガバメントについて「きょう、これについて話してみたい」というトピックがあれば教えてください。

村上 文洋さん(以下、村上)
今直面している課題認識ですが…。オープンガバメントに関心を持ち、進めていきたいと研究を続けてきたけれども、途中で息切れしそうになってしまって(苦笑)。オープンデータの動きを加速すれば、元気になるかなと、そちらに振れながらこの3 年間やってきました。オープンデータも活用はこれからですし、今後自分たちがどんな手を打てばいいのか、きょうはヒントを得ることができたらと思っています。

信朝裕行さん (以下、信朝)
問題意識は、村上さんと同じですね。オープンガバメントもオープンデータも利活用の部分、実際に国民や市民が感じられる「価値」をどのように作っていけばいいのか、そこにヒントがほしいです。

関治之さん (以下、関)
「Code for Japan」という非営利団体で、活動をしてきました。今は、オープンデータを活用し事業をどのように創造していくのかという点に関心があります。特に、地域に根付いたプレイヤーが参加できることがポイントかなと感じています。

平本健二さん(以下、平本)
数年間やってきて、(プレイヤーが)みんな顔なじみになってしまったと感じています。オープンガバメント・オープンデータに関心を持つコミュニティをどのように大きく、広げていくのか、コミュニティを多様化するためにはどうしたらいいのかということを、課題として認識しています。

奥村裕一さん(以下、奥村)
私は、オープンガバメントに関心を持って研究を始めましたが、ここ数年、国や自治体の関心は、オープンガバメントよりもオープンデータにフォーカスしてきましたね。ただ、その2つには差異があります。

オープンガバメントは「市民をどう公共サービスに巻き込んでいくのか」というところに力点が置かれています。一方、オープンデータは市民が「行政の仕事は地域の課題解決につながっているのか?」ということをチェックする道具。双方が混在してしまっているようにみえるので、その整理ができたらと思います。

庄司昌彦さん(以下、庄司)
「開かれた政府を担うだけの実力が、市民の側についていないかもしれない」という懸念があります。ですから「担い手の力をどのようにつけていくのか?」ということに課題を感じています。また、オープンナレッジのような、国際的なネットワークに日本の存在感がないことに危機感を持っています。

奥村 それはこの分野に限りませんね。(笑)

小林 実際、民間側からするとできることはあるのですが、行政側とのニーズとマッチングがなされていない。まだまだ、制度の問題がかなり大きい。関さんのいうように、オープンガバメントが進んで制度が整備されることと、持続可能なビジネスが生み出される状況につなげていくことが必要です。

平本 気になるのは官公庁、いわゆる「霞ヶ関」の参加がとても少ないことがとても問題のように感じます。市民、地方自治体は関心が以前よりも高まり、いろいろな場に出てきているようにみえますが、霞ヶ関は…。

奥村 市民だって一部。盛り上がっておらんよ…。あ、こりゃ、記事にならんな…。
===一同爆笑===

村上 今、会社のコラムを書いていて、こんな図を書いたのですが。(写真1) 今の平本さんの話に関連するけれど、行政の担当者がふだんの仕事の中で、自分たちのデータを使うという状況がないのでは?「出したら誰が使ってくれるの?」という話ばかりで、自分たちが有効活用するという視点が少ない。

アメリカではサンタクルーズ市が犯罪予測システムつくったり、ニューヨーク市が火災発生率を予測したり、データを活用して仕事をしている。「何かあってから対応」というのでなく、行政自体がデータを使って事前予測をしてから政策を展開しています。地域の議論しながらビジネスの議論もするというより、切り分けて議論しないと。

奥村 地域のなかで、シビックテック的な人と、一般市民、ここには書いていないが、そこをむしろ巻き込んでいかなければなりません。普通の市民ね。

村上 シビックテックって、本来はIT関係者以外の市民もターゲットにしていますよね?

関 はい、そうですね。

奥村 ドライブとしてのシビックテックは大切ですが、最終的に社会・地域を変えるには市民も関心もってもらわないと。例えばハッカソンは無理ですが、技術者以外の人達もアイデアソンぐらいに出てこないと、地域にとって本当にいい提案は出てこないし、変わってこないでしょう。つまり、ユーザーの参加ですね。

村上 市民電子会議室や地域SNSなど、昔はITをあまり知らなくても参加できる仕組みがありました。それよりシビックテックの方が、参加のハードルが高いですね。

庄司 昔の地域SNSは、日常の話題をまったり発信する中に、災害や地域課題のことなどたまに硬い話題が入ってくるという立て付けの2階建て立て付けの議論をやっていましたね。それに比べると、今のオープンガバメントは2階の部分の議論が多く、敷居が高いかもしれません。

村上 昭和の高度成長期はどんどん税金、行政職員が増えて、公共的な仕事は自治体お任せの時代が続いてきた。ただ、これからは職員も減少して、財政も緊縮されていく。住民自身が解決できることは住民で担っていかないと、自治体はもたないのではと思っています。そうした社会背景の中で、シビックテックは自治意識をもつきっかけになるのではないかと思いました。いわゆる「自分ごと」として考えていくきっかけです。

関 CFJとしては、全ての住民というよりも、NPOを介して地域課題とつながっていくという戦略で効率よくやっていこうとしています。

奥村 シビックテックの役割とNPOの役割と分けていくことが必要。両方大事。その外縁部に一般市民がいるというイメージです。また、先ほど村上さんが話していましたが、自治体職員自身が、自分の仕事の改善にデータ解析・シミュレーションなどがつながる、そういう意識が不足しているかもしれません。

平本 表に出ていませんが、行政でも気象、税務、医療データなどは使っている部署は使っています。ぼくたちも政策をつくるために、他の省庁のデータを山のようにひっぱってきて、マッシュアップしています。ただ、その進捗は遅く、僕たち自身も苦しんでいます。

実はギブアンドテイクで、使えるデータを出せば他の部門の仕事にも役立つし、自分達も使えます。そういう関係がつくれればいいのですが、そのプロモーションができてない。

奥村 それに関連していうと、政策を作っている部署は、どういうデータを使って政策を作っているのかという根拠と政策ロジックを見せるべきだと思いますね。そうすれば市民の関心も高まり、議論もできるようになりそうです。ぼくは、それを「データ・政策ロジック・実現計画」がつらなった「政策見える化カード」として、市民に分かりやすい形で共有したい。

庄司 奥村さんが今「見える」と言いましたが、2009年にアメリカ・オバマ政権が「オープンガバメント」を打ち出した時に、日本が受け取ったメッセージは「SNSを使うこと」でした。民主党政権ができたときに『総理がつぶやいた』『自治体アカウントつくった』『生中継された』など、ソーシャルメディア発信が注目されました。

それが、だんだん飽きられてきてしまいました。ある意味、根付いて淡々とやられている部分もありますが、ここのところ、あまり進化がありません。「見せる」「見える」部分をもう少し考え直すことが必要かもしれない。

小林 確かに「トランスペアレンシー(透明性)」と言っていましたが、いつの間にかそれがオープンデータに置き換わってしまい「データを出せばよい」という感じになってしまいましたね。

庄司 コミュニケーションの話がなくなってしまいました。

平本 (当時は)SNSというより「対話」という言葉がキーワードでしたね。SNSでも、アイデアボックスでも、熟議でも対話していました。新しい公共という名前で、今までの審議会メンバーとは違った若手を入れ、しかも机をはさまない議論の形態で場を活性化するなど、対話の形態を探っていました。

村上 オープンデータは対話っぽくないですね。乾いた感じがしますね。

奥村 オープンガバメントとなると、対話が入ってくる。

小林 本当だったら「データに基づいてみんなで話そう」ということが大切なのだけれど、そこができていないですね。

庄司 ある意味ソーシャルメディア発信は、一旦行くところまでいったので、ブレーキかかったのはいいのかもしれません。そこでやっぱり「データに基づいたやり方が必要だよね」と気づいたのだと思います。今、次の段階で、「コミュニケーションとデータ」両方合わせてどうするか、というところですね。

奥村 Back to the Basic,原点に戻っているのかもしれません。現場部局と連携し、ビジネス創造探るビジネスについてちょっと触れたい。単にアプリをつくるというのではだめ。

実際の公共サービスを考えると「人をどう使うか」「設備をどう使うか」それが寄り集まって1つの公共サービスを提供している。そうした全体をつなぐ公共サービス、大きなシステムを考えるとか、そういうことをビジネス的な発想で考えていく。シビックテック中心になって、そういう広がりを持った方がよいという気がして…。関さんに聞きたいのですが。

関 まさに、そういうことを目指してやっていきたいのですが…。情報政策課・オープンデータから入ると、そちらに行かないのだなあと分かったところですね。結局、そこからでは事業を創れないのだなと思いました。もっと現場や課題を持った課がやらないと持続可能にはならない。

そうなると、話し方からしても「オープンデータから入る」のではなく、リノベーションスクールなどの取り組みの方が、よっぽどオープンガバメント的だなと思い、そうした具体的な事業から学ばないと。と感じています。

最近ぼくたちが意識しているのは、「行政の気持ちを理解すること」。ということで、コーポレートフェローシップのように、人材が交流しないとなかなか理解しあえない。 企業人材に、行政の課題をつなげて直接中で動くとかなり見えてくることがあります。そして「こういう課にこういう困りごとがあるのでこれにオープンデータ使えるんじゃないか」と提案できるようになります。

データから考えていてもいつまでたっても事業は創りにくい。もっと現場に入って対話する。最近はアクションをそっちに振っています。

奥村 他方でね、情報政策課の人達はこれから何をやっていくんだろうか?
===一同爆笑===

平本 ぼく、情報政策にやっているのですけれども…失業するかもしれないでしょうか?(笑)今やるべきことは2つに分かれていて、1つは今まで通りの、ガバナンス系のところ、庁内システム整備は絶対残っていきますね。

それに加えて、世界は「デジタルガバメント」に向かっていて、そこはまさにオープンデータを使いながら新しいニーズを掘り起こして、新しい行政がバリューを創らなければならない。現場には課題があるけれど、情報技術のアイデアはありません。そういう庁内に対して、ITの知恵を生かすための「営業マンとしての情報政策課」の位置は非常に重要になってくる。

関 そういう位置づけには、ぼくたちとしても共感します。ぼくたちも、入口は情報政策課の人達と一緒にいきます。いきなり現場に行っても「あなたなにしにきたの?」となってしまいますから。

平本 一緒に組んで、営業するといいと思います。ただ、いまだに、ぼく怒られますね。『IT村のくせして、なんで君たち来たんだ』と。『業務の話は俺たちの所管だ』という思いがあるのでしょう。

奥村 そこはどうしたらいいのだろうか。

平本 「こんないいこと、楽になることもありますよ」と、メリットを伝えるしかありません。聞いてもらうことが第一歩です。

関 ぼくらの送ったフェローが、役所内で職員アイデアソンをやるなど、つながりをつくる。そこから解きほぐしています。

奥村 フェローの役割というのは重要だね。うまく使ってくれる自治体が増えるといい。

関 自治体側は手を挙げるケースが多いのですが、企業側で人材を送ってくれるケースはまだまだ少ないのが現状です。

奥村 企業に余裕がないのでしょうか?

小林 企業の人件費はどこが?

関 人件費は、企業の研修費・人材育成予算から出してもらっています。「社員を成長させて返します」ということなんです。一方、Code for Americaはまったくちがいます。企業が負担して人材を自治体に送るのではなく、企業をやめた人材が自治体で働く方式です。ですから、自治体がお金を払います。それもやりたいのですが、日本は人材流動性が低いので「1年間だけ自治体に働いて」ということが難しいのですね。

小林 日本は「コネをつくろう」という思惑もあるかもしれません。

奥村 なんか企業側に魂胆がありそうにみえるんだな、日本は。アメリカは個で動くマーケットになっていますからね。

小林 お金の流れも違います。

村山 コーポレートフェローシップは、ともに派遣される企業同士のつながりも大きい。

関 神戸市は、Yahoo!Japanと、地元NPO法人から2人が行っています。

奥村 フェローシップ制度が広がると、自治体側の意識も変わっていくきっかけになりますね。

村上 もう1つ考えられるやり方がありますね。例えば、オープンデータを分析し、新しい価値を見出す」という部分を切り分けて外に出す。そしてシンクタンクがそこを受ける。データを出してもらったら、無料で解析して見える化して返す。ただでやるかわりに情報を集めてビジネスでやる。アメリカのオープン・ラボ、ソクラタがやっているようなプラットフォーム型の仕組みです。その方式ができないかなと思っています。

小林 ゼンリンデータコムと電通がやっている、防災系のプロジェクトもそうですね。

村上 カーリルもそう、図書館データ集めてコンサルしていますし。

奥村 その場合のデータというのは、オープンなのか秘密なのか?

村上 どちらでもいいかなと思いますが、最後加工してだすのはオープン。財務データなど、出しても問題ないデータが多いです。そして、自治体ごとに出されたらバラバラになるが、どこか2、3社がうけてやればいくつかのフォーマットにそろって使いやすくなります。自治体ごとに1700の形式で出されたらたまりません。

奥村 そういう意味では、データのインターオペラビリティ(相互運用性)はどうなっているの?

平本 やってますよ!今、一生懸命、共通語彙基盤とかフォーマット、セットでやってますよ!

庄司 カーリルがやったのは、あえて1つのフォーマットにおさめることはしないで、数パターンで収めていること。いくつかのパターンで対応してしまうというアプローチですね。

奥村 複数でもよいかもしれないが、つながるということが大切なので、基盤としてのインターオペラビリティ(相互運用性)どう確保するかという発想で考えると「それでいいのか?」と思うところもあります。

小林 デファクト主義で、いくつかの企業が実装してきたものが、スタンダードになっていくという考え方ですからね。よい手法を考えた企業が市場に支持されてシェアを拡大していき、スタンダードになっていく。まだまだオープンデータ始まったばかりで民間企業で主導権持っているところはないですが。

奥村 CFJで作ったら?

関 うーむ。みんな従ってくれたら創れますが。(笑)

庄司 データ形式にしろ、仕事のやり方にしろ、人の流動性があると混じっていく中でデファクトが見えてくるとおもうのだけれど、固定化して動きがない社会だと、結構デファクトスタンダードが生まれにくいのではないでしょうか。日本なりの上手いやり方を見つけていかなければならないですね。

オープンガバメント推進に欠かせぬ「データ標準化」
村上 100万人ほどユーザーがいるZaimという家計簿アプリがあります。そこで全国の住民向け助成金・補助金情報を集約して、出すようになりました。最初、政令指定都市しかできなかったのですが、現在は1700自治体ほぼ網羅している。

ただ、データ収集・整形に非常に負担がかかってしまうそうです。なにしろ、1700自治体、バラバラの状態から作り上げているからです。そうした状況が社会に知れ渡り、「これを標準とする」というデータ形式を国がリーダーシップをとって決め、広がるというパターンとらないと、使う人が増えません。

奥村 それ、今の話広めようよ!

平本 アクションプランの延長線上でできるとおもっている。それを普及させるには、マスターコードを国が早急にすべきですね。この間も、北海道や関東という「地方」に「定義」がないこと知り驚きました。また、一般には8区分だが、役所によって区分が違っています。ある程度、基本データを普及するのはとても重要です。そこが今年やるべき「国のテーマ」だと思います。

村上 内閣官房が自治体向けオープンデータの手引きを出しました。参考資料として「オープンにしてもよいデータリスト」がある。まずそれを「こういう形で出すといいよ」と、標準化してあげると自治体は嬉しいと思う。

信朝 一応標準化しています。ただ、自治体の方は、やはり最初に「価値がみえない」と言われてしまうのですね…。

村上 さきほどの、Zaimなどと組み合わせて使えばよいのでは。

信朝 社会課題に直接対応していない「情報システム」などに、予算がなかなかつかないという構造があります。この壁を壊していく為には、オープンガバメントそのもので対話を増やして、わかりやすく共感してもらえる形で「こうした仕組みをいれたら解決につながりましたよ」という事例を作らないと動かない。オープンデータ先進地といわれる都市にしても「行政課題はどう解決したのですか?」と問い合わせると、結構「え…」と口ごもってしまう状況があります。

行政課題を解決するということに対して、いかにオープンガバメントやオープンデータが役に立つかをみせて、伝えることが大事だと思います。

奥村 そういう意味では、私も矛盾したことを言っているかもしれません。まず「課題から出発しろ」と言っている。他方で、ごく基礎的インフラ・行政活動は、これは税金のそもそも賄うべきだと思っています。

データのフォーマット統一などは自治体を超え、社会の成り立ちの基本だという意識をどう植え付けるか。それは総務省がやらないといけない。方針を出し、国が「ガツン」とやったらいい。これは、地方自治というよりも、国全体の流動性をどう高めるかということです。

信朝 6月30日に閣議で決定した「新たなオープンデータの展開に向けて」という定義で明記したのですが、やはり行政機関は重点課題に対してオープンガバメントを活用するということをビルドイン化してください、と決めました。

それは課題の発見や解決について、オープンガバメントやデータの考え・プロセスというのは非常に役に立つので、「まずはビルドインしてくれ」とお願いして、閣議でも通っているのですが、でも、誰も知らない。理解されていません。

小林 総務省が自治体に対して「この仕組みを作って、ここにデータを入れてくれ」というのを何回かやったのですが、中々成就しません。今の構造の中で、トップダウンでやってもうまくいかないということではないかなと思います。

信朝 言いっ放しでフォローがないかもしれません。それを「Code for Japanさん、NPOさんお願いします」というのはあるのですが、フォローアップがない。

庄司 だから乗ってくれないということはあります。「やってもどうせ無駄だろう」という空気はあるかもしれない。

奥村 アメリカの行政の課題はパフォーマンスを上げないといけない、今は四半期ごとにパフォーマンス報告を見るという体制になっている。一方、監視する機能が日本は弱いで

信朝 地方創生とかそういう文脈で「RESAS」というソフトがある。どう使っていただいているか、これで行政課題をどう解決していくか。そこをやっぱり、ユースケースといっていいのかわからないが…。

奥村 それこそ、見える化なのですが、見えるようにすることでプレッシャーをかけていく仕組みを設けた方が良いかもしれない。

庄司 オープンガバメントに関しては、まだここに行けば分かるという集約点がありません。散発的には話題になるのですが、それこそ、ユースケースのようなものとか、参考すべき資料であるとかが、きちんとまとまっていることはないだろうし、日々のあちこちでの動きが可視化されれば焦る人は出てくると思うのですけれども、全然今はないと思います。

あるテーマに取り組む人がまだ少ない場合「トップランナー」的に見えてしまう時期があるのですが、そういう時はブログを立てて何でもかんでも情報を集約します。そうすると、そこを見てくれる人が集まって、仲間になってくれます。オープンガバメントという括りでそろそろやっても良いかもしれません。

平本 あと、オープンガバメントの文脈でいうと、ぼくたちが今、チャンスなのは現場の意見を吸い上げやすくなったこと。でも、さっきから失敗した事例とかいろいろあるのは、今回も地方自治体の意見を聞くと皆、「現場の意見を聞いていないだろう、現場のフォローを全くしていないだろう」となります。

でも僕たちはネットでソーシャルメディアだろうが、対話型のサイトだろうが、吸い上げられる仕組みっていうのはすごく出てきている。しかし、それを全然活用していない状況です。これは裏返せば、そこは少しチャンスではあります、どうブレイクスルーするのかなということではなかなか悩ましい。

行政の強みでいうと、現場がきっちりある。現場の意見を行政自身が吸い上げるという機能を持てば、国民との関係は十分で、有効な政策を打てるようになる。それがせっかくの現場のデータや情報も、死んでいる。

※青木 私は現場で、10年以上自治体の仕事をさせていただいています。オープンガバメント、オープンデータに関して、2014年までは「何から始めたらよいか分からない」という意見が多いという印象でした。「出来るところから始めればいいですよ」ということを説明し、皆様、初歩的な所からやっていました。

2015年になってからご相談いただくなかで「先進的にやっている都市の”結果”が見えない、費用対効果・リターンが分からないので、財務に掛け合ってもお金が通らない」という反応があります。こちらが現実の話です。費用対効果と「市民に対してサービスに繋がりますよ」という事を数値化して見える化できれば、予算も通ります。

あともうひとつの課題は、「庁内の各部署の協力を得る」ということの難しさですね。協力が得られず、1部署だけ頑張ってもデータは集まらず、何もできない。ただやっと、企画課と情報室と広報課が前よりも若干協力するようになってきたよう
に思います。「どっちかでやればいい」という押しつけ合いになっていたのが、「どっちかが受け取ってやろう」という方向になってきたようです。

庄司 いまの状況に関連してお話すると「オープンデータ」という言葉にとらわれないことが必要だと思います。その言葉に縛られると、ここ2、3年の事例しかない。ニューパブリックマネジメントや電子制御でも良いのですが、似たようなことは前から試みられてきました。

「データに基づいて、こういう風にしましょう、効率化がこれだけ進みましたよ」という取り組みは探せば多くあります。ただそれらを、ぼくたちがちゃんとつなげてられていない。「かつての政策と議論」と今を、それをちゃんとつなげていないのです。「オープンガバメントをこれだけやると、費用対効果があるの?」という考え方をすることで、「やらない口実を与えているかもしれない」と思います。

小林 僕らは、横浜市金沢区でオープンデータを使った子育て支援のアプリを創っていますけれども、ここはそこそこうまくいっているなと思っています。ここでは、子育て支援予算を使って事業を回しています。

「子育て世帯を支援するアプリを作りましょう」ということですね。元々「課題解決」から入っていて、そこにオープンデータ的な概念・価値観等を入れて提案しています。そうすると比較的、彼らも受け入れやすいですね。

彼らも仕事として、子育て支援アプリを作らないといけないのが明確ですから。だからスタートは、「内側」からですね、オープンガバメント的、オープンデータ的に僕らが構築したことがどんな価値があるのか、わかってもらうことがハードルがあるかもしれない。

今までは1つのアプリケーションに対して、1つのデータで作っていました。それで閉じてしまって、データを整備しても、その後他の用途に使われないわけですね。さっきも相互運用性の話になりましたが、結局やっぱり大きなインフラ整備としてデータ整備をして、それをみんなで適宜使うようにすれば効率的だし、それが良いだろうということなのですが、中々よく分かってもらえません。

調達の透明性高めた浪江町の「オープンソース縛り」
関 僕らはよくオープンソース活用と言って、自治体でオープンソースにすることやデータを標準化することは、市単体でいえばコストとしては高いのですが、国全体で見れば相当コストは安くなります。

でも、そういった事は、自治体に説明しても市の調達範囲の中で、というのは難しくて、やっぱり安く入札する方がとってしまう。オープンソースにすることの価値はまったく理解が伝わっていません。

奥村 国でオープンソース法でもつくって、自治体にやってもらう仕組みを義務付けたらいいのだな。

関 EUは、そうした法律を実施しています。

青木 自治体としては「国に強制してほしい」という意見がある。強制してくれれば行うのですが、強制してくれなくて任意なので、本当にやらないといけないかということで協力者が得られないということで悩んでいる。

関 コミュニティがないという話につながると思うのですが、海外だとオープンソースコミュニティとオープンデータコミュニティが近い。だから、データだけじゃなくて、活用部分はオープンソースソフトウェアがあります。

だから「データを作ったら、このソフトで利活用できる」というのがあります。この部分が日本ではないです。活用部分はデータがあるから、このデータを作ると対応するソフトウェアがありますから。

庄司 大体オープンソースのアプリが付いてきますからね。

関 唯一 CKANが、たくさん使われているくらいではないかと思います。

小林 子育てアプリも内閣府の補正予算でやっていて、子育て支援の事業に対して、自治体の10分の10補助の予算があります。そこを使って、子育てアプリの公募かけるところが結構増えている。

仕様は、どれもだいたい同じです。完全に無駄です。個別に作っている。最初にやったところが調達してそれがオープンソースになっていれば、それを元につくれば良いのですが、今はそれができない。1700の自治体がバラバラに子育てアプリ調達するので、本当に無駄です。

庄司 同様の無駄は、以前もありましたよね。

小林 子育てや防災などの色々な行政課題があって、ある分野で国内で日本の市場でいえば、3社くらいがあればいいじゃないか。3社程度なら、価格も競争があり、プロダクトとしても質も上がってくる。今だと色々な所で気まぐれで発注していて、それだと結局技術やノウハウも集積・シェアされない。それこそ2、3社くらいで分野ごとに集中して開発してもらい、データを標準化し、オープンソースとして公開してもらうことが必要だと思っています。

奥村 その場合、地方に小さいベンダーはどうなるのでしょうか、生き残れるのでしょうか。

関 生き残れるのではないかと。

村上 生き残れると思います。むしろ地方にいて離れていてもネットでデータもとれますから。

信朝 その話題に関連してなのですが、地方の調達の仕組みの見直しが必要かなと感じる状況がありますね。単年度のコストでしか見ていないという点です。そうすると、あり得ない安い価格で請け負う提案をする企業に決まってしまう。そしてその時受注した企業が、次年度急に契約額をアップしてくる。最初から見えている話ですけれど、地方議会ではその年度の提案と価格しか見て判断することができない。

そうすると、地方ベンダーやシステムプロバイダーは、大手ベンダーと違って体力がないのでやっていけないです。「今年度 1円入札/次年度2000万円」という企業と太刀打ちできません。だから、行政の課題に対して予算を使う時に「2ー3年単位での累計」で見ていくように仕組みやマインドを変えないといけない時期だと思います。

奥村 今の話でいうと、ライフサイクルコストで判断して比較して入札するという仕組みは日本では入っていないのですか?

平本 国の評価制度などで、ライフサイクルコストを書く欄はあるのですが、それが保証されていないです。書いて提出しているけれども「翌年にやっぱり機能増えたので、これだけの額になりました」ということがあります。それで全体で調達の議論をしていたのですが、今までは前後切った調達をしていました。運用を別会社にしないといけない。ライフサイクルコストで測っていても、縛りがかからないわけです。そういうのも含めて見直さないといけない。

村上 関さんたちが関わっていた、福島県浪江町の調達の仕方がユニークでしたね。あのような動きとかは参考になると思うのですけれども。

関 はい、僕らは仕様書策定・発注段階からコンサルティング的に動いていました。「作ったものをオープンソースにします」「パッケージを使っていいけれど、それを明示してください」「ベンダーロックがかからないものにしてください」と強調していました。

また、「アジャイル開発を取り入れ、要件は変わる可能性がありますので協議しながらやっていきましょう」「プレゼンテーション、採点結果も全部公開」など、かなり透明性が高いプロセスをつくろうと努めました。それを他の自治体に展開していきたいです。そのパッケージだけコンサルタントするとかいうこともできるのかなと思います。

実際、かなり調達コストが下がりました。やっぱり技術に詳しい人間が調達側にいると、提案のボロが出てきます。提案では素晴らしいこと・くわしいことを書いているのですが、よく聞いてみると、「音声認識システムが入っていますが、これはライセンス料かかりますか?」という質問をすると「1台当たりライセンス料がかかります」「見積もりに入っていないじゃないですか」と指摘していました。ほかにも「オープンソースでお願いします」と仕様に入っているのにプレゼンでは全く触れずに、そういう仕組みになっていないとか…。

それはオープンソースにかなり詳しい人間がいたから突っ込んで評価できますけれども、そこまで普通の自治体の中で出来るかというと出来ないですから。そこがフェローの一つの成果だったのじゃないかな、と。

村上 そもそも、調達仕様書を書く段階で詳しくないと書けないですよね。

平本 調達だけではなく、コミュニティや参加者を増やすための方法、地域の参加者をどう増やすかも考えないといけないですよね。地域の住民をどうするかという点に話題を移していきましょうか。

まちなかの対話の場が、参加する「人」を育てる
庄司 2015年の2月にインドネシアに行って、オープンガバメント関係のNGOの人たちと話をして来ましたが、国際的なNGOや財団が支援して人材育成をしています。オープンデータの話も一部そこに入っていて、そこでやっている人材育成は「データをいかに加工してアプリを作るか」という話だけではなくて「いかにプロジェクトマネジメントをするか」「資金調達・予算管理をするか」など、1つのプロジェクトを動かすための人材育成をしています。

それが地域の開発に必要だからということで、それを先進国が途上国支援をするためにしていますけれども、それってオープンガバメントを進めていく上で我々にも必要で、日本の各地の地域で何かをやりたいという人がいてもそのような方向で人材を育成していかないと育たないです。むしろインドネシアで優秀な人が育っても、日本だと枠組みがないのでうらやましいなと思いました。

村上 どういう人材を育てればよいかと思いますか?

庄司 僕の持論が入るのですが、震災復興の時にたくさんプロジェクトやチームが立ち上がりましたが、チームの規模は数人から十数人とかぐらいで、何十万円か、せいぜい何百万円あれば成し遂げられるぞ、という規模のプロジェクトがたくさん立ち上がりましたよね。

ああいうものが、いかに育ちやすい環境かということがこれからの地域運営にとっての鍵だと思います。そこをやっていける人材を育てること、環境を作っていくことが重要だと思います。

村上 よく自分事と言いますが、地方創生と言われていても人ごとじゃないですか。でも、観光客を増やそうとか英語を学ぼうとか、うちの前に花を飾ろうとか、自分の理解できる作業単位にまで落とすと、やります。そういう細かいところまでブレイクダウンしていくのは誰がやるのかな、と。

奥村 若干視点が違う所から話しますが、今の庄司さんの話はサービスを「作る人」の話です。自治体も同じように「市民も作りましょう」という話です。他方でそうではない市民もいる。しかし、意識は持っている。「自分の子育て支援にこういうサービスがほしい」とか…。

いわば、「ユーザーとしての市民」のことも同時に考える必要がある。そういうニーズを実現するために、庄司さんが言及していたような「作る側の市民」がいる。 これはやっぱり市にやってもらおうと思って、従来通り、市がやりますという分野と市と市民の間で協働してサービスを提供しますという分野があってもいい。

その前のそもそもどういうサービスが本当は市民が望んでいるんだろうかというニーズ・声を、具体的にどうやって吸い上げるのか?そこの議論が抜けているのではないか?何とかユーザーとしての市民の声をどう反映したらいいのかな、と考えます。

そういうものを実現するための仕組みとして、細かい作業単位に砕く人がいて、そういう人がマネジメントして作られていくという構図。それと、やっぱり市にやってもらおう、効率は悪いけれども、やっぱり市にやってもらうという分野と、あるいは市と市民の間で共同してサービスを提供していこうというパターンがあっても良いかもしれない。そもそも、市民がどういうサービスを求めているかな、と思います。しかも別途どうやって吸い上げるのか、そこも議論が抜けているな、と思っています。

村上 サービスを考える為には、その地域にまず関心を持ってもらわないといけないかな、と思います。まず、関心をどう持ってもらえばいいかな、と思います。

奥村 関心はみんな持っています。ただ、時間がなくて不満だけ言っているようにみえる。床屋とか美容院にいけばみんなわーわーいっているんだよ。
===一同爆笑===

村上 ではそこにペッパーくんを置いて、そこで声を吸い上げればよいかもしれません(笑)。

関 でも、楽しいというのが大事で、楽しい場に集めていくということが必要です。

村上 「コスギソン」はどうだったの?

関 武蔵小杉駅近くにコミュニティカフェがあり、そこに最先端技術の色々なガジェットを持ってきて、地元の人達を呼んでハッカソンをやりました。集まった人も「やっぱりコスギが好きだ」という人ばかりでした。女性も多くて、親子連れも参加していて、やっぱりカフェが表に見えて、気持ち良い場所です。そこでビラも配りました。

やっぱり普段のハッカソンに来る層とは人が違いました。テーマは「コミュニティカフェをハックして、そこから街が盛り上がるコミュニケーションツールをつくろう」という内容でした。地域のNPOなどが参加するし、僕らがアサインした技術力が凄いメンターも集めるし、不動産会社の人もマンションの住人たちに声をかけました。そこで生まれたつながりを継続していくような仕掛けを作るなどの形で、ああいうしかけはすごく良かったです。皆楽しんでいました。

庄司 オープンガバメントを考える時に、色々なことをやったり話したりする場所は会議室じゃだめですね!僕はIT全く関係なく、デンマークの民主主義の社会を調べていた時に、皆がよく行くスーパーマーケットのホットドッグの屋台に、場所を設置して市民の声を聞いていました。多くの人に参加してもらって、意見を聞くことを考えるならば「やっぱり来てください」ではなく、出ていくことが必要です。話しかけることが必要です。

奥村 運営は市役所がやっているの?

庄司 自治会、自治エリア内の議会の様な組織が行っています。

奥村 市民から見ると「出かけていく」という行為はまだ敷居が高い。むしろ、行政から出かけていかないといけない。

村上 役所って市民が来るところだと思われがちですが、市民にとって役所は用がなければ年に数回くらいしか行かないところ。ふだんはスーパーや駅、ウェブでいうと Yahoo!や楽天を見ている方が多い。だからこそ、民間サービスの中に行政の情報やサービスを入れていくことが大切だと思います。

オンライン申請サイトを独自に作るのではなくて、Yahoo!などのポータルの一部で申請が出来るように組み込むとか。声を聴くのも、民間サービスにどんどん役所が行かなければいけない。

庄司 先程のSNSの話のように、2階建てにして、普段の「くだらない話」をする場所を作って、そこにそうではない話を混ぜる。ヤフーは災害情報が公共機関と連携して出している。それと同じように、皆が見る場所に出していく。

村上 「Zaim」がいいのは、民間サービスに行政の情報を載せていくところ。そうした姿勢は良いかもしれない。

平本 僕は、横浜市金沢区のアイデアソンに出たことがあるんです。一般市民として。その会場は「市民祭り」のすぐ横の会議室。そこでいきなりアイデアソンが始まったのはなかなか良かったなと思います。市民祭に来ている人って、時間の余裕がある人が多いので「なんだなんだ?せっかくだから寄っていこうか」ということで、そのまま会議室に入ってくる人が多かった。

そういう人達に「こういうことをやります、こういう課題ありますよね」というと、「何か面白そうだから来てみたよ」なんて人が入って、話始めていました。

小林 横浜は、僕らさんざん言い尽くしているのですが、開港150周年だった2009年に大規模にダイアログを展開しました。
メインイベントとして750人規模のワールドカフェを行ったのですが、その手前にも最初のキックオフで250人規模のワールドカフェを行って、そこに参加していた地域コミュニティのリーダークラスの人たちが地元に帰り、今度はコーディーネーター的に動いて小さなワークショップをきめ細かく実施してもらい、最後にまた750人規模で行うという1年を過ごしました。

そこでは「横浜の次の150年のブランドは何だろう」ということをみんなで考えたのです。僕が金沢区でしれっと、ワールドカフェやオープンデータまわりの対話を組み立てているのは、まさに2009年の体験があります。

村上 それって、横でのつながりは今でもありますか?

小林 もちろん。(金沢区でオープンデータ事業を主導している職員の)石塚さんとぼくたちもそのときのつながりですし、結構アクティブになっている方の割合は多いですね。

奥村 750人の方が集まる機会はあるの?

小林 Facebookでは緩く繋がっています。コミュニティがしっかりあるわけではないのですが、あちこちでやっています。比較的、横浜市は市役所の職員の方にも、その様な対話の重要性を分かっている方が結構います。

奥村 デジタル社会ですので、そういった実務社会で話が集まっているのをいかに見せていくのか。そういったハイブリッドがものすごく大事だと考える。

現場の声をITで分析、次の一手を
村上 ツイッターのデータの分析を岡山県でやっていますが、あれはどうですか?なんだか、参加すると言っても抵抗があるので、お祭りの広場に集めるのは必要なのだけれども、ツイッターで日常のつぶやきがありますが、ああいった中に市民のニーズがあるのかな、と思います。

庄司 ネタを拾うには良いと思いますが、議論が出来ない。量で測るのは危険です。「こういう視点がある」というものを拾うにはちょうど良いと思う。ですが「こんなにたくさんある」という量を数えると、現実社会では「そうでもなかった」ということがある。

村上 ネタの拾い方としても、どの様に拾えばよいものでしょうか。マイニングすればよいのでしょうか。

信朝 データは、時系列で全部見ていっても分からないです。「変化」に着目する方が良い気がします。大体、大騒ぎになる時はピーク値です。マイニングする時は、何を知りたいのか言葉を明確にして、それを時系列で見ているとよく分かります。
ただ、単発でやるとゴミしかわからないし、クレンジングするのにすごく時間がかかるので、それでみんな嫌になる。さらに、出てきた結論が「当たり前」に見えてしまって、それが嫌になる。「知っています、そうだよね」という内容です。

ただ、ある何らかの重要な発表がある前、例えば県知事などが発言する前に「後と前でどう変わったのか」を分析できればそれは「価値がある」ということは言えるかもしれません。分量と質が把握できれば、ですが。ただ、まだツールとして未熟な部分も多いので、それを有効活用できるかというと難しいかもしれません。

村上 観光のブランディングと、県民ニーズ把握調査を実施した県がありました。

信朝 ある県で、英語でマイニングかけたことがありました。日本人よりもインバウンドの観光客の方々が対象です。でも結局出てくるのは「美しい海」と「砂浜」しかないですよ。そしてそれは「当たり前」ってなります。

そこに「地元の人との語り合い」という特徴ある言葉が少しあると「これ誰が関わっているのだろう?」って調べ、「こういう人達なのか」「ここに価値を感じているのか」と掘っていく。そういう作業は面白いですね。その結果、旅慣れている人達は「こういう所が好きなのか」と見えてくる。

村上 むしろクチコミサイトの様な使い方ですね。

信朝 だから、そこまで分析だとか、データの出方に対してある程度理解している人が使うと、とても良いのではないかと思います。

奥村 民間企業でマーケティング的にそういった情報をどういう風に使っていますかね?

信朝 民間企業では、定量的分析・定性的分析とを必ず分けます。定量的分析というのは、これまで全部アンケートという静的なやり方でやっていたのを、今はソーシャルリスニングなどに切り替えてやっています。後は「ビッグデータ解析」という売り上げ情報とつなげて何が重要だったのか見ていくものです。これを使って何かできないか、考えています。

質的な情報を見る時に、まさにソーシャルリスニングの中の「どういう言葉をどんな人達が発言しているのか」という所までたどり「自分たちがこの人達に訴えかけたいことであれば、世の中で云われている言葉ではなくて、どんな言葉を使えばいいのか」という提案を考えることができる

例えば、お金を持って旅行をしようとしている人たちに話しかけたいのであれば「人との出会いを充実させる施策を打ち、発信していきましょう」となど、そのような分析・提案ができます。

平本 役所の中で僕が震災直後に分析した時に実感しましたが、結構良い分析が掘り出せます。それと傾向も見られる。ただ、普段使っていないツールですから、やっぱり上や周りの人に説明することが大変でしたね。

サマライズし過ぎて「今、こういう人がこういうことを求めている」と書いても伝わらない。そこの伝え方や見せ方のノウハウをセットでやらなければ、「ソーシャルから拾って分析し、特にリアルタイム性を持った政策提案」まで行けるかなというと、今はまだ難しいなという感触です。

例えば、中小企業の景況調査をずっとやっていますが「景気が良いと回答している人たちが自由記述でどう書いているか」など、そうした調査もできるのではないかと考えたのですが、技術的な課題も有りうまく結果が出せなかった。それと、やっぱり皆イメージ出来ないです。「それって、どういうことだろうな?」みたいに考えます。

今のデータ分析ツールは「分析者の為のツール」であり、意思決定をする人達にプレゼンし、理解してもらうためのツールではありません。分析と理解をつなげることができたらもっと広がる手法ではないでしょうか。

庄司 そういう上の人たちが感じる(ソーシャルメディアが)「信用できないな」という感じは「正しい」と思います。震災の後、東北の人たちが「どのようなソーシャルメディアを当時使っているか」という調査をしたことがあります。ツイッターを使う人もいましたが、今でいうとLINE、当時でいえばミクシィを使って身近な人とのやり取りをしている人達もいて、そうした層の発信する情報はツイッターに全然上がってきません。

メールしか使えない/使わない人達がたくさんいて、ソーシャルメディアは多様にある。使う人の層が違うということを分かった上で「ツイッターではこう言っています」ということを言わないと、見誤ることがあります。

村上 そういう中間領域として、三菱総研の小宮山宏さんが「アンケートはもうだめだ。かなり誘導がかかっている。コールセンターにかかってくる電話や窓口での会話も録音して、テキストマイニングをする。するとそこに課題やニーズが見えるから、そこを分析すればアンケートは必要ないのではないのか」と言っています。

以前は出来なかったことでも、そのような分析は今の技術だったらできるのではないかなと考えます。現状、そうしたコールセンターのデータを全部テキスト化したものを分析している自治体などはないのではないでしょうか?

平本 結構、やっているところはありますよ。ただ、行政だとデータベースでやっていないですからね。

奥村 それをやると個人情報やルールがありますからね。

関 埼玉市が「市民の声データベース」というのをマイクロソフトとやっていますが、データベースは使っていないです。

平本 札幌市でも有名で、苦情でもなんでも入れるというのをやっていました。

奥村 この議論と一旦繋がりますが、行政は現場の最前線で情報を得ています。その声を吸い上げて、次の政策の改善につなげるという事が非常に有効です。

関 アメリカでは「OPEN311」という標準化フォーマットがあって、対応ソフトがたくさんあり、電話・メールまで全部ひっくるめて十分市場になっていますよね。千葉市の「ちばれぽ!」でも、コールセンターの情報は記録されていて、それを広げてはいきたいと言っていましたね。

奥村 苦情はもちろん、窓口の職員との会話の中に市民が思っていることが入っているけれども、それを記録して分析しておくとものすごく大事な情報源だと思います。

村上 IBMの(人口知能である)ワトソンを使うと、相手の話している言葉をその場で認識しながら、この人の質問を想像して答えの選択肢をいくつかオペレーターに出してくれる。それによって、職員の対応時間が短くなっていく。

関 業務が効率化できますよね。

庄司 ニーズがたくさんありそうなマイナンバーのコールセンターに入れるとよいですね。

村上 自動音声認識ならば、相当安くできますよね。

小林 そもそも、アンケート以外に政策に対する意見を出したり、感触を測る方法って一般的に何があるのでしょうね。

平本 パブリックコメントとアンケート、有識者インタビューやヒアリングです。素朴に何のフィルターがかかっているか分からないですから、僕らがテキストマイニングを導入した理由が何かといえば、最初にアイデアボックスをやる際に「お前ら、どうせ都合が良い意見だけピックアップして使うだろ」って意見が多く寄せられたためです。

だから、我々も(寄せられた意見から)ピックアップを行い、この意見が政策に重要だと出しますが、それと並行して、その意見をテキストマイニングした結果を出します。それで、中立性を担保していこうというのが最初の導入理由です。FAQなんかも出ていますけれども、都合が悪いのは隠しているとか、そういうのもあるかもしれませんし、そういうものもオープンにしていくのも必要かもしれない。

政策形成に「提案型の市民参加」を
奥村 参加というのは、無意識的と意識的の2つがあります。無意識の参加、これは別に独裁国家でもやるわけです。市民が何を考えているのかを密かに聞く。分析する。それはデータマイニングの世界であるともいえます。

我々が考え、進めていきたいのは「意識的な参加」。市民が関心を持って地域や国を変えていくプロセスに参加して、それが行政に反映される仕組みを設けることです。この点はちゃんとおさえておかないと、本当の「参加」ではなくなってしまう。政府も「耳がでかい」だけではだめ。僕らは市民側だから、「勝手に聞くな」と言われるかもしれないけれど。

信朝 役人は外に出ないので、感覚的にどの様に外の声を理解したらよいかわからないかもしれません。とても大切なことは、先程奥村さんが指摘していたように、耳を大きくしても、大きいだけのどっかの星人になったのではだめだということ。

それは民間でアンケートをとっている人にも言えることですし、私自身もアンケートを作っていたので、言えるのですが、アンケートはどうとでも誘導できる物ですよ。

「良いマーケッターは、自分が思うままのデータを出せる」といわれています。質問の順番を変えればいいだけなんですよね。また、段階を六段階か四段階にするかという事だけでも、人間の気持ちって変えることが出来ます。そのデータを持って何を自分たちがすべきか、ということに対して、ちゃんと市井の意見を聴ける人を育成して、その人を先ほどの話の様に外部へ送り出して、その人たちが中にいるという状況を作り出していく方が本質的には健全です。

奥村 市民側も声を上げないといけない。「わたしたちの意見をどこで、どのように聞いてくれるのか」ということを含めて、強く考え、実現していくアクティビストであるべきです。物言う市民ですね。

庄司 苦情や批判など、たまりかねて発する声の分析も良いのですが、たとえば商品のクチコミサイトには「ここは素敵」「ここは駄目だけど、ここが良い」などと、良かったこともレビューが書いてあります。

こうした「ほめている情報」の中にも、課題や「よいものとは何か」という価値についての情報があるのではないかと考えています。物を言うのは、誰でも不満ベースです。そうではなくて、今は公共に対して日常的なつぶやきやブログはあるかもしれないですが、積極的に何かを評価するような「レビュー」はないです。

奥村 「価格ドットコム」の行政版を作らなければいけないな。

庄司 そういうものがあれば、違ったことが見えるかもしれない。敷居が低く、好きなことを書ける。

平本 僕たちも、それを行おうとしました。それは、報告書をAmazonみたいにしたら面白いじゃないかな、ということです。星を付けたり、レビューを書ける。しかし「それは衝撃的過ぎる」ということで、実現はしていません。

信朝 Amazonなどを見ていると、平均で4点、5点もついているのに、コメントがひどいものなどがある。だから「良い」と思っている人は声を出さない傾向があります。でも、Amazonで星を付けている人はシチズンシップだと思っていて、Amazonのレビュアーであることに自分で何らかの参加意識を感じて、それに対する報酬も感じている。

ある種の理想論になるかもしれないが「シチズンシップはどう育てるのか」を考えると、行政の色々なオープンに出来るところがあります。「面白法人カヤック」がやっている「今昔物語」では、高専の生徒が写真を集めています。普通高校写真部の子は、卒業後も地元にいることが多い。だから地元の写真を撮らせたら本気で撮りに行く。

そうした愛着、シチズンシップをどう持たせると、良い響き合いが作れるのかなと思いまます。実際にアマゾンや価格コムはよくわからないが、いくつかそういうことが今後、出てくるのではないでしょうか。

関 Code for Japanがやりたいのもそこです。僕らは行政と対立する団体ではなくて、とにかく「良いところをほめる団体」です。行政をアイデアソンなどに招くと、職員の方たちは大体いつも文句を言われてばかりの立場なので、最初は警戒されたり、驚かれたりします。「こんなにポジティブに歓迎されることはない」と最初、びっくりします。

そういう中で「困っていること」を話し合い、「こうしたほうがいいよね」ということを、できることを持ち合ってオープンに解決していく。そこで関係性がとても変わります。また、先ほどのシチズンシップでいうと、僕らの活動の中でいうとマッピングパーティーなどはそうした「よい効果」を生んでいます。

北海道の室蘭市では「ローカルウィキ」という活動があります。地元の人と街歩きを行い、図書館で調べごとを行い、ウィキに書き込んでいく。その様な室蘭の事しか書かれていない事に対して、自分たちが書いていく中で改めて、書き出していくと自分の街を更に好きになっていく、街を編集する行為でシチズンシップを高めるという活動が色々な所で、生まれてきています。

参加自由な対話の場がシビックプライドを高める
奥村 それは非常によい話で、シチズンシップを高める時に自然に高まるのか、市民の中で誰か意識が高いリーダー的な人がいて、その人が引っ張っていくのか、そのどちらが多いですか?

関 オーガナイザーがいるところが多いです。まとめる人がイベントを立ち上げて人を集めていきます。

村上 そこに集まった人から、核になる人が出てくるとうまくいきますよね。

信朝 昔ベルリンに住んでいたことがあったのですが、ドイツの町でいつもびっくりすることは、そのあたりを歩いている誰に聞いても自分の街の事を説明できます。「この城壁が何世紀に出来て、こういう王様がいて…」ということをみんな説明できる。これは圧倒的に日本が追いつけていないし学ぶべきところです。

自分たちの社会や作り上げてきたものを、ポジティブに語ることに慣れていない。ついつい、謙譲の気持ちはあるかもしれないけど、悪いことは割と言いがち。一方で「自分たちの町のここがきれい、ここの風景が好き」というのは言えないままで社会が出来ています。そこをうまく考えていかないといけません。

関 シビックテックというかCode for Japanで盛り上がっているまちは、「自分の街が好きな人が多い」という点に共通項があります。

奥村 僕が教えていたドイツ人の学生のことですが、彼が中学生のころ町に新しく橋を作る計画ができたそうです。このプランについて市民の声を聴くためのサイトを、10代半ばで運営していたと言っていたことを思い出しました。それは彼に言わせると「当たり前のこと」。「街を愛する心」が強いのですね。

杉浦裕樹(以下杉浦) みなさんのお話を聞いていて、色々な人たちが参加できる仕組みをどうつくるのかが、焦点だと思いました。僕は、ヨコハマ経済新聞というネットのメディアを運営しています。そのネットワーク「みんなの経済新聞」は、全国で100以上の編集部があります。

各地域の編集長というのは、例えば今の都市と街のキーワードの中でいうと、リノベーションという言葉もそうだし、昔はワークショップという云い方をしていたけれど、最近だとアイデアソンやハッカソンという対話の場についての記事が、色々な経済新聞の記事の中にちらほらと出てきます。

各地の編集長がその街の「創造的な人達」の所在を抑えている。このようなネットワークが出来てきたのは非常に面白いと思っています。

みんなの経済新聞の編集には、ブレンドの妙みたいなものがあって、ほとんどグルメやイベントの情報の中に「スッと」リノベーションなどの言葉が入ることで、ユーザー的な市民にも「そういうことがあるんだ」ということが伝わる。いきなりリアルにつながって、参加するまでに至らなくても愛着を示すしかけがあります。多様な参加の仕組みづくりを目指すことに価値があると感じます。

小林 Code forとみんなの経済新聞の文法が重なるということは面白いし、合うかもしれない。「Code for×みんなの経済新聞」というイベントが出来るかもしれない。今はメディアの話であり、ローカルメディアの役割は重要だよね、と聞こえるかもしれない。

杉浦 やはり、楔のように刺さるかもしれない。Code forの影響を受けた人が役所の中に入っていって、楔のように刺さることで、そこから見えることがこっち側に繋がってくる。ローカルメディアはそれと似たような効果というか、ある意味アクセス権を持っているのでそれが出来る。

奥村 本当は、新聞がローカルメディアでしたよね。

杉浦 もう一つは、ローカルコミュニティ。町内会や商店街、ソーシャルインクルージョンという福祉の分野の中で横浜市では大きく健康福祉局、横に大きく社会福祉協議会がある。

市役所は18区に分かれて、社協も区ごとにある。そこで地域の福祉計画というものを、地域の事を地域の人と共にやるというのが長年続いていて、その参加型に選ばれる人というのは連合町内会長とかという人がしばらく続いていました。その様なものを変えていくことが非常に大事だと思う。

そういう福祉、ソーシャルインクルージョンの文脈から、上手にそういうところにICTやノンフーが分かって、リバレッジの感覚を持った人。要するに情報のラインマネジメントの感覚を持った人間がそこに入り込んでいきながら、最初は記録を引き受けますよという感覚で入っていきながら、やっていくことでうまく配していく。

そんなに額かからないので、そんなところに社協や役所や区役所の予算などを配していく。とにかく入ってその場にいることが大事。

奥村 そういう意味では、自治会も町内会も旧内務省系。社会福祉協議会も元をたどると旧内務省であり、結局は地域の支配の為に上から目線でメンバーを選んでいる。

杉浦 結局は、役所の姿勢がまだまだですね。職員は、議員と町内会の人に従いますが、それ以外にまだつながれていない。
もう一つは議会の話。議会の政策決定のプロセスを事務方が作るのですが、結局は議員が決めるということになっている。そこをもっと見えるようにしないといけない。そのための「政策見える化カード」です。

村上 議会の分野では、「議事録システム」がどこでもあるのですぐ集めて分析できるのですが、使っていないですね。

奥村 それもありますが、議員にもよりますが、議会が市民から離れてしまっているように思います。

平本 霞が関のコミットの事で「関さんがもっと褒める」ということを言っていたし、LODチャレンジでも評価することを推奨しているじゃないですか。海外だと電子政府や、電子政府に関わっている人は、表彰制度があって賞にノミネートされます。日本ではどうしても、たまたまそこにいた部署の課長がすごい人のように扱われますが、そうではなくて本当にがんばった個人を表彰します。

オープンデータ界隈の1個人の活動に対して「きちんとした審査基準で表彰されました」という事が、人を巻き込む力になるかもしれません。オープンデータ500もいいけれど、オープンデータ500パーソンとか、オープンデータガバメント100とか個人を扱ったら盛り上がります。

奥村 その例でいうと、ハーバードでは「行政イノベーションアワード」というのをやっている。もともとはフォード財団がやっていた。これは、行政の中のイノベーションを行ったチームや個人を表彰する。首長は関係ない。

信朝 参考までに、オープンデータ100とオープンデータ伝道師という事業を実施することにしています。

平本 オープンデータ伝道師というのは、民間人を選ぼうとしているのでしょうか。

信朝 民間人も選びますが、役所も選びます。

奥村 役所がやるものとは別でいいのではないでしょうか。視点が違います、と。

信朝 こちらはオープンデータの話なので、ガバメントとは話が違います。オープンデータ100の中で主体的な役割を行った人に対して伝道師を作っている。ただし、予算がないので素晴らしい賞品をあげられるわけではないです。恐らくはCIOからの表彰とかです。(笑)

平本 海外の表彰もほとんど商品はありませんね。

村上 行政イノベーションアワードは、自治体職員以外も選ばれるのでしょうか。

奥村 基本的には職員がやっていて、今は地方も国も含めてやっています。

平本 若い人を応援するような、顕彰制度があるといいですね。ノミネートをして、みんなに投票させるやり方も面白い。

「ワークライフバランス」整備が市民参加の基盤
奥村 全然視点がちがうことを、最後に1つ。前から言っていますが、本当に普通の市民が参加するには時間がありません。時間の設定によっては、高齢者や時間に余裕がある人だけの『参加」になってしまいます。働いている人も、参加できるようにしないといけない。

そして、これは社会の方で変化を主導していく必要があります。夜7時までに帰るとか、ワークライフバランス、新しい働き方、生活の仕方を見直し、地域に参加しやすい方向に変えていくことが必要。

その意味ではワークライフバランスが特に大事だと思っていて、時短勤務が子育て期間や介護期間のみと考えずに「ライフの一部で社会に貢献している」という意識をもって、ワークライフバランスを含めた環境整備をしていかなくてはならない。そう思いますね。

付録3.オープンガバメント実践紹介1
各地にオープンソースマインドで透明化と協働を支える「シビックッテックコミュニティ」をつくる一般社団法人「コード・フォー・ジャパン」
オープンガバメントの要諦は、「透明性」「参加」「協働」といわれている。基礎の基礎となる「透明性」を担保するのが、行政が調査・蓄積している膨大なデータの所在の可視化とその活用だ。

オープンデータを使って社会課題を解決したい技術者らがみずから「参加」の基盤をつくり、IT人材の不足に悩む自治体とつながって地域に「協働」の連鎖を生みだしつつある。一連の動きを推進する一般社団法人「コード・フォー・ジャパン」(CFJ)代表の関治之さんに、「シビック・テック」とオープンガバメントの関係と実践例、今後の展望について聞いた。

原点は震災、そしてオープンソース
CFJ代表を務める関さんは、位置情報を生かしたシステム構築を本業としている。「エンジニアなら誰でもそうですが『技術で世の中をよくしたい』と思っていました」という関さんを、本格的に公益的な活動に引き寄せたのは、2011年3月11日に発生した東日本大震災だった。

東北の被害を知り、首都圏も混乱する状況下で、関さんはOpenStreetMap Japanなど、「位置情報コミュニティ」の仲間とともに被災地支援と道路状況の案内、安否確認ができるマッピングサイト「sinsai.info」を発生後わずか2時間で立ち上げた。

津波や原発事故の衝撃、余震の不安の中で「今できること」を模索し、手を動かし続けた関さんがエンジニアの協働作業基盤として活用したのが、オープンソースソフトウエア(OSS)の「ウシャヒディ(Ushahidi=目撃者・証言の意)」だった。100人以上のエンジニアが、「被災地の不安や不便を軽減したい」と、自発的に情報を集め、コードを書き、必死にウェブを更新し続ける。

情報がみるみると蓄積されていく様子を見ながら関さんは「世界中のコミュニティからアイデアや情報が集まり、オンライン上でのコラボレーションで課題が次々と修正され、それがみんなのためのソフトウエアになっていく。OSS の可能性を強く感じた」。この震災時に体感したオープンソースという基盤上でのコラボレーションの可能性、そこから生まれた「新しい公共的な価値」が、CFJの原点になっている。

Code for Japanの立ち上げとシビックテック
関さんはマッピングサイトsinsai.infoを運営しつつ、災復興支援アプリ開発コミュニティ「Hack For Japan」の中心メンバーとして活動を重ねた。福島・岩手をはじめ、全国各地でアイデアソン・ハッカソンを開催していった。

2年ほど続けた段階で、関さんは壁に突き当たったという。行政データがオープンでなく、被災地で必要なアプリがつくれない、短期的に被災地に滞在してサービスをつくっても、市民が使うまでのフォローができない−。その地域に住むエンジニアたちが、自分の暮らしをよくするためのアイデアをつくり、継続的に対話をするしくみが必要であるなどの課題が見えてきた。

「震災でいえば、社会福祉協議会や自治体にIT技術者が入り、継続的に活動しないとせっかくのサービスが生かせないし、改善ができない。身体を使った被災地ボランティアであれば、瓦礫片付けを1日、という関わり方もできるが、ITはそういうわけにいかない。何か創っただけではだめで、運用が大切」と、行政セクター・市民セクターと密に関わりながら継続的に関わる仕組みの必要性を痛感したという。

そんな時、関さんは偶然テレビで「Code for america」を主宰するジェニファー・パルカさんのプレゼンテーションを見た。ITエンジニアが中心になってコミュニティをつくり、市民と対話を重ね課題を共有し、自治体には技術者を派遣してデータ整備を助言し、市民の暮らしに役立つアプリ作りに携わるー。

そんな仕組みが、すでにアメリカでは動いていた。テクノロジーの力を課題解決につなげるための「ハブ」を自分たちでつくり、つながりを築くコミュニティを「日本にもつくりたい」と、関さんはすぐにアメリカに発ち、パルカさんに会いに行き「コード・フォー・ジャパン」構想について話をし、設立の決意を固めた。

そして、2013年10月に一般社団法人としてスタートした「コード・フォー・ジャパン」。「地域の課題を住民参画とテクノロジー活用によって解決する」という「シビックテック」のコンセプトを「ともに考え、ともに創る」という理念に込めている。

全町避難の町をつなぐ770アイデアを生み出す〜浪江町・フェローシッププログラムにみる透明性・参加・協働①
CFJのような技術者コミュニティは、情報技術の活用なしには成り立たない「オープンガバメント」の中でとても重要だ。オープンデータの形式や語彙策定への提案に始まり、アイデアソン・ハッカソンの実施、プロトタイプの制作など、透明性を高め、参加を促し、コラボレーションを活性化するために、多様な貢献ができる。

特に行政セクターに対して、シビックテックは「オープン」「参加」「協働」を迫る「黒船」の役割をはからずも果たしている。CFJが主催・連携するアイデアソンやハッカソンなどのイベントにあわせて、行政セクター内部に蓄積されたままになっていたデータがオープンになるケースは少なくない。知らず知らずの内に、シビックテックコミュニティとの対話を通じて行政の「透明度」が高まっている。

その一つの象徴が、CFJが福島県浪江町で展開している「フェローシッププログラム」だ。これは一定期間、自治体にデザイナーやプログラマーなど、高度な情報技術を持つ人材を派遣する企画で、世の中の役に立ちたい情報技術者と複雑化するIT に対応し切れない自治体をCFJがマッチングし、サポートする。

浪江町は、東京電力福島第1原子力発電所の事故の影響を受け、2011年3月14日以降、全町避難が続いている。避難中の町民約 2万人は全国に散らばり、高齢の町民の連絡手段は限られ、かつての共助はなくなり、つながりは急速に弱まっている。

長期化する避難生活のなかで不安や不調を抱える町民の絆の維持・再生を目指す「浪江町タブレット端末配布事業」にCFJは参画し、住民のニーズ調査やアイデアソン、ハッカソンから要件定義書策定業務などを担った。

同町が、フェローシッププログラムと連携した背景には、先行する町村のタブレット事業で利用率が伸び悩んでいたという事情があった。高齢者が多く「1カ月に1度触った人は40−60%」で、中には「箱から出していない」という人もいた。

そうした先行課題を踏まえ、同町は「住民の声を聞き、本当に必要とされ、役立つアプリをつくり、つながりを維持していきたい」と、コミュニティに分け入り、育てながら開発を進めるCFJをパートナーとして事業を進めてきた。エンジニア・町職員らでつくるコミュニティ「Code for Namie」によると、2014年4月〜6月にかけて、役場職員対象のアイデアソンや復興支援員対象のミニワークショップも含めてアイデアソン8回・ハッカソン2回と通算10イベントを開催し「一般参加者314名、浪江町民115名、総勢453名が参加、770アイデアと12個のアプリが完成」という濃密な内容を残している。

エンジニアだけでなく、ふだんはITとはまったく無縁な町民を巻き込む「住民中心設計」をコンセプトにすえた成果だ。

異例のオープンプロセスで1億円を削減〜浪江町・フェローシッププログラムにみる透明性・参加・協働②
さらにCFJは「調達の透明化」にチャレンジした。住民が必要とする「しくみ」を技術者に伝える「調達仕様書」「要件定義書」の策定をフェロー、CFJ メンバー、役場職員などが同じテーブルで議論した。

協働の成果として、「調達したシステムをオープンソースで公開することを明示」など、運用後もシビックテックの関与によって仕組みをよりよく育てていく道筋をあらかじめ埋め込むことができた。こうすることで、不具合がOSSコミュニティによって改善されることが期待でき、運用コスト削減にも寄与する。

異例な手法はまだある。アプリ開発業者の入札プロセスも、すべてガラス張り。浪江町のホームページには「浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業調達書」のほか、入札企業の提案資料や選考にあたっての評価書なども公開されている。

評価は、住民も参加するなど、時間をかけて選択を行った。住民の視線も生かす参加型・全公開のプロセスデザインが奏功したのか、当初予定していた調達価格を1億円以上も下回った。

地域に対してシビックテックができることとは、これまで「地域ごと」に参加したことのなかった無関心な市民たちに対して、使いやすいアプリなど、テクノロジーで参加する基盤を創ること。さらに、オープンデータを使ったアプリが暮らしに役立てば、データを公開した意義もわかりやすい。シビックテックは「オープンデータって必要なの?」と問う行政の現場に対し「透明化」へのインセンティブを高める役割を果たしている。

CFJでは、この浪江町のプロジェクト経験を生かし、「コーポレートフェローシップ」という、企業連携のIT人材マッチングコーディネートをすでに試験的に導入、2015年4月から本格稼働する予定だ。

草の根ハッカーをつなげて住む町をハッピーに〜地域課題にフォーカスするブリゲード
関さんは2015年度、力を入れたい事業として「ブリゲード」を挙げた。これは、地域のIT技術者をつなげ、各地に「Code for ○○」コミュニティをつくる動きだ。現在、全国に28あり、今後も続々と設立が予定されている。

地域のオープンデータを活用し、身近なまちの不便や不具合、課題に役立つサービスをつくるために、アイデアソンやハッカソンをみずから企画するなど地道な活動だが、これまでにごみ分別と収集曜日などが直感的にわかる「5374.jp」(ゴミナシ)(Code for Kanazawa)など暮らしに密着したオープンソースアプリなどがつくられている。

関さんは「これまでに各地のハッカソンで数多くのアプリが作られてきたが、お蔵入りさせておくのはもったいない。新しい 1年では、こうしたアプリをデータベース化し、各地で共有発展させていくような仕掛けができたら」と、展望を語る。さらに「ブリゲードでつくられたソフトウエアのビジネス化支援や、すでにあるOSSを改善などにも挑戦したい」と、「広がり」を意識した事業をイメージしているという。

付録4. オープンガバメント実践紹介2

オープンからはじまった、協働プロジェクトの実践 〜横浜市金沢区からの報告〜
日本最大の人口を抱える横浜市には、18の行政区がある。そのひとつである金沢区では、ある子育てポータルサイトの構築をきっかけとして、それまで脈々と続けてきた区民との「顔の見える関係」とICT活用を掛けあわせた地域課題解決の取組みを先駆的に行っている。そのチャレンジとは、いったいどのようなものだったのか。

課題先進区‐金沢区
金沢区は、横浜市の南端に位置する人口約20万人の緑溢れる区である。鎌倉幕府の港の要衝として栄えた土地の歴史は古く、鎌倉北条家の菩提寺である称名寺に隣接する「県立金沢文庫」では、様々な重要文化財を見ることができる。区内にはコアラのいる金沢動物園、年間300万人が訪れる横浜八景島シーパラダイス、横浜で唯一の砂浜を持つ海浜公園「海の公園」では潮干狩りを楽しむことができるなど楽しみにも溢れる区である。

一方で人口増加を続ける横浜北部と対照的に、いち早く人口減少と少子高齢化が進む区でもあり、海や急傾斜地を多く抱える土地柄、防災への備えが求められるなど「課題先進区」としての側面も持っていた。

「そうした危機感が行政だけで課題を解決するのではなく、これまで以上に区民の皆様と共に手を携えて様々な課題に立ち向かわないといけない、という意識を生みだすこととなりました。」と地域振興課の石塚さんは語る。

金沢区では、区内に14ある連合町内会の地区毎に、区役所の職員、地域ケアプラザ、社会福祉協議会の職員が集まって「地域支援チーム」を作り、顔の見える関係作りと年2回地域の皆様が集まって情報共有などを行う「地区推進連絡会」の運営などを行っている。地区推進連絡会では、自治会町内会だけでなく、民生委員、各種団体、学校、保育園、警察が一同に集まり、活動や課題についてざっくばらんに話し合い、そうした関係性の中でスムーズな連携を生むことに繋がっている。

しかし、一方で多様化・複雑化する課題に立ち向かうためのリソースは常に不足し、人的にそれを補い続けることにも限界があるということが見えつつあった。そんな中で、リリースされたのが「かなざわ育なび.net」である。

子育て情報伝達の課題解決を目指す -かなざわ育なび.net―
金沢区のオープンデータを活用した子育てポータルサイト「かなざわ育なび.net」は、平成27年8月1日で開設2周年を迎えた。

単純な子育て情報の提供に留まらず、郵便番号と子どもの生年月日をインプットすることで、関連する情報を上位に表示する「パーソナライズ機能」を備えた動的サイトであったことから、新しいカタチでの情報提供を行うサイトとしてNHKや各種媒体に取り上げられるなど話題になった。

そして、さらにもうひとつの特徴として、かなざわ育なび.net を作るために整備したデータをオープンライセンスのもとで公開したことから、オープンデータの先進的活用事例としても取り上げられることとなった。

「オープンデータを取り入れた理由は2つあります。ひとつ目は、ひとりの担当で複数の部署が出す様々な子育て関連情報を取りまとめることは難しく、各所管部署に協力をしてもらわないと立ち行かなくなると思ったこと。もうひとつが当然ながらオープンガバメントの潮流を見据えて、オープンな土壌で様々な人の力を結集させる流れを作りたかったことです。区の内外の方々の力を借りながら、育なび.net を常にバージョンアップさせていけるような風土を作りたいと思いました。」(石塚さん)

当時金沢区長であった林琢己氏は、オープンガバメントの「透明性・参加・協働」という理念に共感し、かなざわ育なび.net 公開の翌年に地域振興課にICT担当として3名の職員を配置した。

「区役所で人員を増やすというのは、ものすごく難しいのです。しかも3名も増員するなんて、ほとんどあり得ません。ただ、それだけ危機感があるということの表れでもありますし、育なび.net の提案者であり、構築・運用担当であった自分としては責任と期待の大きさを感じました。」と石塚さんは振り返る。

本格的なオープンデータ・ICT活用へ
金沢区では、育なび.net を構築した数か月後に主要課の職員を集めた「オープンデータ推進プロジェクト」を立上げて勉強会などの啓発活動、オープンデータ推進の指針策定などを開始。さらに、横浜市内の区役所としては初のアイデアソンを実施するなどの活動を展開した。

その後、平成26年度に前述のICT担当が配置され、組織としてもオープンデータおよびICT活用を推進する体制が整うこととなる。その後の主な動きは以下のようなものであった。

・オープンデータ推進員の配置を主要課のみから全課へ拡大。公開データを37から85まで増。
アプリコンテスト@KANAZAWA の開催。5作品に賞を授与。
・かなざわ育なび.net の南区版「みなみ・育なび」開設サポート実施
・世界銀行ハッカソンから生まれたプロダクトをベースに、保育園や自治会町内会向け情報伝達ツールを民間企業と協働開発
・金沢区が保有していた過去の写真を活用した画像オープンデータサイト「金澤写真アルバム」の開設
現在ではオープンデータの先進都市としてその名を全国に轟かせている横浜市で、全体の政策を担当するのは政策局政策支援センターであるが、区とはどのように連携を取っているのだろうか。

「政策局は当然ながら市全体の方針や施策を展開しますが、区役所は市民に一番近い行政機関として、区ごとの課題に即したデータ公開やICT活用を進めていく必要があると思いますので、全体の方針をベースにしつつも、金沢区として必要なものをピックアップしていくということです。また、消防署や土木事務所、子ども家庭支援課、福祉保健センターなどミニマムに行政機能が集約された区役所は、ちょっと歩いていけばすぐに関係者に声をかけることができるというメリットがありますので、そうした部署と様々な連携を行いながら事例を作り、各局にデータ活用の具体例を示していくという役割も果たせると思っています。」(石塚さん)

現在横浜市ではWEB全体をオープンデータ化するという方向でCMSの更新作業などが行われているが、そうした動きも捉えつつ、現場の区役所職員が動きやすいデータ更新のフローを作れないか常にアンテナを張っているという。

「データ更新作業を行うのは、あくまでも現場にいる職員です。そこに無理なフローを押し付けるとデータの質や鮮度に影響を与える恐れがあります。育なび.net では、毎年「福祉保健センターからのお知らせ」という紙媒体の更新に合わせて各部署からデータを取得し、印刷媒体と育なび.net の双方で活用していますが、後で聞くと担当職員はデータを作っているという意識は全くなかったようです。職員は今でも日々の業務の中でデータを作っているわけですから、それが自然に出てくるようにした方が全体のコストを抑える意味でもいいと思っています。」

金沢区子ども家庭支援課では、オープンデータ推進に伴いデータの棚卸をしたことをキッカケに区役所・保育園・子育て支援拠点の担当が集って子育て情報を共有するための検討会を立ち上げ、石塚さんもデータアドバイス担当として参加しているという。

ここで集めたデータは、育なび.net はもちろんのこと、現在区が発行している子育てマップなどのベースとして活用される予定である。それまでは媒体を発行するたびにデータ集めなどを行っていたが、育なび.net を中心としたこれまでの活動によって「ワンソース・マルチユースのデータ活用」が現場の職員にまで浸透しつつある証であるといえる。

わかりやすいICT活用事例創出へ
一方で、肝心の区民への訴求という点ではどうなのだろうか。

「オープンデータやICTを区民価値に変換する時に最も重要なことは、「わかりやすさ」です。金沢区は高齢化率が他の区よりも高く、自治会町内会の担い手も高齢化しつつありますので、オープンデータも充実しながら、そうした方々へそもそもICTというのは何ができるのかということを示す必要があります。そんな中で目に留まったのが、世界銀行ハッカソンでグランプリに輝いた「Save the Baby」という取組でした。」(石塚さん)

それはシンプルな仕組みだった
情報を発信したい側が自由に打ち込んだテキストが、APIを通じて音声通話に変換され、情報を届けたい人に発信される。着信した人は音声通話に従って設問への回答をプッシュダイヤルで選択する、というものである。

スマホやWEBにはなじみがなくても、電話に馴染みのない人は滅多にいない
しかも1秒あたり1件という発信速度によって、数百ユーザー程度であればわずか数分で発信が完了する。世界銀行ハッカソンの際の「母子健康手帳」というコンセプトは採用できなかったが、金沢区が抱える災害時の情報発信には親和性が高いかもしれないというと、提案者がすぐにシステムのイメージを提示してくれ、協働による構築がスタートした。

提案者は自らのリソースを使って開発を行う、それに対して金沢区はいくらかのシステム使用料を支払いながら、まず区内に43ある保育園を対象として発信テストを行い、その結果生まれたデータや課題を検証やシステムブラッシュアップのために提供するという役割分担で進んだ。実際、保育園への発信だけでも想像もできないような事例が次々と起こり、生身の人間を超えるシステムの検証環境はないと思わされたという。

システムは無事にローンチし、今では区内172の自治会町内会、保育園、学校、地域ケアプラザなど300上を登録し、2か月に一度の訓練発信を行いつつ、実際の災害時に活用されている。(緊急時情報システム(5Co Voice))

こういったシステムは、広く活用された方がいいという理念から、開発は著作権を縛る委託契約の形を取らなかったため、システムは一般販売されており、他の自治体などでも容易に導入が可能である。事実、東京都足立区が「あだち安心電話」として本システムを導入することを平成27年11月24日の定例記者会見で発表している。

もうひとつの事例として、金沢区役所に眠っていた写真を活用した画像オープンデータサイト「金澤写真アルバム」がある。ヒストリーピンという昔の写真と今の風景を比較するサイトを見て、昔の写真を活用したイベントを行いたいという話が横浜市大で持ち上がった際に、区役所倉庫に眠る写真を再び陽のもとにさらしたことがきっかけとなった作られたサイトである。

横浜市大では、平成26年秋にそれらの写真を活用して「並木思い出を紡ぐ会」という写真を媒介に多世代がまちについて語り合うイベントを金沢区並木エリアで展開。石塚さんはその貴重な写真達をより活用しやすくしたいということで、金澤写真アルバムの構築を企画した。

「金澤写真アルバムは、写真の提供もお受けしているのですが、開設した際に、新聞やYahooトピックスなどに取り上げられたこともあって、今まで5名ほど写真の提供がありましたが、驚いたことに、ほとんどがWEBやスマホは活用しないという方ばかりでした。オープンデータやWEBはわからなくても「誰かの役に立つなら」ということでわざわざ区役所に足を運んでくださる方がいる。そのことが本当に嬉しいと思いました。(石塚さん)

その後も金沢区はプログラミング教室やアプリコンテストへの参画、ハッカソンなど様々な事業を行っているが、事業を行う際は「どこと連携してできるか」を常に念頭に置くという。

新しい価値観の生まれる土壌作りを目指す
プログラミング教室であれば、企業や地元の大学と連携して学生を講師役として養成したり、アプリコンテストは全国的なアプリコンテストにブロック拠点として参画する、ハッカソンであれば地元のシビックテック団体である「Code for Yokohama」と連携するなど、常に区の中だけで完結しないような枠組み作りを行うという。

「金沢区の中のリソースだけで勝負をしていくことは、当然不可能です。いかにして外の資源や情報を呼び込み、区民価値の向上に繋がる「イノベーションのタネ」を多く抱えておけるかが今後の地域の命運を分けるのではないかと思っています。等価交換を表すGive&Takeは、まずGiveが先に来ますが、オープンにするからこそ、その開いた入口に向かって様々なものが流れ込んでくるのであって、ドアを閉ざしたままでは単に跳ね返して終わりです。

金沢区が謳う「ICTプラットフォーム」とは、そうして様々な人が行きかう場作りであり、新しい価値観の生まれる土壌作りだと思っています。」(石塚さん)
今後も金沢区で展開される様々な動きに注目したい。