エレクトロニクスは、電子工学や電子技術のことです。日本のエレクトロニクス産業は、全製造産業の13%の製品出荷額(45兆円)を占め、わが国の基幹産業といえます。
近年のエレクトロニクスの注目技術には、「AI搭載型センサー」「デジタルバイオマーカー」「自然言語処理(NLP)」「エッジコンピューティング」「合成データ」などがあります。
エレクトロニクスの技術革新に関するレポートが、今回ご紹介するアーサー.D.リトル作成の企画書です。
アーサー.D.リトルは、世界最古のアメリカボストンにある外資系コンサルティング企業です。「Side-by-Side(常に顧客とともに)」をサービスコンセプトに、技術力をベースにしたマネジメントコンサルティングに強みを持っています。
創業者のアーサー・デボン・リトルは工科系の名門大学マサチューセッツ工科大学(MIT)で酢酸塩を発見した科学者であり、“技術をいかにビジネスや社会に応用するか”というビジョンを掲げていました。
そんな外資系コンサルティング企業アーサー.D.リトルのエレクトロニクスの技術革新報告書例をもとに、そのアプローチ方法を考察していきたいと思います。
1. アーサー.D.リトルに見る外資コンサルの特徴
1-1. 製造業に強みを持つファーム
創業者がMITの教授で、経営とテクノロジーの融合に強みを持つアーサー.D.リトルは、採用も理系出身の学生がほとんどです。
初期のステージでは、目の前の課題に対して仮説検証型の倫理的思考能力が要求され、ステージが上がるにつれ、クライアント企業の経営者の視点に近いスタンスとプロジェクト運営能力が求められます。
様々な価値観を持った人材がそれぞれの知恵を結集し価値提供するコンサルティングファームは、ADLも同様、いろんな出身の人材が揃っています。
1-2. アーサー.D.リトルのプロジェクト例
ものづくり企業の経営課題解決に強みを持つアーサー.D.リトルですが、実際どのようなプロジェクトが動いているのでしょうか。その一部を、以下に御紹介します。
① エレクトロニクス業界企業の事業戦略
② 化学業界の事業戦略・特許戦略
③ 電機業界の事業戦略
④ エネルギー業界の事業戦略、組織風土改革
⑤ 通信業界の技術戦略
⑥ 中央省庁のマネジメントプロセス改革
2. 『重要技術分野に関する技術動向等調査』企画書から学ぶ
では、実際にアーサー.D.リトルが作成したエレクトロニクスの技術革新に関する企画書を見ていきましょう。
2-1. 表紙/平成25年度重要技術分野に関する技術動向等調査
Arthur D Little
平成25年度産業技術調査事業
重要技術分野に関する技術動向等調査
調査報告書
アーサー・D・リトル(ジャパン)株式会社
2-2. 目次
2-2-1. プロジェクトの全体像
① 革新的構造材料に関する技術等調査
② パワーエレクトロニクスに関する技術等調査
③ 基礎研究の実用化可能性に関する調査
2-3. 背景および目的
2-3-1. エレクトロニクスなどの重要技術分野に関する調査
■ 背景
① 経済産業省は毎年大型の国家プロジェクトを立ち上げている
② リスクが高い中長期的な技術分野
③ 関係者が多岐に渡る分野
④ 政策資源の配置・分配や実用化を見据えたシナリオづくり
⑤ 将来的にイノベーションを生み出し続けていく
⑦ 将来的にインパクトを与える技術を発掘していく
■ 目的
① 重要技術分野は、パワーエレクトロニクス、革新的構造材料
② 最新の技術動向
③ 市場の有望性
④ 実用化・普及までのシナリオ
⑤ 国家プロジェクトを戦略的&効率的に進めるための情報収集
⑥ 基礎研究段階の技術で、重要性の高い技術を抽出する
■ 本プロジェクトの2つの調査
① パワーエレクトロニクス/革新的構造材料に関する技術等調査
② 基礎研究の実用化可能性に関する調査
2-4. エレクトロニクス/革新的構造材料に関する技術等調査
2-4-1. 技術動向を整理し重要技術を抽出
■ 技術体系の整理
① 市場ニーズ→技術課題→技術打ち手の構造を整理し、主要な技術開発動向をマップし、全体の技術戦況を俯瞰する
② NEDOロードマップやその関連調査報告書、および、国内外主要団体・プレイヤの取り組みについての公開情報
③ 国内外の研究機関・企業へのヒアリング調査
■ 技術体系の抽出
① 市場ニーズ・産業ニーズの観点から、重要技術を抽出する
■ 産業構造の把握
① 国内外におけるサプライチェーンの構造および主要プレイヤのシェア・売上規模・戦略方向性を整理する
② 装置やツールなどの副次的なサプライチェーンを含む
③ 各種市場レポート
④ サプライチェーンを構成する主要企業などへのヒアリング
■ 市場の有望性・将来見通しの把握
① エレクトロニクス/革新的構造材料に関する技術等調査
② 基礎研究の実用化可能性に関する調査
2-5. TASK2:基礎研究の実用化可能性に関する調査
2-5-1. 日本で実施されている基礎研究の実用化の可能性
■ 主要な基礎研究テーマの把握
① 検討内容/「戦略的創造研究推進事業」などの基礎研究プログラムについて把握する
② 分野は、エネルギー、環境、バイオテク、ナノテク、材料、機械、ロボット、IT
③ 想定情報ソース/各省庁における研究開発助成プログラムなどの公開情報
■ 体系化対象のテーマの選出
① 検討内容/プログラム内容を把握し、技術ツリーへの当てはめ対象を決定
② 想定情報ソース/上記プログラムの各テーマの内容紹介
■ 重要技術の抽出に向けた技術の体系化
① 検討内容/技術ツリーを策定
② 想定情報ソース/上記プログラムの各テーマの内容紹介
③ 想定情報ソース/各種公開情報
2-6. 革新的構造材料に関する技術等調査
① プロジェクトの全体像
② TASK1:革新的構造材料に関する技術調査
③ TASK1:パワーエレクトロニクスに関する技術調査
④ TASK2:基礎研究の実用化可能性に関する調査
2-7. 調査結果/革新的構造材料市場俯瞰
⓪ 革新的構造材料市場俯瞰
① 自動車市場
② その他の輸送機器市場
2-8. 革新的構造材料市場俯瞰
輸送機器の構造材料は、必要な強度・安全性を満たしながらも、軽くあることが求められる
スピードの速い輸送機ほど、高価な材料の使用が許容される
■ 輸送機器構造材料を軽量化することによるコストメリット
① 自動車
② 電車・新幹線
③ 飛行機
④ 軍用機
⑤ ロケット
■ 想定される構造材料
① チタン合金
② CFRP
③ マグネシウム合金
④ アルミニウム合金
⑤ 高張力鋼板
2-9. 革新的構造材料市場俯瞰/用途別市場規模推移
輸送機器では、航空機や鉄道に比べ自動車向けの材料市場規模が最も大きい
技術開発が市場に与えるインパクトが最も大きいと推察される
2-10. 革新的構造材料市場俯瞰/車種別CO2排出量
自動車市場の中でも、乗用車のCO2排出量が最も多い
商用車に比べ輸送量当たりのCO2排出量で劣っているため、軽量化によるCO2削減効果が最も見込まれる
■ 車種別CO2排出量(国内2011年度、万トン)
① 乗用車/11,520
② 自家用貨物車/3,831
③ 営業用貨物車/4,043
④ バス/446
⑤ タクシー/362
■ 輸送量当たりCO2排出量
① 旅客輸送 乗用車170、バス51
② 貨物輸送 自家用貨物車927 営業用貨物車(トラック)130
2-11.ご参考)材料別市場規模推移予測
材料別に市場を俯瞰すると、鉄生産量の成長が鈍化する一方、炭素繊維(CFRP)やアルミニウムの需要が急速に伸長している
① 炭素繊維需要の推移
② 鉄生産量の推移
③ アルミ生産量の推移
④ マグネシウム需要推移