製造基盤技術は、国力に直結!A.T.カーニー作成の企画書から学ぶ

製造基盤技術のレベルは、その国の国力に直結します。近年は新型コロナウイルスやウクライナ戦争の影響で、製造業のサプライチェーンのリスクが増加しています。

その一方で、世界各国でカーボンニュートラル(炭素中立)デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが急速に進んでいます。製造基盤の技術は、日本の重要テーマの一つです。

A.T.カーニー作成の「日本の製造基盤技術」に関する報告書は、日本の現状を把握できます。A.T.カーニーは、1926年に設立されたアメリカのシカゴに本拠地を置く経営コンサルティング企業です。

政府系機関やNPOを中心に、世界40カ国61拠点で約3500名が活動しています。フォーチュン500にランクインする企業の3分の2以上を、クライアントとして抱えています。

その信念は、「コンサルタントとしての成功は、提言の“本質的な正しさ”、およびそれが有効であると自信をもって説得できる能力にかかっている」です。これは、創立者のアンドリュー・トーマス・カーニーが打ち立てたものです。

本記事は、A.T.カーニーが作成した日本の製造基盤技術に関する企画書です。

 

1. A.T.カーニーに見る外資コンサルと特徴

1-1. コンサル企業は人が財産

コンサルティング企業は、生産設備はありません。クライアント企業への提案価値がサービスですから、それを行う人材が財産です。A.T.カーニーでは、人材教育と成長できる現場機会の提供に力を入れています。

教育としては、入社時トレーニング、シニアコンサルタントが担当するスキル研修、海外オフィスと連携した合同研修、現場で活かせる研修プログラム、メンター制度など、かなり充実しています。

また成長するための「現場主義」も徹底しています。「志を実現できる、よりチャレンジングなテーマを年何回経験できているか」をプロフェッショナルファームとして最も大切にしており、「志を実現していく場の提供」に最も注力しています。

A.T.カーニーでのプロジェクト配属は、公募制を採用しています。コンサルタントは、自分の専門性を磨けるかどうか等の視点で選択できるようになっています。またこの業界特有の「UP or OUT」は存在せず、各コンサルタントの成長ペースを尊重しています。

1-2. 外資コンサルの企画書作成力を磨く仕組み

コンサル企業は、企画書作成力もアップするプログラムが組まれています。

① コンサルティングプロセスワークショップ
② イシュー分析
③ ワークプラン作成
④ ストーリー構成力
⑤ スライド(企画書)の書き方
⑥ 企業財務会計
⑦ マーケティング
⑧ インタビュー・スキル
⑨ プレゼンテーション

 

 

2. A.T.カーニー『製造基盤技術実態調査』企画書から学ぶ

では、実際にA.T.カーニーが作成した企画書を見ていきましょう。今回は、次世代の自動車産業産業戦略(仮称)検討会向けの平成25年度製造基盤技術実態等調査資料です。

2-1. A.T.カーニー平成25年度製造基盤技術実態調査

A.T.カーニーの企画書

2-2. 目次

A.T.カーニーの企画書

2-2-1. 日本の自動車産業構造について

市場、生産、雇用、税金、成長力

2-3. 世界市場での日本市場の量的プレゼンスは5%まで低下

A.T.カーニーの企画書

・地域別自動車販売割合推移(万台)
・2004年/米国27.6%、日本9.3%、中国8.0%、ドイツ5.7%、その他49.4%
・2012年/中国23.7%、米国18.1%、日本6.6%、ドイツ4.2%、その他47.4%

2-4. 日系OEMで販売比率は世界全体10~20%前後

A.T.カーニーの企画書

2-4-1. 主要OEM地域別販売台数内訳(2013年)

① トヨタ/北米27.8%、日本25.7%、アジア19.0%、欧州9.0%、その他18.5%
② 本田技研/北米43.1%、アジア28.0%、日本17.2%、欧州4.3%、その他7.4%
③ 日産/北米29.8%、中国24.1%、欧州13.4%、日本13.2%、その他19.5%

2-5. 段階的に海外シフトが進行し、過去15年で半減

A.T.カーニーの企画書

2-5-1. 自動車の国内生産と海外生産推移(2000-2010年)

① 海外生産は10年で2倍以上に
② 国内生産は激減で海外生産と逆転
③ 完成車の海外シフトに遅れて部品の海外シフトが進行中
④ 市場成長機会は海外にあり

2-7. ローカル部品メーカーからの調達も積極化

A.T.カーニーの企画書

2-7-1. 日系完成車メーカーの動向

■ 背景/価格競争の激化と円高
① 現地低コスト部品を採用する先進国メーカーとの競争
② 低k素とな新興国現地メーカーとの競争
③ 円高により利益の圧迫
■ 施策/調達コストの低減
① 部品の共通化
② 安価な海外製部品の輸入
③ 現地生産へのシフト
④ 現地日系部品メーカーからの調達拡大
◇国内の取引関係を海外でそのまま活用できるとは限らなくなりつつあり、部品メーカーにとって現地化がより大きな課題に

2-8. 製造部門の雇用が全体の10%弱

A.T.カーニーの企画書

2-8-1. 自動車関連産業の就業人口内訳/530.0万人(2011)

① 利用部門(運送など)281.0万人
② 販売・整備部門106.5万人
③ 自動車製造部門78.7万人
④ 関連部門(ガソリン・保険等)40.9万人
⑤ 資材部門22.9万人

2-8-2. 製造系の就業人口内訳/70.9万人(2010)

① Tier1:32.1万人
② OEM:23.7万人
③ Tier2:7.6万人
④ Tier3:7.5万人

2-9. 海外での雇用拡大が顕著

2-10. トヨタはサブプライム後は国内事業の利益は戻っていない

A.T.カーニーの企画書

2-10-1. トヨタ自動車税引前当期純利益推移(億円)

① 本体および日本国内子会社
② 海外子会社
③ 国内・海外比率

2-11. OEM8社 税金等調整前当期純利益総額推移

A.T.カーニーの企画書

2-11-1. OEM8社 税金等調整前当期純利益総額推移(億円)

① 単体
② 連結(国内・海外子会社含む)

2-12. 過去20年間M&Aを通じて事業領域を大幅拡大

A.T.カーニーの企画書

2-12-1. Continentalの過去20年間M&A

■ 1871年 創業
■ 1990年代までタイヤ事業中心
① ホース、ラバー事業等のプラスチック・ゴム事業強化 ERGパルプトップシェア
■ 1998年 ブレーキ関連部品メーカーAlfred Tevesを買収
① ディスクブレーキトップシェア
② ABS、TCS、ESP、ACC等の電子制御技術有
■ 2001年 センサー・ECU電子部品メーカー/Temicを買収
① ディーゼルマネジメントシステム
② ブレーキコントローラー
③ オイルセンサーなど
■ 2003年 ABSセンサーメーカー長野日本無線を買収
■ 2006年 車載電子部品メーカーMotorolaを買収
① 車間通信システム
② PT・シャシー制御装置(EPS制御装置など)
■ 2007年 自動車サプライヤランキング10位SiemensVDOを買収
① ガソリン・ディーゼル燃料噴射システム
② ブレーキバイワイヤシステム
③ コックピットモジュールなど

2-13. モジュラー・アーキテクチャへのシフト

A.T.カーニーの企画書

2-13-1. 部品メーカーに求められるケイパビリティをさらに高度化させる

■ 統合コントロールされた擦り合わせ型分業
<詳細>
① 特定サイズセグメント内で部品を共有化
② 擦り合わせにより最適化されたPFはフレキシビリティは限定的
③ 全体で機能を実現
<部品メーカーに求められるKSF・キーとなる能力>
① 共同開発
② 承認図方式での開発
③ 臨機応変な説変対応
④ 新部品のつど設備投資できる余力
⑤ 先方生産地の近くでの生産
■ モジュラー・アーキテクチャによる分業
<詳細>
① 各モジュールは長期的視点で絞り込み、インターフェイスを規定して組み合わせる
② 各モジュールが機能と紐づけられ、分業して開発・生産
③ 「シリーズ・ソーシング」「バンドリング・ソーシング」「グローバルソーシング」といった調達方針
④ 多様化と効率化を両立
<部品メーカーに求められるKSF・キーとなる能力>
① 先行開発
② グローバル供給
③ シリーズ供給
④ バンドリング供給
⑤ 大規模開発・生産のリスク許容力