ヘルスケアサービスの最新状況と方向性とは?海外事例も解説!

ヘルスケアサービス産業のニーズが高まる、世界でも稀有な超高齢化社会が進む日本。日常で普通に道を歩いていても、高齢者の比率が非常に高いことを認識せざるをえない状況です。

そんな中、高齢者の医療負担を軽減し、何よりも健康を促進させるヘルスケアサービス産業の啓蒙と育成は、日本にとって死活問だといえるでしょう。IT化が遅れる分野で、今後どのような方向性で施策を進めればいいのか。そのヒントを示してくれるのが、今回ご紹介する企画書です。

欧米、アジアの先進的な取り組み事例や日本国内のヘルスケアサービス事例も豊富に掲載されているので、最新のヘルスケアサービス事情を把握したい方にとっても、参考になる資料だと思います。

<THIS ARTICLE SAMMARY>
・ヘルスケケアサービスの在り方が今問われている
・諸外国におけるデジタル技術を活用したヘルスケアサービス事例をリサーチ
・日本におけるデジタル技術を活用したヘルスケアサービスの阻害要因を整理
・認知症、メンタルヘルス、フィットネス、個人健康データのシェア、処方箋データとの連携、AI問診

 

◆YouTube参考動画/『人気のスマートウォッチのオススメって?!長年にわたりfitbitとApple Watchの両方をつけ続けている女性ヘルスケアコーディネーター的に、おすすめポイントをざっくりご紹介。』
ヘルスケアサービス
<Apple Watchの特徴>
①iPhoneの機能を最大限に使える!
②iPhone対応アプリのマニアックな通知も可能(例.ゲームの通知)
③とにかく人気&お洒落!(例.ルイ・ヴィトンデザインもあり、有名人ユーザーも多い)
<Fitbitの特徴>
①健康管理が最優先!管理の負担がなく充電の持ちがいい(1時間で1週間持つ)
②Apple Watchより軽く、就寝時にも負担が少ない(装着感はInspire2がおススメ)

 

1. ヘルスケアサービス事業の背景と目的

今後、我が国は「人生100年時代」の到来や、現役世代の急激な減少など、経済社会システムの構造変化に直面することが見込まれる。また、第四次産業革命が進展する中で、AIやIoTなどの新技術の開発・社会実装やビッグデータの活用などにより、幅広い産業分野における変化が見込まれる。

その中で、ヘルスケアサービス分野においては、高齢化に伴うヘルスケアサービス需要の質・量面での変化、これに伴うサービス提供のあり方の変化、サービス提供の地域格差、従事者の長時間労働や人手不足等、様々な課題が指摘されている。また、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、感染症の拡大防止と両立するヘルスケアサービス提供のあり方や暮らし方、いわゆるウィズ・コロナ、ポスト・コロナにおける「新たな日常」に向けた社会経済の変化がこの分野においても求められている。

こうした問題意識から、本調査では、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナの成長戦略も念頭に、昨年度に引き続き国内外のヘルスケアサービス分野へのデジタル技術の活用事例を調査するとともに、ヘルスケアサービスの各分野の方向性や課題等について検討した。

 

2. 国内外におけるデジタル技術を活用したヘルスケアサービス等の提供実態等の調査

2‐1. ヘルスケアサービスに関する調査内容

我が国及び諸外国において現在導入されている、デジタル技術を活用したヘルスケアサービス等事例について調査・分析を行い、導入経緯や導入効果、関係者の評価について整理した。さらに、これらの事例等を基に、我が国において、デジタル技術を活用したヘルスケアサービス等の普及拡大における阻害要因を整理した。

上記の調査・分析に加え、研究会における検討を行うことにより、国内外におけるデジタル技術を活用したヘルスケアサービス等の提供の可能性等について示唆を得た後、普及促進施策を整理した。

2‐1-1. ヘルスケアサービスの調査範囲

今回、デジタル技術を活用して日本国内で導入又は開発されているヘルスケアサービス等として、特に図表1に示すようなサービスを調査した。また、医療機関にまつわるデジタルサービスについては、特にDXが進んでいないクリニックで活用され得るヘルスケアサービスを中心に調査した。

◆調査対象としたヘルスケアサービス
①認知症、メンタルヘルスの発症予防・重症化予防、モニタリング
②COVID-19の影響により、新たに生まれたニーズや市場に対応する事例、顕在化あるいは増大した課題を解決しうる事例
1. 行動記録・健康管理、健康モニタリング
2. 感染情報可視化、ウィルス情報提供
3. フィットネス
③個人の健康関連データ(PHR)の共有、医療・検診・処方薬等データ連携
④アプリによる慢性疾患患者の治療
⑤AI問診等による、患者振り分け・初診時の効率化
⑥AI画像診断等の医療行為サポート
⑦医療Maas

また、日本の他、デジタル技術を活用したヘルスケアサービス等が事例として顕在化している、北米(米国、カナダ)、欧州(英国、ドイツ、フランス、デンマーク)、アジア(シンガポール、インド、韓国、インドネシア)、オーストラリア、イスラエルの事例を中心に調査した。

2‐2. 世界のヘルスケアサービス調査方法

以下に各調査方法を示す。

2‐2-1. デスク調査

図表1のデータベース等を活用し、図表2で示すヘルスケアサービス等の具体的な事例を調査した。

ヘルスケア

デスク調査で活用したデータベース等


 

2‐3. 世界のヘルスケアサービス調査結果・分析

2‐3-1. デスク調査結果(ヘルスケアサービス等事例)

図表1で示すヘルスケアサービス等の事例を幅広く調査した。具体的な事例は図表4~17に示す通り。

ヘルスケアサービス事例

2‐3-1-1. Livongo Health(Livongo)

糖尿病患者向けにコーチングサービスを提供する。詳細は、以下の通り。

◆Livongo Healthサービス概要
<サービス概要>
・2014年米国で設立、糖尿病などの生活習慣病の患者へコーチングを提供するスタートアップ企業。糖尿病患者に適切な運動管理と食事のコーチングやアドバイスを与え、糖尿病にかかる医療コストの削減を目指している
・患者にはLivongo Healthから血糖値を測る小型デバイスが配布され、患者は指定された時間に採血して血糖値を測定する。測定された血糖値はネット経由でLivongo Healthに送られ、異常が認められるとLivongo Healthのコーチからテキストメッセージや電話コールが90秒以内に送られてくる。リアルタイムでコーチングを受けることも可能で、患者一人ひとりの生活スタイルに合わせた運動プランなどのアドバイスが受けられる
・2010年10月にTeladoc Health買収された
◇ヘルスケアサービス対象者
・企業向けのヘルスケアサービで契約企業の糖尿病患者に提供される
・Fortune500の企業のうち30%以上の企業が使用している
<導入効果>
・契約企業に行った調査では、Livongo Healthのシステムを使用した患者の医療コストは使用しない場合と比較して月額83米ドル安かった。(研究実施当時の糖尿病管理プログラムの利用コストは、平均68米ドル/人・月であったため医療費が削減)
・大手データ管理会社アイアン・マウンテンでは、システム導入により社員の医療機関への通院回数が59%低下し、緊急外来の利用も19%低下した

ヘルスケア

アメリカで注目されているMedtech企業:リヴォンゴ・ヘルス

2‐4. 研究会の結果・分析、施策案

ここまでの調査結果を踏まえ、デジタル技術を活用したヘルスケアサービス等の、特に医療機関における普及拡大の課題や、課題解決のための施策検討等を目的に、研究会を開催した。

2‐4-1. 第1回研究会の論点

ここまでの調査結果を踏まえ、デジタル技術を活用したヘルスケアサービス等の普及拡大や課題解決のための論点整理を目的に研究会を開催した。第1回研究会では、これまでの調査結果の中で、医療機関におけるデジタル技術活用拡大の課題を指摘する声が多かったことを踏まえ、企業やサービスの課題だけでなく、医療機関における課題についても議論を行った。

2‐4-2. 第1回研究会の議論結果

第1回研究会の議論結果について、以下に示す。

多くの医療機関がデジタル技術を積極的に導入することに向けたヘルスケアサービスの課題として、以下の意見が出た。

・医師の高齢化が進んでおり、デジタル技術を活用したヘルスケアサービス等を導入することに積極的でない可能性がある。医師の理念や環境によっては、サービス等導入による、周囲の医療機関との差別化等の必要性が比較的少ない可能性がある

・医療機関(特にクリニック)の多くは医師が経営者となっており、生産性への意識等が他業界の経営者とは異なる可能性がある

・サービス等について、提供するベンチャー企業等が想定する価値と、現場の医師が感じる価値に乖離があり、導入に繋がらない。ベンチャー企業等側から医師が営業を受けるも、コミュニケーションがスムーズにいかず、導入検討を後回しにしてしまう

・医療機関に導入される院内システム等にベンダーロックインの問題があり、ベンチャー企業等のサービス導入を検討するも、接続料等の名目で大きな費用負担が医療機関側に課せられる可能性がある

・開業時に関与する開業コンサルが、将来的にベンチャー企業等の新たなサービスを導入しやすい院内システム環境構築に関する提案をできていない可能性がある。また、「業務効率化に貢献するサービス」と「医療の質向上に貢献するサービス」を比較すると、「業務効率化に貢献するサービス」は相対的に短期的に医療機関への導入が進みやすく、分けて議論すべきとの意見があった

また、医療機関が導入したいと感じるデジタルサービスを提供するにあたっての産業・ベンチャー側の課題として、以下の意見が出た。

・デジタルヘルスの産業人口が少なく、産業自体が限定的で、サービスの数が質を高めていくような状況になっていない。医療ヘルスケアの業界構造理解が難しい等を理由に、他業界や起業を志す若手人材が、ヘルスケアサービス業界に参入していない

・質の高いサービスを開発していくためにも、医療ヘルスケアに知見のある医師等だけでなく、エンジニア等多様な人材とのチームアップが必要であるが、そのチームアップにつながるデジタルヘルス産業のコミュニティが不足している

・比較的小規模法人となるケースも多く、それぞれで導入の意思決定が必要となる。そのため、例えば薬局等と比較し、ヘルスケアサービスにおけるDXが一気に進んでいかない状況にある

2‐4-3. 第1回研究会の振り返り、第2回研究会の論点

デジタルサービスが普及しない要因として、第1回研究会の議論内容をまとめると以下のようになる。

・医療機関に「業務効率化に貢献するサービス」を普及拡大させるにあたっての課題
→法人規模が小さい
→経営者の平均年齢が高い
→生産性向上に対する意識が充分でない可能性がある

・医療機関に「医療の質向上に貢献するサービス」を普及拡大させるにあたって課題
→医療機関の費用負担が増加する
→サービス活用に対して技術的な懸念がある

・デジタルサービスの普及拡大が進まない産業・ベンチャー側の課題
→ヘルスケアサービス産業人材が不足している
→ヘルスケアサービス産業のコミュニティが不足している
→営業先のクリニックが見えていない
→ヘルスケアサービスの導入効果を示せていない、ベンチャー・サービスに対する信頼が得られない
→承認・保険償還プロセス、データ取得にコストがかかる(規制等)

2‐4-4. 第2回研究会の議論結果

第2回研究会では、各論点において積極的に推進すべき施策案についての議論が行われた。「業務効率化に貢献するサービス」の普及拡大のための施策について、以下の意見が出た。

・運営法人の大規模化やサービス競争が進めば、デジタル技術導入が進みやすくなるのではないか
・デジタル化に積極的な医療機関に対しては、補助金等のインセンティブによりデジタル技術導入が促進されるのではないか
・医療機関がM&Aにより法人規模を拡大しようとしても、そのM&Aに関する情報が不足しており積極的に検討しづらい状況にある。M&Aを誰に相談すべきか、M&Aにおいては何に対して注意すべきか、具体的な事例も併せた情報発信があれば役立つのではないか
・働き方改革関連のインセンティブにより、医療機関の生産性向上に繋がるのではないか
・医学部生に対するイノベーション教育や、将来的な多職種連携に繋がる学部横断的な教育を推進すべきでないか

また、「医療の質向上に貢献するサービス」の普及拡大のための施策ついて、以下の意見が出た。

・大手ベンダーとベンチャー企業が適切なアライアンスを組み事業を推進できるような環境を整備すべきでないか
・新たなデジタル技術を活用したサービスを対象とする、医師向けの損害賠償保険の活用が考えられるのではないか
・医師が医療の質向上に積極的に取り組むためのインセンティブ付与を、特にデジタルサービスに着目して検討すべきではないか

また、デジタルサービスの普及拡大のための産業・ベンチャー側にまつわる施策について、以下の意見が出た。

・既存のヘルスケアコミュニティを顕在化させて、新たに参入を検討する人材が、自身にあったコミュニティを選択できる環境を整備すべきではないか
・将来的なヘルスケアベンチャーのチームアップにつながる、学部横断、大学横断的な教育を充実すべきでないか。医学部や薬学部・看護学部だけでなく、エンジニア職に繋がる学生や、ビジネススクール、芸術デザイン系の学部等、多様な人材が繋がることができるコミュニティを形成できる教育となることが望ましいのではないか
・他業界の人材や企業を志す人材に、医療ヘルスケア業界の基本的な知識を提供するためのオンラインコンテンツを整備し、誰でも簡単にアクセスできるような環境整備を図るべきではないか
・異業種から医療機関がインターンを受け入れるような環境を、整備すべきではないか
・導入事例が少ない新しいサービスを積極的に取り入れる医療機関・医師や、POC に協力する医療機関・医師に対するインセンティブが有効ではないか
・デジタル技術に積極的な医療機関・医師を可視化し、優れたベンチャー企業に公開することで、営業をしやすい環境が出来るのではないか

 

 

3. 効果的・効率的な介護サービス提供等の調査

3‐1. 調査内容

我が国及び諸外国での介護分野における、デジタル技術の活用事例の調査、特に、我が国でデジタル技術活用が普及拡大していないと考えられる在宅介護領域に着目し、感染予防対策や効果的・効率的な介護サービス提供に向けた、デジタル技術の活用について調査を行った。また、これら調査結果を踏まえて、課題を整理することを目的に有識者数名からなる研究会における検討を行った。

3‐1-1. 調査範囲

特に、我が国でデジタル技術活用が普及拡大していない在宅介護領域に着目し、特に図表40に示すような我が国と諸外国におけるデジタル技術活用事例や保険内サービスと保険外サービスの組み合わせ事例、その背景にある制度・慣習等を調査した。また、在宅介護を積極的に推進する国を中心に、欧州(デンマーク、フィンランド、スウェーデン、英国)、アジア(シンガポール、台湾、韓国)の事例を調査した。

また、COVID-19関連で顕在化しているデジタル技術活用事例についても合わせて整理した。

3‐2. 調査方法

以下に、各調査方法を示す。

3‐2-1. デスク調査

図表40で示す具体的な事例を把握するために、図表41で示すデータベース等を活用し調査を行った。

3‐2-2. ヒアリング調査

デスク調査を踏まえ、各デジタル技術活用事例の中で、特に先進的な国内外の事例について、デスク調査では明らかにできなかった内容、特に普及拡大に向けた課題認識等を把握するために、ヒアリング調査を実施した。具体的には、訪問介護マッチング、業務支援、遠隔介護・リハビリ、フィンテック、のサービスを提供あるいは開発に関わる国内6社にヒアリング調査を実施した。

また、諸外国の在宅介護の実態やデジタル技術活用事例について知見を有する有識者7名に対してヒアリング調査を行った。また、デジタル技術を活用したヘルスケアサービス等の普及拡大に向けた課題認識等を把握する目的で、当該領域の知見が豊富な有識者(アカデミア、ビジネス、ケアマネジャー)計7名もヒアリング対象に含めた。なお、ヒアリング調査は基本的にオンライン会議の形式で実施した。

3‐2-3. 研究会の実施

各調査分析を踏まえて、特に在宅介護領域で展開される、デジタル技術活用サービスの普及拡大の課題や、課題解決のための施策検討等を目的に、研究会を計2回開催した。

また、研究会委員は、在宅介護におけるデジタル技術を活用したサービスについて知見を有する有識者より選定し3名に就任いただいた。詳細は、図表42に示す通り。

3‐3. 調査結果・分析

調査結果・分析について以下に示す。

3‐3-1. 我が国と諸外国におけるデジタル技術活用事例調査

図表40で示すデジタル技術活用事例を幅広く調査した。 特に、我が国でデジタル技術活用が普及拡大していない在宅介護領域に着目し、我が国および諸外国における、効果的・効率的な介護サービス提供の在り方を把握することを目的に、国内外のデジタル技術活用事例の調査を行った。

3‐3-1-1. デスク調査結果

図表43~51で、示すデジタル技術活用事例を幅広く調査した。

ヘルスケア

事例詳細/RIGEL DESIGN INC.(おうちで介護どっとこむ)

ヘルスケア

事例詳細/マネーフォワード


 

3‐3-1-2. ヘルスケアサービスに関するヒアリング調査結果

在宅介護に関連してヘルスケアサービスを提供あるいは開発に関わる国内6社と、当該領域の知見が豊富な有識者(アカデミア、ビジネス)計 3 名に対してヒアリング調査を実施した。

それぞれに対して、国内のデジタル技術を活用したヘルスケアサービス等は充分に普及が進んでいない、との認識に基づき、各者に対して、普及拡大向けた課題認識や普及拡大に向けた取組み内容を中心に、図表65に示す項目等をヒアリング調査にて把握した。

ヒアリング調査の結果、各ヘルスケアサービスの普及拡大が進まない要因として図表66に示す意見があった。

ヘルスケア

ヒアリング結果まとめ


 

3‐3-2. 諸外国における、在宅介護やデジタル技術活用の実態調査

在宅介護を積極的に推進する諸外国における、在宅介護の実態や、デジタル技術活用の状況について国別に調査した。

3‐3-2-1. デスク調査結果

在宅介護を積極的に推進する、欧州(デンマーク、フィンランド、スウェーデン、英国)、アジア(シンガポール、台湾、韓国)における、在宅介護の実態やデジタル技術活用の状況について調査した。
 

◆デンマーク
デンマークでは、1982年に以下に示す「高齢者三原則」が示され、施設介護から在宅介護へ大きく舵が切られた。これらは、1970年代以前の施設ケアへの依存とそれに伴う高い社会福祉費用の課題の解決を目指すものと位置づけられた。

・これまで暮らしてきた生活と断絶せず、継続性をもって暮らす(生活の継続性に関する原則)
・高齢者自身の自己決定を尊重し、周りはこれを支える(自己決定の原則)
・今ある能力に着目して自立を支援する(残存能力の活性化に関する原則)

デンマークでの在宅介護の財源は税収であり、介護の主体はコムーネ(市)である(医療はレギオナ(広域自治体))。在宅介護では、訪問看護師が重要な役割を担っており、訪問介護士の指導者的な立場であるとともに、ケアプランの内容、回数見直しを行う。また、介護チームとの連携、医療ケア提供のために家庭医との橋渡しを行う。

デジタル技術活用に関する施策として、「Digital health strategy 2018-2022」が推進され、医療分野では患者参加型医療の実施強化など、重点化領域が掲げられている。具合的施策の一つとして Thedoctor in the pocket(iPad を使用しての遠隔診療システム)の導入が全国的に進められている。例えば、訪問看護師が患者の状況をiPadに入力して、家庭医(GP)が状況に応じて診察するシステムの実証が進められる。
 

◆スウェーデン
スウェーデンでは、1992年に「エーデル改革」と呼ばれる高齢者福祉制度の改革が行われ、高齢化に伴う高齢者向け医療費の膨張を抑制するとともに、高齢者ケアの質の向上と効率化を目指した。

保健医療に責任を持つランスティング(地方自治体で、日本の県に相当)と、社会福祉に責任を持つコミューン(住民に最も近い基礎自治体で、日本の市町村に相当)間で曖昧となっていた高齢者(および障害者)に対する医療・福祉サービスの責任を、全面的にコミューンに移管した。当時社会的な入院が問題化していたが、退院可能な高齢者がコミューンへと移行しなかった場合、財政的な責任をコミューンが持つとの仕組みに変更され、高齢者向けの病床数が大幅に削減された。

またエーデル改革を受けて、介護は在宅へとシフトした。コミューンが提供する在宅介護サービスは24時間受けることができるため、介護を必要とする高齢者であっても、自宅での生活を続けることができるようになり、9割の高齢者が在宅介護を受けている。

在宅介護の財源は、コミューンの税財源と利用者の自己負担で賄われる。利用者負担はコミューンによって異なるが、利用者負担の上限及び利用者の最低所得保障額が設定されている。また、在宅介護の担い手は、家族やデイケアである。家族、デイケアにより行われている。国から家族介護者へは金銭的な補助があり、国からコミューンに交付された補助金から、家族介護者等へ配分されている。また、スウェーデンでは、デジタルヘルス政策も進められている。医療サービス向上を目的として、2006、2010年にthe National Strategy for eHealth4が採択され、以下を目指している。

・患者が、過去に行われた自身への治療・サービスおよび医療全般に関する信頼性のある情報を容易に入手できる
・適切な情報サービスを通じて医療参加・自己決定を行える(患者の権利強化)
・複数の立場の異なる医療従事者が、患者に関するあらゆる医療情報を迅速、安全、かつ容易に共有し、日々の業務や治療の決定に役立てる
・政策決定者が、医療サービスの質と安全性をモニタリングし、適切な情報に基づいた組織運営を行える

さらに、2016年にはVision for eHealth 20255が採択され、2020年度までの達成事項の一例として、複数のEHRシステムをまとめるHIEシステムの導入や、ウェブサイトからの自身のEHRへのアクセス、ケアスタッフが電子ケアプランツールを使用すること、が挙げられる。また、2018年には「認知症の人の介護のための国家戦略」が策定され、その中でデジタル化への補助金をコミューンに提案している。

スウェーデンの在宅介護においては、図表67に示す通り、電子ケアプラン、アラーム・センサー等のデジタル技術活用は8割以上普及していると報告されている。
 

◆フィンランド
フィンランドでは、1984年のVALTAVA改革により、福祉国家としての基盤を構築し、自治体の保健福祉サービスに関する費用を国が補助する仕組みとなった。また、高齢者や長期療養者の在宅介護支援が規定され、施設ケアから脱施設ケアへの移行促進を図った。

同年の社会福祉法により、子供は親の介護をする義務がなくなり、結果的に自治体が介護の担い手となった。社会福祉上ではケアの大枠の方針が示されるのみで、具体的なサービスの内容は自治体に委ねられていた。

その後、1993年の税制改正で各自治体のサービス供給のあり方の自由度が大きく増した。施設ケアの大部分を自治体が負担することになり、「施設ケア」から「在宅ケア」・「住居サービス」へと流れが大きく変化した。施設ケアの実費用の大部分を自治体が負担することになった(従来は国が負担)が、住宅を基盤としたオープンなケア(在宅ケアやサービスハウスでのケア)に移行することで、利用者は国から得る各種手当や年金などを利用することができ、実質的に各自治体自身の負担も軽減された。

これまで自治体が公共機関に運営委託をしていた24時間体制のサービス付き高齢者住宅は、民間へと運営
委託が可能となった。結果的に、自治体の費用負担は削減された。

フィンランドでは、財政面と文化的な理由より、在宅ケアが中心となっている。北欧諸国の中で最も速いスピードで高齢化が進んでおり、若い世代中心に失業率が高いままで財政的にも厳しい状況である。また、フィンランドの高齢者は自立志向が強く、独居して生活を望む人が多数派である。子供に頼るとの意識は少なく、75歳以上の9割は自宅で独立して生活する。

高齢者の介護義務は自治体が負うことになっており、保健医療資格と社会ケア資格を統合した「ラヒホイタヤ(Lähihoitaja)」が看護の分野から福祉の分野まで幅広いケアを行い、在宅介護で必要な処置を一人で行うことになっている。日本では医師でないと実施できない医療的介入も一部可能である。「ラヒホイタヤ(Lähihoitaja)」創設の背景として、施設収容数を段階的に減らし、在宅ケアへと移行させていくという政策が取られ、マンパワーの総量を変えずに、在宅ケアの担い手の能力向上が必要となった点が挙げられる。家族が介護の担い手となる場合(インフォーマルケア)には、費用がサポートされる。

また、デジタル技術活用については、国主導で推進を行う。2015年に、医療と社会福祉サービスを統合する改革、Social and healthcare reform(SOTE)をスタートした。近年、国立技術研究センターVTT はフィンランドの各分野のR&Dにおいて、民間企業との共同研究環境を整備し、ヘルスケア分野にも注力している。さらに、フィンランド技術庁「Business Finland」は、Well-beingとヘルスケアを戦略テーマにデジタル化につながる環境を促進しており、その施策として2019年にSmart life finland のプログラム「Health and Wellbeing in a Digital Age-Vision 2025」を発表している。
 

◆英国
英国の介護はCare Act 201412で規定されており、介護者を、(「介護を必要とする」)他の成人に介護を行う、もしくは、行う意思のある者で(10条3項)、契約に基づき介護を行う(もしくは行う意思のある)者、および、ボランティア活動として介護を行う(もしくは行う意思のある)者を除く(同条9項)と定義される。

英国においても、介護施策は在宅ケアを重視する方向にシフトしており、民間会社が地方自治体から委託されてサービスを提供することによって、多様なサービスの質を高めている。公的な介護保険制度はなく、ソーシャルケアについては、地方自治体が行う社会福祉サービスと英国民保険サービス(NHS)が提供する医療サービスが担う。

その他、家族によるインフォーマルケアや、個人や家族が購入するプライベートなケアサービスが存在する。在宅サービスの提供主体には制限が設けられておらず、地方自治体と民間(営利・非営利)のいずれもが参入することができる。要介護者がサービスを利用する場合、自治体から現物としてサービスを受けるほかに、現金給付を受けて自らサービス提供者と契約する「直接払い(ダイレクトペイメント)」の方式もある。直接払い方式では、個人と雇用契約を結ぶことも可能であり、その場合は、利用者が雇用主として社会保険加入などの義務を負うこととなる。

在宅介護でのデジタル技術活用に関する施策として、「3 million lives プロジェクト」が挙げられる。2012年に産官による遠隔医療(Telehealth)・遠隔介護(Telecare)推進のためのコンソーシアムが組織され、保健省と英国産業界が協力し検討を進めている。

2014年11月に国家情報委員会NIBは、eHealth 戦略となる「Personalised health and care 2020」を発表した。デジタル技術の革新を通じて、健康に関するアウトカムと患者のケアの質を向上させる2020年までの計画であり、地域ベースの統合医療、ICT活用、データの二次利用についての指針を含んでいる。

本プロジェクトでは、遠隔介護の推進において、利用者宅の機器費用をどこから捻出するかが課題とされ、「Payment by outcomes」という方式を推進する。利用者が機器購入のために1,000ポンド支払うが、発生しなかった医療費を、利用者に戻し、機器購入の負担を軽減するという方式(例えば、遠隔医療や遠隔介護のサービスを受けた結果、「前年は4回受診したが今年は受診なし」となれば発生しなかった医療費分が返戻される)を採用する。
 

◆シンガポール
2002年9月よりElder Shield15と呼ばれる介護保険制度が導入されており、40歳以上を対象に、加入を辞退しない限り自動的に加入され、保険料は65歳まで MSA(Medical Saving Accounts:医療貯蓄口座)より支払うことになる。高齢者は基本的な日常行為(食事・入浴・歩行・着替え・寝起き・トイレ)のうちの3項目を補助なしで行うことができなくなった時に、これまで積み立てられてきた介護保険料から月額400Sドルを受け取ることができる。期間は最長6年と定められている。

根底に、老いた親の面倒は国でなく、最終的に子どもが見るという親孝行を徳目とする儒教の考えがあり、また、シンガポールは日本と違い、介護施設に入る高齢者は少数派で、その多くが自身の子どもと暮らす。その背景には、1995年に制定された両親扶養法で、60歳以上の自活できない両親の扶養をその子に義務づけていることなどが挙げられる。

健康でいる高齢者に対してはインセンティブを用意しており、介護保険を支払う原資となるMSAには年2.5~5%の利子がつき、積立金と利子収入はどちらも非課税。加えて、55歳になれば、年金として引き出せる。積立金は非課税で家族が相続できるので、高齢者本人のみならず、家族にも高齢者の健康をより気遣うインセンティブが生まれる。

その後、介護保険制度は、2020年にすべての国民に加入を義務付ける CareShield Life16として新たに導入し、国民にさらなる負担を強いて、長期ケアの維持に取り組む。新制度では、これまで日本と同様40歳からであった介護保険料の支払い開始時期が、30歳からに引き下げられる。

一方で保険料納付の期間は、65歳までから67歳までに引き上げられる。また、lder Shieldと異なり、加入が義務化され、脱退は認められなくなる。保険料納付は年1回で、保険料は年206Sドル(女性は同 253Sドル)で、物価上昇を想定し最初の5年間は毎年2%増額する。その後の引き上げ幅は改めて決定される。1人当たり家計所得が月2,600Sドルかそれ以下の国民には保険料20~30%の納付補助を行う。

要介護と認定された者の受給額は月600Sドルで、この額も最初の5年間は年2%の割合で増額され、生涯にわたり給付される。介護が必要な期間、保険料の納付も継続的に求められる。高齢者が CareShield Life に加入する方法は2021年に発表される予定である。

シンガポールでは、自宅での介護が基本となっており、子どもや外国人家事労働者がその担い手となっているが、多くを外国人労働者に在宅介護を依存する状態で、外国人家事労働者補助 (Foreign Domestic Worker Grant) により雇用する家族を支援する制度を設けている。

デジタル技術活用に関する施策としては、2014年にシンガポール保健省によって策定された「ヘルスIT マスタープラン」に基づき保健・福祉分野へのIT活用が進められる。また、保健省が2017年11月に公表した計画では、下記3つの戦略の実現を見据えている。

<予防医療へのシフト>
糖尿病撲滅キャンペーンや若年層への健康教育を提供することで、国民の健康的な生活を支援する

<地域医療へのシフト>
プライマリ・ケア・ネットワークや新たな施設の設置、地域社会内におけるメンタルヘルスサービスの強化などにより、国民が住み慣れた場所で適切な治療を受けられるようにする

<価値へのシフト>
糖尿病などの適切な対処法や医薬品の使い方を紹介するなどして、国民が医療に関して正しい判断・対処ができるように促す
 

◆台湾
儒教思想が根付く台湾では老後は子供が親を扶養することが「孝行」であるとの考えがあった。その結果、社会全体で取り組む介護制度については整備が進まなかったが、少子高齢化が急速に進み介護は社会のサポートなしでは解決できない問題になり、介護制度の整備が始まった。

2007年に長期介護年計画が策定され、居住・地域ケア、施設ケア、介護手当の充実を図った。居住・地域ケア、介護手当
に関しては利用者・受給者の増大との成果があがった。また、2017年には長期照顧服務法(介護サービス法)が定められ、以下を特徴とする。

<長期介護サービス法の目的と適応範囲>
心身の能力を喪失した状態が6カ月以上持続する者は全員介護サービスの対象となる。

<提供される介護サービスの種類>
介護サービスは提供方式により、(1)居宅型、(2)地域型、(3)施設宿泊型、(4)家庭介護者支援サービス、(5)その他に区分される。

<家庭での介護労働者に対する訓練>
家庭で介護サービスを提供している外国人労働者への訓練を制度的に実施することが定められた。

<介護サービス利用者の権利利益保証>
介護施設の介護サービス提供に当たっての書面契約の締結義務、プライバシーの保護、利用者に対する遺棄、虐待、蔑視、違法な身体拘束等の禁止などが定められている。

また、介護保険が導入されていない台湾では、家族と外籍看護工が在宅介護の担い手になっており、特に高齢者家族の介護においては、賃金が安い外籍看護工が重要な担い手とされている。

デジタル技術活用に関する施策として、台湾科技部が2019年から推進する「補助科技研究」プロジェクトでは、高齢社会における高齢者介護の技術的なニーズに応えるための研究開発が進められる。また、台湾の科技部はEUの高齢者生活支援を推進するAAL(Active and Assisted Living Program)のメンバーとなり、2020年2月にAALが推進するプロジェクト「デジタルソリューションを利用した健康的な高齢社会の実現」への参加も決定した。AALは、高齢者のQOL向上を目的に、健康的な高齢社会実現のための技術発展やイノベーション産業への支援を実施している。

各プロジェクトは、中小企業、研究機関、エンドユーザーが提携して組織されたグループによって進められており、デジタル時代の新潮流、ICT(情報通信技術)を駆使して、慢性疾患管理、社会的包摂サポート、日常生活の管理など高齢化社会が抱える課題の解決を目指している。台湾は、ネットワーキングと情報収集を目的に参画しているものと推測できるが、詳細については不明である。
 

◆韓国
急速な人口増加、女性の社会進出、公的医療保険の財政赤字の拡大を背景に、2008年7月より「老人長期療養保険制度」という介護保険制度を導入した。日本の介護保険制度をモデルとして導入されているが、制度の施行においては被保険者層を拡大し、手続きやサービス内容の簡素化が図られ、国の「財政支出の最小化」が目的とされる。

介護サービスを利用する際の自己負担額もサービス内容によって異なり、在宅15%、施設20%の自己負担額がある。「財政支出の最小化」という韓国政府の財政運営方針に基づいている。

在宅介護へのシフトが徐々に進んでおり、「同居家族療養制度」が導入された。これは、同居家族が療養保護士(日本でいうヘルパーに相当)の資格を取得後に家族を介護すると報酬として一日あたり2時間分の現金が得られる仕組みである。

デジタル技術活用に関する施策としては、2007年に「ロボット試験普及事業」を開始し、介護分野においては、高齢化社会に役立つ生活支援ロボット(認知能力補助、運動補助、室外移動ロボットなど)開発の実証実験を行ってきた。2008年には「知能型ロボット開発及び普及促進法」を制定し、知能型ロボットの品質保証機関の設置、ベンチャーなどに投資するロボットファンドの創設、ロボットランド(特区)への助成などを行っている。
 

◆ヒアリング調査結果
諸外国の在宅介護の実態やデジタル技術活用事例について知見を有する有識者7名に対して、ヒアリング調査を実施した。それぞれに対して、我が国でのデジタル技術の普及拡大の参考情報として活用するために、各国での在宅介護におけるデジタル技術活用の普及状況とその背景にある制度等を中心に、図表68に示す項目等をヒアリング調査にて把握した。

これらヒアリングの結果、在宅介護における各国のデジタル技術活用状況について、図表69に示す要因が影響していると考えられる。

ヘルスケア

ヒアリング結果まとめ


 

◇デジタル技術の活用や創意工夫による介護サービス提供における新型コロナウイルス感染症対策

ここまでの調査において明らかになった、COVID-19に関連して活用が進むデジタル技術事例等について、以下に整理した。

ヘルスケア

COVID-19に関連するデジタル技術活用事例


 

また、ここまでのヒアリング調査において、COVID-19関連で活用が進むデジタル技術事例等について、以下の意見を伺った。

・COVID-19の影響で高齢者の外出機会等が減っており、フレイル予防を目的にオンライン介護サービスの開発が進められている

・COVID-19をきっかけに、介護現場でこれまで対面で実施していたミーティングが、Zoom等のオンラインツールを活用したものに移行した。最初は慣れない作業で大変だったが、使わざるを得ない状況に置かれると、自然と使えるようになってきた

◇調査結果を踏まえた論点整理

これまでの調査を踏まえ、在宅介護においてデジタル技術活用サービスが普及拡大しない主たる要因として、図表71の通りに整理した。

ヘルスケア
 

◇ケアマネジャーに対するヒアリング調査

ヘルスケア

ヒアリング結果まとめ

 

3‐4. 研究会の結果・分析

3‐3-4. ケアマネジャーに対するヒアリング調査

在宅介護の実態やデジタル技術活用事例について知見を有する有識者(ケアマネジャー)4名に対してヒアリング調査を行った。

ケアマネジャー保険外サービスを積極的に活用することが普及拡大の方策の一つであると考え、ケアマネジャーの保険外サービスへの取組み実態やケアマネジャーが積極的に保険外サービスへ取り組むための課題を中心に、図表72に示す項目等をヒアリング調査にて把握した。

これらのヒアリングの結果として、「保険外サービスについての意見」「ケアマネジャーの実態についての意見」「保険外サービスに関わる規制やルールについての意見」の3点について内容別に図表73に示す通り記載した。

ヘルスケア

ヒアリング結果まとめ

 

3‐4. 研究会の結果・分析

ここまでの調査を踏まえて、特に在宅介護領域で展開される、デジタル技術活用サービスの普及拡大の課題や、課題解決のための施策検討等を目的に、研究会を開催した。

3‐4-1. 第1回研究会の論点

要介護高齢者が増加を続ける状況において、在宅介護の重要性が増加すると考えられる一方で、介護業界の大きな問題の一つが人材不足である。介護分野の有効求人倍率は、全産業と比較し高い水準で推移しており、将来的に人材需給ギャップが拡大することが推計されている。

人材不足問題の解決の手段として、デジタル技術活用が進められつつあるが、対象は施設介護が中心となっており、在宅介護の領域ではデジタル技術活用が進んでいない。そこで、第1回研究会では、ここまでの調査を踏まえて、在宅介護におけるデジタル技術活用サービスの普及拡大のための問題意識と論点を以下の3点に整理した。

まず、在宅介護では特に中小・零細規模の事業所が多く、サービスを導入する資金が充分にない、また、事業所の多くが給付に頼っており、保険外サービスに積極的に取り組めていない、という問題意識より、「論点①各事業者が保険外収入を増やす方向に積極的に取り組むためにどのような仕掛けが必要か?」に関する議論を行った。

次に、在宅介護では特に中小・零細規模の事業所が多く、サービスを導入する資金が充分にない点に加え、現場がどのようなデジタルサービスを導入すればいいか、導入することでどんなメリットがあるのかが判断できず、導入やそのための検討に至っていないという問題意識より、「論点②介護機器・サービスを評価し導入を促進するために、どのような制度を設けるべきか?」に関する議論を行った。

最後に、事業所にデジタルサービスの導入を判断する人/能力が不足しており、また、現場の人材が充分に使いこなせない、また彼らの現状の目線に合わせると一向にデジタルサービスを利活用する状況にはならない、という問題意識より、「論点③ 現場の人材のデジタル技術に対するリテラシーを高めるためにはどのように働きかけるべきか?」に関する議論を行った。

3‐4-2. 第1回研究会の議論結果

第1回研究会の議論について、以下に示す。論点①について、各事業者が保険外収入を増やす方向に積極的に取り組むための仕掛けとして、以下の意見が出た。

・国の方針としては規制緩和や成功事例の積み上げ、厚労省を含めて進める方向出しが必要

・ケアマネジャーは、介護に関連する保険外サービスのみ提供する発想が強い。高齢者が使ってどうなのかの論点がなく、高齢者中心の発想に転換することが必要である

・介護の世界では、保険外収入を増やしてお金を稼ぐことに関してネガティブな感覚がある。また、介護は制度の中で仕事をするものとの感覚があり、成功事例やどんなビジネスがあるかが現場には降りてきていない

・混合介護を進めるにあたって、実質的には時間を分けないと実施できない等の規制の問題がある

・ケアマネジャーは、保険外サービスのみでケアプランを作ってもインセンティブがない。介護保険外サービスの活用を促す仕掛けは必要だと考える。また論点②について、介護機器・サービスを評価し導入を促進するための課題について、以下の意見が出た

・モノ自体ではなく、現場に導入した際の効果をアピールすることが重要だと考える

・日本では、介護現場を理解しないまま、機器・サービスを開発しているケースがある。現場を見て製品を作ることが重要であり、製造する側にも評価を活かしてもらわないとならない

・日本だと評価はお墨付きのイメージがあるが、ガイドラインで評価をきちんと行うこと、現場でこれを使うと何時間業務が削減できる等 KPI を設定すること、評価に関する情報共有をするプラットフォームが必要

・機器・サービスを駆使しながら、高齢者の状態を維持・改善することが評価され、そこに対価がもらえる必要がある

・機器・サービスの評価や、ガイドラインを策定する、第三者組織があってもよいかもしれない。また、論点③について、現場の人材のデジタル技術に対するリテラシー向上に関して、以下の意見が出た

・若手もベテランも、最低限デジタルが導入されると考えて、学ばないといけない雰囲気を少しずつ作る必要がある

・ITリテラシーに関しては一部思い込みがあるのではと感じている。デジタル技術は一度使えばハードルが高くないことが理解されるのではないかと思う

3‐4-3. 第1回研究会の振り返り、第2回研究会の論点

第2回研究会に向けて、第1回研究会の検討を踏まえ、各論点について振り返りと追加調査を実施した。そこから各論点についての継続議論のポイントを整理し、第2回研究会では、具体的な施策に繋がる議論を中心に実施した。

論点①について、第1回研究会では、事業者が保険外サービスに積極的に取り組むには、国が積極的に推進する方針を掲げ、介護現場の発想を変えつつ、必要な規制緩和や成功事例の創出や発信を進めながら、保険外サービス提供に対するインセンティブ設計が必要であると議論がされた。

また、保険外サービスの拡大にあたってのボトルネックとしてケアマネジャーに着目し、各調査を追加で実施し、以下を整理した。

・ケアマネジャーには、保険外サービスに取り組む制度上のインセンティブ・メリットがない

・ケアマネジャーが保険外サービスに関する情報収集を実施する際、サービスの一覧を知ることはできるが、各サービスの質・安全性が分からない、責任の所在が不明瞭等の理由で積極的に取り組むことができていない

・比較的軽度(要支援1・2、要介護1・2)の高齢者のほとんどが居宅サービスを受給しており、相対的に軽度の高齢者に保険外サービスが提供されている

・ケアマネジャーは、利用者側の保険外サービスに関わるニーズは一定程度捉えており、ケアプランに組み込んでいるケースがある。民間事業者が提供する保険外サービスの多くも、利用者側のニーズに含まれる

・ケアマネジャーには保険外サービスに積極的に取り組むための余力がなく、先にデジタルサービスを活用して業務効率化を行うことが必要であるとの指摘があった

これらを踏まえ、論点①では、「ケアマネジャーが積極的に保険外サービスを取り入れるためにどのようなことが考えられるか?」を議論した。

また、論点②について、第1回研究会では、以下の議論がされた。

・介護機器・サービスの導入による、経営的・現場的(対従事者、対利用者)効果を定量的に(KPI達成度で)評価できる制度が必要であり、その評価結果も定量的にアピールされるべきである。

・利用者を補う従来の福祉用具とは異なり、デジタルサービスは現場や事業者の効率化等の視点を持つことから、福祉用具の延長ではない第三者的評価が必要ではないか。これらを踏まえて各調査を追加で実施し、以下を整理した。

・介護給付費分科会では、テクノロジー活用に対して安全性が重視されており、安全性・有効性のエビデンスが充分にないことがしきりに議論されている。また、現場においても安全性等に不安を感じるものと考えられる。

・安全性や有効性のエビデンスを構築する補助事業も充分になく、このままでは、安全性・有効性のエビデンスが充分に構築されていかないと考えられる。また、厚生労働省主導で、介護現場のニーズを捉えた実証が開始し、令和3年度介護報酬改定では、科学的介護の進展が期待される。

これらを踏まえ、論点②では、「特に在宅領域での安全性や有効性のエビデンス構築を促進するためにどのようなことが考えられるか?」を議論した。

また、論点③について、第1回研究会では、デジタルサービスを使うことに決まれば従事者は十分使いこなせるのではないか、と議論がされた。これを踏まえて各調査を追加で実施し、以下を整理した。

・厚労省は、介護報酬改定において、デジタルサービスが活用される・使わざるを得ない状況に徐々にシフトしてきていると考える。

◇介護ロボットの活用の推進(平成30年度、令和3年度改定)
◇リハビリテーション会議でのテレビ会議の活用(令和3年度改定)
◇自立支援・重度化防止の効果が裏付けられた「科学的介護」の実現のため、介護サービスのエビデンスを集めるデータベースが構築され、令和3年度改定ではデータベースへの情報提供に対する加算が予定される。これらを踏まえ、論点③では、「令和3年度介護報酬改定での方針に加えて、より一層の推進のために、どのようなことが考えられるか?」を議論した。

3‐4-4. 第2回研究会の議論結果

第2回研究会の議論について、以下に示す。論点①について、ケアマネジャーが保険外サービスの活用に取り組むために必要な制度設計として、以下の意見が出た。

・ケアマネジャー自身が保険外サービスに対してなじみがない中で、利用責任の所在が明確になっておらず、現状ケアマネジャーが保険外サービスに積極的に取り組むのは難しくなっているのではないか

・介護職員等の初任者の教育に、保険外サービスに関する教育を導入しないといけない、という雰囲気を作るべきではないか

・保険外サービスだけを活用した場合でも、ケアマネジャーに報酬が付く形にしないといけないのではないか

・基本的な報酬に追加して、アウトカムが評価されるべきではないか。よりアウトカムを維持改善するために、保険内・保険外のサービスに関わらずケアプランに組み込んでいく方向に進んでいくのではないか

・事業者は、保険外サービス提供時の紹介料等は収受しない慣習があるのではないか

論点②について、特に在宅領域での安全性や有効性のエビデンス構築を促進するために充実させるべき補助事業として、以下の意見が出た。

・安全性や有効性を検証していく補助事業は必要である。現場が導入効果・導入の影響を理解するためにも、先進的な介護機器・サービスの見える化を行う補助事業を、在宅領域にも拡大する必要があるのではないか

・現場を理解していない、機器・サービスが開発されてしまっているケースも多い。そのため、安全性や有効性のエビデンスを構築していく実証の場では、介護現場とものづくりの両方を理解している、コーディネータ育成のための教育が必要ではないか

論点③について、現場の人材のデジタル技術に対するリテラシー向上をより一層推進するための施策について、以下の意見が出た。

・ケアマネジャーの実務研修等の法定研修から、デジタル技術に関する教育を取り入れていくべきではないか

・介護人材養成の場でも、紙で書くのではなくタブレットを使う等、育成の場からデジタル技術を使用すべきではないか

・チームにITに精通している人材が配置され、その人材を中心に現場でデジタル技術を拡げていくのが良いのではないか