レアアースとは?日本独自の取り組みや関連人気銘柄も解説!

レアアース(英:rare earth)は、ハイテク製品の製造に欠かせない材料です。日本語では、希土類と記されます。例えば私達の身近なスマートフォンなどの電子機器から、自動車の排ガス触媒、LED照明など、多様な分野で使用されています。

2025年7月23日、日本経済新聞が「EUのフォンデアライエン欧州委員長が日本とレアアースの共同採掘を目指す」と報じました。また「競争力アライアンス(連合)」の関係を結ぶことも発表しました。

レアアースの産出国は、全体の58%が中国で、次が38%のアメリカです。例えば中国の内モンゴル自治区の包頭や南部の江西省などには大規模なレアアース鉱床があります。特に注目すべきは、中国にはレアアースの原料になる酸化物を簡単に取り出せる特殊な鉱石があることです。また中国は、レアアースを取り出す化学薬品を、環境への影響に関係なく自由に使用していました。そのためレアアースは、外交の取引材料や軍事的戦略物資として使われることがあります。

このように、レアアースは国家戦略の重要な物資としての側面を持っています。本記事で詳しく解説します。

1. レアアースとは

1-1. レアアースは17種の元素の総称

レアアースは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の合計17元素の総称です。1794年にスウェーデンで発見され、「希少な(レア)土類」として名付けられましたが、一部の元素は地球上に比較的多く存在します。ただし「レア」とされるのは、採掘や精製が難しく、その過程で環境負荷が大きいこと、また特定の地域に偏在していることに由来します。

世界におけるレアアースの生産量は2020年で30万トンで、そのうち20万トンが中国が占めています。この理由としては、「労働コストの安さ」「環境規制の緩さ」「新興国への積極的投資」が挙げられます。

1-2. レアアースとレアメタルの違い

レアアースとレアメタルは、定義と含まれる元素の種類が異なります。レアメタルは希少な金属の総称で、レアアースはその一部です。具体的にはレアアースは17種類の元素を指し、レアメタルはレアアースを含む31種類の鉱種になります。ちなみにレアメタルなしに自動車やハイテク機器は作れないので、レアメタルは「産業のビタミン」と呼ばれています。

1-3. レアアースの種類

1-3-1. 軽希土類(LREE: Light Rare Earth Elements)

軽希土類には、ネオジム(Nd)やプラセオジム(Pr)、セリウム(Ce)、ランタン(La)などがあります。これらは比較的埋蔵量が多く、世界各国で採掘されています。例えばネオジムは、強力な永久磁石(ネオジム磁石)の主原料として知られています。

1-3-2. 重希土類(HREE: Heavy Rare Earth Elements)

重希土類には、ジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)などがあります。これは軽希土類に比べて希少で、特に中国のイオン吸着型鉱床に多く存在します。例えばネオジム磁石の耐熱性向上に不可欠なジスプロシウムやテルビウムは、その希少性から戦略的な価値が高いとされています。

2. レアアースの埋蔵量と産出量、市場の状況

レアアースの生産量と中国のシェア

レアアースの生産量と中国のシェア(※JOGMEC作成)

世界のレアアース埋蔵量は、約1億10百万トンと推定されています(2023年時点)。国別の埋蔵量では、中国が最も多く、次いでブラジル、ベトナム、ロシアなどが続きます。また生産量は、中国が1位で2位米国、3位がオーストラリアと続きます。

<レアアース埋蔵量ランキング>
1位. 中国/37%、4400万トン
2位. ベトナム/18%、2200万トン
3位. ブラジル/18%、2200万トン
4位. ロシア/10%、1200万トン
5位. インド/6%

特にレアアースの採掘量と精製能力において、中国は世界の9割以上を占めており、事実上の独占状態にあります。この中国の優位性は、地政学的な問題を引き起こすこともあり、各国は供給源の多様化や代替技術の開発、リサイクルに力を入れています。

またレアアース市場は、2023年時点で33億9,000万米ドル規模に達しています。そして2032年までに、81億4,000万米ドルに成長すると予測されています。注目すべきは、磁石部門が最大のシェアを占めている点です。これはEVやAI関連技術の発展が、今後の需要をさらに押し上げると見られています。

3. レアアースの使い道

レアアースは、様々なハイテク製品や先進技術に不可欠な素材として利用されています。それらの主な用途について、解説します。

3-1. 永久磁石

永久磁石の性能は、磁化の大きさと保磁力で決まります。希土類磁石は、酸素を含まない状態で鉄と一酸化炭素を含みます。そのため磁化が大きく、さらにレアアース元素によって保磁力が強い性質を持っています。そのため最大エネルギー積で、フェライト磁石の約10倍の性能を持っています。

ネオジム磁石(ネオジム、ジスプロシウム、テルビウムなど)は、電気自動車(EV)のモーターやハイブリッド車、風力発電機、エアコン、家電製品、スマートフォン、ロボットなどに使用されています。そして製品の小型化や高効率化に貢献しています。

3-2. 触媒

レアアースは、排出ガス中の有害物質を無害化する触媒(セリウム:Ce)に用いられています。また石油精製用触媒にも利用されています。

3-3. 蛍光体や発光体触媒

液晶ディスプレイやLED、蛍光灯、プラズマディスプレイの蛍光体(ユウロピウム、イットリウム、テルビウムなど)として利用されます。

3-4. ガラス研磨材や添加剤

高性能レンズや液晶パネルの研磨材(セリウム)、ガラスのUVカットや着色、強化、高屈折率化(ランタン、ガドリニウムなど)に用いられます。

3-5. 電池

ニッケル水素電池(ランタン、セリウムなど)に使用されます。

3-6. 医療機器

MRIやCTスキャンなどの画像診断装置の磁石、X線管、レーザー装置などに利用されます。

4. 日本のレアアースの埋蔵量・採掘方法・環境問題

4-1. 世界第3位規模の1,600万トンの埋蔵量

南鳥島沖の南西約310㎞の海底で採取されたレアアース

南鳥島沖の南西約310㎞の海底で採取されたレアアースを含む夢の泥(※産経新聞)

日本の最東端に位置する南鳥島沖のレアアース有望海域は、2500㎡といわれています。その有望海域だけでも、レアアースの埋蔵量は1,600万トン超とみられており、これは世界第3位の規模です。2018年4月10日の産経新聞では、東京大学の調査結果が報告されています。そこでは、南鳥島の排他的経済水域(EEZ)内の海底の泥に含まれるレアアースの埋蔵量は、世界需要の数百年分に及ぶことが判明しました。深さ5,700m前後の25地点で採掘した泥を詳しく分析した結果、15種のレアアースが1,600万トン存在することを突き止めました。

4-2. イオン吸着型鉱床からの採掘

土のような状態の鉱物に、硫酸アンモニウムなどの酸性溶液を流し込み、レアアースを溶かし出して回収する方法です。これは比較的簡単で安価な技術ですが、環境への影響が大きいという問題があります。例えば廃液が土壌や地下水を汚染してしまいます。その結果、生態系や住民の健康に深刻な被害をもたらすことが報告されています。

4-3. マグマ由来型鉱床(硬岩鉱床)からの採掘

石の状態の鉱物からレアアースを溶かして取り出す技術は、まだ確立されていない部分も多く、より複雑なプロセスを必要とします。

4-4. 海底からのレアアース泥の採掘

海底からのレアアース泥

日本の南鳥島沖の海底には、国内消費量の数百年分に相当するレアアース泥が埋蔵されているとされています。また採掘方法として、「閉鎖系二重管揚泥方式」と「エアリフト」という技術が開発されています。これは海底に解泥機を差し込み、堆積物に海水を注入して流動性のある状態にします。そして揚泥管を通じて、洋上に引き上げる方法です。この後揚泥されたレアアース泥からは、希塩酸を用いてレアアースを浸出(リーチング)させ、陸上工場で分離・精製が行われます。レアアース泥の採掘技術については、『レアアース泥技術で海洋資源立国へ!環境影響評価とは?』でも詳しく解説しています。こちらも参照下さい。

5. レアアースの安定供給確保

日本は、レアアースの多くを中国からの輸入に依存しており、安定供給確保が喫緊の課題となっています。そのため、以下の多角的な施策が進められています。

5-1. 中国によるレアアース輸出規制

2025年4月4日中国商務部はアメリカとの貿易摩擦が原因で、特定のレアアースを輸出管理対象とし、輸出許可を義務付けました。公告によれば、この措置は「輸出管理法」「対外貿易法」「税関法」「両用品目輸出管理条例」に基づくものです。対象になったのは、「サマリウム」「ガドリ二ウム」「テルビウム」「ジスプロシウム」「ルテチウム」「スカンジウム」「イットリウム」の7種類です。これらの金属や合金、関連製品、酸化物や混合物、化合物とその混合物を対象としています。

5-2. 供給源の多様化

5-1-1. オーストラリアのライナス社への投資・連携

オーストラリアのライナス社

ライナス社は、中国以外でレアアースを安定的に供給できる数少ない企業の一つです。日本はJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)と双日が共同で、ライナス社に追加出資しました。日本向けのジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)など、重希土類の供給契約を強化しています。

これらの重希土類は、高性能磁石に不可欠であり、供給源の多様化が特に重要視されています。また住友商事も、ライナス社が生産するNdPr酸化物およびREE金属に関し、独占販売代理店契約を締結するなど連携を深めています。

5-1-2. アメリカからの調達

アメリカのMP Materials社は、レアアースの分離精製において本格的な生産開始を予定しており、住友商事が日本向けの独占販売代理店契約を締結しています。これにより、新たな供給源の確保が進められています。

5-1-3. その他の国々との連携

フランスのCaremagプロジェクトへの参画など、欧州やその他の地域におけるレアアース開発プロジェクトへの投資や協力も進められています。また海外の休止鉱山の再開や新規製錬工場の建設などの活動が行われています。

5-2. 日本のレアアース泥開発

南鳥島

日本の南鳥島沖の海底で、世界最高品位の「超高濃度レアアース泥」が発見されています。これは、日本の年間需要の数十年から数百年分に達するとされています。これにより日本はレアアースの資源国となる可能性を秘めており、経済安全保障や産業競争力の強化、環境技術の進化に大きく寄与すると期待されています。南鳥島沖のレアアース泥については、『南鳥島のレアアース泥が注目!世界需要の数百年分の埋蔵とは』で詳しく解説してます。こちらも参照下さい。

5-3. リサイクル技術の開発と「都市鉱山」の活用

都市鉱山

使用済み磁石やバッテリーなどから希少金属を回収するのが、都市鉱山ビジネスです。レアアースのリサイクル技術の開発を強化することで、新規のレアアース調達量を削減し、供給リスクを低減する狙いがあります。例えば日産自動車は早稲田大学と共同で、廃車のEVモーターからレアアースをリサイクルする技術開発を進めています。具体的には電炉にモーターと添加剤を入れ、1500℃まで加熱することで鉄と分離したレアアースを回収します。

5-4. 省レアアース技術の研究開発

ジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といった重希土類を必要としない技術(重希土類フリー化)の研究開発支援が行われています。また特定レアアース依存度を下げ、サプライチェーンの脆弱性を克服を目指しています。

5-5. 制度・政策面での支援

経済産業省、JOGMEC、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)などが連携し、非中国産調達網構築、リサイクル技術開発、重希土類フリー化・省レアアースなどの領域を強化するための出資や補助金、研究開発プロジェクトを実施しています。南鳥島での採掘権を守るための法改正も行われています。このように、国内でのレアアース採掘に向けた法的基盤が整備されています。

6. レアアース関連の人気銘柄について

6-1. 人気の根拠

レアアース関連銘柄が注目される理由には、様々なものがあります。まだ地政学リスクと安定供給化の重要性があります。レアアースは採掘、特に精錬では92%という中国が圧倒的なシェアを持っています。この中国への高い依存度を低減し、安定的な供給網を再構築することが、米国や日本、欧州の重大関心事になっています。

次に、需要の拡大があります。EVのモーターには、高性能なネオジム磁石が不可欠です。世界のEVシフトの加速に伴い、レアアースの需要は今後も増加すると見込まれています。またスマートフォンやPCハードディスク、LEDなど電子機器や先端技術の需要も牽引しています。さらに都市鉱山といわれる使用済レアアースの回収と再利用、技術開発が進められています。これらの要素が、レアアース関連企業の経済活動を活性化させる追い風になると予想されています。

6-2. 人気銘柄と根拠

6-2-1. JX金属(5016)

JX金属株式会社は非鉄金属大手であり、レアメタル・レアアースの製錬・加工に強みを持っています。海外の鉱山開発プロジェクトへの参画や、リサイクル事業にも力を入れています。特に、豪州のレアアース鉱床であるミネラルサンド鉱床(※)の開発プロジェクトへの参画など、供給網の多角化に貢献する動きが注目されています。
※ミネラルサンド鉱床…重鉱物が水流の作用に濃集した砂鉱床

6-2-2. アルコニックス(3036)

アルコニックス株式会社はレアメタル・レアアースの専門商社であり、多岐にわたる金属素材を取り扱っています。非鉄金属のトレーディングや加工を手がけており、レアアースのサプライチェーンにおける重要な役割を担っています。安定的な調達先の確保や、需要家への供給力に強みがあります。

6-2-3. アサカ理研(5724)

株式会社アサカ理研はレアメタルのリサイクル事業を展開しており、「都市鉱山」関連銘柄として注目されています。2014年設立のいわき工場・生産技術開発センターでは、独立行政法人日本原子力研究開発機構と共同研究を実施し、使用済み電子機器や産業廃棄物からレアアースを含む希少金属を回収する技術開発を推進してきました。また2026年いわき工場の新設備を導入し、LiB(リチウムイオン電池)再生事業の推進を加速させます。

6-2-4. TDK(6762)

TDK株式会社は電子部品大手であり、EV用リチウムイオン電池(LiB)のリサイクル技術開発に注力しています。コバルトやニッケルといった高価な金属だけでなく、レアアースの回収技術も開発を進めています。また80年以上高性能磁石技術を追求しており、レアアースフリーマグネットを提供してます。そのため将来的なレアアース需要の高まりにも対応できる可能性があります。

6-2-5. レゾナック(4004)

株式会社レゾナック・ホールディングス(旧昭和電工)は、多岐にわたる化学品や素材を提供しています。特に、レアアースフリー技術や、レアアースの使用量を削減する技術開発に取り組んでいます。中国依存からの脱却を目指す動きの中で、代替技術の開発に注力する企業として注目されています。

7. まとめ

中国は、長年にわたる採掘と精製技術の蓄積によって、サプライチェーン全体を自国内で完結させる能力を持っています。アメリカとの関税戦争で取引材料として使われるのは、そういった背景があるからです。

しかし日本も様々な取り組みを通し、中国依存の体制からの脱却を図っています。例えばレアアース使用量の最適化もその一つです。代表的な例としては、トヨタのネオジム使用量低減モーターがあります。これはネオジムを減らしつつ、ジスプロシウム(高価な重希土類)を使わない設計を開発するものです。またパナソニックの高効率モーター設計も有名です。これはモーター内の磁石配置や材料構成を工夫し、レアアース使用量を最大50%削減しました。

日本の強みである「もの作り」でも、レアアースに依存しない国作りが推進されています。

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