南鳥島のレアアース泥が、世界の注目を浴びています。その理由はトランプ関税による米中貿易戦争で、交渉材料に使われているからです。南鳥島は、東京都の小笠原村に属しています。北緯24度17分、東経153度59分に位置しており、日本最東端の島です。東京都心からは南東約1,950㎞に位置し、船で片道4~5日、航空機で片道4時間の距離にあります。
では、なぜこの南鳥島のレアアース泥が注目されているのでしょうか。それは、これが世界最高品位だからです。具体的には、中国の陸上鉱山の20倍の品位を持つといわれています。2011年文部省科学研究費補助金を得た東京大学の加藤・中村・安川研究室が、南鳥島周辺に「レアアース泥」が膨大な量存在していることを発見しました。本記事では、南鳥島のレアアース泥について詳しく解説します。
1. 埋蔵量について
2013年海洋研究開発機構(JAMSTEC)は海洋調査を実施しました。それによると北西太平洋の南鳥島周辺の水深4,000~6,000mの海底に、2,000~5,000ppm以上のREY(希土類元素+イットリウム)を含む泥質堆積物が発見されました。また科学雑誌『Scientific Reports』によると、125km²の区域における海底0~10mの堆積物から、希土類酸化物換算で約120万トンが確認されました。例えばこの量は、該当元素の世界年間需要のイットリウム620年分、テルビウム320年分、ジスプロシウム560年分に相当します。日本政府は最新調査で総埋蔵量が1,600万トン以上と公表し、2025年以降に開発を本格化させる計画です。
2. 資源特性と技術面の魅力
泥中のREYは、魚牙や骨片に由来する生物起源のリン酸カルシウム粒子に高濃度で含まれています。その濃度は、最大で22,000ppmに達します。しかも粒径を基準に選別する手法(例:粒径20 µm以上)により、REY濃度を2~2.6倍に高めることが可能で、実用的な鉱級泥への前処理として有望とされています。また工学的には、水中から泥を吸い上げるサブシープロダクションシステムや、水深6,000mのエアリフト揚泥装置、海底浚渫・揚泥船などの開発が進行しており、2022年には試験成功報告も出ています 。
3. 現在の課題について
大深度(4,000~6,000m)での採泥・揚泥は、未経験の技術領域です。そのため、実験と実証が不可欠です。また生態系への影響や、泥噴出による海底攪乱の範囲など、環境影響評価も十分に実施する必要があります。そして採鉱システム開発費・調査航海費は1航海あたり1.5億円以上と高額で、資金調達や商業化に向けた体制整備が重要課題になっています。
4. 日本の取り組みと戦略的意義
2014年東京大学を中心に、企業・官庁とともに「レアアース泥開発推進コンソーシアム」が設立されました。ここでは、探査技術や採泥・揚泥、加工・精錬、生態影響評価など幅広い研究が進められています 。最新では、JAMSTEC主導でAUV(自律型潜水機)による超高解像度調査が実施されました。その結果、地形と堆積構造の詳細マッピングが可能になりました。
また経産省も「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画(2024年3月)」で、揚泥~製錬を含む一連プロセスの実証を進める方針を明確にしています。このような活動は、中国依存からの脱却や供給網の多元化、経済安全保障上の強化が期待されており、資源戦略として国家レベルで注目されています。
5. まとめ
南鳥島沖のレアアース泥開発は、単なる鉱山プロジェクトを超えた存在です。これは、「海洋資源立国」を目指す日本の重要な突破口となる可能性を秘めています。
今後の調査の進展や技術実証が注目されており、2025年以降に商業開発への道筋が描かれようとしています。特に最新の採泥・揚泥装置や環境影響評価は見逃すことのできないトピックスといえるでしょう。
今後の日本経済への貢献にも期待できる南鳥島のレアアース泥については、今後も本サイトで情報発信していく予定です。