レアアースとは?中国がシェアを持つ戦略的資源のポイントとは

レアアースは、スマートフォンなどハイテク製品の製造に欠かせない材料です。日本語では「希土類元素」とも呼ばれています。鉱石から抽出するのが難しく、元素ごとの分離も高い技術が要求されます。

世界におけるレアアースの生産量は2020年で30万トンで、そのうち20万トンが中国が占めています。この理由としては、「労働コストの安さ」「環境規制の緩さ」「新興国への積極的投資」が挙げられます。本記事では、レアアースについて詳しく解説します。

1. レアアースとは

レアアースは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の合計17元素の総称です。1794年にスウェーデンで発見され、「希少な(レア)土類」として名付けられましたが、一部の元素は地球上に比較的多く存在します。ただし、「レア」とされるのは、採掘・精製が難しく、その過程で環境負荷が大きいこと、また特定の地域に偏在していることに由来します。

2. レアアースの種類について

2-1. 軽希土類(LREE: Light Rare Earth Elements)

・ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、セリウム(Ce)、ランタン(La)など。
・比較的埋蔵量が多く、世界各国で採掘されています。
・ネオジムは、強力な永久磁石(ネオジム磁石)の主原料として知られています。

2-2. 重希土類(HREE: Heavy Rare Earth Elements)

・ジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)など。
・軽希土類に比べて希少で、特に中国のイオン吸着型鉱床に多く存在します。
・ネオジム磁石の耐熱性向上に不可欠なジスプロシウムやテルビウムは、その希少性から戦略的な価値が高いとされています。

各元素は、強力な磁性、優れた触媒能力、蛍光特性、光学特性など、多様な特徴を持ち、幅広い産業で利用されています。

3. レアアースの主な用途

レアアースは、そのユニークな特性から、様々なハイテク製品や先進技術に不可欠な素材として利用されています。

・永久磁石: ネオジム磁石(ネオジム、ジスプロシウム、テルビウムなど)は、電気自動車(EV)のモーター、ハイブリッド車、風力発電機、エアコン、家電製品、スマートフォン、ロボットなどに使用され、小型化・高効率化に貢献しています。

・触媒: 自動車の排ガス浄化触媒や石油精製用触媒(セリウムなど)に利用されます。

・蛍光体・発光体: 液晶ディスプレイ、LED、蛍光灯、プラズマディスプレイの蛍光体(ユウロピウム、イットリウム、テルビウムなど)として利用されます。

・ガラス研磨材・添加剤: 高性能レンズ、液晶パネルの研磨材(セリウム)や、ガラスのUVカット、着色、強化、高屈折率化(ランタン、ガドリニウムなど)に用いられます。

・電池: ニッケル水素電池(ランタン、セリウムなど)に使用されます。

・医療機器: MRIやCTスキャンなどの画像診断装置の磁石、X線管、レーザー装置など。

その他、防衛産業や航空宇宙産業の資材、レーザー、セラミックコンデンサーなど、多岐にわたる分野で活用されています。特に、EVや蓄電池など、低炭素社会の実現に向けた技術において、さらなる需要の拡大が見込まれています。

4. 採掘・精製方法と環境問題

レアアースの採掘・精製は、その複雑さから環境に大きな影響を及ぼすことが問題視されています。

・採掘: レアアース鉱石の採掘は、露天掘りが多く、生態系の破壊や土壌浸食を引き起こします。

・精製: 鉱石にはウランやトリウムといった放射性物質が含まれることが多く、精製過程で発生する廃棄物や酸性溶液、化学物質が土壌、地下水、地表水などを汚染するリスクがあります。特に、イオン吸着型鉱床からの重希土類の抽出では、硫酸アンモニウムなどの化学物質が使用され、その排水処理が課題となります。過去には中国の一部地域で、採掘に伴う環境汚染により、地下水の悪臭、農産物の収穫量減少、家畜の奇形などが報告されたことがあります。

持続可能なレアアースの採掘・生産には、環境に配慮した技術開発や有害物質の適切な処理、リサイクルの促進が不可欠です。

5. 埋蔵量と市場の状況

世界のレアアース埋蔵量は約1億10百万トンと推定されています(2023年時点)。国別の埋蔵量では、中国が最も多く、次いでブラジル、ベトナム、ロシアなどが続きます。

特に、レアアースの採掘量と精製能力において、中国は世界の9割以上を占めており、事実上の独占状態にあります。この中国の優位性は、地政学的な問題を引き起こすこともあり、各国は供給源の多様化や代替技術の開発、リサイクルに力を入れています。

レアアース市場は、2023年に33億9,000万米ドル規模であり、2032年までに81億4,000万米ドルに成長すると予測されています。特に磁石部門が最大のシェアを占めており、EVやAI関連技術の発展が、今後の需要をさらに押し上げると見られています。

6. 日本のレアアース政策

日本は、レアアースの多くを中国からの輸入に依存しており、安定供給確保が喫緊の課題となっています。そのため、以下の多角的な施策が進められています。

・供給源の多様化: 中国以外の国(ベトナム、オーストラリアなど)からのレアアース調達や、共同開発プロジェクトの推進。

・備蓄の推進: 不測の事態に備え、戦略的な備蓄を進めています。

・リサイクルの推進(都市鉱山): 使用済み電子機器や家電製品などからレアアースを回収・再利用する「都市鉱山」の活用を強化しています。この技術は、米中関税交渉の文脈でも注目され、日本が米国に技術提供を行う動きも見られます。

・代替技術の開発・使用量削減: レアアースの使用量を減らす技術や、レアアースを使わない代替材料の開発を進めています。特に、ジスプロシウムなどの重希土類の使用量削減は、磁石メーカーにとって重要な技術課題となっています。

・国際連携: 米国やEUなどと連携し、中国の輸出規制問題に対してWTO協定に基づく協議を要請するなど、国際的な枠組みでの課題解決にも取り組んでいます。

7. まとめ

レアアースは、現代社会を支える不可欠な資源であり、その安定供給と環境に配慮した利用が、今後の持続可能な社会の実現においてますます重要になると考えられます。

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