日本は、世界第6位の海洋国家です。実は国土面積の約12倍の海域を管理していることは、あまり知られていません。そしてその海域の65%が、水深2,000~6,000mになっています。
南鳥島沖の5.000m以上の海底もその一部であり、レアアースが大量に存在することが確認されています。ご存知の通り、レアアースはスマートフォンや電気自動車など、ハイテク製品に欠かせないものです。しかし現状においては、その大部分を中国に依存しています。
仮に日本近海での発掘が可能になれば、日本は自前のレアアース資源を持つことができます。その場合に重要になってくるのが、採掘技術と環境影響評価です。本記事では、レアアースの採掘技術と環境影響評価について解説します。
Contents
1. 海底資源開発株式会社の海底資源採掘システムについて

深海資源開発株式会社のホームページ
南鳥島沖のレアアース泥は、遠洋性の深海堆積物として層状に分布しています。そのため、資源探査が比較的容易であると考えられています。また開発時の環境汚染源となるトリウム(Th)や、ウラン(U)などの放射性元素をほとんど含まない点も大きな特徴です。その採掘方法について、深海資源開発株式会社の技術を解説します。
1-1. クローラ型収集機を船から海底に吊るす
水深5,000mの深海の採掘では、5,000気圧もの高圧がかかります。そのため今までは、商業ベースでの採掘は困難とされていました。これを解決したのが、海底資源開発株式会社の海底資源採掘システムです。このシステムは、資源回収船からクローラ型収集機を吊るします。
1-2. ガスの浮力でレアアース泥を浮上させる
このクローラ型収集機は、水の電気分解装置とガス噴射装置を搭載しています。水の電気分解装置とは、水を電気分解することで水素や合成ガスを生成します。海底に吊り下ろし、電力を供給することで水素ガスと酸素ガスを発生させ、その浮力でレアアースを含む泥をホースを通して浮上させて回収します。次にそれらをタンクに集め、水素ガスと酸素ガスを分離します。そしてレアアース泥と海水をセパレータに送り、タンク上部の海水は海に戻します。
1-3. 安い初期費用とランニングコスト
この海底資源採掘システムの大きな特徴は、初期費用も維持費も安いことです。例えば引き上げ用のホースは、市販のホースを少し加工したもので対応できます。またメインのコストである電気代も、以下の4つのエネルギーの再利用で低く抑えることが可能です。
①採掘の際に発生した酸素と水素を反応させた電気の利用
②回収用ホース内に回転翼を設置し、回転エネルギーを活用
③海水表層と深海の温度差を利用してエネルギーを取り出し発電を行う
④海底収集機と回収船の間にリフトを設置し、残土を海に戻す時に生じるエネルギーを再利用
2. 東洋エンジニアリングのサブシー技術
2-1. 解泥・採泥・揚泥の後にレアアースを回収
東洋エンジニアリング株式会社は、海洋資源開発分野において、30年にわたる経験を持っている企業です。
例えばレアアースの採掘において、泥を流動させる技術があります。海底の泥は、粘土のような性質です。個体のように砕いたり、液体のように流すことはできません。そこでこの問題を解決するためには、海底に機械を設置し泥と海水を混ぜ合わせ、スラリー状にする必要があります。そうすることで、油のように流すことができます。東洋エンジニアリングは、深海の泥をスラリー化するシステムを開発しています。また耐久性の高いパイプも開発しています。
2-2. プロジェクトマネージャーが語る重要ポイント
natureに掲載された記事内で、東洋エンジニアリングのプロジェクトマネージャーの小松洋一氏はこう語っています。
「希土類泥は、石油やガスほど滑らかに流れず、非常に研磨性が高いのが大きな特徴です。そのため、大口径のパイプやポンプ、バルブ、監視センサーや電気・制御モジュールを備えた海底システムを最適化するための詳細な計画を立てる必要がありました」
小松氏は、このプラットフォームを「日本の海底工場」と呼んでいます。自動化された各種機器を、可能な限り海底に設置する業界の流れがあります。そうすることで、巨大な海洋プラットフォームや採掘船関連の運用コストの削減が可能になります。
例えば海底工場には、海底掘削船「ちきゅう」から吊り下げられたポンプが含まれます。「ちきゅう」は、石油・天然ガス掘削で一般的に使用される工業用ドリルを搭載した世界で唯一の研究船です。そしてこのドリルは、海面から海水を汲み上げる内側のパイプ(ドリルパイプ)と、希土類泥や掘削土砂を押し上げる外側のパイプ(ライザーパイプ)の2層構造になっています。
「この海底システムは、「ちきゅう」から全長6,000mのパイプで吊り下げられます。「ちきゅう」との共振振動を避ける適切な重量範囲内で、かつ海底の環境条件に耐えられる安全性を確保する必要があります」と小松氏は語っています。
3. 環境配慮型の採掘実証に強い石油資源開発

石油資源開発株式会社のホームページより
JAPEX(石油資源開発株式会社)は、石油・天然ガスのE&P(探鉱・開発・生産)を担う会社として1955年に創業しました。公式ホームページには、先端技術として「三次元地震探査と震探地形学」「地質モデリング技術」「貯留層シミュレーション技術」などが掲載されています。また同社は、政府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)に係る調査研究業務を受託しています。このJAPEX社の流体制御技術を活用した採泥システムの開発が、注目されています。
4. 三井海洋開発株式会社の広範囲鉛直採掘方式
日本の排他的経済水域(EEZ)の海底には、表層型メタンハイドレートや砂層型メタンハイドレート、海底熱水鉱床などが存在します。三井海洋開発株式会社は、過去の浮体式設備の実績を活かして、表層メタンハイドレート開発に応用するための研究・開発に取り組んでいます。
例えば西アフリカ沖には、水深最大200mの海底にダイヤモンド鉱床が存在します。ここでは25年以上に渡って、鉱石が採掘・揚鉱されています。三井海洋開発は、この採掘・揚収技術を応用した広範囲鉛直採掘方式で、表層型メタンハイドレートの資源開発を推進しています。
5. 海底資源開発に伴う環境評価
レアアースの採掘における課題は、環境汚染です。そもそも鉱物資源の採掘では、ある程度の環境破壊や環境汚染は避けることができません。特にレアアース鉱石は、ウランやトリウムといった放射性物質を含んでいます。そしてその採掘や精錬のプロセスで、放射性廃棄物が大量に発生するのです。
2021年海底資源開発での環境影響評価に関わる調査手法が、国際標準規格として発行されました。これにより、国際的に統一した手法で海洋環境影響評価が実施されることが期待されています。一般的に海底資源開発では、生態系への影響評価や濁りの拡散防止、騒音や振動の抑制、底生生物への影響軽減など、多岐にわたる環境配慮が求められます。
6. まとめ
レアアース資源の有効活用には、画期的な先進技術が必要不可欠です。また燃料費や人件費、メンテナンス費や資材費、環境対策費などのランニングコストも無視できない要素です。
例えば海底資源開発に伴う環境評価については、国際的な取り組みが進んでいます。2021年には、海底資源開発での環境影響評価に関わる調査手法が国際標準規格として発行されており、これにより国際的に統一した手法で海洋環境影響評価が実施されることが期待されています。
これらの課題をクリアできる運用方法の出現は、日本が海洋資源立国になれる一歩に直結しているといえます。