近年、日本の石油備蓄が注目されています。その背景には、今回のイラン情勢の悪化による原油価格の急騰があります。
原油価格と為替、そして物価は密接に関係しています。例えば日本は原油の大半を輸入に頼っており、原油価格が上昇するとガソリン代や電気料金、物流コストが上昇します。また円安が進むと、海外から輸入する原油の購入費用がさらに高くなります。その結果、企業のコスト負担が拡大します。そして、商品やサービスの価格に転嫁され、物価上昇(インフレ)につながります。
日本は、エネルギー資源の多くを海外からの輸入に依存しています。そのため、万が一の供給停止に備えた石油備蓄制度を整備しています。本記事では、日本の石油備蓄量や石油蓄基地、備蓄日数、放出事例などを詳しく解説します。
Contents
1. 日本の石油備蓄の必要性について
1-1. エネルギー資源を輸入に頼る日本の現状

日本が輸入する原油の約9割以上は、中東地域から調達されています。国別では、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)が主要な供給国で、この2か国で全体の約7割を占めています。これにクウェート、カタールなどが続きます。
実は、日本は2019年からイランから原油を輸入していません。その理由は、2018年の対イラン制裁の再開です。その結果、2019年5月1日以降、日本のイランからの原油輸入は全面停止となり、日本はサウジアラビアやUAEなど他の中東産油国への依存度を高めることになりました。今回の原油高騰は、イラン戦争によるホルムズ海峡周辺の緊張が原因です。
1-2. 石油備蓄制度とは
石油備蓄制度とは、原油や石油製品の供給が不足した場合に備え、国民生活や経済活動への影響を抑えるための仕組みです。日本では石油備蓄法に基づき、国と民間事業者が石油を備蓄しています。経済産業省が制度の運用を担い、平時から安定供給の確保に努めています。
現在、日本は官民合わせて約8ヶ月分の石油備蓄を保有しており、国際的にも高い水準にあります。この制度は、災害や国際的な供給不安が発生した際の対応力を高め、エネルギー安全保障の強化に大きく貢献しています。
2. 日本の石油備蓄の開始時期
2-1. キッカケとなった第一次オイルショック

日本の石油備蓄の契機になったのは、第一次オイルショックです。この発端は、イスラエルとアラブ諸国による第4次中東戦争でした。中東情勢の緊迫化を受けて、世界中で原油供給への懸念が高まりました。さらにOPECのサウジアラビアやイランなどペルシャ湾岸6ヵ国が原油価格を70%引き上げ、世界各国は深刻なエネルギー危機に直面しました。

日本では原油価格の急騰が物価上昇を招き、深刻なインフレが発生しました。日本全国で、トイレットペーパーの買いだめ騒動が起きたのもこの時期です。買い占めや品不足も広がり、国民生活や企業活動に大きな影響を与えました。
日本銀行はこの事態に対応するため、金融引き締めとして公定歩合を9%引き上げました。その結果過度な物価上昇は抑制されましたが、企業の設備投資や個人消費が落ち込み、国内景気の減速を招きました。
2-2. 石油備蓄法の制定

こうした事態を受けて1975年に制定されたのが、石油備蓄法です。運用は経済産業省が担い、石油の供給不足や価格高騰などの緊急事態に備えています。仕組みとしては、国家備蓄と石油事業者による民間備蓄を組み合わせて体制を整えています。
石油備蓄法は、資源の少ない日本のエネルギー安全保障の根幹の一つです。また国内の災害対策にも貢献しています。例えば2011年3月11に発生した東日本大震災では備蓄が放出され、燃料供給の確保に活用されています。
3. 日本の石油備蓄量はどれぐらいある?

3-1. 日本の石油備蓄量の内訳
日本の石油備蓄は、国家備蓄と民間備蓄、産油国との協力によって実施される産油国共同備蓄で構成されています。それぞれを、以下で解説します。
3-1-1. 全国10ヵ所に貯蔵されている国家備蓄
国家備蓄は約4,346万klの原油および石油製品が貯蔵されており、日本全体の石油備蓄の中でも大きな割合を占めています。資源エネルギー庁の資料によれば、国家需要の109日分が備蓄されています。
石油の備蓄方法には、地上タンク方式や地下岩盤タンク方式、地下水封式タンク方式などがあります。これらを活用することで、大量の原油を長期間安定して保管することが可能です。
また国家備蓄基地は、全国各地に分散配置されています。具体的には、北海道や秋田県、福井県、愛媛県、長崎県、鹿児島県などに備蓄基地が整備されています。地域を分散することで、災害や事故が発生した際のリスクを低減し、安定供給体制を強化しています。
3-1-2. 石油元売会社や輸入業者による民間備蓄
石油備蓄法における民間備蓄では、石油元売会社や輸入業者などの民間事業者に対し、一定量の石油を備蓄することを義務付けています。先述の資源エネルギー庁の資料によれば、国家需要の90日分が備蓄されています。
民間備蓄は全国の製油所や油槽所などで管理されており、通常の事業活動の中で流通と備蓄を両立している点が特徴です。そして有事の際には政府の指示に基づき、民間備蓄の取り崩しが行われることもあります。
3-1-3. 石油備蓄法における産油国共同備蓄
サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などの産油国が、日本国内の備蓄施設に原油を保管する制度です。これは、緊急時には日本が優先的に原油の供給を受けられる仕組みです。産油国共同備蓄は、供給途絶リスクの低減や緊急時の迅速な対応を可能にする制度として、石油備蓄政策の重要な柱の一つとなっています。
3-2. 中東依存度というリスクと供給の分散化
日本の石油備蓄日数は、他の国と比べて長いのは事実です。例えばこの在庫日数の数字は、石油の在庫量を国内の一日あたりの消費量で割って計算されています。
しかし、今回の原油価格の高騰で注目された別の視点があります。それは、日本の石油の”中東依存度”です。西勇太郎氏の『日本の石油備蓄日数は本当に「長い」のか?』の記事では、石油備蓄日数と中東依存度を加味した調整後備蓄日数が記載されています。エネルギーの安全保障の戦略としては、今後原油の供給国の分散化が大きなテーマになると思われます。
4. 石油価格が上がる原因と対策について
4-1. 石油価格が上昇する主な理由

石油価格が上昇する主な理由には、国際情勢や需給バランスの変化が大きく関係しています。例えば中東紛争は原油市場に大きな影響を与える要因の一つです。また戦争やテロによって石油関連施設や輸送ルートが脅かされると、市場では供給不足への懸念が強まり、原油価格が急騰することがあります。
さらに産油国で構成されるOPEC(石油輸出国機構)が実施するOPECの減産も価格上昇の要因です。市場への供給量を意図的に減らすことで需給が引き締まり、原油価格が押し上げられます。
加えて、日本のような輸入依存国では為替変動も重要です。円安が進むと、同じ原油価格でも輸入コストが増加するため、国内のガソリン価格やエネルギー価格の上昇につながります。
4-2. 石油価格の上昇に対する対策
石油価格の上昇に対する対策として、政府や企業は様々な取り組みを行っています。その中でも代表的なのが備蓄の放出です。原油価格が急騰したり、国際情勢の悪化によって供給不足が懸念されたりする場合、政府は国家備蓄や民間備蓄の一部を市場へ供給します。そうすることで需給のひっ迫を緩和し、価格上昇の抑制を図ります。過去には国際エネルギー機関(IEA)加盟国と協調し、備蓄を放出した事例もあります。
またエネルギーの安定確保に向けて、原油の調達先を多様化することも重要な対策です。特定地域への依存を減らすことで、地政学リスクによる影響を軽減できます。さらに再生可能エネルギーの導入拡大や省エネルギーの推進も、石油への依存度を下げる有効な手段です。
5. まとめ
日本は、厳しい現実ですが資源小国です。例えば自給できるのは、硫黄と石炭のみといわれています。その結果、現在も多くのエネルギー資源を海外からの輸入に依存しています。
例えば、石油への依存度は35%前後で推移しており、依然として石油は資源の最大シェアを占めています。そのため日本では国家備蓄や民間備蓄を活用し、緊急時にも石油を確保できる体制を整えています。
また供給リスクを軽減する取り組みも、進められています。例えば、輸入先の多様化を進めながら中東依存度を下げるという動きです。こうした石油備蓄と調達先の分散は、原油価格の高騰や国際情勢の変化による影響を抑え、エネルギーの安定供給につながります。













